……投稿します。
「おはよ! にっくん」
ああああああああぁ癒されるぅ……何て眩しい笑顔なのか。1分も待たせてしまったのにこの笑顔! ななちゃんを天使と言わず、誰を天使と言うのか!? 否っ! 言えるはずがない!!
しかし本当に言ってしまうわけにはいかないのが苦しいところ。こんな心の内を曝け出してしまえば、たちまちにななちゃんの笑顔が曇ってしまう。それどころか蔑むような目で……あぁ! それも良いけど良くないっ! やっぱり笑顔が一番!!
ってか、それよりも今はいつも通りに振る舞う事を心掛けないと……危ない危ない。危うくななちゃんの笑顔に癒されつくされる所だったぜ。
「おはよう。ありがと、待ってくれてて」
「いいよー。いつも待っててくれてるし、これくらいは……ね?」
「そっか。それじゃぁ学校に行こっか」
「うん。しゅっぱーつ!」
はああああああああああ!!!
そうやって腕を上にあげる仕草も、「ね?」って言うのも……もうすべてが可愛すぎる!! 天使とか女神とか妖精とかなんて目じゃないくらい可愛すぎる! ああもうっ! こんなにキュートなななちゃんと文化祭を回れるとか……学校は天国か楽園か!?
思わず使命を忘れそうになるくらい空飛ぶ気分……もちろん忘れないけどな。今この時だけじゃなく、これからの未来のななちゃんの笑顔も、これからくる過去のななちゃんの笑顔も、全てのななちゃんの笑顔の為に今日を乗り越えなくてはいけない。
気持ちに区切りをつけ、歩みを進める。
ここからが本番だ。まずは車が信号待ちの歩道に突っ込むんだったな……これに関しては大丈夫だとは思うけど気をつけるに越したことは無い。常に周りの音には気を配らなくてはな。
「今日のにっくん、いつもと違う感じだね?」
「そ、そうか?」
さっそくバレた!?
2つ目の信号まではまだ距離があると言う所で、ななちゃんの鋭い言葉に思わず動揺してしまう。
いやいや落ちつけぇ……まだ何もバレていない。何も言わなければこんな突飛な話、バレることは無いはずだ。
「何て言うのかなー、いつもより張り切ってる感じがする。やっぱり文化祭だから?」
「あぁ……そうかも。自分じゃよく分かんないけど」
「初めての文化祭だしねー。私も昨日は中々寝れなくって……えへへ」
照れたように笑う、その顔も可愛い!!
――――ではなく、なんとか悟られなかったみたいだ。まだまだ先は長いし、ななちゃんとの時間を楽しみながらも気を付けて行こう。
「でもよかったよねー。係の時間が被らなくて」
「確かに。おかげでそのー……一緒にまわれるし」
「だねっ。絶対2人でまわった方が楽しいよ」
嬉しそうにそう言ってくれるだけで俺はもう……もう満足してしまいそうだ。むしろこれ以上満足したら満足が溢れ出てどうにかなってしまうんじゃないだろうかっ!?
本当に係の時間を計らってくれた友人一同には感謝してもしきれない。時々冷やかされるのは困るが、それら全てを許してしまうくらいに。
「それで――――――わっ」
ななちゃんが何かを言いかけた時、少し先の方で衝突音のようなものが響く。
普段なら何が起きたのかと動揺するようなものだが、今の音が何を表しているのかをある程度理解している今は落ち着いていられた。
つまり、いよいよ始まったという事だ。ここからはある程度聞いていた通りに……。
「びっくりしたぁ……凄い音だったね」
「だな。もしかしたら何か事故でもあったのかも……」
「大変! それなら救急車呼んだ方が良いのかな!?」
「いや、とにかく今は急いで確認しにいこ。もしかしたら誰かが既に呼んでるかもしれないし、人手の方がいるかもしれないから」
「うん、分かった!」
そうしてななちゃんと俺は事故現場へと走る。
この行動も全て、未来の俺らとおおよそ同じ行動だ。その事を思うと、この事故では死人や重症者が出ないことを知りつつも「もしかしたら」を思って心配している自分の心が本物か分からなくなりそうになる。
でも構わない。ななちゃんが好きだという、この気持ちだけが本物なら大丈夫。それだけで何があっても、今の俺は立ち続けることができる。前を向ける。
そう、きっと、何があっても……。
あれから負傷者が救急車に運ばれるのを見届け、足元に気をつけ、信号無視の車が通り過ぎてから信号を渡り、学校へと着いた。
もちろん、ゲートを大きく避けてだ。その際「どうしてゲートを通らないの?」と、ななちゃんに聞かれたのだが、それも仕方がないだろう。どう見ても不自然な行動だったのだから。
しかし「文化祭が始まってから通ろうと思って」と、返したら笑顔で納得してくれた。
……その信頼に少し胸が痛みながらも嬉しく思う自分もいて、結果的にやっぱり嬉しかった。というか可愛かった。
とまぁ、そんなこともあって教室にななちゃんと共に入る。
するとさっそく、いつもの
「おっはよぅ、お二人さん。今日も仲がいいねぇ」
「ねー! でもでもっ、通学路で事故があったって聞いたけど大丈夫だった?」
「まっ、見たところ大丈夫そうで何よりだけどな」
「うん、大丈夫だよー。私たちが着く前だったから」
「そっかー。良かった良かった」
「怪我人とかどうだったんだ?」
「見たところ重傷な感じの人とかはいなかったぞ……それよりも今日ってHRとか無いよな? だったら俺、家庭科室の方確認して来ようと思うんだが」
この後は家庭科室で火の確認をして、服に引火しないように気をつけてこないといけない。もちろん、それ以外の確認もしてくるのだが。
「おお、そっか。なら任せた」
「美味い料理期待してるぜっ! 料理長!」
「美味いも何も……解凍したやつを揚げるだけだろ」
料理というか調理だろう。
本来ならこの程度で一々家庭科室まで行くのは大変なのだが、教室で火を使えない都合上仕方がない。やっぱり危機管理は大事だしなぁ……。
「あはははは、俺には出来ん!」
「……まぁいいけど。じゃ、いってくる」
「いってらっしゃーい!」
ななちゃんの声に送られて教室を出る。
その状況に思わず新婚風景を想像して頬がにやけそうになるが、周りに人も多いので表情筋に力を入れて何とか堪えた。
それににやけてしまって、また友人に茶化されては困ったものだからな……。
降りかかる荷物を避けた後に家庭科室へ到着。すると既に他のクラスの人たちが各々確認作業を行っていた。
それに文化祭の雰囲気を感じつつ、俺も火に気を付けて自分のクラス用に割り振られた調理台の確認作業を行う。
「……とりあえず袖、まくっとくか」
服に着火しないための簡単な対応策。普段なら――しかも確認作業なんかで――絶対にしないようなことだが、これだけで死を回避できるのなら容易いものだ。
むしろこれで死ぬ可能性が有るのなら今後はしっかりと袖をまくらないとな……。
そう思いながら手始めにコンロに火がつくかどうかの確認をする。
「よし」
確かに一瞬だけ火が急に燃えあがったが問題無く確認完了。そのまま他の器具の確認を行っていく。
――――にしてもこれ、どうやったら服に着火するんだろうか?
確かに火が通常よりも激しく燃えたが一瞬の事だし、上に手を出さなければ大丈夫なレベルである。しかも火を点けるために片手はレバーにあって、とてもじゃないけどわざとやらなければ問題ないんじゃないだろうか? と言う感じだ。
一体未来の俺はどうして服に引火させたんだ。それとも俺が腕まくりしたことで何かが変わっているのか……真相は未来の俺のみぞ知る。
そうして家庭科室での作業が終わり、教室へと向かう。とりあえずこれで文化祭が始まるまでは安全なはずだ。
念のため、周囲の注意は怠らないようにするけれど……。
「とりあえず問題なさそうだったぞー」
「あっ! にっくん、おかえりー」
「ただいま、ななちゃん」
教室に戻り結果を伝えると、すぐにななちゃんが出迎えてくれる。
あぁ……これほどの幸せがあるだろうか? 帰りを待ってくれている人がいるのって幸せだよなぁ……。
「なら後は始るまで待つだけだな。
幸せに浸っていたところに店長の声がかかる。
「それならー……どうしよっか?」
「っ……ななちゃんはどこか一番に行きたいところある?」
提案を受け、ななちゃんと顔を見合わせて相談。
その際に目と目が合って思わず息をのんだのはどうしようもないことだ。不可抗力である……抗えない感情、本能と言っても良い。
「私はねー……最初はゆっくりと見て回りたいかなっ!」
「なら一階から見て回ろうか」
「うん!」
おぉ……何と言う満面の笑み。何て言ってくれるのかがだいたい分かっててもこの威力! 眩しさが果てしないな……フラッシュグレネードなんて目じゃないぜ。
「それじゃぁ……俺たちは行ってくるぞ。店の方しっかりとな」
「おお。キチンと時間には戻ってこいよ~」
「ごゆっくりー」
「ゆっくりしすぎてバスケの集合時間、忘れんなよなー!」
「分かってるって」
「行ってきまーす」
最初の店番の人たちに見送られななちゃんと二人、手を繋ぎたい気持ちを抑えて一階を目指す。
……2人で1つの場所を目指すとか共同作業みたいで何か良いな。そしてゆくゆくは2人で結婚という1つの目的地を――――なんて、気が早すぎるかぁ……ふへへへ。
「ふふ……」
「ん? どうしたの?」
「――――はっ、いや何でも無いよ?」
いかんいかん浮ついた気持ちが漏れてた。いくら今の状況がで、デートみたいだとしても浮ついてばかりはいられない。あたりに気を配らないとな。
「でも何だかうれしそう」
「そ、それはもちろん、嬉しいよ。ななちゃんと文化祭を回れるんだし」
「そっかぁ……えへへ。私もにっくんと回れてうれしいな」
「……そっか」
ふおあああああああああ!!! その言葉は――――その笑顔は卑怯すぎる! ちょっと照れた感じまた……もう、ねっ! 破壊力がぁぁぁぁああああ!! もう顔に出さないように必死で、そっけない言葉を出すのすら精一杯一杯ですよ! 少しでも気を緩めたら心からの歓喜が気持ち悪い笑いとなって学校中に響き渡ってしまいそうだっ!
あー……もうっ! どうしてこんなに可愛いのか! 可愛すぎて可愛すぎて――――――可愛すぎるっ!!
可愛いなぁ……可愛いなぁ……可愛いなぁ……。
そんな究極にして至高の可愛さに魅せられた後、なんとか平常心を取り戻そうとしている間に文化祭が始まってしまった。
放送の声にハッとなって我に返ったからよかったものの……危うく入場者の煙草の吸殻が服に落ちるところだった。落ちてもすぐに払えば引火はしないが、服に焦げが付いたらななちゃんの手前、格好がつかない。
ななちゃんの可愛さの前では俺もおまけみたいなもんだけど――いや、おまけだからこそ――やっぱり隣を歩く以上はビシッと決めないとな。
気持ちを新たに校舎内をななちゃんと見て回る。
どこもかしこも活気に満ちていて、みんながみんな楽しげだ。まさか誰かが死ぬなんて思ってる人は一人もいないんだろう。
……もし俺がここで死んでしまえば、多くの人にとっての楽しい日が台無しになってしまうのか。そんなことはもちろん望んでいないし、折角の文化祭だ。楽しいままに帰ってもらいたい。
「ん~……どこも楽しそうで迷っちゃうねっ」
「それなら全部見て回る?」
「それもいいけどー……にっくんは最初に行きたい場所ある?」
「何処ってあるわけじゃないけど、バスケもあるし食べ物はまたあとで良いかな」
「そっかぁ。確かにまだお腹もすいてないもんね」
「ななちゃんは?」
「私はー……うーん。お化け屋敷に行ってみたいかなっ! 準備の時に聞いたんだけど、かなり凝って作ってたみたい」
「へー、確か一階にあった奴だよね。それじゃそこに行こっか」
「うん」
頷くななちゃんに癒されながら一階を目指す。
お化け屋敷と言えばデートの定番。いやお化け屋敷と言わずに肝試しでもいいんだけど……とにかくある種のイベントを起こすためには必要不可欠。
いわゆる「怖がる女性に抱きつかれてキャッキャウフフ」というやつだ。そこで新たな恋の目覚めや、彼女の可愛さを吊り橋効果的再確認! そういった意味での定番中の定番、ド定番である。
――――ただまぁ、ななちゃんは怖いのは平気だからなぁ。お化け屋敷みたいな恐怖系は好きでも、抱きつかれるほど怖がられた経験は今のところない。
むしろ俺の方が驚いたりしてしまうのだが……怖いのが苦手と言う訳じゃないんだけど限度はある。突然出てこられたらそりゃ吃驚するよ。仕方ないじゃないか。
まぁ、ななちゃんが楽しんでくれているのならそれだけで俺は幸せに浸れるんだけども。楽しそうななちゃんがいるだけで、たとえ地獄だろうと楽園天国に早変わり! 空気清浄器どころか空間清浄器だよなぁ……考えるだけで夢見心地である。
……あぁ、いや。夢見ている場合では無かった。まだまだこの先、死ぬ可能性があるんだから気を引き締めていかないとな。
とりあえずは目先の階段。着実に一個一個突破していこう。
今日中に全部いけるか……?