みなさん、お久しぶりです。
誠に勝手ながら、長らく放置していたこの作品、いったん削除して書き直すことにしました。
リメイク版のタイトルは、『第六天 終焉の魔王』です。
リメイク版の一話は完成しており、同時更新しております。
今回はリメイク版の一話と同じ内容を掲載します。
一話
『僕らは誰かと出会った瞬間から、一人ではいられないんだ。』
――――――――――有馬公生
人間は他者との関係から自己を規定し、社会を構成する歯車の一つになる。そして、社会という共同体が存在するからこそ文化的な生活をおくることができる。
水道局がなければ蛇口をひねっても水は出てこないし、発電所が稼働していなければ電化製品もガラクタになり下がる。自分の生活は、あったこともない誰かによって支えられている。
社会の中で、社会に貢献し、大切な誰かと愛や友情を育みながら共に生きる。
素晴らしい!
それが正しい人間のあり方であり、そうすべきであり、そうしなければならない!
………本当に?
そうならば、もしそうだというならば、社会に適合できない人間はどうなる?
適合しようと必死に足掻く?
努力して、努力して、精いっぱい頑張って生きる。なるほど正しい。まったくもって正論だ。
しかし、それができる人間が、その中にどれだけいるだろうか?
自責の念、疎外感、焦燥感、周囲からのプレッシャー、心無い言葉。
それは足を骨折した人間に、松葉杖なしで歩けというのと同じだ。無理はいけない。時間をかけてゆっくりと向き合うしかない。
しかし一方で、早々に諦めて現実から目を背け、自分の世界に閉じこもる者もいるだろう。そして同様に、現実から逃げ出すために死を選ぶ者もいるだろう………………
◆ ◆ ◆
自分は逃げた。
一般家庭に生まれて、大きな事故や事件に巻き込まれることもなく、平平凡凡に大学まで進学し、現実に向き合うことができずに
鬱病とパニック障害を併発して、毎日毎日、泣き続け、疲れて自棄になって
両親には悪いことをしたと思っている。
二人が自分を愛しているのは知っていた。大切に育ててくれたのを理解していた。
でもダメだった。
区別がつかないのだ。
親が子を愛することと、人間がペットを愛でることが。誰かを好きになるのと、食べ物の好き嫌いが。誰かが死ぬことと、家畜が死ぬことがことが。
実感が持てないのだ。
自分はいま生きていると。誰かを愛し愛されてもいいのだと。何かを成し遂げることができたのだと。
共感ができないのだ。
喜びを、楽しみを、感動を、幸せを。
時間と共に正の感情はすり減り、負の感情は蓄積されていく。情熱は掻き消え、虚無感が降り積もる。悲しみも苦しみも、愛も絆も友情も、誰とも共有できず、一人で勝手に空回り。だから自己規定も曖昧で、不安定な精神はすぐにぐらつく。
それでも確かなことがあった。それは、自分は自分がどこまでも可愛くて、大切で、自分のことが大好きだということ。
そして、現実を実感できず、真剣に向き合わず、自分だけの世界に逃げる。ちっぽけで、自分勝手で、矮小で、なさけない。そんな自分が大嫌いだということ。
結局のところ自分は欠陥品だったのだ。中身のない人形、出来の悪い粗悪品。自分は生まれてくるべきではなかったのだ。製作段階で不具合のあるゲームをクリアできないように、生まれてきたことが間違いならば、その一生に正しさなんて存在しない。
そう思ったら、すべてがどうでもよくなった。だから、迷わず『死』を選んだ。
この世の全ては平等に、無駄で無用で無意味で無価値だ。
世界はただそこに存在しているだけであり、命が生まれる事に意味などなく、その生に意味が無い以上、その死にも価値など存在しない。
自分は死を選んだ。無意味に生きることよりも、無価値な死に憧れた。
あぁ、それなのに。そのはずのに…………世界はどこまで残酷なのだ?
自分は逃げだしたのだ。現実から、社会から、他人から、そして自分自身から。
それなのに、こんな美しい
穢れなき女神の愛に、心の底から感動してしまった。こんな自分でも愛していいのだと、愛されてもいいのだと。生まれてきてよかったのだと。今までで一番の感動を、死んで初めて体験する。
この優しい黄昏のようになりたいと、どうか届けと手を伸ばす。
あともう少しで光に手が届く。そう思った瞬間に、ナニカに足を掴まれて、そこから引きずり降ろされた。
◆ ◆ ◆
そこには巨大な扉があった。
無限に続く白亜の空間に、それはぽつりと存在していた。
まだ自分が俺になる前、死後に通ったあの扉。
少し違和感も感じるが間違いない。これはあの扉だ。この先にはきっとあの時見た黄昏の海が広がっている。
ならば後ろにはアイツがいるはずだと思い振り返る。
「バカだな、また来たのか。」
呆れながらそう声をかけてくる、人型のナニカ。
ソイツを形容するには、それ以外に表現が見つからない。黒いもやのみたいなものを纏ったソイツは、記憶にあったそれとは違って、自身と同じ子供くらいの大きさだ。
オレは"おまえ"だ
かつてソイツはそう言っていた。ならばその姿かたちも、子供である自分に対応したものであってもおかしくはない。でも、少し小さすぎないか? なんだか自分よりも幼い気がする。
「同じ奴がここに来るのは、お前が初めてだ。」
珍しいものを見た。とソイツはのっぺらぼうに浮かぶ口を三日月にして、嬉しそうに笑っていた。
この場所に来たってことは、俺は死んだのか?
死後の世界。前に来たのは自殺したときなのだから、そう思うのも当然だ。
そして
姉さん……姉さんのところに帰らないと!
「扉を通ればお前はちゃんともとの世界、もとの時間に帰れるさ。」
そうか………
なら早くこの扉を開けてくれ。姉さんのところへ帰りたいんだ。
南蛮から渡来してきた男。槍の担い手に裁きを与えんと、天変地異を引き起こして、那古野城を壊滅させた全能神。
それを殺戮するために、家臣団を率いて出陣していた自分と姉。
生きているのなら、帰ることができるのなら、早く帰って彼女を助けたい。
確かに自分は弱い。最強と言ってもいい姉に比べて、身体も弱く行ったところで本当に、力になれるかもわからない。
けれど、そんな言い訳をして、愛する姉を見捨てるなど、彼女の弟として赦されるはずがない。
「だがおすすめはできないな。その先は地獄だぞ。」
姉さんが待っているんだ。
だから俺は行かなきゃならない。そこが地獄だろうと関係ない。
何としてでも愛する姉を、あの地獄から救い出す。
焦る気持ち、逸る気持ちがあるから気づかない。
「そうか、だったら、さっさと行けばいい。もう
ソイツの言葉と共に、後ろで扉が開く音がした。
「お前
何のことだと聞こうとしたが、口を開く前に扉の中から無数の手が触手のように這い出てくる。その手が俺に触れた瞬間、全身に悪寒が走る。これは、あの黄昏じゃない。そう思った瞬間、さっき感じた違和感の正体に気づく。
図柄が違う。扉に描かれている図柄が、前の時とは違う。
とっさに、離せ、と叫んで手から逃れようともがくが、その拘束から逃れることはできず、俺は扉のなかに引きずり込まれた。そして………
地獄を越えたその先で、
――――――――――まず感じたのは果てしない自分への『憎悪』
彼女は死んだ、もういない。けれど、自分は生かされた。そんな自分が赦せない。
あぁ、なぜ自分はこんなにも弱いのか。情けないのか。何の進歩もない。何の成長もない。それなのに、どうして自分は生きているのか!
すでにこの身はわが身に非ず。彼女がいなくなったいま、この身に破滅は許されぬ!
――――――――――求めたのは終わることない『超越』
「強くなりたい」
どこまでも強くなりたい。終わることなく果てしなく、
この世の全ては平等に、無駄で無用で無意味で無価値だ。もはやすべてがどうでもいい。
正義を貫くためとか、何かを得るためとか、打ち破るためとか、乗り越えるためとか、守るためとか。事ここに至りて、もはやそんな「どうでもいいこと」など必要ない。
理由なんていらない。目的なんていらない。
強くなりたい。ただ強くなりたい。一重に強くなりたい。とにかく強くなりたい。誰よりも強くなりたい。一重に、ひたすら、とにかく、強くなて、誰よりも強くなって、ひたすら強くなって、今よりも強くなって、強くなって、強くなって、どこまでも強くなり続けたい!
戦いを。殺し合いを。命を懸けた闘争を!ただ強くあるために!誰よりも強くあるために!ひたすら強くあるために!今より強くあるために!どこまでも強くあるために!
姉さんが何をしたのか理解して、呆然と自分の死体を見下ろすことしかできなかった。
そんな俺を見ながら、誰かがニタニタと笑っている気がした………