【習作】羅刹天魔王   作:十月の金糸雀

2 / 7
 こんなできの悪い作品なのに、お気に入りに登録してくださった方、ありがとうございます。



前半は、元一般人が闘うなんて、そう簡単なことじゃないってことを書きたかった。
そんな第二話です。





旧二話

【天正10年6月2日(1582年6月21日)、京都・本能寺】

 

 

 

「―――――――人間五十年 下天のうちをくらぶれば 夢幻のごとくなり。」

 

 

 炎に包まれた本能寺の中で、一人の青年が舞い踊る。まるで、炎の熱さを感じていないかのような流麗な舞。実際、青年にとって自身を囲む炎など脅威たり得ない。彼が最初に簒奪した権能が、普通の物理現象で生じた炎が彼を傷つけることを許さない。

 

 神殺しの魔王がまつろわぬ神から権能を簒奪するとき、その権能は簒奪者の性質に強く左右される。彼の持つ原初の渇望、『強くなりたい』『どこまでも強くなり続けたい』『誰かよりも弱い自分など認めない』という色に染められた、Y・H・V・Hから簒奪した最初の権能は、『不朽不滅の神の肉体』と『人類を超越した戦闘の才能』、そして『人間が神より与えられた、どこまでも進化するという業』である。ゆえに青年の肉体は成長期である齢16で時を止めており、物理現象の炎などで火傷を負うこともない。

 

 

「これで雲隠れしても、誰もぼくがカンピオーネだったと知ることはない。」

 

 

 青年――信長は最初の権能を簒奪したその日から、一貫して歴史上の人物としての『織田信長』を演じてきた。足りない歴史知識はすべて、生と不死の境界に赴き、虚空の記録を覗き見て確認し、慎重に慎重を重ねて実践した。唯一実践できなかったのが、男女の営みだけである。他人とのつながりを否定する唯我の渇望を抱く信長にとって、これほどまでにおぞましいことはなかった。

 ちなみに彼の正室である濃姫は、彼のことを誰よりも愛していた。愛していたがゆえに信長の性質を誰よりも理解し、受け入れていた。そんな自分の理解者の死ですら、信長の感情を揺さぶるに至らなかった。

 

 

「最初から求道太極に至っていれば、こんな苦労しなくてもすぐに自分の世界に引き篭もれたのになぁ。」

 

 

 信長が生まれた瞬間から太極位階であったならば、自身の世界に引き篭もることが可能であっただろう。しかし、信長はまだその位階に到達していない。

 ならば、なぜ、只人でありながら無傷で神殺しの偉業をなし得たのか?

 

 

形成(イェツラー)

 

 

 信長がそう言った瞬間、信長の手には2mほどの黒い槍が握られていた。

 

 

聖約・終焉の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)

 

 

 この槍がすべての答え。転生するときに与えられた特典(呪い)。黄金の獣の持つ運命の神槍と違い、求道者が持つべき聖遺物。終焉の槍。

 この神殺しの槍の加護によって、まつろわぬY・H・V・Hに限ってすべての攻撃が無効化されたのである。

 

 そもそも、この槍とY・H・V・Hから簒奪した権能、二つがそろって初めて意味がある。

 槍は彼の渇望をより強く活動させる増幅機の役目を担っている。普通に考えて現代社会で育った一般人が、転生したからと言って、人が簡単に死ぬのが当たり前の戦国時代を生きることなどできるはずがない。ましてや、自然災害の具現ともいえるまつろわぬ神との戦闘などできるはずがない。この槍があるからこそ、彼の原初の渇望は活動し、魔人の域の戦闘を可能にしている。

 そして、Y・H・V・Hから簒奪した『人間が神より与えられた、どこまでも進化するという業』、これが彼の渇望力と魂の存在強度を向上させる役目を担っている。これにより、彼の渇望力・存在強度は向上していき、()()()()()()()()()()()求道大極へと至ることができるであろう。凡人の魂を太極位階まで高めるのだ。そこには500年近い血にまみれた闘争が必要不可欠であった。

 

 

 闘いたくないと思っても、逃げ出したいと思っても、いっそ死んで楽になろうとしても、槍が無理やりにでも渇望を活動させるために逃げられない。聖遺物の使徒は聖遺物が破壊されない限り死ぬこともできない。それどころか『誰かよりも弱い自分など認めない』という渇望が、自身を戦地へと駆り立てる。四方八方、一切合切、完全無欠に逃げ道の存在しない修羅の道。幼少期の信長は毎晩その恐怖で泣き続けた。

 

 

 しかし槍の効果は絶大で、彼が幼少の頃から強制的に渇望を活動させられ、四六時中自身の武芸を磨く武芸者に育て上げたほどである。権能簒奪後は渇望力そのものが底上げされていき、多くの戦いを経験したことで、彼の精神構造は完全に一流の戦闘者のそれと化している。

 

 

 しかし、彼は根本的な部分ではいい意味でも悪い意味でも自己完結している求道者である。何者にも束縛されたくない。他人なんてどうでもいい。自分さえ良ければそれでいい。自身の世界に他人という不純物が混ざることをとことん嫌う、生粋の求道者。それが織田信長の本質なのである。

 故に自身が神殺しの魔王であることを、義母パンドラ以外の誰かに知られるのを嫌った。古老達にでも知れ渡って、面倒ごとが増えることを嫌った。だからこそ、生と不死の境界で、密かにまつろわぬ神との殺し合いに励む一方で、只人の『織田信長』を演じてきたのである。

 そして、今日、この日、この時をもって、織田信長は歴史上からその姿を消す。生と不死の境界に隠居する。そのために、天之狭霧神から簒奪した『何者にも束縛されたくない』という渇望に染め上げられた、第二の権能を発動させるための聖句を唱える。

 

 

「天津神、国津神、境界を別ちてスキマを生む。夢と現、静と動、光と闇、すべての境界は我がもとに覆い隠される。ここは霧の境界。何者も我を捕らえ得ぬ。」

 

 

 こうして織田信長は、霧となって歴史上から姿を消すこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧によって外界と境界線が引かれ覆い隠された世界の中で、ガンッ!と音を立てて、槍と槍がぶつかり合う。一方は神殺しの槍、聖約・終焉の神槍。もう一方は、太陽の灼熱を纏った真紅の槍。もう何度目になるのか数えるのが嫌になるくらい繰り返されたやり取り。

 信長が神槍を持って応戦しているのに対して、上空に浮かぶ天使は信長を見下ろしたまま指揮者の様に腕を振るう。天使の指揮に合わせるように、何もない空間から大量の灼熱の槍が生まれて、神速でもって信長へと降り注ぐ。

 

 

「だから、見飽きたって。さっきから何度も言ってるだろ。」

 

 

 『心眼』を体得していなければ対応できないであろうそれを、信長はまるで散歩に出かけるかのような気軽さで対処する。信長が最初に簒奪した権能の真価は、『人間が神より与えられた、どこまでも進化するという業』、つまり、彼の原初の渇望を太極位まで至らせることだ。しかし、彼は『不朽不滅の神の肉体』と『人類を超越した戦闘の才能』も権能として簒奪している。権能というよりも、神殺しの魔王へと転生する際に、彼の存在をより戦闘に特化させるために彼の体が変質したといった方が正しい。

 『不朽不滅の神の肉体』は、最初から完全に掌握した状態で権能を行使でき、権能の発動条件や回数制限、代償などの制約や弱体化がなくなる。複数の権能や化身を同時に行使する際の負担が無い。といった恩恵を彼にもたらした。

 通常、神殺しが簒奪した権能は、オリジナルに比べ劣化、あるいは制限や制約が課せられる。しかし、信長にはそれがない。

 さらに、『人類を超越した戦闘の才能』。これは、戦闘に関して天才などという言葉すら生温い、底も果ても見えない。無造作に“出来てしまう”。そういう性質だと言ってよいほどに尋常ではない才能である。

 信長は、そんなバグキャラなのだ。心眼の体得などとうの昔に済ませているし、神速で飛んでくるだけの槍ごとき目を瞑っていても叩き落す自信がある。

 

 

「黙りなさい!主に牙をむいた堕天使め!私が主の敵を取るのです!!」

 

「神は死んだ。とか言っても、お前じゃわからないか。」

 

「黙れと言っているのです!」

 

 

 天使の猛攻は激しくなるが、依然として信長の余裕は変わらない。自分に当たりそうな槍のみを正確に弾き、逸らし、叩き落す。

 

 

「せっかく霧の権能で顕現させたのに、槍の射出でしか攻撃してこないからつまんないなぁ。」

 

 

 信長の第二の権能は、天之狭霧神から簒奪した境界を操る霧の権能だ。天之狭霧神は日本神話において、霧と異世界との境界線を司る神。山の頂上など上空にかかる霧を神格化した存在で、山岳信仰の根強い日本においては、神域たる山中を俗世から覆い隠す存在である。この権能によって、生と不死の境界の一部分を切り取って自分の領域にして、誰にも見つからずに自分の世界に埋没している。また、生と不死の境界と神話の世界との境界をあいまいにすることによって、まつろわぬ神を顕現させることができる。そうやって、日々、誰にもばれることなくまつろわぬ神との戦闘を行っている。

 

 

「ねえ、出し惜しみなんかしないで、さっさと本気出したらどうなのさ。神罰の代行者、メタトロン!」

 

 

 信長が今回顕現させたのは、《鋼》の大天使、メタトロン。神罰の代行者であり、その姿は36対の翼を持つ「炎の柱」として表される。ゾロアスター教の司法神、太陽王ミスラと習合している「天の書記」。また、自分に背く者たちを串刺しにしたという逸話があり、灼熱の槍を射出してくるのは、この逸話の具現からであろう。

 

 

「不遜にも、堕天使ごときが私の名を口にしますか!いいでしょう。覚悟なさい!あぁ、聖なる、聖なる、聖なる主よ!私に御身のお力をお貸しください!神命に背くものに死の鉄槌を!神罰を!」

 

 

 聖句を唱えた次の瞬間、メタトロンの体が巨大化し、その顔が疑似太陽へと変化した。そしてメタトロンが信長に向かって掌を向けた瞬間、信長は灼熱の衝撃波で吹き飛ばされた。

 信長はとっさに呪力を高めることで灼熱に耐えて見せたが、数kmは吹き飛ばされた。

 

「槍の射出の次は衝撃波とか、とことん遠距離攻撃だなぁ。」

 

 あきれながら言うのと同時に信長は左にジャンプした。すると次の瞬間、先ほどまで信長のいた場所に、信長を串刺しにするように槍が出現していた。

 「天の書記」であるメタトロンは、万人の管理者たる優れた気配察知能力と万象を見通す神の瞳を権能に持つ。感覚的に世界のあるがままを捉え、その全てを認識し識別できる感知能力であり、何処に行かずとも、その時代の万象全てを把握しその顛末を読み取れる。時には夜空に浮かぶ太陰として。見上げた天空そのものとして。何気なく踏みしめた大地として、風景の其処かしこに偏在し、何気ない一挙一動残らず全てが筒抜け。文字通り、「全てを見通す」と称され、他人の心、精神、誇り、感情、情報、記憶や精神状態。そう言ったもの全てを見透かし見抜いて見通すことができる。

 何時如何なるときであっても、誰が何をしていても手に取るように、望む対象の現在位置だけでなく今何をしているかまでを即座に把握出来る。例え異次元に身を置いて存在を隠匿していたとしても見破る事ができ、その気になればあらゆる平行世界の可能性や未来までをも見通すことができる。故に数km離れた場所にいる信長の『今』を正確に読み取っていた。

 

 今こそ攻め時である。そう判断したメタトロンは、信長に波状攻撃を仕掛ける。

 手始めに信長の上空周囲数kmに亘って灼熱の槍を出現させ、空間を塗りつぶすように射出した。

 

 

諸余怨敵皆悉摧滅(うっとうしいぞ、消えて無くなれ)!」

 

 

 対する信長は、極めて冷静に、正確に、上空から落ちてくる灼熱の槍を神槍で薙ぎ払う。

 

 次にメタトロンは、36対ある焔翼を一瞬で伸長させて一閃する。その線上にあった大地を切り裂き周囲を灼熱の衝撃波で粉砕しながら、72ある焔翼は信長に向かっていく。

 

 

唵・摩利支曳娑婆訶(オン・マリシエイソワカ)!秘剣・燕返し(改)!」

 

 

 ここで信長は、陽炎の神格である摩利支天から簒奪した、『常に最高の自分でありたい』という渇望に染められた第三の権能を発動する聖句を唱える。その理は可能性の無限拡大。彼の姿が陽炎のように揺らめき、72の斬撃の可能性を同時に具現化することで焔翼の斬撃を相殺するが、衝撃波までは殺しきれず信長の体は空中へと放り出された。

 そこへとどめだと言わんばかりに、メタトロンの顔にある疑似太陽から焔の槍が連続で照射された。

 

 

唵・阿毘耶摩利支娑婆訶(オン・アビダヤマリシソワカ)!」

 

 

 可能性の無限拡大。それは攻撃に用いるだけでなく、防御にも応用が可能な能力。数百、数千、数億分の一、天文学的な確率であっても回避の可能性が存在するのならば、その可能性を具現化する。故に信長は連射される焔の槍を無傷で回避する。

 

 

「背教者を串刺しにする灼熱の槍に、日輪の槍、この距離でぼくを正確に攻撃できることから、気配察知系の能力でも持ってるのかな?」

 

 

 回避を続けながら信長は思考する。このまつろわぬ神から権能を簒奪できたとして、その権能にふさわしい渇望はなんであるかと。

 

 百年近くまつろわぬ神々と闘ってきた信長は、自分が権能を簒奪できたとき、対象となったまつろわぬ神を見て、なにがしかの渇望を抱き、簒奪した権能がその渇望に染められていることに気が付いていた。

 神殺しの権能はイメージ大きく左右される。故に信長は、簒奪すべき権能の大まかなイメージがつかめるまで、まつろわぬ神に全力戦闘を強要し、殺戮の瞬間に強い渇望で権能を染め上げる。そのためにメタトロンの全力を、より多くの権能を確認し、それに見合う渇望を抱く必要があった。

 

 

「正直、気配察知系の権能はいらないな。自分の危険なんて直感でわかるし。」

 

 

 信長はどこまでも求道者だ。他人なんてどうでもいい求道者だ。自分さえ良ければそれでいい求道者だ。そんな信長が、誰かの居場所を知りたいなど考えるはずがない。

 そして、信長は後天的ではあるが戦闘に関して他の神殺しよりも優れた性能を誇っている。たとえ平行世界から空間跳躍攻撃されたとしても、「なんとなく」という直感だけで回避しきるだけの危険察知能力を持っている。

 

 

「でも、あの灼熱の槍はいいな。」

 

 

 欲しい権能は定まった。しかし、それに見合うだけの渇望が湧いてこない。

 信長が知る限りで炎を操る求道の渇望は、『情熱を絶やすことなく燃やし続けたい』という櫻井蛍の渇望のみ。しかし、信長には情熱など欠片も存在しない。戦いは情熱を燃やしてやっているのではない。単純に強くなるのに必要だからやっているだけだ。信長にあるのは、ただひたすらに『強くなりたい』という思いのみ。かつての弱かった自分、情けなかった自分、矮小だった自分への果てしない『憎悪』のみ。

 

 

「なんだ。答えは簡単じゃないか。」

 

 

 我、答えを得たり。そう思った信長は、メタトロンとの戦いに決着を付けるべく動き出した。

 

 

 

 

 

 




信長くんが自分の世界に引き篭もる。
その理由が中途半端だと自分でも思っていますが、ご了承ください。





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。