ハーメニア   作:秋月 俊

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二人の声

 東北がカイトの後ろに回り込む。カイトは反応しきれなかったのか、驚いたように後ろを振り返るがその時には既に、東北の足がカイトの顔面を捉えていた。その衝撃でカイトが前の方に吹き飛ぶ。東北は吹き飛んだ先に回りこみ、顎に一発弓の胴でアッパーをかます。そして振り切ったまま矢を番え、発射する。

 

「くそっ!速い!」

 

空中で体勢を立て直し、剣を盾とし矢を防ぐが、その矢を防いだ瞬間、鏃がまばゆく光りだす。

 

「爆砕しなさい!」

 

激しい音と光を伴い大爆発を起こす。見るからに恐ろしい……カイトはどうなったんだ?

 

「……ふぅ」

 

煙が晴れていく。そこには一つの人影があった。青いマフラーを叩きながら、カイトが何事もないように立っていた。まさか……あれだけの爆発を喰らって無傷って、あいつはバケモノかよ。

 

「嘘……。私の最大の音を叩き込んだのに」

「確かに強かったけどな。言っただろう?格の違いを教えてやるって」

 

カイトが剣を振るう。その瞬間東北の身体が遥か後方に吹き飛ばされる。その勢いのまま、幼稚園へとぶつかり、幼稚園に大きな穴が開いてしまった。空から降りてきたカイトが東北の元へと歩み寄っていく。

 

「第一考えろよな、僕は最初のハーメニアだぜ?覚醒して間もないお前が勝てるわけ無いだろうに」

 

そうだ、カイトは最初に覚醒したハーメニアだ。ここにいる誰よりも音との関わりが長く、響器の扱いもうまいはずだ。東北一人では分が悪すぎる、なんとか援護しようと動こうとするがやはり思うように動くことが出来ない。

 

「あれ、もうおしまいかな?殺すんじゃなかったのか?」

 

嘲笑うように東北の目の前にカイトが立つ。東北はダメージが多かったのか、うまく動けないようだ。震える手で弓を放つが、ヒョイッとそれを半身で避ける。

 

「頭を狙わなきゃ頭を。ほら、ここここ」

 

カイトが頭をコツンコツンと叩く。東北が苛立ったように歯を食いしばり、矢を連射する。しかし、カイトはそれを避け、斬り落とし、挙句には頭の後ろに手を置き、音の壁で弾く。圧倒的な力の差、それを今、俺達は実感していた。

 

「しかし、もう飽きてきたな。お前だけに時間はかけられないし、そろそろ一人目を終わらせるとしよう」

 

剣を振りかぶる。その剣の周りに藍色の粒子が纏い始め、それは大きな刀身を形成した。藍色をしたどこか狂気を孕みながらも、それだけではないような何か異様な雰囲気を漂わせている。

 

「それじゃ」

 

カイトがその剣を振り下ろす。

 

「させないっ…!」

 

刃が当たる直前、IAの鎌がその刃を刈り取った。藍色の粒子は虚空へと飛び散り、やがて消えていった。IAは鎌を水平に振り、身体を斬り裂こうとする。カイトは後方に回避し、それを避けた。

 

「IA、動けるのか!?」

「うん…。マコトも、一旦気を鎮めてみて」

 

IAの言う通り、気を一旦鎮める。すると身体から何かが抜け出していくのが分かる。そして、今まで動かなかった身体が嘘のように動き始めた。どうやらカイトに何かされていたようだ。しかしそれが無くなった以上、ここからは俺達も戦えるだろう。

 

「ほう、あれに気づくとは。なかなかに良い感性を持ってるみたいだな」

「褒められても…嬉しくない!」

 

IAは一歩踏み込み、鎌を振りかぶり袈裟斬りを放つ。それもバックステップで回避したカイトは、同じく一歩でIAの懐に踏み込み、左薙ぎを繰り出す。IAはダイレクトにそれを喰らうが、当たった瞬間に音の壁を発生させ威力を減退させたことが見て取れた。

 

「ゆかり!東北の治療を頼む!」

「はいっ!」

「ミクは俺とIAと一緒にあいつの足止めだ!」

 

ミクが『spica』を顕現させ頷いた。俺もゆかりの手を取り、音を共鳴させ『紲月歌』を顕現させ、カイトと戦闘をしているIAのもとに二人で向かう。

 

「くっ…。なんで攻撃が当たらないの!」

「感性は良いが、僕ほどじゃあないな。そら、守れるかな?」

 

IAに向かってカイトが剣を振り下ろす。IAはそれを回避し、再び袈裟斬りを放つ。しかしそれもやはりと言うか、音壁に阻まれる。

 

「IAさん!」

 

ミクも斬りかかる。IAとは逆方向から斬りかかるが、それもカイトの音壁の前に阻まれてしまう。何とかしてあの音壁を消さないかぎり一撃を入れることは不可能に近いだろう。ゆかりの方もまだかかりそうだ。俺達がこいつを止めないと、全滅は免れない。

 

「三対一か。いいぜ、かかってこいよ」

 

カイトの雰囲気が変わる。先程よりも鋭い殺気。どうやら本気……程ではないが確実に殺す気でかかってくるようだ。俺達も本気でかからないとやばいと再認識する。他の二人も同じなのか、感じる音の鋭敏さが増した。IAから何かアイコンタクト

がきた。

 

『私が殿を…務める』

 

そう言っていたように見えた。確かに、まだ戦闘経験の浅い俺が殿を務めるよりも、そっちの方が突破口はあるだろう。

 

「行くよ!」

 

IAが先行してカイトに斬りかかる。ミクもそれに重なるように突撃を開始する。

 

「はぁっ!」

 

IAが飛び上がり、そのまま落下の勢いを利用して高速の唐竹割りを放つ。カイトはそれを左手から発生させた音壁で防ぎ、同時のタイミングで水平斬りを放ったミクの『spica』を右手で持っていた剣を逆手持ちに変え受け止めた。

 

「ほう、ミク。お前何か変わったな」

「うるさい!」

 

ミクとIAがカイトを抑えている。仕掛けるなら今しかない!

ミクのいる方向の逆から水平斬りを放つ。

 

「おっと危ない」

 

それも音壁に阻まれる。

 

「さて、つぎはこちらだ」

 

カイトが深呼吸をしている。何かがやばい、そう感じた俺たちは後退しようと、足に音を溜める。そしてジャンプし、後ろに下がった瞬間

 

「----------------!」

 

俺達の耳を恐ろしい音が襲った。ミクの時とは比べ物にならないほどの高音……人間が処理できるであろう音の限界を遥かに超えたその音は、俺達の身体の自由だけではなく、響器の維持をも不可能にする。

 

「ほぉら見たものか。身を弁えずに歯向かうからそうなるんだ。そのままそこで苦しんでるがいいさ」

 

膝をつき、なんとか音を相殺しようとする俺達の間を歩きすぎ、ゆかりと東北のもとに向かっていく。未だに東北の治療は終わっていない、このまま向かわせることは出来ない。俺はなんとかして立とうとするが、頭がうまく身体に命令を伝達してくれない。

 

「マコトさん!」

 

ゆかりが治療を一旦中断し、チェーンソーを構えるのが見える。

 

「くそがっ……どうすれば……」

 

その時、俺の何も持っていない方の手が赤く光りだした。その光は他の二人には見えていないようで、未だに音に苦しんでいる。何だこの光……なんだか分からないが、コレが普通じゃないことだけは分かる。

 

「さて、あそこの三人はほっといても死ぬだろうし。君を殺ろうかな、結月ゆかり」

「なんとかあの三人のもとに向かえれば、治療できるのに……」

 

ゆかりにカイトがじわりじわりと近寄っていく。なんとかしなければ……

 

『あー、もう!ほんまウジウジ考えるのが好きなやつやな!』

 

そのとき、頭の中に何か聞こえてきた。女の子の声?一体どこから……

 

『いいからはやく!このままじゃあの人が!』

 

葵?てかなんで関西弁なんだよ。

 

『時間ないんやろ!はよ私らの名前を呼ばんかい!』

 

私らの名前と言われても……。そんなものはわからないし、大体これは何だ。赤の光だけでなく青色の光まで出てきた。しかし、俺の中の何かがこの状況を打開するにはそれしかないと告げていた。

 

「わかった、名前は?」

『よっしゃ!ほないくで!』

『私達の名前は……』

 

『『「琴葉!」』』

 

その名前を叫んだ瞬間、その光は弾け飛び、粒子と化す。先ほどのカイトと同じように、その赤と青の粒子が刀の形を形成していく。そして、俺の身体を縛っていた音はいつの間にか消え去っていた。俺の手のは今、『紲月歌』ともう一つの刀である『琴葉』が握られている。この刀がどうして突然現れたのか、わからないもののこの状況を打破できるならばなんでも良い。

 

「マコト…?」

「なんですか……その刀」

 

IAとミクの声が聴こえる。どうやら二人も開放されたようだ。しかし今はそんなことを気にしている暇はない。今やるべきことはただ一つ

 

「カイトを……倒す!」

 

カイトに向かい走りだす。

 

「いい加減に死なないかなお前。あんまり時間を掛けたくないんだよ」

「はぁはぁ、あなたも大したことないんですね。私一人に、こんなに時間をかけるなんて」

「よく減らず口をたたく。それじゃあ防いでみろよ紛い物!」

 

ゆかりに向かい剣を振り下ろすカイトが見える。それをみて俺は更に加速する。

 

「!?この感覚は……まさか」

 

カイトがこちらを振り返る。俺はその隙を付いて横をすり抜け、ゆかりの前に立つ。

 

「ははっ、ははははは!まさかね、まさかそうきたか!」

 

カイトがこちらを振り返り、高笑いを始めた。一体何がおかしいのだろうか、いや、そんなことはどうでもいい。殺るなら今しかない。

 

「マコトさん?」

「ゆかり、下がってろ。こいつを倒す」

 

二本の刀をカイトに向かい突きつける。カイトはそれを聞いて高笑いをやめて、こちらを見る。その目は俺達と戦っていた時よりも狂気を宿している。これが本気なんだろう、しかしそうじゃないと面白くない。

 

「倒す……だと?えらく大口叩くなゴミが。覚醒したばっかのやつが俺を倒す?くくっ、面白いじゃねぇか」

 

口調が変わった?再びカイトの剣に粒子が集まり、剣を大剣へと変化させる。

ゆかりもその事を感じ取ったのか、後ろに下がる。俺はゆかりに目で「東北の治療を」と伝え、また前を見据える。ゆかりは理解したのか、後ろに走っていった。

 

『倒すって……精々できるのは足止め程度やで?』

『でも、今はそれで十分…ですよね?』

 

また頭のなかで声がした。最初は驚いたが、今はなんだろうか。異常なまでにしっくり来ている。

 

「ああ。……いくぞっ!」

 

 

        カイト VS 詠月マコト 戦闘開始

 




今回の新キャラ口調で分かる人は、誰か分かると思いますw

関西弁うまくわかんないからこれから要勉強だ
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