――目を覚ますと、あの部屋とは違う色の天井が目に映った。
「――ここは、どこだ? ……ん?」
身体を起こそうとしたレジーナだったが、何故か身動きがとれない。どうにか唯一動かせる首を傾け、自身の身体へと視線を向ける。
「――なんだこれ」
まず目に入ったのは、自身を拘束するベルトであった。胸、腹、手首、腰、膝、足首の全てにベルトが巻かれており、今彼女が横になっているベッドにしっかりと固定されている。
しかも今まで着ていた衣服が脱がされ、無地の白いシャツと黒の半ズボンを身につけた状態となっていた。
(――こんなもの、いますぐにでも――)
「……漸く気がついたか」
「――っ!?」
拘束された身体をよじり、直ぐにでも脱出しようと試みたその時、彼女の直ぐ近くから聞き覚えのある声が耳に届いた。
そちらの方向に首を向けてみると、そこには黒髪の女性が椅子に腰掛け、彼女の事を警戒しているのが目に入った。その手には出会った時と同じように、一振りの太刀を握っている。
「――おまえは、あのときのおんな?」
「ああ。私の名は織斑千冬。このIS学園で教師の仕事をしている者だ。お前の名は何だ?」
「――レジーナ。それより、わたしはなぜこうなっているんだ?」
「それは、お前が先程はいきなり襲いかかってきたからだ。いくら気を失ったとは言っても、目が覚めてしまえばその危険性は十分にあるからな」
「――わかった。とりあえず――」
千冬の言葉にゆっくりと頷くレジーナ。すると、彼女は静かに目を瞑り――。
「――これ、いらない」
――おもむろに手足を振り上げ、全身を拘束していたベルトの半数を引き千切ってしまった。
「……なっ!?」
そんなレジーナの行動に千冬は目を丸くする。
彼女の身体を拘束していたのは、ISを運搬する際に使用する専用の固定ベルトである。その用途上、素材は特に頑丈なものが使われている為、人間の筋力では絶対に破られる筈が無いのだ。
だが、実際に彼女は目の前で手首、足首、膝を拘束していたベルトを引き千切り、更には胸や腹といった部分の拘束も素手で外そうとしている。
「……動くな! それ以上拘束を解こうとすれば、こちらも相応の手段を取るぞ?」
咄嗟に太刀を抜き、拘束ベルトに手をかけていたレジーナの喉元へとその切っ先を突きつける千冬。
だが、それを目の前にしても彼女は動揺した様子を欠片も見せず、それどころか手にかけていた全ての拘束ベルトを躊躇無く引き千切った。
「貴様っ!?」
「――このていどでは、わたしをとめられない」
瞬間、レジーナは拘束されていたベッドを蹴り壊すのと同時に、自身の瞬発力と脚力により素早く距離をとる。それを認識した千冬は直ぐ様太刀を構え、殺気を込めた真剣な眼差しを彼女に向ける。
「……ならば、私が貴様を止めてやろう!」
「――それはむり……っ!?」
十分な距離をとった筈のレジーナだったが、気がついた時には直ぐ目の前までに相手が接近していた。そのまま目にも留まらぬスピードにて太刀を振るう千冬に対し、彼女は驚きながらも瞬時に両腕を掲げて防御する。
――ガギンッ!
「何っ!?」
まるで鋼鉄同士が擦りあったような音が、彼女の腕から響き渡る。
様々な生物のDNAを合成された鱗のような皮骨が、千冬の太刀の一撃を防いだのだ。その事実を前に、攻撃を放った本人である彼女も驚愕する。
「――えっ?」
……しかし、それはレジーナも同じだった。
完璧に防いだと思った鋭い斬撃。だがそれを防いだ両腕の皮骨には、太刀による裂傷がはっきりとつけられていたのだ。
研究所では銃の弾丸すらも無傷で弾いていた身体が、目の前にいる相手の放った一撃によって傷つけられたその事実は、今まで自分以外の人間は弱いと思っていた彼女にとって、初めて感じる衝撃であった。
「――おまえ、もしかしてよわくない?」
「……さてな。兎に角、貴様の身体が普通でない事は分かった。だが、その程度の力であれば、私の敵ではない!」
「――わたしは、つよい。だから、まけない!」
言葉と同時に再び激突する2人。
幾重にも斬撃が舞い、幾度も打撃が唸る室内は、正に嵐の如き様相と化すのだった。
一方その頃。レジーナと出会ったもう1人の女性、山田真耶はとあるデータを携えながら、彼女と千冬がいる部屋へと足を運んでいた。
あの衝撃的な出会いから3日。
とりあえず運び込まれたレジーナは、その倒れた原因が疲労と空腹だと判明した後、いきなり襲いかかってきた事も踏まえて全身を拘束し、その上で栄養点滴を行いながらIS学園へと搬送されていた。
その後は自他共に認める実力者である千冬の監視の下、容態に気を配りながら空き部屋の1つにて厳重に隔離していたのである。
「――それにしても、彼女のもつデータは信じられない内容ばかりでしたね……」
そう独り言を呟く彼女の手元にあるのは、気を失っている間にレジーナの毛髪から採取した、彼女のもつ遺伝子と、彼女が所持していたISの調査による詳細なデータだ。
人間のDNAを元に様々な生物のDNAを組み入れ、それにより発現出来るようになった驚異的な人外の能力。
そして、そんな彼女が所持していたIS、登録名『インドミナス』の有する繊細かつ高出力なスペック。
明らかになる度に目を疑いそうになる情報の数々。判明したそれらを報告する為に、真耶は千冬の場所へと向かっていたのだ。
「……ここですね。さて、織斑先生、入りますよ?」
千冬とレジーナのいる部屋へと到着した真耶は、予め声をかけてから入室する。
すると、彼女の目に入ってきたのは予想外の光景だった。
「――ああ、山田君か。何かあったのか?」
まず視界に飛び込んできたのは、壊されてバラバラになった備え付けの机やベッド。更には何かしらによって斬られ、砕かれ、ボロボロになった壁や床だった。
そんな部屋の中央には、やや息を切らせながら佇む千冬の姿。
そして、その背後に見えるのは――。
「――…………」
何故か天井に頭から突っ込み、首から下をだらりと垂らす大柄な女性、レジーナの無惨な姿であった。
「あ、あの、ええっと……」
「……そうだ。今来てくれたところで申し訳ないが、ちょっと器材庫に行ってきてくれないか?」
「え、えぇっ!?」
「こいつを拘束していたものが破壊されたのでな。IS運搬用の固定器具とベルトを、とりあえず12ダース持ってきて欲しいんだが、……っと!」
そう言いつつ、千冬はぶら下がっていた彼女の腕を強く引っ張り、そのままその身体を傷だらけの床へと勢い叩き落とした。
どうやら呼吸はちゃんとしているようだが、白目を開いたピクリとも動かないところを見ると、完全に意識を失ってしまっているらしい。
「……織斑先生、一体何があったんですか?」
気が動転しながら尋ねる真耶に、彼女は息を整えつつ静かに応えた。
「――何。少々本気で
そう言った千冬は、どこか疲れながらも晴れやかな様子であった。