頑張ります。
「あああああ!!」
幾度目かの咆哮が大気を揺らす。
グルグルと巡り巡り答えが出ない事にイラつき吼えると同時に悲しみが重く、重く伸し掛る、何度名を呼んで、何度吼えたかわからない中いつの間にかニコラス用のインスタントマップの期限が終了し本来のフィールドに移ったという事だけが解った。
このまま泣き叫べば声に釣られたモンスターがわらわらと押し寄せて瞬く間にニコラスとの闘いでレッドゾーンまで減少し、バトルヒーリングスキルによりレッドゾーン手前まで回復したこのHPは削り取られてしまうだろう。
それが、俺が犯した罪の断罪になるのならそれもまたいいだろう。
とうに死への恐怖など無い、ニコラスとの戦いで残りHPが2桁まで減少した時も恐怖など感じなかった、恐怖より理由のわからない怒りがあった。
あの怒りは恐らく、きっと自分に対する物なのだろう。
わからない。
考えるのがつらい。
サチは生き返らない。
生きる理由がない。
戦う理由がない。
罪を償う方法がない。
無いことだらけだ、償う方法もわからない。
「サチ……」
掠れた声が漏れでた。
その時索敵範囲内に1つの生体反応が現れた。
「ぐっ……」
軋む体に鞭を打つかの様にのろ……のろりと立ち上がりながら傍らに置き捨てた剣を手に取る。
自決は許されない。
それくらいならわかる。
なら、これから起こる無数の戦闘の中、回復もせずにただひたすらに怒りをぶつければいつかは死ぬ、死ねるのだ。
これが最初の戦いだ。
何度目で死ねるだろう。
「ぐっ……うっ……」
嗚咽が止まらない。
いつから嗚咽が止まらないのだろう。
喉が痛い。
止まらない内に終わるだろうか。
少し遠くで雪を踏みしめる音が聴こえる。
レベルは相当に低いがそれでも俺にとっては死を運ぶ足音。
「ぐっ、あ、あ、あああああああああああ!!」
吼える。
片手剣が発光する。
片手直剣スキル単発突進スキル「ソニックリープ」を放つ。
不可視の援護、システムアシストによって加速された手足は本来なら得られない速度で駆け出し、敵に剣を振り落とす。
響く金属音。
ガチャガチャと金属が震えて音を振り撒く。
初撃を打ち止められたのか、ここのフィールドに金属を持つモンスター等いただろうか? わからない。
ギロリと、スキル使用後の硬直中に出来る唯一と言っていいほどの牽制、抵抗。
けれど、そのモンスターをみた瞬間に体がシステムに関係なく硬直したのが解った。
あの足音は、本当に、死神だった。
黒灰色の死神が目の前、10cmもない距離で笑っていた。
死神が怒気を隠さず口を開いた。
「……よぉ、目当てのもんは手に入ったか? 黒の剣士様」
数分前。
「うあああああああ!!!!」
森の奥から獣のような咆哮が響く。
おかげで先程からモンスターとのエンカウントが酷い。
振り落とされた、木を削り出しただけの棍棒を体を捻って躱し、片手直剣二連撃スキル「バーチカル・アーク」を腹部に叩き付ける。
ドランクエイプという名の獣人のHPはぐーんと勢いを付けて左端へと消え、その体を四散させた。
リザルトメニューの終了ボタンを走り出しながら叩く。
エリアとエリアの境界線を踏み越えると体を青混じりの光が体を包み、視界を奪う。
転移サウンドが聴こえ終わると同時に視界が晴れる。
ドランクエイプ2匹が見えた。
「くそ……」
舌打ち、跳躍、木の側面を蹴り付け2匹の間へ滑り込む、手前のエイプの脇腹を深々と横凪にするとエイプのHPが3割程減少する。
「うっ」
着地とほぼ同時に腰を下げたまま左脚を下げると左脚が緑色に発光する。
体術スキル単発スキル「閃撃」。
「らぁああ!」
身体を捻りながら跳躍し、その加速力を左脚に乗せてもう一匹のエイプの腹に叩き付ける。
体術スキルの独特な打突音を響かせエイプのHPがぐーんと減少し、残り一分程を残して減少が停止した。
「足りないか……」
舌打ちして、苛立ちを隠さずに吐き捨てる。
幸いと言うか、体術スキルの特色として、スキル使用後の硬直が短いスキルが多い、「閃撃」も硬直が短い。
故に最初の一匹の攻撃を躱す事が出来る。
後ろに少し跳ぶように避け「閃撃」を放つ、エイプのHPがぐーんと減少しその体が硬直した。
宙で止まったままの棍棒をくぐり抜けて少し小走りにもう一匹のエイプの攻撃を避けるとすぐ後方でエイプが消滅した事を知らせるサウンドが聴こえた。
エイプの微妙に残ったHPをどう削ろうかと悩んだ末に。
「……せー!」
と軽めの気合いと共に軽くどつく様にエイプの腕を殴るとそれだけでエイプは四散した。
「……次からは気を付けるか」
そう反省し、ぎゅっと雪を踏みしめ次の転移点へと飛び込む。
これで何度目かの転移、視界が晴れる。視界が広げる。
まず最初に視界に飛び込んだのは他の木々より一際、と言うより2倍程の大きさを誇る大きな、もみの木だった。
そして視線を下へとゆっくり向けると膝を地につけ両の手のひらを地に押し当て嗚咽混じりの咆哮をあげる黒ずくめの男がいた。
鼓動が速なる。思考が止まる、否、正確に言えば一つの思考に囚われる。
やっと見つけた。
なぜ吼えている。
なぜ、お前が吼えている。
手が震える。
怒りがグルグルと体を支配する。
視線を黒ずくめの男――キリトという名の男の顔にフォーカスする。
ズームアップされた視界(倍率で言えば1.5倍程だろうか)に月明かりを僅かに、ほんの僅かに反射する雫と、それよりももっと煌めく蒼玉を見た瞬間にキリトが哭く理由が解った気がした。
「……」
閉じた唇が微かに震えたのが解った。
立っているのも嫌になるくらいの悪寒、嫌悪感、怒り。
それらを大きく息をすって、吐き出した。
1歩、1歩、また1歩とわざと音を立てて雪を踏み締めながら近付く。
5歩目を踏み出した時ビクリ、とキリトがその華奢な体を震わせ、しばらくして剣を手に取りゆっくりと立ち上がった。
「……」
ゆっくりと背に担いだ1振りの剣を抜き放つ。
月明かりを受け、シャランと音を立てて抜き放たれた黒塗りの剣。
固有名「センスオブギルト」がその姿を誇示するかの様に煌めいた。
遠くからソードスキル発動のサウンドが聴こえた。
構えから見て「ソニックリープ」けれど、ここまでの距離を移動する事は出来ない、出来ない筈だ。
なのに、なぜ、奴は目の前まで―――!
間一髪、間に合った単発ソードスキル「バーチカル」をキリトの剣に叩き付けて攻撃を受け止める。
キリトの頭が弾かれた様に上がり俺を、涙を流したままの目で強く、強く睨みつけたが、すぐにその目が見開かれ口が薄く開いた。
……どうして、お前がそんな目で剣を振るう?
俺は怒りを言葉の最後に込めて、問いた。
「……よぉ、目当てのもんは手に入ったか? 黒の剣士様」
体術スキル単発ソードスキル「閃撃」はオリジナルですが、もし、この名のスキルが既に原作にありましたら報告お願いします。
一応、今の所原作は全て読んでるんですけどね、無くした本とかありまして、所々細かい伏線が描写出来なかったりするかもですが、その様な事がありましたら報告していただけますと幸いです。
Thank you for reading!!