――前回までのあらすじ――
帰国後、学園の寮で簪との残り僅かな夏休みを過ごしていた機龍。
そんな中でセシリアの来日やラウラ、シャルロットと共に
事件に巻き込まれたり、臨海学校以来のモスラとの再会なども
あり、楽しい夏休みは終わりを迎えて行った。
やがて、ついに始まった2学期の初日。
今日は午前中というだけで簡単な連絡で終わるはずだった。
のだが……。
千冬「さて、これからの2学期の予定を連絡したが、あと一つ
連絡がある。……このクラスにまた転校生が入る事になった」
女子「転校生?」 「ウチのクラスって多いよね、そういうの」
「ひょっとして織斑君たちみたいな男の操縦士?」
と、ざわざわとざわめく女子たち。そのざわめきを咳払いで止める千冬。
千冬「では。……フラワー、入ってこい」
???「はい」
そう言って開いた自動ドアから入ってきたのは……。
機龍「え?」
シャル「う、嘘」
セシリア「あの方は……」
大勢の生徒がざわめく中で一夏やセシリア、箒、ラウラやシャルロットたちが
驚愕していた。それもそのはず。何故なら…。
入ってきた生徒は学園女子用の制服を着て、肩までストレートで垂らした
オレンジ色の髪に鮮やかな蒼い瞳を持った女生徒だった。
そして、その女性と言うのが、福音事件で一夏達を福音の攻撃から守った
極彩色の羽を持つ女性だったのだ。
と、女性が教卓の横に立つと、電子黒板に彼女の名前が映し出された。
千冬「では、フラワー、自己紹介をしろ」
そんな女性に自己紹介をするように促す千冬。
???「はい。改めましてみなさん、こんにちは。私の名前は
≪モーラ・S・フラワー≫と言います。
インドネシア領の小さな島、インファント島から来ました。
田舎者ですが、どうかよろしくお願いします」
そう言って丁寧にお辞儀する姿は正しく大和撫子と言えるだろう。
そして、機龍は一人、先日出会っていたモスラの言葉の意味を
思い出していた。
そう、モーラこそがモスラ。
機龍と同じ人となった怪獣だったのだ。
千冬「と言うわけで今日からお前達のクラスメイトになる
フラワーだ。…機龍」
機龍「は、はい」
千冬「このフラワーの事を含めて、束。お前の保護者からいくつか
伝えておくことがあるそうだ」
機龍「束から、僕にですか?」
千冬「そうだ。まずは、山田先生、例の物を機龍に」
山田「はい。…機龍君、篠ノ之博士からあなた用に新型のISスーツと
新たなデータが届きましたよ」
と言って、持っていたビニールに包まれていたスーツとUSBメモリを渡す真耶。
「博士曰く、幼い機龍君の体を守るために従来の物以上の
防御力を持たせたもの、だそうです。それと、これは銀狼の
追加武装用のアップデートメモリだそうです。」
ビニールに包まれていた物と小さなUSBメモリを見つめている
機龍だが、すぐに彼の視線は千冬の咳払いによってモーラに戻った。
千冬「さて、次の方が一番重要なのだが。……機龍。このフラワーだが、
束曰く、お前の≪許嫁≫、だそうだ」
ぽく、ぽく、ち~~ん。
どこかで誰かが木魚を叩く音がして、数秒後。
女子「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」」」」」」」」」」
次の瞬間、クラス中の女生徒たちの驚愕の声が響いた。
対してモスラはどこか恥ずかしいのか、顔を赤く染めている。
しかし、当の機龍は何がわからないのか、手を上げた。
千冬「ん?何だ?」
機龍「あの、許嫁って、何ですか?」
と言った瞬間、クラスの女子たちと一夏がずっこけた。
これには流石の千冬も驚いてからため息をつき、話し出した。
千冬「ハァ。良いかよく聞け。許嫁とはつまり、一言で言えば
お前の結婚相手。つまりはお前の妻になる女性の事だ。
許嫁とは、予め結婚相手が決まっている女性の事だ」
機龍「????」
状況と言葉についていけない機龍は?マークを浮かべる事しか
出来なかったのだった。
千冬「まぁ、とりあえず今日はこれで終わりだ。お前達の聞きたい事は
当事者同士に聞け。解散」
そう言うと、千冬は足早に教室を出て行ってしまった。
で、その後、機龍の席の近くに来るモーラ
モーラ「機龍、少し良いですか?」
と、(クラスの女子たちから見れば)初対面の機龍を呼び捨てで呼ぶモーラ
に対して女子たちは疑惑と困惑とした表情をしていた。
女子「い、いきなり呼び捨て!?」 「って事はまさか!?」
機龍「うん、何?」
それに対して、機龍も普通に接している。その姿が逆の女子たちの
困惑などを煽ってしまった。
女子「機龍君も普通に接してるし!」 「や、やっぱり、許嫁」
「嘘だ~!」 「私だって機龍君の許嫁になりたかった~!」
と、何やら叫んでいるが、機龍とモーラの耳には入っておらず、
女子たちの行動に苦笑いする一夏だったが、彼の思考はすぐに
別の事を思い出していた。
一夏『あの人。間違いない。福音の時、俺達を守ってくれた人だ』
モーラ「それでなのですが、良ければ屋上でお話をしませんか?
二人っきりで」
機龍「うん、良いよ」
と、了承して鞄を片手に立ち上がる機龍。しかし……。
ラウラ「ちょっと待て」
そこにストップをかけた者達が居た。ラウラとセシリア、箒やシャルロット達だ。
彼女たちはそれぞれ、機龍の許嫁の事に対してと、例の事件の事を
モーラに問いつめようと思っていたのだった。
「私たちはお前に聞きたい事がある。私たちも同行させて
もらうぞ」
と、言うラウラの言い分を聞き、モーラは……。
モーラ「わかりました。皆さんには、機龍がお世話になっているご様子ですし、
≪他にも≫色々聞きたい事があるでしょう。
そうですね。≪7人≫程度でしたら、構いませんが?」
と、色々と含めた言葉を言うモーラ。それに対して……。
ラウラ「わかった。オルコット、更識簪を呼んできてくれ」
シャル「僕も鈴を呼んでくるよ」
モーラ「わかりました。では、私と機龍は屋上でお待ちしております。
さぁ、機龍、行きましょう」
そう言って機龍に手を差し出すモーラ。
機龍「うん」
その手を、笑みを浮かべながらとる機龍。そして、二人は一夏達より
一足先に屋上に向かった。
その後、一夏達7人が揃い、屋上へと向かった。
ちなみに、大勢の生徒が機龍とモーラの話を聞く(盗み聞く)ために
屋上に行こうとしたが、ドアはラウラ達によって完全閉鎖された。
これで、屋上に居るには一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、
簪たち7人と機龍、モーラの2人を合わせた9人だけだった。
モーラ「皆さん揃いましたね」
ラウラ「そうだな。そして、早速質問させてもらう。貴様は≪何者≫だ?」
シャル「福音との戦闘の時、君は人としてありえない力を使ったよね?
そこの所を含めて、色々話を聞きたいんだけど?」
モーラ「わかりました。機龍」
機龍「何、モスラ?」
一夏「も、モスラ?いや、機龍、この人の名前はモーラでモスラじゃ…」
モーラ「良いのです。それが≪かつて≫の私の名なのです。話を
戻しますが、私の事を知ると言う事になれば、当然機龍に
ついても話さなければなりません。機龍はその、構いませんか?」
それを聞き、機龍は悟った。モスラが自身について語ると言う事は、
怪獣を語ると言う事。そうなれば、曲りなりにもその王の骨を宿し、
かつて王だった自分の事を語らなければならない。
その事を言われ、機龍は最初は戸惑った。簪やラウラ、セシリアのように
一夏達が自分の事を受け入れてくれるかどうか、不安になったのだ。だが…。
機龍『……いや。良いんだ。みんなには、知る権利がある』
モーラの問いに、静かにうなずく機龍。
「良いよ。みんなには、知る権利があるから」
モーラ「わかりました」
その言葉を聞き、一夏達に向き直るモーラ。
「私と機龍の事を含めて、話をする前に確認しておきたいのですが、
機龍の≪前世≫の事を知って居るのは、どなたまでですか?」
モーラの言う、前世と言う単語を聞いて、一夏と箒、簪、セシリア、ラウラの
心臓が一瞬跳ねた。
「できれば、挙手していただけるとありがたいのですが」
その言葉に答えるように、ラウラ、簪、そしてセシリアがゆっくりと
手を上げた。
ここまでは機龍の予想通りだった。
簪とセシリアには全てを話してある。ラウラもかつて機龍とシンクロし、
彼の記憶を見た事があるのだ。
だが、その時、セシリアに続くように一夏と箒が静かに手を上げた。
機龍「……え?」
箒「すまない、機龍」
機龍「ひょっとして、一夏お兄ちゃんと箒お姉ちゃんも、知ってたの?」
一夏「……初めて、機龍が戦って気絶した時、束さんから聞いたんだ。
すまん」
箒「他人の過去を盗み聞きしたことについては謝る。すまない」
そう言って機龍に謝罪する一夏と箒。だが……。
機龍「ううん。謝らなきゃいけないのは僕だよ。
ずっとみんなにこの事を隠してきた僕の方がいけなかったんだ。
もっと早くに話していればよかった。
でも、ありがとう。一夏お兄ちゃん、箒お姉ちゃん。
僕をその、受け入れてくれて」
そういう機龍だったが、鈴はさっきから自分がついていけない話し合いに
発展したことで何が何だか分からなくなっていた。
鈴「って、そんな事は良いから早く説明しなさいよ!何が
どういうわけ!?」
それを聞き、静かにうなずくモーラ
モーラ「わかりました。…皆さん。目を瞑ってください」
一夏「お、おう」
と、言われるがまま、目をつむる8人。それを確認したモーラも、
静かに瞳を閉じた。
と、次の瞬間……。
モーラ≪皆さん。私の声が聞こえていますか?≫
一夏≪な、なんだこれ!?頭の中にフラワーの声が聞こえる!?≫
鈴≪ふぇぇっ!?なにこれ!?私の中に一夏の声も響いてる!?≫
シャル≪な、何がどうなってるの!?≫
モーラ≪ご安心ください。今、私たち9人の精神が繋がっているため、
思考による会話などが可能なだけです。それより、もう
目を開けても大丈夫ですよ≫
そう言われた一夏達7人はゆっくりと目を開き、そして驚いた。
なぜなら、今7人は空に浮いているような恰好になっていたからだ。
簪≪な、なにこれ!?≫
セシリア≪あ、ISもなしに空に浮いてますの!?≫
モーラ≪これは一種の精神世界です。今は私が中継地点となり、
皆さんの精神をこの場に繋いでいるだけです≫
シャル≪でも、なぜわざわざ君や機龍の事を話すために
こんなことを?≫
モーラ≪これからお話しする会話は、他言無用な上、第三者には
絶対に話してはならない会話だからです≫
鈴≪それだけ重要って事ね。それで、まずは何から話すの?≫
モーラ≪そうですね。まずは私と機龍の過去についてです≫
シャル≪過去?≫
モーラ≪はい。…デュノアさんと凰さんは驚かれるかもしれませんが、
私と機龍はこの世界ではなく、別の世界で生まれた、
『怪獣』なのです≫
鈴≪は、ハァ!?怪獣!?いやだってあんた達は普通に人間の姿
してるじゃない!?≫
モーラ≪それについては何と申していいかわかりませんが、
私と機龍は≪転生≫という概念を経験したのです≫
鈴≪て、転生?≫
簪≪転生と言うのは、分かりやすく言えば死んだ人が生前の知識や記憶を
持ったまま新しい体に生まれ変わる事です≫
モーラ≪更識さんの説明通り、私にも、機龍にも前世の記憶がしっかりと
残っています。それを、今から皆さんにお見せします≫
そう言うのと同時に、7人の後方で巨大な光が生まれた。
慌てて振り返った7人が見たのは……。
一夏「あれって……」
箒「原子雲……!」
シャル「……原爆」
濛々と天に向かって伸びるキノコのような雲、原爆の爆発時に生じる
原爆の代名詞的な雲―――原子雲―――だった。
モーラ≪そもそも、私たちの存在を語る上で切っても切り離せない存在が
あるのです。それが―――≫
???≪それが俺だ≫
その時、モーラの声を遮るように10人目の声が精神世界に響いた。
慌てて周囲を見回す一夏達だったが、声の主は見つけられない。
と、その時。
???≪どこ探してんだよ阿呆が。ここだよここ≫
ようやくの事で声の出どころを探し当てた7人。声の主は
機龍だった。
と、次の瞬間、機龍の体から黒い粒子のような物が溢れ出した。
そして、粒子たちはひとつに集まり、それが人型を成した。
人型を成したそれの顔立ちは機龍と瓜二つだったが、数少ない違いは
髪の色が漆黒の如き黒髪なのと、瞳が血のように赤い事。
そして、不機嫌そうな表情を浮かべている事だった。
鈴≪だ、誰よアンタ?≫
???≪うるせえチャイニーズ。これからこいつが教えるから
黙ってろ≫
と、機龍の方を指さしながらそう言う謎の黒髪少年。
で、当然沸点の低い鈴がそんな事を言われたら怒るわけで…。
鈴≪な、なんですってぇ!?≫
一夏≪お、落ち着け鈴!≫
暴れだそうとする鈴を必死に抑える一夏。
鈴≪だからあんたは誰なのよ!?≫
機龍≪その子は、『僕』だよ≫
シャル≪え?≫
怒り心頭のまま少年に向かって怒鳴る鈴。だが、それに答えたのは
少年ではなく、機龍だった。
と、次の瞬間、機龍の精神体はいつの間にか一夏達の後ろに立っていた。
機龍≪その子は僕で――≫
≪俺がそいつだ≫
機龍の言葉をいつの間にか一夏達の前に立っていた少年が引き継いだ。
≪僕が表なら――≫
≪俺が裏だ≫
そう言うと、いつの間にか二人の立ち位置が逆転していた。
≪お兄ちゃん達に分かるように言うなら、僕は二重人格なんだよ。
この子の名前は『ゴジラ』。生前の僕なんだ≫
その少年の横に立ち、一夏達に少年、『ゴジラ』を紹介する機龍。
しかし、当のゴジラは機嫌が悪いのかそっぽを向いている。
しかし、話に付いて行けず、こんがらがっている一夏や鈴。
それを理解したかのように、原子雲を映し出したところで停止していた
世界が動き出した。
モーラ≪私たちの居たこの世界は、あなた達の、今私たちの生きている
この世界のこの時の時代。俗にいう核開発時代とほとんど
変わりありません。人々は悪魔の炎に手を出し、その力を
我が物にせんと数多くの命を炎で焼き殺し、炎がまき散らす毒で
殺し、大勢の命を奪ったのです≫
モーラの言う言葉に、自分たちが居ない時代とはいえ、やるせなさや
悔しさのような感情が沸き上がる一夏達。
≪何をどう間違ってしまったのか、私にはわかりません。
ですが悪魔の炎は、結果的に破壊神を作り出してしまったのです≫
モーラが語った次の瞬間。
≪GAOOOOOOOOOOOON!!!!!!!≫
大地を揺るがし空さえも歪ませるような天地を動転させるほどの
雄叫びがその精神世界に響き渡った。
慌てて一夏達が振り返った瞬間、風景が移り変わり、それは轟々と
燃え盛る東京の街並みとなった。
建物は燃え、崩され、人々は逃げ惑い、燃え上がる炎が暗い夜の世界さえも
赤々と照らし出し、全てを平等に焼き尽くしていった。
人も、建物も、車も、何もかもを炎が焼き尽くしていった。
これこそまさに、地獄絵図。
砲声と建物が瓦解し、炎に誘爆する形で何かが爆発する音が響いている。
一夏≪なん、だよ。これ≫
箒≪東京が。……世界が、燃えている≫
簪≪………≫
余りの出来事に理解が追い付かない一夏達。
モーラ≪これは、私が見せている機龍の記憶の断片です。
こから見せる全ては、まぎれもない事実なのです≫
と、その時。
≪GAOOOOOOOOOOOON!!!!!!!≫
再び天地を揺るがすような大ボリュームの咆哮が鳴り響いた。
そして、火の海の中から一匹の≪大怪獣≫がゆっくりと一夏達の前に
姿を現した。
それこそ、≪怪獣王ゴジラ≫だったのだ。
シャルロット≪何、あれ≫
モーラ≪あれこそが、人の驕りがこの世界に生み出してしまった王。
怪獣王、ゴジラ。そして……≫
ゴジラ≪あれが俺だ≫
そう言って振り返った一夏達が見たのは、凶悪な笑みを浮かべた
少年ゴジラだった。
≪ふ。相変わらず人は愚かで脆い生き物だな≫
眼前の地獄絵図を眺めながら笑みを浮かべているゴジラ。
≪見ろ。貴様ら人間の言う文明とやらがたった一人の俺に蹂躙
されている。これこそが貴様ら人間がいかに驕りに満ちている
かの証拠だ。弱い。余りにも弱い≫
そう言って笑って居るゴジラ。
鈴≪何よ!人を殺しておいて何笑ってんのよ!この悪魔!≫
ゴジラ≪ほう?俺が悪魔だと言うのなら、それを生み出した貴様ら人類は
なんだ?死神か?≫
シャル≪どういう、事≫
機龍≪…元々、僕は、ゴジラはただ海の底で静かに暮らしている恐竜の
末裔だったんだよ≫
ゴジラ≪だが、貴様らが放った原子の光、そこから発せられた放射能が
俺の体を犯し、全てを作りかえた。その結果があの俺だ≫
そう言って東京を蹂躙するゴジラの方を顎をしゃくって指し示す少年ゴジラ
彼の視線を追って振り返った一夏達が見たのは、黒い体躯を持つ
巨神、ゴジラ。
≪人を殺しておいて、と言ったな?では聞くが貴様らは今まで
食ってきた豚や牛、パンの数を覚えているか?
自覚もなしに踏みつぶした蟻の数を覚えているか?≫
鈴≪あたし達をアリなんかと一緒にしないでよね!≫
ゴジラ≪俺に言わせれば所詮貴様ら人間もアリやそこいらを飛んでいる羽虫
と同程度。有象無象の一匹に過ぎない。俺は、貴様ら人類の
上に立つ、食物連鎖の頂点に立つ新たなる覇者だ。
そして、それを生み出したのは貴様ら驕り狂った人間だ≫
そう言って、未だに燃えている東京を見下ろすゴジラ
≪何とも皮肉な話だな。自分たちで生み出した怪物に
蹂躙される人間と言うのは≫
モーラ≪ゴジラとは、人間が放った原爆の洗礼を受け、驚異的な
突然変異を果たし、あらゆる攻撃を跳ね返す破壊神なのです。
人は、過ちを犯し過ぎたのです。その過ちが生みだした王こそが、
あのゴジラなのです≫
その言葉に、絶句する一夏達。すると、それを見たモーラが≪それでも…≫
と言って言葉をつづけた。
≪ゴジラに、最後の時が訪れました≫
一夏≪え?≫
場面は移り変わり、空中に佇んでいた10人は今度は暗い海中に場所を
映した。
そして、それを見て先ほどまで笑って居たゴジラがあからさまに舌打ちを
してから一度機龍の中に戻っていった。
そして、一夏達の前に海底に居座るゴジラの姿が現れた。
と、その時、精神体である一夏達の横を、二人の潜水夫が通り過ぎて行った。
モーラ≪ゴジラを砲弾で倒すことはできませんでした。でも、
ある秀才が一つの、核兵器にも匹敵する脅威の物を作り上げて
しまったのです≫
一夏≪それって、一体≫
モーラ≪……。水中酸素破壊剤。通称、『オキシジェンデストロイヤー』
これは、水中に存在する生物全てを死滅させる超絶兵器です。
この破壊剤の発見者である芹沢博士が、あの潜水夫の一人です。
人々は、このオキシジェンデストロイヤーでゴジラを葬ろうと
考えました。そして……≫
やがて、一人の潜水夫が海上の船に戻る中、オキシジェンデストロイヤーを
抱えた潜水夫、『芹沢大助』がそれを発動させた。
すると、ゴジラが悲鳴のような咆哮を上げながらドロドロに溶けて行った。
皮膚も、筋肉も、血液も、全てがドロドロに溶けだしていった。
一夏≪うぅ。うぐっ!?おえぇぇぇぇぇっ!?≫
余りの光景に一夏が耐えられずに嘔吐した。
流石に精神体であるため吐しゃ物をまき散らすことはなかったが、
十代の少年少女にこの光景はあまりにもきつすぎたのだった。
現に、鈴やシャルロット、簪や箒たちも口を両手で必死に覆っていた。
やがて、ゴジラは骨だけを残して完全に消滅してしまった。
≪何だよ、これ。……これが、機龍の前世だって言うのかよ≫
簪≪ひどい……!≫
モーラ≪……。その通りです。人の過ちに生み出され、人との生存競争に
負け、その身を溶かされ、ゴジラの生命は終わりを迎えました。
もし、何かが、たった一つの何かが違っていたら、ゴジラが生まれたのは
この世界だったかもしれません≫
ラウラ≪人の、愚かさが生んだ破壊神、か≫
シャル≪核の、落とし子。ゴジラ≫
機龍≪……≫
簪≪機龍≫
改めて自分の死を見つめなおし、揺れる感情を押し殺してただじっと、
自分だった骨を見つめている機龍の肩に、簪がそっと手を添えた。
モーラ≪この一件以来、世界中に潜んでいた巨大な生物が人間の前に
姿を現しました≫
やがて、場面が移り変わると、再び東京へと景色が戻った。
そして、一夏達の目を真っ先に引いたのが折られた東京タワーを
支えにして作られたような巨大な繭だった。
と、次の瞬間、その繭を破って巨大な生物が飛び出してきた。
それは、ゴジラ以上の巨体を持つ極彩色の羽を持った巨大蛾、
そう、モスラだった。
シャル≪あの羽の色!もしかして!?≫
そう思いながらモーラの方を向くシャルロット。
モーラ≪…母です≫
セシリア≪ふ、フラワーさんのお母様、ですか!?≫
そう言って一夏達の前に出るモーラ。
モーラ≪ゴジラと人間の戦い以降、世界各地で巨大な怪生物、
怪獣が目撃されるようになりました。私の母や私も、
その一匹です。そして、時は40年以上が流れ、
もう一匹の『ゴジラ』が姿を現しました≫
そういう彼女の言葉に絶句する一夏達。
三度風景は変わり、山岳地帯へと移動した一夏達が見たのは、
以前のゴジラに比べて幾分か細くなった新しいゴジラが
自衛隊の対怪獣部隊、『対特殊生物自衛隊』、通称『特生自衛隊』の
メーサー車『90式メーサー殺獣光線車』と嵐が吹きすさぶ
千葉県館山の山岳部で戦闘を繰り広げていた。
≪1999年。ゴジラとの戦いから45年が経過していた時代に、
新たなるゴジラが日本に出現し、ゴジラのような怪獣との戦闘を
目的に作られた自衛隊、対特殊生物自衛隊。通称特生自衛隊と
ゴジラの戦闘が行われました≫
眼下で繰り広げられる戦闘を見ながらも淡々と語るモーラ。
≪人間は進歩を続け、日本は特殊兵器、メーサー兵器を配備し、
かつて多くの怪獣をこの兵器で撃退してきました。
ですが、ゴジラは他の怪獣とは別格です。この戦闘で
多くの死傷者を出した特生自衛隊ですが、実はこの戦闘が
行われた日。特生自衛隊は≪ある物≫を回収していたのです≫
鈴≪ある、物?≫
それを聞いて、簪は、すぐに直感した。モーラの言うある物の意味を。
簪≪ひょっとして、それって!≫
簪の疑問に答えるように、背景は移り変わり、巨大なプールの
ような場所に移動した。
最初は一夏達は自分たちの前に何があるのか分からなかったが、
それはすぐに姿を現し、一夏達を驚愕させた。
モーラ≪もうお気づきでしょう。そう、これはデストロイヤーによって
葬られた、初代ゴジラの骨です≫
一夏達の目の前に現れたそれは、巨大なゴジラの骨格だったのだ。
機龍≪これが、僕だよ≫
そう言って、どこか自虐的な笑みを浮かべる機龍だが、
一夏達は驚きのあまりそれに気づかなかった。
≪人々はゴジラに対抗するために生体ロボットを、
ゴジラの骨格をベースにした対G用兵器を4年の歳月を
掛けて完成させました。それこそが……≫
モーラの言葉に合わせて風景はプールの中からどこかの格納庫の
中へと移動した。そして、その中に≪それ≫は立っていた。
≪3式多目的戦闘システム。Multi―Purpose
FightingSystem―3。
つまり、『3式機龍』です≫
今、一夏達の前にあるそれは、見慣れたはずの機龍の巨大な顔
だったのだ。
彼らの前に佇むのは、全長60メートルにも及ぶ巨神。
鋼鉄の銀龍、≪3式機龍≫。
機龍≪これが、本当の僕なんだよ。これが≫
そう言って、機龍は自分自身を見上げていた。
モーラ≪そして、機龍の完成式典時、まるで狙ったようにゴジラが
出現。横浜、八景島でゴジラと一度目の戦いが行われましたが……≫
一夏≪何が、あったんだ?≫
モーラ≪……≫
答えにくいのか、無言のままのモーラ。だが、映像が流れ出し、
それは市街地を破壊している真っ赤な瞳の機龍を映し出した。
シャル≪これって!?≫
モーラ≪……。機龍のコンピューターには、ゴジラの骨髄幹細胞を元にした
DNAコンピューターが使われていました。しかし、戦いの中で
ゴジラの放った咆哮に反応し、機龍は暴走状態となってしまいます。
機龍はエネルギーが切れるまで、横浜の街を破壊しつくしました≫
機龍≪………≫
モーラは、横目で機龍を見ながらも真実を語っていった。
モーラ≪その後、改良を施された機龍は暴走の原因を取り除くことが
できましたが、暴走などが懸念され、再上陸したゴジラには
自衛隊の陸上部隊などが戦いを挑みました。が、ゴジラを
止める事ができませんでした。
ですが、時の総理の判断により、機龍は発進しました≫
そこから流れるのは、機龍の一連の戦いだった。
病院を熱線で薙ぎ払おうとするゴジラに対し、空中で切り離された機龍が
月をバックにスラスターを使って飛翔。ゴジラに強烈なタックルを
お見舞いして弾き飛ばした。
さらに武装を破壊されながらもその機動力を生かしてゴジラと互角の
戦いを繰り広げた。
そして、その戦いを見て、一夏達は思った。
―――次元が違いすぎる―――と
あらゆる物を破壊する力同士が激突し合い、二体の巨神が組み合う度に
地面がめくれ上がり、アスファルトの欠片が辺り一帯に飛び散った。
お互い、装備を破壊され、生傷を作り、それでも前進をやめない
黒龍と銀龍。
そして、機龍のバックユニットが破壊されると戦いは格闘戦に
移行して行った。
機龍がゴジラの熱線を避け、逆にカウンターの2連メーサーを打ち込んだ。
そこからさらに接近して連打のパンチを叩き込み、体当たりをかました。
さらに倒れたゴジラの尾を掴み、スラスターを使ってグルグルと回転
してから、ゴジラの巨体を投げ飛ばした。
そして、一夏達は戦いの記憶を、ただ茫然と見つめる事しかできなかった。
今、もしこの戦いの場に一夏達が居て、ISを纏っていたとしても、
誰もこの戦いには割り込めないだろう。
向かい合って居なくてもわかる二体が放つ圧倒的なプレッシャー。
――神と神の戦いに凡人が入り込む余裕などない――
そう言われているかのように一夏達はその場から一歩も
動けなくなってしまった。
モーラ≪……。皆さんが驚かれるのも、無理はありません。ですが…
戦いは進んで行きます≫
場面は移り変わり、機龍は必殺の≪アブソリュート・ゼロ≫を放とうと
するが、ゴジラの反撃によって放たれた極低温の光弾は目標を逸れて
建物数棟を巻き込み消失。
しかも、残っていたエネルギーの全てをその一撃にかけていたため、
機龍は活動を停止し、腹ばいに倒されてしまった。
一夏≪機龍が!≫
モーラ≪彼の放つ必殺技、絶対零度砲、アブソリュート・ゼロは
内蔵エネルギーの40%を使用します。そして、今の一撃で
全エネルギーのほとんどを使い果たし、さらに遠隔操作
システムも損傷。機龍は外からの操作を受け付けない
状態となってしまいました。ですが……≫
そこから場面は進み、一夏達は機龍の近くに立っていた。
すると、一夏達の横を通り過ぎた一人の戦闘スーツ姿の
女性が機龍の背部にあるハッチに向かってアンカーガンを使って
登って行った。
一夏達も女性に続くように浮上し、メンテナンスブースの中に
女性、≪家城茜≫と共に入って行った。
そのまま茜の背中を見つめている一夏達。
一夏≪この人は、怖くないのか?ゴジラと戦う事が≫
モーラ≪皮肉な話ですが、戦いは人を何倍にも成長させます。
命を懸けた、ギリギリの戦いなら、尚更です≫
その言葉に、黙り込む一夏達。
そして、支援機≪AC-3 しらさぎ≫よりマイクロウェーブを
仲介してもらい、関東中の電力を集めて作られたエネルギーが
機龍の中に注ぎ込まれた。
機龍操作時に発生する圧倒的なGに苦悶の声を漏らしながらも
スティックを操作して機龍を立たせる茜。
だが、次の瞬間、背後からゴジラの熱線が機龍を襲い、
機龍は倒れ、衝撃で茜も倒れてしまった。
一夏達は、ただ事の流れを無言で見ている事しかできなかった。
そして、茜は朦朧としながらも、かつてのトラウマや仲間の事を
思い出し、ある少女の声を聴き、起き上がった。
茜「機龍ぅぅぅぅぅっ!力を!私に力をぉぉぉぉっ!!」
機龍「……茜」
その思いに答えるように、人としての機龍と、機械としての機龍。
2人の瞳が僅かに光を放った。
その後も戦いは続き、機龍隊の活躍によって、機龍とゴジラは
双方が大ダメージを負う引き分け状態となって、戦いは幕を閉じた。
一度、暗い精神世界へと戻る一夏達9人。
一夏≪あれが、機龍の、この世界に来る前の機龍の記憶、なのか≫
シャル≪ひどいよ、こんなの。…酷すぎるよ≫
あまりの出来事に、ショックが大きい7人。
一夏達は事前に話を聞いていたとはいえ、実物を
見せられたショックがあったのだ。
モーラ≪…まだ、機龍の記憶は終わってはいません≫
ラウラ≪……これ以上、何を見せようと言うのだ≫
モーラ≪……それは、ゴジラと機龍、そして、私を含めた、
東京での決戦。機龍最後の戦いの記憶です≫
そう言った次の瞬間、再び景色は移り変わり、場所はどこかの山荘の
中となった。そこでは、老人と少年が話をしていた。
一夏≪ここは……。この人たちは誰なんだ?≫
モーラ≪このご年配の方は、43年前、モスラ、つまり私の使える妖精、
『小美人』と接触した男性、『中條信一さん』です。
そして……≫
モーラが話していると山荘を地震が襲った。
それから数秒後……。
???「「中條さん。……中條さん」」
ラウラ≪これは、声?どこからだ?≫
どこからか声が聞こえてくるが、中條達はもちろん、最初は一夏達も
声の主を見つけられず辺りを見回した。
???「「ここです。中條さん」」
と、その時、テーブルに重ねられた本の後ろから手をつないだ小さな人が
現れた。
一夏≪えぇ!?ちっさ!?≫
モーラ≪彼女たちは妖精ですからね。彼女たちは、訳あって旧友である
中條さんの元に会いに来たのです≫
そしてさらに、階段の上から信一の甥にあたる青年、≪中條義人≫が
現れた。
機龍≪!…義人≫
機龍は感動のあまり、義人の手を握ろうとするが、機龍の手は虚しく
義人の体をすり抜ける事しかできなかった。
掌を握りしめる機龍を見つめるモーラ。だが、その間にも話し合いは進んだ。
ヒ・マ「「ゴジラの骨を、海に返してあげてほしいのです」」
簪≪これって、ひょっとして……≫
モーラ≪そう、彼女たちが言っているのは、機龍の事です≫
ヒ・マ「「人間が、ゴジラの骨から戦いの道具を作った事は、
大きな過ちです」」
7人≪≪≪≪≪≪≪…………≫≫≫≫≫≫≫
過ち、という単語に反応し、黙り込む7人。
その後、小美人たちはモスラが機龍の代わりに戦う事を伝えると、
モスラと共にいずこかへと去って行った。
ラウラ≪……人は、何度過ちを繰り返してきたのだろうな≫
一夏≪………≫
今までの事を見てきて、そうつぶやくラウラ。
一夏や他の者達も、それに答えるだけの言葉を持っていなかった。
しかし、記憶はまだ続いた。
モーラ≪あの激闘から1年後、ある程度傷が癒えたゴジラが東京に
向かって再上陸します≫
映し出されたのは、自衛隊と戦うゴジラの姿だった。
一夏≪また、戦いが始まっちまったんだな≫
鈴≪……。機龍は?どうしたのよ≫
モーラ≪前回の戦闘で右腕とアブソリュート・ゼロを失った機龍は、この時は
まだ修復中でした。そんな中、信一さんの孫にあたる
≪中條瞬さん≫が『これ』を学校の校庭に描きました≫
再び場面は移り変わり、一夏達は上空に移動していた。
と、その時、一夏達の目に、小学校に机と椅子で描かれた謎の紋章が
飛び込んできた。
箒≪あれは、一体……≫
モーラ≪あれは、インファント島に伝わるモスラを意味する
紋章です≫
と、その時、大きな影が一夏達の頭上を通過した。
慌ててそちらに視線を移す7人が見たのは、巨大蛾、≪モスラ≫だった。
東京上空を飛び回ってから、瞬と信一の居る学校の校舎の上に
止まるモスラ。
シャル≪ひょっとして、あれが……≫
モーラ≪はい。あれが私です≫
そう言って、あの姿の自分と、今の自分が同じ存在であることを証明
するかのように背中に極彩色の翼を広げるモーラ。
≪そして、私は瞬君の想いに答え、戦う決意を決めました≫
飛び立ったモスラは、飛行の際に発生する衝撃波やゴジラさえも
押しのける突風、突風によって発生した土煙を利用して
ゴジラと互角の戦いを繰り広げた。
モスラは、ゴジラと戦い足の一本を食い千切られても戦いを
やめようとはしなかった。
そして、モスラの最後の武器である毒鱗粉を使い始めた。
それを、町に居る信一や瞬の横から見上げる一夏達。
その時だった。
信一「モスラに、死期が迫っているのかもしれない」
一夏≪え?≫
瞬「どうして?」
信一「鱗粉を使った攻撃は、モスラの最後の武器だ。
鱗粉を失えば、長時間の飛行はできなくなってしまう」
その説明を聞き、一夏達はモーラの方へ視線を受けた。
モーラ≪……。もとより、自分が死闘に向かう事はわかっていました。
遅かれ早かれ、寿命を迎えていた私です。
例え、戦いの中で死のうとも、覚悟はできていました≫
シャル≪覚悟って……≫
モーラ≪生物として、獣として、例えどんな死に方になったとしても、
私は私の使命を、この星を守護する者としての使命を全うするため、
今ある命を守るために、戦いに及んだのです≫
ラウラ≪……。死すら、恐れないと言うのか。お前は……≫
モーラ≪覚悟と言うのは、自分の命をどう使うか、決断する事です。
生き物は、生きている限り戦わなければなりません。
だからこそ、自分達の命をどう使うのか?
私達は、生きている内はそれを考え続けなければなりません。
そして、私は……≫
その問いに、モーラは最後を言葉を濁しながら、過去の自分を見つめていた。
と、その時、一夏達の頭の中に小美人たちが歌う≪モスラの歌≫が響いた。
箒≪この声は、一体……≫
モーラ≪インファント島に伝わる、私たちモスラを称え、平和を
願うインドネシアの歌です≫
その後も、ゴジラの熱線による鱗粉爆発などが起こる中、
それでもゴジラへの攻撃をやめないモスラ。
と、その時、場面が移り変わり、一夏達を機龍隊の指令室へと
運んだ。
一夏≪ここは……≫
モーラ≪機龍隊の、指令室です。そして、この男性が、
この時の総理大臣の方です≫
部屋のテーブルの中央に座る男性を示すモーラ。
そこでは今まさに行われているゴジラとモスラの
戦いの様子が映し出されていた。それを見つめる、男、
総理大臣、『五十嵐 隼人』。そして、彼はおもむろに
立ち上がった。
隼人「今後、どれほど多くの災いが降りかかろうと、
我々のために戦っている仲間を、見殺しにはできない」
彼の言う、仲間と言うのが、モスラであることに気づく一夏達。
隼人は、モスラと共に戦う事を選んだ。
「我々は、臆病者ではない」
その言葉が意味するのはただ一つ。
「機龍を、出動させる。この戦いを、ゴジラとの
最終決戦とする!」
一夏達には、彼の目に宿る意思の強さを認識していた。
どれだけ高齢であろうと、本当の強さは力ではない。
意思と覚悟の大きさが、本当の強さになるのだと。
場面は再び、東京へと戻った。今だ戦うモスラとゴジラ。
だが、モスラの片翼にゴジラの熱線が命中。
モスラは市街地に仰向けに倒れて起き上がれなくなってしまった。
そんなモスラに一歩一歩近づくゴジラ。
と、その時、頭上から無数の銃弾が降り注ぎ、ゴジラを襲った。
一夏達はその主を求めて空を仰ぎ見て、驚嘆した。
その主こそ、今自分たちの横に居る少年のかつての姿、
≪3式機龍改≫だったのだ。
スラスターを使って着地した機龍がゴジラとの戦闘を始めた。
お互いに全力で戦う二匹の龍。
と、その時。
簪≪もう……もう、やめてぇぇぇぇぇっ!!!≫
走り出し、ゴジラと機龍の足元に駆け寄りながら叫ぶ簪
≪どうして戦うの!?何でこんなことをしなくちゃいけないの!?
二人は家族なんでしょ!?どうして、傷つけあうの!?≫
そう叫ぶ彼女の元に歩み寄る一夏達。
モーラ≪それが……。機龍の運命、だったからなのかもしれません≫
ラウラ≪運命?……。運命だと?……人の手に生み出され戦い敗れ、
今度は兵器にされた事が運命だと言うのか!?≫
やるせない怒りをモーラにぶつけるように声を荒らげるラウラ。
シャル≪こんな、こんな地獄を、機龍は……≫
鈴≪………≫
余りの事に何と言って良いのかわからない7人。
その後も戦いは進み、モスラは機龍を庇って再び翼に熱線を受け、
ついに飛べなくなってしまった。
そして、起き上がり、近接戦に持ち込む機龍だが、その動きは
1年前と比べて鈍重になっていた。
シャル≪おかしいよ。機龍の動きが悪い≫
モーラ≪……。機龍の整備は、この時完全ではなかったのです。
機龍を完全な状態に戻すには、1年という時間さえ、
短すぎたのです≫
そして、機龍はゴジラの反撃を喰らい、倒れたところを右目部分に
熱線の攻撃がヒットして倒れてしまい、さらにその攻撃で駆動系が
損傷。機龍は動けなくなってしまった。
と、その時、町中から芋虫のような怪獣が現れた。
箒≪あれは……≫
モーラ≪私の、娘たちです≫
という彼女の言葉に驚く一夏達。
≪元々、ゴジラとの決戦の数日前に私が小笠原諸島に
曾孫島に卵を産んでいたんです。それが数時間前に羽化し、
ここに来てくれたのです≫
新たなる援軍に驚く一夏達だったが、その事について感傷に浸る間
もなく、成虫モスラは子供達をゴジラの熱線から庇い、炎上。
爆死してしまった。
セシリア≪そんな!?フラワーさんが!?≫
モーラ≪……。あれが、私の最後です≫
簪≪どうして、みんな戦うんですか!?ただ、お互い傷つくだけなのに!≫
モーラ≪みんな、譲れないものがあるからですよ≫
シャル≪え?≫
モーラ≪……ゴジラが生まれたのは、もうどうしようもない現実
だけど、戦う人々には、護りたい人がある。だから
戦わなくちゃいけない。戦わなきゃ、護れない。
失いたくないから。人間は、生き物は、何かを守るために
戦っているんです。ゴジラも、もとはと言えば、機龍を迎えに来た
だけなのかもしれません。同族として。
そして、機龍が生まれたのも、ゴジラからこの国を護るためです。
……許される事ではありませんが。
でも、機龍は、戦いを拒めないです。今の機龍は、
『兵器』なのですから≫
一夏≪兵器って、なんだよ。……兵器だから戦わなくちゃいけないのか!?
機龍には心だってあるんだぞ!?≫
と、その時、倒れた機龍の近くに居た一夏達の前を白い防護服を着た
男性が走り過ぎて行った。
それを見て、ずっと黙って俯いていた機龍が顔を上げた。
機龍≪義人≫
白い防護服の男性、『中條義人』は機龍を修理するために現れ、
かつて茜が搭乗したのと同じブース、MB3へと入って行った。
その後、先ほどと同じように義人を追ってブースの中に入る9人。
義人は機龍の修復を終え、外の出ようとしたその時、ゴジラの熱線が
炸裂し、MB3のハッチが歪んで義人は脱出不可能になってしまった。
そして、義人は嘘の報告をして、仲間の足を引っ張らないために
機龍の中に残った。
起き上がった機龍は国会議事堂を破壊しながらも組み合い、
右手部分をスパイラルクロウへと変形させ、ゴジラの表皮を
切り裂き、そのわき腹に突き立てた。
それを見て、機龍は震える自分の右手を押さえた。だが、その震えは
次第に彼の全身を襲い、ガタガタと震えだす機龍。
そして、機龍は倒れそうになった。
一夏≪ッ!?機龍!!≫
それを一番に気づいた一夏が咄嗟に受け止めた。
と、その時、ブース内で倒れていた義人の頭の中に機龍の記憶が
流れ込んできた。それは、一夏達も同じだった。そして……。
茜『機龍ぅぅぅぅぅっ!』
義人「はっ!?」
かつて、今の自分と同じ場所に居た戦士の叫びを聞き、目を覚ます義人。
シャル≪今の声って、1年前の……あの時の≫
そして、彼は全てを悟った。
「機龍。…俺は、お前の事を、何もわかっていなかったんだ」
そう言いながら涙を流す義人。
機龍≪義人。……義人ぉ≫
義人の涙に答えるように、機龍もその目に涙を浮かべながら、
触れられないとわかっていても、必死に義人に向かって手を伸ばした。
それを見て、一夏達も目に涙をためていた。
義人「お前は、眠りたかったんだ。……ごめんな、機龍」
機龍≪義人ぉ≫
何度も手を伸ばす。何度もその肩を掴もうとする手が空を切る。
少年は、愛する人に触れたいと言う想いから、何度も手を伸ばす。
でも、触れられない。
と、その時、この戦いを見守る全ての人の耳に、小美人たちの
声が聞こえて来た。
そして、いつの間にか一夏達の前には、いくつもの情景が組み合わさって
映っていた。
機龍内のMB3、倒れた十字架の前に立つ小美人たち、機龍隊の指令室。
その3か所が同時に映し出されていた。
簪≪これって……≫
ヒ・マ「「ゴジラを、海に返してあげてください。
人は、死者の魂に触れるべきではないのです」」
五十嵐「……これが、小美人の声なのか」
誰もが手を止め、聞こえる歌声に耳を傾けていた。
ヒ・マ「「人間は、自らの過ちに気づかないほど、愚かな生き物ではないはずです」」
7人≪≪≪≪≪≪≪…………≫≫≫≫≫≫≫
小美人たちの声に、唇を噛みしめ、その言葉に聞き入る7人。
やがて、全てを決断した隼人がマイクを掴んで、自分の方に引き寄せた。
五十嵐「富樫君。ゴジラにトドメを。それで、機龍の使命は終わる」
その声を聴き、一夏達は五十嵐の方へと視線を向けた。
「作戦終了後、機龍を投棄する」
その言葉を聞き、機龍隊はゴジラにトドメを刺そうとした。だが、
ゴジラの咆哮によって自我を取り戻した機龍は、モスラの吐く糸に
よって身動きが取れないゴジラを抱え、飛び上がった。
一夏≪これは……≫
やがて、周囲に映し出される情景が再びMB3の中にだけ限定された。
そして、機龍が日本海溝に向かっている事を知る一夏達。
と、そこへ、機龍を追っていたしらさぎ2号機のパイロットである
女性、≪如月 梓≫が義人が閉じ込められている事を知った。
梓「中條君?…中に居るの?」
義人「………」
梓「中に居るの中條君?」
義人「………」
梓「答えなさい!中條一曹!」
義人「……ハッチが開かなくなった。機龍の内部に閉じ込められている」
五十嵐「君が、機龍を動かしているのか?」
義人「違います。機龍が自分の意思で動いているんです。
中からも制御不能です」
梓「何でもっと早く言わないの!?」
義人「……覚悟はできている。…このまま……このまま機龍と一緒に
海に沈む!」
機龍≪義人ぉ≫
と、その時、しらさぎのバルカン砲がMB3のハッチを吹き飛ばした。
そして、義人は脱出するためにGに耐えながら必死に出口を目指した。
機龍≪義人ぉ≫
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、義人の背に向かって手を伸ばす機龍。
今、機龍は叫びたがっていた。
――行かないで――と。――一緒に居て――と。
それでも、機龍は必至にそれをこらえていた。そして……。
義人の脱出を助けるために機龍の体勢が180度回転した。
通路を転げ落ちながらも、ハッチの縁に掴まって何とか耐える義人。
機龍は、一夏の腕を離れ、垂直に傾くブースの縁に立ち、下の義人
を見つめた。
機龍≪ありがとう。義人。僕を、直してくれて。
僕を、思ってくれて≫
大粒の涙を浮かべながら、機龍は伝わらないとわかっていても義人に向かって
語りかけた。
≪僕は、ずっと……ずっと、義人と、一緒に、居たかった。…うぅ≫
そして、我慢の限界を迎えたのか、ボロボロと涙を流し始める機龍。
≪でも、僕は、もう、行かなくちゃ、いけないんだ。だから……だから
義人は、生きて≫
止めどない涙が機龍の頬を伝い、落ちて行く。
その時、MB3のモニターに機龍の意思が示された。そして……。
『SAYONARA YOSHITO』
≪ さ よ な ら よ し と ≫
2人の機龍の意思が、義人へと届いた。
閉まるブースの扉を見ながら、義人は言葉を返す。
義人「さよなら。…機龍」
その言葉に、機龍は……。
―――大好きだよ。義人―――
そう言って、泣きながらも精一杯の笑みを浮かべた。
その言葉を最後に、手を放し、空中へと投げ出されていく義人。
そして、機龍はアンカーでゴジラを固定し、海に向かって
急降下していった。
「機龍ぅぅぅぅぅっ!」
大海原に、義人の叫びが響き、それに答えるように、機龍が最後の
咆哮を上げる。
そして、同時に、一夏達も、現実世界へと帰還した。
同時に、一夏とラウラは近くにあった屋上の鉄柵のパイプに拳を打ち付け、
簪たちは泣き崩れている。そして、機龍も。
せめて、最後は笑顔のまま別れようとしていた機龍は泣きながらも
笑みを浮かべていたが、次第にその笑みは崩れて行った。そして……。
機龍「う、うぅ。うぅぅぅ。うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
崩れ落ちた幼い銀龍は我慢ができなくなり、声を上げて思い切り
泣き始めた。
「別れたく、なかったよぉ、義人ぉ。ずっと、ずっと一緒に
居たかった、よぉ、義人ぉ」
大粒の涙で地面を濡らし、本心を曝け出す機龍。
簪「ッ!機龍!」
そんな機龍に感極まって抱き着き、自分も大粒の涙を流す簪。
そして、精神が追い込まれていたのか、機龍は眠ってしまった。
一夏「これが、機龍の、記憶、なのか」
箒「これでは……これでは人間の、私たち人類の、罪の記憶
ばかりではないか!?機龍は、こんな、こんな……!」
シャル「……酷すぎるよ。…ううん、それ以上だよ。これが、
機龍の過去だなんて。最後が、あんな終わり方だなんて」
セシリア「機龍の、ゴジラの幸せは、一体、どこに……」
鈴「私たちは、結局、何も知らず、何度も機龍に守られてきた。
戦う事が大嫌いな機龍に、あれだけ戦わせて、それなのに、
私たちは、護られてばっかで、機龍に頼ってばっかで」
モーラ「……これで、分かっていただけましたか?
私と機龍の存在についてを」
鈴「……。いっそ、知らない方がよかったって思えて来たわよ」
モーラ「ですがあなた達はその存在を知ってしまいました。
そして、私はこの世界に来て、ある事を決めたのです。
それは、私の全力をもって、機龍を護り、愛する事です。
……機龍に、もうこれ以上の悲しみも苦しみも、必要ありません。
もし、誰かが機龍をこれ以上苦しめると言うのなら、
私、守護神モスラの全力をもって、その人を排除します」
そういうモーラの瞳には、決意の炎がゆらめいていた。
「機龍の、ゴジラの中にあるのは、苦しみと痛み、戦いの記憶が
ほとんどです。そして、大切な人との別れさえ経験し、
機龍はこの世界へと流れつきました。そして、私が出会った
彼は、人々に苦しめられ、利用されてもなお、人を愛し、
人々を護るべく、戦う道を選んだのです。戦う事が、
一番嫌いなはずなのに……。だからこそ、私は機龍のその決意を
守りたい!例えどれほどの道であろうと、世界中の誰もが
機龍を否定しようとも、私は機龍を護り、添い遂げる!」
ここに来て、穏やかだったモーラの口調が激しくなってきた。
「私は、そのためならば人間とだって戦います!
傷ついた王を、護るために。かつての戦いを、
知る者として」
そう言っているモーラもその瞳に涙をためていた。
その言葉に、機龍を愛しているセシリアや簪、ラウラ。
そして、友人である一夏達は……。
簪「……私は、ずっと機龍に助けられてばかりで、無力で、
機龍の力になりたいって思った。……だから、私も決めた。
私だって、機龍と一緒に居る!もう絶対に離れない!」
セシリア「私、セシリア・オルコットとて、神の妻となる覚悟は
とうにできています!そして、機龍が苦しんでいるのなら、
その苦しみを共に背負うのもまた妻の役目ですわ!」
ラウラ「私もまた、人に作られたデザインベイビーだ。
兵器として生み出され、心の闇に囚われていた。
だが、機龍は私を闇から救ってくれた。今度は姉である私が
機龍を救う番だ!」
一夏「俺も、こいつに勉強を教わって、一緒に笑ってきた大切な仲間だ!
ゴジラだとかそんなの関係あるか!機龍を苦しめる奴は、俺が
ぶっ飛ばす!」
箒「例え血まみれだったとしても、苦楽を共にしてきた友を
見捨てることなどありえない!それが私の答えだ!」
鈴「あたしだって、こいつに助けられた恩がある。
だからこそ、その恩を返す!仲間として!友達として!」
シャル「機龍は、男としてみんなを騙してた僕を信じてくれた!
人間は愚かかもしれないけど、優しい人だって居るんだって、
教えてくれた!だから、僕も機龍を信じる!」
7人は声を上げ、機龍を≪仲間≫と、≪友≫と呼んだ。
その言葉に対して、モーラは……。
モーラ「皆さん。……ありがとう、ございます」
そう言って、涙を流しながら深く、頭を下げたのだった。
それから数十分後。
やっとの事で目を覚ました機龍。
今、機龍はモーラの腕の中で抱かれていた。
機龍「……モスラ」
モーラ「はい。何ですか?」
機龍「……やっぱり、僕は、ただの、人殺しの、壊すことしかできない、
化け物だったんだね」
そう言って、涙を溜めている機龍。だが…。
一夏「そんな事ねえよ」
機龍「え?」
一夏の声に、視線を移す機龍。
彼の目に飛び込んできたのは、変わらず自分に微笑みかけてくれる
≪友≫たちだった
一夏「お前は、ずっと戦い続けてたんだな。…でも、もうお前は
一人じゃないぜ。俺達の力は、お前なんかとは比べ物にならない程
ちっぽけかもしれないけど、俺、決めたよ。
俺達はこれからも機龍。お前の友達だ」
機龍「お兄ちゃん。…でも、僕は、化け物で、もう、沢山の
罪を犯して…それで……」
箒「機龍、お前の存在が罪だと言うのなら、人間は大罪人だ。
人間を許してくれ、などと言う気もない。お前のような
存在を生み出してしまったのは、結局人間なのだからな」
機龍「ち、違うんだ!僕は、大勢の人を、この手で……」
箒「それでもなお、お前は私たち人間を友と呼んでくれた。
だからこそ、私たちはその心に答えたい。私たちの行いが、
人間がお前に与えた罪を消せるとも思わない。
機龍、これからも、私たちの友達で居てくれるか?」
機龍「箒、お姉ちゃん」
箒の言葉に、驚きつつも、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪と
順番に目を向ける機龍。
「僕は、まだ、みんなと、一緒に、居て、良いの?」
また、大粒の涙を浮かべながらそう一夏達に問う機龍。
泣きそうな機龍の頭を撫でる一夏。
一夏「当たり前だ。俺達はもう、仲間なんだからな」
彼の言葉に、頷く箒達。それを見て、機龍は感極まってまた
泣き出してしまった。そして……。
機龍「みんなぁ。ありがとうぅ」
大粒の涙を流しながらも、王であり、兵器だった少年は笑みを漏らした。
第13話 END
今回は長い話になってしまいました。
それと、この話を書くために機龍二部作を何度も
見返しましたが、やっぱりゴジラは良いですね~。
自分的には機龍二部作が一番最初にみたゴジラ作品なので
やっぱり思い入れもあります。