“――わたしは、なんだ?”
“――なんのためにここにいる?”
“――いつからここにいる、いつまでここにいる?”
“――わからない。わからない。だれかおしえて?”
“――わたしが、いまここでいきているいみはなんだ?”
――某国某所。
とある名も無き島の隠された研究所の一室にて、多種多様な機材やモニターを、複数名の研究員達が操作していた。どうやら、何かしらの実験に対する管理と監視を行っているらしい。
すると、そんな怪しげな一室に、一人の壮年の男性が入室してきた。それに対し、部屋にいた者達の中でも年配の者が立ち上がり、その男性に対して頭を下げる。
「作業を続けろ。それで『
「……ああ、被検体No.047ならば、先程食事を与えたばかりです。脳波、脈拍は共に正常値の範囲内。特に問題は無いと思われます」
「……ふむ。以前と比べると、最近は落ち着いた状態が続いているようだな。部屋の中の映像を出してくれ」
「分かりました」
男性の指示により、何かのバイタルやデータの数値を映していた部屋のモニターが切り替わり、別の映像が映し出される。
アイボリーカラーの床、壁、天井で囲まれた、10m四方の立方体の部屋である。各所に取り付けられたカメラからは、壁や床の至る所には大小様々な傷やへこみが確認でき、何かがここで暴れたであろう事が分かる。
――そして、その映像を見たその場の全員が、映し出された光景に我が眼を疑った。
「……おい、これは、どういう事だ?」
どうにかその言葉を出した男性の目の前のモニターには、元々何も設けられておらず、そして今は
――つまりは、被検体の姿が部屋の中から消えているのだ。
「お、おいっ! 奴は何処に消えたんだ!」
「そ、そんな筈は。ついさっきまではちゃんといたのに!?」
「赤外線センサーの反応は!?」
「……せ、赤外線反応もありません!」
「ならば奴は何処にいるんだ!!」
「……し、所長。あれをっ!」
皆が予想外の事態に慌てる中、一人の研究員がモニターの中のある部分を指差した。
そこには部屋の天井が映し出されており、その中央には通気孔を兼ねた食事を与えるためのダクトが備え付けられている。
そして、普段はその入り口を硬く閉ざしている筈の頑丈な鉄格子が、今は無惨にもひしゃげてねじ折れてしまっていたのだ。
「まさか、あんな所から逃げたのか!?」
「天井までは10mの高さがあるんだぞ! ただ跳躍しただけで届く筈があるか!」
「だったら、どうやって奴は姿を消したんだ――」
「――皆、落ち着け」
半ば恐慌状態になりかけていた研究員達に向け、壮年の男性の低く重い言葉が響き渡った。
その影響により直ぐ様静まりかえった室内に、先程よりも幾らか落ち着いた男性の言葉が告げられる。
「直ちに制圧部隊に連絡し、1個分隊を部屋に送って調べさせろ。『Regina』に取り付けている発信機の信号をたどり、今いる現在地を探しだせ」
「……は、はい!」
男性の指示により、直ぐに研究所の制圧部隊に連絡がいき、捕獲用の麻酔銃と槍のようなスタンロッドを装備した1個分隊が問題の部屋の前へと到着する。
まず分隊長が扉の端末にパスコードを入力し、全員が警戒しながら重く開いていく自動扉をくぐって室内へと立ち入っていった。
「――発信機の信号、捕捉しました!」
「よし、モニターに映せ」
「はい。って、え……?」
「どうした?」
「……信号が発信されているのは、被検体No.047号室です」
「…………なに?」
「被検体No.047は、
そう叫ぶ研究員の言葉は、直ぐに他の者達の頭に浸透していく。
『……管理棟、こ…らα分隊。無…に進入を果たしたので、これ…り調査を開始する』
そして、それと同時に分隊が室内へと進入を果たしたという、分隊長からの無線が静かにその場に響き渡った。