仮題:飼い慣らせぬ女王は空を翔る   作:グラサン髭坊主

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 ※この作品の主人公は、原作の恐竜よりもかなりハイブリッドなものになっています。
 あらかじめご了承頂ければ幸いです。




Prologue:3

 

 

 

 

 

『――こちらβ(ベータ)分隊! γ(ガンマ)分…いは壊滅! β分隊も2名重症!』

 

『麻酔銃は効果が無…っ! 実弾…使用許可をっ!』

 

『くそっ、ジョージがやられ……グァっ!?』

 

『ひぃっ!? た、助け、助けてく……!』

 

「……γ分隊に続き、β分隊の反応も消失(ロスト)しました!」

 

δ(デルタ)分隊とε(イプシロン)分隊、共に損耗が4割を超えています!」

 

「撤退させろ! C-5区画を封鎖するんだ!」

 

「駄目です、移動速度が尋常ではありません! このままでは突破されます!」

 

「何て事だ……」

 

 矢継ぎ早に伝えられる無線の内容と、管理棟の研究員達の報告に、この研究所の所長である男は言葉を失っていた。

 α分隊が壊滅後、被検体は貨物用エレベーターにより地下5階から地上1階へと移動。直ぐに4個分隊を派遣し対応させたものの、被検体の戦闘能力の高さにより結果は酷いものとなった。

 

 チンパンジーの筋力と握力。

 カラカルの驚異的な跳躍力。

 グラスフロッグの赤外線抑制能力。

 コウイカの皮膚変化による擬態能力。

 センザンコウの鱗とイリエワニの皮骨の合成表皮。

 

 様々な生物のDNAを組み合わせてきた数多くの被検体の中でも、最も多くのDNAを取り入れ、そして問題無く成長してきた唯一の完成品が、被検体No.047なのだ。

 あとは、人間として必要な知識を与え、()()()()()()()へと取り掛かっていく段階まできていたのだ。

 だが、まさかこれ程まで能力を自在に操る知能の高さと、それらを活用させて研究員達を騙し、屠る狡猾さを既に得ていたとは、誰が予想出来ただろうか。

 

「……やむを得ん。これ以上被害が出る前に、『Regina』を殺処分する事とする」

 

「で、ですが所長。それでは今までの研究費用と時間が無駄に……」

 

「被検体はまだ替えがきくが、人員には限りがあるのだ。それに、今までの『Regina』の研究データはこれからも十分役に立つ。また第2、第3の『Regina』を生み出せばいい」

 

「……そ、そんな」

 

「では、速やかに制圧部隊と研究員を撤退させ、『Regina』のいる区画を閉鎖しろ。それから消化用の二酸化炭素ガスを10分間使用して、『Regina』を確実に仕留めるんだ」

 

「……はい、了解しました」

 

 所長の言葉に、被検体に対処する為として行動する他の研究員達。

 

 だが、そんな状況も――。

 

 

 

「――大変です! 被検体No.047が、E-5区画の格納庫に侵入しました!」

 

 

 

 ――度重なる想定外によって、簡単に覆されてしまう。

 

「……何だと! 格納庫の隔壁は閉じていなかったのか!?」

 

「どうやら、例の実験機の武装テストが終了し、その格納時期とタイミングと重なったようです」

 

「……待て。まさか、『Regina』は『Indominus(インドミナス)』の近くにいるのか?」

 

 研究員の言葉に、所長が顔を強張らせる。

 この研究所にて、合成人間の研究と同等に進めれていた研究。それが、『Indominus』と名付けられた実験機の開発である。

 とある日本人の天才発明家によって生み出された『インフィニット・ストラトス』、通称ISという今までの兵器を超越したマルチフォームスーツ。全世界に467機あるその中の1つを、この研究所にて対人、対軍兵器として開発、研究していたのだ。

 

「急いで『Regina』を処分しろ! 絶対に『Indominus』には触らせるな!」

 

「は、はい!」

 

「……『Regina』には、極秘に入手したあの『ブリュンヒルデ』のDNAも組み込まれている。万が一、あの機体を『Regina』が装着すれば――」

 

 所長が今までに無い程の狼狽を見せる。

 ISにはその特徴の1つとして、女性にしか扱えないという未だに解明出来ていない点がある。

 そして、今問題となっている被検体、『Regina』の性別は女であり、しかもIS操縦者の中でも特に有名な女性のDNAを引き継いでいるのだ。

 

 今まで行われてきた運用テストにおいても、高性能である事と引き換えに、その繊細さと複雑さ故に誰もが扱いきれず、結果としてその性能を十全に引き出せずにいた実験機、『Indominus(飼い慣らせぬ者)』。

 

 もしも、そんな機体を『Regina』が装着し、そしてそれを完璧に扱う事が出来たのなら――。

 

 

 

「――誰にも、あの『ブリュンヒルデ』にさえ、止める事は不可能だろう」

 

 

 

 そう呟いた所長の視線の先。

 

 そこには、今まさに『Indominus』を身に纏い、格納庫から出ようとしている被検体の姿がモニターに映し出されていた。

 

「――何故、被検体がISを装着しているんだ!?」

 

「分かりません! ですが、このままでは……っ!」

 

「どうした、何かあったのか?」

 

「……『Indominus』の機体から送られてくるデータによると、被検体のIS適性値は、その、A判定である、と……」

 

「そ、そんな馬鹿な話があるのか? あの繊細な機体を纏って、それでいて適性値がAだと?」

 

「まさか、あの機体を扱える程の技能をも、あの被検体は兼ね備えているのか!?」

 

 

 

「……最早、ここまでか。現時点をもって、この研究所を放棄する」

 

 

 

「し、所長! それは本気ですか!?」

 

「このままでは研究所もろとも我々が全滅しかねない。誠に遺憾ではあるが、これは今後の我々の事を考えた末だ」

 

「そ、そんな!」

 

「E-5区画を、いや、D-4、D-5、E-4区画も含めた計4区画を速やかに封鎖しろ。それから先の予定通り、二酸化炭素ガスを使用するんだ」

 

「せ、制圧部隊の者達はどうするのですか!? まさか見殺しにすると言うのですか!?」

 

「そうでもしなければ今の『Regina』を確実に足止めする事は出来ん。全責任は私が負う。それを実行した後、我々が研究所から脱出した時点で、研究所全域を対IS用テルミット爆薬にて完全に焼却処分しろ。急げ!」

 

「は、はいっ!」

 

 所長の決定に、僅かに逡巡した研究員達ではあったが、その有無を言わせぬ程の圧力のある言葉を前に、やや手間取りながらも指示通りの操作を始めた。

 

 だが、その僅かな時間の差が、研究員の命取りとなる。

 

 区画閉鎖の為の操作が終わる、その寸前。

 モニターに映る被検体と、その研究員との目が、偶然にもあってしまった。

 

「……ひぃっ!?」

 

 瞬間。モニターの映像が消え、更には別のモニターに映していた被検体の発信器の反応が、凄まじい速度にて移動を始めたのだ。

 

 そして、その移動先は、この管理棟がある区画となっていた。

 

「……ヤバいぞ! 早くここから離れないと!」

 

「区画を全て封鎖しろ、時間を稼げ!」

 

「駄目です、間に合わない!」

 

 声を上げて慌てふためく研究員達。

 そんな彼らのいた部屋の殆どが、突如として爆音と共に崩れ落ちてきたのだ。

 

「……ギャアッ!?」

 

「ひっ」

 

「ぐえぇっ!」

 

 研究員達のその大半が瓦礫の下敷きとなり、ただの物言わぬ骸となってしまった管理棟の部屋。

 そんな崩れた部屋の中心には、とある機体が佇んでいた。

 

 全体的に暗い乳白色に染まった装甲。

 鋭い鉤爪を備えた、長いフォルムの手足。

 まるで、獰猛な獣か、お伽噺の悪魔を思わせるような、禍々しい見た目の機体。

 

 これこそが、実験機である『Indominus』であり、それを装着する者こそ被検体No.047、つまり『Regina』なのであった。

 

「……初めまして、被検体No.047。いや、『Regina』よ」

 

 すると、そんな部屋の中にて唯一生き残った人物、所長が被検体に対して口を開いた。

 少し前の狼狽した様子は欠片も無く、今は不思議と落ち着いた表情を浮かべている。

 

「――れじーな?」

 

 その所長の発言に応えたのは、声をかけられた被検体本人であった。一瞬だけその事実に驚きを見せるものの、そんな素振りを隠して所長は会話を続ける。

 

「……ああ。女王、という意味だ。私が名付け、いつからか他の者達にも広まっていた、君の渾名だ」

 

「――じょおう?」

 

「女王とは、簡単に言えば『人の上に立つ気高き女性』といった存在だ。正に、今の君にはうってつけの名だと思わないか?」

 

「――わからない」

 

「そうか、それは残念な事だ」

 

 そんな風に問題も無く会話を交わす2人。

 そして、所長は遂に彼女についての質問を切り出した。

 

「……では、君は一体何をしたいのかね?」

 

 口元に笑みを浮かべ、余裕すら見せる所長。

 そんな彼の質問に、被検体は静かに応えた。

 

 

 

「――わたしは、わたしのことがしりたい」

 

 

 

「……ほう。そうだったのか」

 

「――そう。だから、とりあえず、いつものばしょからでてみた。そして、つよさをしったから、たたかってみた」

 

「なるほど。因みに、言葉はどうやって覚えたのかね?」

 

「――そとから、いつもきこえてた。だから、きがついたらおぼえた」

 

「そうか。学習能力も素晴らしいが、まさか聴覚も桁外れだな。ああ、そういえばネズミイルカの遺伝子も、君には組み込まれていたのだったか……」

 

 そう言って、無表情な被検体を見つめる所長。

 そして、そんな彼を見下ろす被検体は、僅かに口元を歪めて言った。

 

 

 

「――わたしは、つよい。それだけはちゃんとしっている。だから、わたしはつよさをしめしたい」

 

 

 

 そう告げて、被検体は機体を素早く操り、所長の身体をその鉤爪によって引き裂いた。

 宙を舞う所長の首は、最期まで笑みが浮かべられていた。おそらく、自身の結末を予測していたのだろう。

 

 ――そして、その僅か10分後。

 

 名も無き島の研究所は、そこにいた研究員、制圧部隊を含む全ての研究データを巻き添えに、謎の爆発によって全壊、焼失したのであった。

 

 

 

 

 

 

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