【習作】羅刹天魔王   作:十月の金糸雀

5 / 7
旧五話

 『オレもよ、お前にならって宝物、持つことにしたぜ!見てえかよ? ははは…残念…オレの宝もよ、「見えるんだけど、見えねーモン」だから、見せられねえのさ! それは、「友情」さ!オレとお前は、お互い見えっけどよ―――友情ってやつは、見えねーだろ!』

 

                            ――――――――――城之内克也

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ともだちひゃくにんできるかな』

 片田舎の一般家庭にうまれた自分は、学年に二クラスしかないような小さな市立の小学校に入学した。小学校に入学するとき、多くの友達が欲しいと思っていた。

 しかし、幼心にそれは無理だと理解した。

 人間には相性というものがあって、仲良くできる相手とできない相手がどうしても出てくる。そして、自分はあまり社交的ではなく、人に合わせて仲良くすることができないというのがすぐにわかったからだ。

 

 そして、仲良くなっても一年としないうちに疎遠になるのを繰り返した。

 一年生の時、二年生の時、三年生の時、四年生の時、五年生の時、六年生の時、いずれも誰かしらと仲良くなって毎日のように遊ぶようになっても、一年としないうちに距離ができ、いつの間にか自分には『仲のいい』友達がいなくなる。

 

 五年生の時にイジメられるようになった。

 理由は覚えていない。

 なにかつまらないケンカから発展したのか、それとも単純にターゲットにされただけだったのかは定かではない。

 自分を主にイジメてきたのは、二年生の時『仲の良かった』友人と四年生の時に『仲の良かった』友人だった。

 ある日、いつものようにイジメられていた時に、主犯格の一人を逆にボコボコにしてやった。次の日から、自分はイジメられることはなくなった。

 

 そのまま地元の中学に進学すると、自分はそこそこ勉強ができることが分かった。

 学年で一番を取ることはなかったが、週に二日塾に通って勉強するだけで、テスト前に勉強なんかせずテレビゲームで遊びほうけていても、各科目平均90点以上とれていた。

 勉強が日常に入ってくると、友好関係も変わってきた。

 中学で出会った友人、小学校から知っている友人、中学二年の頃には、自分にも安定して所属するグループができていた。

 高校に進学しても、彼らと遊ぶことは多かったし、大学に進学してからは、実家に帰省してタイミングさえ合えば食事に行く程度に付き合いは続いた。

 

 高校は県立の進学校に進んだ。ここでならきっと『親友』ができると思った。

 たくさんの友人なんてできなくてもいい。たった一人でも、『親友』が欲しいと思った。

 一年生の時はいろいろあって荒れた生活を送っていた。

 二年生になって、クラスのみんなと仲良くなろうとしてみた。

 三年生では、クラスのムードメーカーのポジションになっていた。先生には、自分がいるのといないのとでは、クラスの雰囲気が違うとまで言ってもらえるようになった。

 でも、自分の欲しかった『親友』をつくることはできなかった。

 

 高校三年生の大学入試は失敗した。東大に進学したかったが失敗した。

 諦めることができなかったので、上京して予備校の寮に入って一年間浪人したが、結局、東大へは行けなかった。かわりに、そこそこ有名な国立大学に進学した。

 

 大学でこそ『親友』をつくりたいと思ったが、一年生はバイトに明け暮れてほとんど友好関係を築くことができなかった。

 二年の時にうつ病になって、学校に行けなくなった。

 三年になって、親の勧めで精神科に通って薬をもらうようになり、無理をしてでも学校に通うようになった。

 四年は単位不足で卒業できないのが分かっていたので、可能な限り単位を取ることだけを考えて生きた。

 

 そして、就活を目の前にしてパニック障害になった。

 毎日、毎日、パニックで泣き叫んだ。

 怖かった。逃げたかった。助かりたかった。頼りたかった。

 

 友人たちに相談もした。でも、誰も助けてはくれなかった。それどころか、甘えるなと突っぱねられることもあった。

 そして自分は理解した。『友情』なんてこんなもんだ。『友人』なんてこんなもんだ。『絆』なんてこんなもんだ。『親友』なんてものは現実には存在しない。

 

 

 

 

 ――――――――だから()()は自分の中から『友情』という『不純物』を捨て去った…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ズルワーン

 後期ゾロアスター教の一派ズルワーン教に於ける創造神。その名は「時間」を意味する。またギリシャ・ローマにも信仰は持ち込まれ、アイオーン(永劫)と呼ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「我は世界を創造せし者! 天地の開闢をここに再現す!」

 

 

 ズルワーンが創造神としての権能を放つ。それは天地開闢の再現。重力の球体を作り出しあらゆるものを引き寄せ押しつぶす重力の嵐を生み出す。

 

 

「深き暗き闇よ!」

 

 

 対する信長は、ニュクスから簒奪した『全てを殺す死の漆黒でありたい』という渇望に染められた権能によって、ニュクスが作ったように闇を集めて重力球を作り出し、ズルワーンの作った重力球に向かって放つ。

 

 ズルワーンと信長の放った二つの黒い重力球同士がぶつかり、互いを喰らいあう。衝突の余波で周囲数kmにわたって破壊されていく。

 

 

「もういっちょおまけだ! 我が下に来たれ勝利のために。不死なる太陽よ。我が敵を憎悪の焔で焼き尽くせ!」

 

 

 信長の聖句に合わせて天空に疑似太陽が昇り、そこからズルワーンの放った重力球目掛けて日輪の槍が照射され、膠着状態にあった重力球同士のぶつかり合いを終わらせる。

 

 

「日輪の槍よ、そのままズルワーンにも連続照射だ!」

 

 

 信長の命令に従い、天空の疑似太陽はズルワーンに向かって日輪の槍を照射する。しかし、ズルワーンは時間を司る神。すぐさま神速の権能を用いて日輪の槍の射程から逃げ切る。ホーミング機能を持たない日輪の槍は、そのまま大地を焼き尽くし、周囲を灼熱地獄に変える。

 

 

「神速の権能か。いくら早く動いてもぼくには無駄だよ!」

 

 

 灼熱の槍を手に生み出して、呪力によって身体能力を最大限に強化した信長は、ズルワーン目掛けて神速すら止まって見える速度で駆け抜け、ズルワーンの首を正確に跳ね飛ばす、はずだった。

 

 

「我は時を造りし者也。」

 

 

 気が付いた時には、信長はズルワーンの杖による一撃を槍で受け止めていた。

 

 神殺しの魔王はずば抜けた直感を持ち合わせる。その例にもれず、信長の直感もずば抜けており、平行世界からの空間跳躍攻撃すら回避しきるほどの精度を誇る。

 

 そんな信長だからこそ反応して防御に転じることのできた、知覚外からの攻撃。

 

 

「!?」

 

 

 神速の権能?

 これはあり得ない。信長は『心眼』と体得している。神速の権能ならば信長が知覚できないはずがない。しかし、今の一撃は確かに信長の知覚外から攻撃されたものだった。これは超スピードで攻撃されたのではない証拠だ。

 

 ならば時間停止か?

 これはあり得る。時間停止による知覚外からの攻撃。しかし、なにか違和感が…………

 などと考えている信長は、再び直感に任せて背後を向いて、背後から振り下ろされる杖を槍で弾き返した。

 

 

「またかっ!?」

 

「なんと! これも防ぐか! さすがは生き汚い神殺しよ。」

 

 

 そこには杖を振り下ろしたズルワーンの姿があった。

 

 

 空間跳躍?

 いや、これも違う。しっくりこない。これだと、攻撃を知覚できなかった理由が分からない。やはり時間停止の権能か?

 信長の思考は止まらないが、ズルワーンは信長にそんな時間を与えるつもりはない。

 

 

「ほれ、今度は防ぎきれまい!」

 

「!? 虚刀流『牡丹』!」

 

 

 今度は信長の懐にズルワーンが出現し、とっさにズルワーンを蹴り飛ばすことに成功するが、蹴りを放った右足を、ズルワーンが生み出した重力球に引きずり込まれた。

 

 しかし、常時発動型の閻魔の権能によって、信長の肉体は死人(しびと)のそれである。死人は疲れない。死人は痛みを感じない。魂が存在の主体となった信長にとって、肉の身体など、実相世界への出力機関に過ぎず、魂への直接攻撃が可能な権能でなければ、信長には全くダメージを与えることができない。

 

 よって信長は右足をすり潰されながらも全く動じることもない。

 

 

「よいしょっと」

 

 

 むしろ自分から槍で右足を切断することでズルワーンの重力球から逃れる。ズルワーンは信長が気でも狂ったかと唖然としている。

 そして、切断した右足は次の瞬間には閻魔の権能と神槍の加護で完全に復元される。

 

 

「今のは結構、ビックリした、ぞ、っと!!」

 

 

 そういって信長は自分の周囲に大量の灼熱の槍を作り出し、ズルワーン目掛けて射出する。

 

 

「時よ留まれ!」

 

 

 しかし、ズルワーンがひと睨みすると、射出された槍たちは時間が止まったようにその場から動かなくなった。いや、実際に槍たちは時間を停止させられていた。

 

 やはり正体は時間停止か。そう思った信長は、新たに聖句を唱えた。

 

 

「さらばヴァルハラ。光輝に満ちた世界。聳え立つその城も微塵となって砕けるがいい。さらば栄華を誇る神々の栄光、神々の一族も歓びのうちに滅ぶがいい。我はただ、総てを置き去る最速の凶獣。皆、滅びるがいい!」

 

 

 『何者にも束縛されたくない』という渇望に染められたフェンリルから簒奪した権能。その本領。

 

 その理は速さの極限。

 

 どんな速度や行動であろうとも、必ず誰よりも速く動くことができる。

 

 どんな状況でも(単に突っ立っているだけでも)自動で相手を越える速度が出る。神速の権能の様に移動時間を歪めることで得る速さではなく、無限加速によって、どんなに速い相手であろうとそれを上回る速度で先手を取り、またいかなる攻撃もそれを上回る速度で回避する、『絶対最速』『絶対回避』『絶対先制』『超絶機動』の能力。

 

 その加速に上限は存在せず、縦横無尽に高速移動が可能であり、物理法則はおろか因果律や時間軸まで無視する最速の存在となる。

 摩擦、慣性、重力加速、作用反作用といった、運動概念に付随する数多の物理現象、物理法則の全てを無視した加減速、急停止、急発進、方向転換が可能であり、移動においては文字通り縦横無尽で、直進している状態から一切減速することなく真後ろへ加速し飛び退くような超機動ができる。

 

 敵に先手を打たれようと、時間軸を変調させて後手が先手を追い抜くという不条理を引き起こして先手を取り、絶対不可避の攻撃すら時空に隙間を開けて回避する。その性質上、相手が速ければ速いほど自身も速くなり、相手が無限速に加速しようとも、それを必ず上回り、時間停止能力や時間遅滞能力すら無視して加速する。

 

 さらにこの権能の利点は、神速の権能と違って細かい動きができることだ。

 通常、神速の権能は移動能力としては非常に優秀であるが神速状態では細かい制御がきかないため、高速での突進ならばともかく肉弾戦には向かない。しかし、この権能は思考速度も加速されるため、細かい制御が効き、精密な肉弾戦闘を可能にする。

 平時でも信長が圧倒的な速度を出せるのは、この権能があるからである。

 

 この権能ならば、ズルワーンの時間停止能力の『拘束』を振り切ることができる。そう思った信長だったが、直感が警鐘を鳴らす。そうじゃない、時間停止ではない、と。

 

 次の瞬間、お約束の様に信長の背後からズルワーンが杖を振り下ろす。しかし、今の信長は敵に先手を打たれようと、時間軸を変調させて後手が先手を追い抜くという不条理を引き起こして先手を取ることができる。

 

 信長は後手でありながら先手をとり、ズルワーンの胴体を灼熱の槍で横一文字に斬り裂いた。

 

 

「ガアァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

 

 焼き斬られた傷口を抑えながら、ズルワーンは自分がなぜ斬られたのか分からず混乱している。

 

 

「あはは! 自分がなんで斬り裂かれたか分からないいって顔してるね。」

 

 

 信長は続ける。

 

 

「ぼくは最初、君の知覚外からの攻撃の正体は、時間停止だと思っていたんだよ。でも、さっきのでハッキリした。君が使っていたのは時間停止なんかじゃない。たぶん、時間停止もできるけど、ぼくの抵抗力がバカみたいに高いから、完全に無効化しちゃうんだろうね。だから、槍の時間は止められたけど、ぼくの時間は止められなかった。なら、君の攻撃の正体は、一体何なのか………ズルワーン、君は時間と時間の流れのほんのわずかなスキマに存在するゼロの時間、そこを移動することで、ぼくの知覚の外から攻撃していたんだ。時間の流れという『束縛』から解放される。それが君の権能の正体だ。」

 

 

 そう、ズルワーンは、一瞬と一瞬の間に存在する、感知することはできないゼロの時間を集合させて、疑似的に時間停止能力を行使していたのだ。時間を加速することでの超高速ではなく、そもそも存在する時間の位相が違う。例えるなら、東方projectに登場する蓬莱山輝夜の『永遠と須臾を操る程度の能力』が近いだろう。

 

 

「ぼくの権能は、『絶対最速』『絶対先制』の能力。今のぼくは君に先手を打たれようと、時間軸を変調させて追い抜くことができる。だから、君が先に攻撃してこようが全く関係ないのさ。」

 

 

「そうか、かようにして我が権能は敗れたか………しかし神殺しよ! これで終わりだと思うなよ!」

 

 

 ローマ帝政期時代において、頭部が獅子で、男性の身体を持ち、蛇を全身に巻き付けた神像が発見され、この像は、『アイオーン神の像』と考えられた。つまりアイオーンは、医神アスクレピオス同様に《蛇》の力を行使できる神である。そして、アイオーンはズルワーンがギリシア・ローマに伝わっった神格である。このことから、ズルワーンは《蛇》の力を持つ時間の神である。

 何か、別宇宙の『座』にいた水銀を思い出しそうな神格だ。

 

 みるみるうちにズルワーンの時間が巻き戻り、肉体は完全な状態に回帰していく。信長が焼き斬った横一文字の切り傷は、跡形もなく消え去った。しかし、時間を巻き戻す権能でも、ズルワーンが今まで失った神力までは取り戻すことができない。ズルワーンの弱体化は逃れられない事実だった。

 

 そして、いかにズルワーンがゼロの時間の世界に逃げようとも、『絶対先制』をとれる今の信長には意味のないことだった。

 

 

「いいや終わりだよ。今の弱った君じゃ『速さ』でも『力』でも、到底ぼくには届かない。」

 

 

 次の瞬間、ズルワーンの神力が信長によって喰われる。フェンリルの権能の神を喰らう魔狼としての余技だ。信長を中心とした領域において、問答無用で呪力や生命力、体力、精気、魂などを奪いとり信長に還元される。これにより、ズルワーンはさらに弱体化し、逆に信長は強化されていく。

 

 

「なっ!? キサマ! まさか我が神力を!?」

 

 

 そして、いつの間にか信長の右手には灼熱の槍ではなく抜身の日本刀、布都御魂剣が握られていた。特にこれといった構えを取らず、だらりと右手を下ろした、変幻自在の無位の型。虚刀流、零の構え『無花果』。

 

 

「さぁ、年貢の納め時だよ、ズルワーン。謡え、詠え、斬神の神楽。他に願うものなど何もない!」

 

 

 信長の聖句とともに、布都御魂剣の刀身に青い稲妻が迸る。

 それを見たズルワーンは、ゼロの時間の世界に逃げようとするが、信長は時間軸を変調させて『ズルワーンが逃げる』よりも先に『ズルワーンに攻撃』し、さらに陽炎の権能で『ズルワーンを斬り裂く』という斬撃の可能性を現実世界に具現化する。

 

 

「無駄だよ! 唵・摩利支曳娑婆訶(オン・マリシエイソワカ)! 全刀流『完全刀一』!」

 

 

 日本神話において最強を誇る《鋼》の軍神、建御雷神から簒奪した権能の刃により、ズルワーンはその神格ごと真っ二つに斬り裂かれた。

 

 

 

 

 




 四話で出てきた閻魔の権能と建御雷神の権能の渇望を変更しました。


閻魔の権能
『誰にも殺されない』→『全てを殺す死の漆黒でありたい』


建御雷神の権能
『全てを斬り裂く剣になりたい』→『全てを斬り裂く《鋼》の刃でありたい』




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。