somethingをつかめ! 作:とまってみえる
「よーし、女子寮へGo!」
そろそろ女子を見たくなった本広は、森へと侵入していく。居場所はわかっているため、いつなんどきでも行けるが、毎日いくほど暇ではない。いつもなら昼休みの時間に少しでも多く自主練習を欠かさないのだが、一週間が過ぎると自主練習をやらない。そしてその週が終われば自主練習に戻るといったある意味両極端な生活を送っていた。森を少し行くと見覚えのある大きな人影が見えたため、そちらの方へと向かう。
「おっす、大江さん」
「また、あんたかいな。まさかウチに会いに来てくれたんか?」
「当たりー!」
「ホンマ?うれしいな~。森の中で二人っきりなんて危ないシチュエーションやなあ」
「おいおい...今日はまあ、こないだのことちゃんとお礼み兼ねてちょっと話したくて」
最初会ったときは少しぎこちなさがあったが、今は何かと絡みやすいもので、話していて少し楽しいと思っていた。本当はお礼だけを言いにきたのだが、絡みあいが今ならちゃんとできると考え今回の目的地の女子寮へ向かうことは諦めた。
「ま、こんなみっともない女に一目惚れするわけもないか。残念やな~」
「みっともないだって...今なんてった!」
「いや、今言ったやないかー!」
少し空気が悪くなりそうだったのでボケをかます。突っ込みが本場の県出身というのもあるのか大江はきれっきれの突っ込みを入れた。
「ボケるのはこれくらいにしといて...別にみっともないなんてことはないだろ」
「ん、フォローありがと。でも服買いに行くときとかどうしてもわかってしまうんや」
「あたしサイズの服は特別コーナーにもなかなか売ってへんし、私服なんてほぼ男物の5Lサイズ、この制服だって超特別サイズや」
「それは背が高いってだけだろ?外見だってスマートだし、第一可愛い顔してるじゃん」
本人が未だネガティブなので思ってることを口に出すと、大江はいきなり本広の元へと近づく。
「...えっ、なに?」
「え、えとウチもちょっと反応しずらいな」
彼女からやってきたものだが、何の反応もしなかった本広に困惑気味であった。
「でも、こんな風にされると大抵の人は後退るんや...ま、そんなもんやから」
「そら、いきなり近づけばそうなるよ」
と言うと本広も大江にと近寄る。しかし彼女はとっさに後退ってしまう。本広と大江、身長は大江のほうが少し大きいが、がたいは本広のほうが断然いいこともあり、大江が後退ることは当然なものとも言える。しかし、本広もとっさにやったことなので大江はびくついていた。
「あ、ごめん。おどかしたかったわけじゃないんだ」
「...悪いのはウチやから」
「え」
「せや!こんなところで寮の先生に見つかると大変やしウチは帰るわ。ほな」
少しどんよりとした雰囲気から逃げるように大江は女子寮の方へと消えていった。
「う~ん、女の子ってのはデリケートだからあんな強引にやったらそらアカンよな」
「時間も時間だし、何より大江さんにまた会うかもしれないと思うと気が引けるし大人しく帰るか」
六月の初め、当初の予定通り星英高校との練習試合の日だ。相手はこの地区でも強豪でなんども甲子園出場をはたしている。そう、親切高校にとって甲子園出場に行くためにはどうしても越えなければならない壁の一つでもあった。
「貞島くんはベンチでやんすよね。羨ましいでやんす。おいら達一年生が試合に出れるなんて滅多にないことでやんす!」
「ちゃんとアピールできたってわけよ。でも僕的にはレギュラーとれると踏んでいたんだかな」
「そう易々ととれるものじゃないでやんしょ」
レギュラーになれなかったというよりは、まだ硬式に慣れていないと思われたのが主な理由として考えられた。実力的にはレギュラー陣ともひけをとらないが、初めての試合に序盤から出場させるのは勝算がないと思われたのだろう。勝ちにいく試合をする監督の采配で今のような現状となったようだ。
親切、星英ともにアップを終えると審判の集合と言う両チーム整列する。そして審判の試合開始の合図を受け全員が『お願いします!』と挨拶をし練習試合が始まった。
誰もが言葉が出なかった。七回が過ぎたにも関わらず親切高校の安打は一人として出ていなかった。その理由は星英高校の投手にあった。
「そうだ、あいつは天道だよ!天道翔馬!」
グラウンド外にいる官取が思い出したかのように叫ぶ。
「天道だって?!あいつこの地区だったのか...」
田島がいち早く反応する。彼の実力だけは耳に入っていたため、その凄さの実感がわかずにいたが、今本人を目にして弱気になっていた。
「おいらも中学で聞いたなまえでやんすね...うわっ今の150kmぐらい出てたでやんす!」
「キャプテンが三球三振じゃねーか」
「あんなやつから誰が打てんだ、やれやれだぜ。先輩達もあんなんじゃ貞島の出番もねえかもな」
越後が悲観的な発言をすると荷田も何かを思い出したかのように喋りだす。
「あっ、そうでやんすよ!貞島くん、まだ貞島くんがいるでやんす!」
親切高のベンチのムードは最悪なものとなっていた。一年の投手に安打一本も打てず四球での出塁がやっとであり、さらには得点もなし。負けたと確信せざるを得ない状況のなか、ただ一人声を上げて応援を続ける本広だった。
「(そうだ...まだ試合は終わっていない。戦いの最中負勝負事で敗北を悟ってる内は勝つことなど不可能だ...よし)」
八回に入り投手の打席が入る。どん底にまでおちて。車坂監督は審判にタイムをとらせる。それはもちろんのこと代打をだすためだ。そして監督はベンチの方を向き一呼吸開けたあとに口を開けた。
「貞島、お前の出番だ!!」
「はいっ!(まってました!)」
左打者用のヘルメットを被ったあと自分のバットを手に持ち、バッターボックスへと向かう。左の打席に入り一度審判に挨拶をしたあとにバットを構え、一度砂を払いのけもう一度フォームを正す。すると天道はセットポジションに入り投球モーションへと入った。
まずリリース前のボールの握りに注目したものの上手く隠されているため見破るのは困難であった。いまの試合展開をみてて気づいたことと言えば140後半から150近い速球だけを投げており、変化球は一度も使っていない。リリースされたボールは直球の外角高めである。ここまでならば何故誰も打てないのかが不思議でならなかったが、その考えを改めさせられる。
一球目は空振りに終わってしまったのだ。それはかなり振り遅れたもので驚きを隠しつつ、二球目を待つ。
「(なんて伸びる球だ...ただでさえ速いのに、打席にたてばもっと速く見えるってわけか...)」
ストレートだけで試合を推し進めていたことに打席に入りようやく気づいた。代打前に誰かの助言を貰うことも出来ただろうが、雰囲気の悪いベンチ内で気安く喋りかけることができなかったため、このような形でストライクを一つもらってしまった。左利きというのもあり角度のついたボールを打つのは困難である
「(伸びのある直球...確かに厄介だ)」
二球目に移る。次に放たれたボールは際どいインコースへと入ったが、振りそうになるバットを止める。判定はボール。カウントはワンエンドワン三球目のボールは低めに入った直球だがこれにタイミングを合わせバットを振るうがファールになる。四球目は外角に外したボール球だが、これもバットに当てファール。
その後五、六球と粘り、七球目が投げられた。放たれたボールのスピードは本広から見てかなり遅くなっていた。直球待ちでもあったものの、変化球をしばいて打つことにだけに専念する。回転はシュート系であり、内角付近に入ったボールはさらに寄ってきていた。ホームベースの中間に入ったとたん、本広のバットは天道の投げたシュートを捉える。フルスイングし、ファーストへと直行する。ベンチやグラウンド外にいる親切高野球部の面々はホームランが確実と思っていたが、飛距離が落ちネットへと当たる。だか、本広は二塁にまで進みこの試合初めての、完璧に捉えたヒットが出た。それを見た打線は奮起することになる。だが、暑くなったのは打者だけではなかった。
「ストライク!バッターアウト!」
本広に続いた打者は三振に撃ち取られてしまう。いままでの回よりもオーバーワークで投げてきた天道の前になすすべがなかった。
「(4-0だぜ...完封負けだけは避けてえな)」
一人ベース上でリードを取る本広だったがサインを確かめるためベンチを向くと監督からは盗塁のサインが出されていた。
「(今八回だぜ監督...ここでアウトになったらこの出塁が無駄になんだろうが...あー、もうこうなったら焼けくそだ!)」
腹をくくり三盗のためのタイミングを伺う。相手はストレート中心とした配球であるため、この投手から盗塁、しかも三塁へと行うのはアウトカウントを一つ増やしてあげるようなものだ。コントロールは並ぐらいなのは試合を見ていてわかっているため低めにいくボールへと注目する。途中何度か牽制もあり、危うげながらもアウトになることはなかった。
打者のカウントはツーエンドワン。キャッチャーが構えたのは外角低めであった。セカンドベースからリードをほどよくとる。盗塁という可能性をキャッチャーに知られてはないが、かといってリードが浅いと盗塁時の失敗になる可能性もでてくる。そんな中間のリードをとり彼は賭けに出る。天道のクイックは別段よくはないが悪くもない。つまり走り始めたときの一歩が重要になってくる。モーションに入った瞬間、その瞬間を見逃してはならない。本広は目を凝らし、そと時を待つ。少しの間があく、そして天道が投球モーションを取りはじめた
「!」
この時を待っていたかのようにスタートをきる本広。九回ワンナウントの場面での盗塁には天道も驚いたらしく、急いでウエストを取るがキャッチャーが構えてるとこから少しズレ送球モーションが遅れた。だが、取ってから投げる速さと送球の正確さが噛み合い決してアウトには出来ないものでもなかった。サードベースへと滑り込むと同時にサードが足下へとタッチした風に審判には見え判定は
「アウトッ!」
サードコーチャー側に立っていた審判からは明らかにアウトに見えたようだがファーストベンチからはギリギリの位置でタッチを避けていたのが見えていた。親切高ベンチはその判定には驚きを隠せなかった。ゆっくり立ち上がり、一度審判を見るが抗議なく自チームのベンチへと帰っていった。
試合結果は4-0、大敗だ。準ノーヒットノーランをくらい四点も失った。試合が終わり車坂監督はレギュラー問わずに全員を集めた。 しばしの沈黙が流れたが、監督がようやく口を開いた。
「...お前達、今日の試合の様はなんだ、基宗言ってみろ!」
「ハイ!恥ずかしながら完敗であります!」
「よおし、『恥ずかしながら』よく言った。いいか、お前らの足りない脳みそに分かりやすく教えてやるがな、点をとれなきゃ試合には勝てないんだよ。なのにお前らは一年投手に手も足もでず、だ。どうなってる...おい貞島?!お前らから野球をとったら何が残る?言ってみろ!」
いきなり話をふられてしまい驚くが一呼吸おいて言葉を発した
「ごみですね」
その後、負けた罰としてか親切高校野球部の一二を争う練習、地獄ノックに何時間ものランニング。敗北を喫することは許されない。だから練習するしかない