「……収まった、か?」
声が聞こえる。
重力を感じる。
「一体何だった、ん、だ……あ?」
聞き覚えのある声だ。
さっきまで聞いていた声だ。
「お、おおおおおおおおおお俺!?」
意識が覚醒していく。
体の感覚が戻っていく。
「お、お、お前は、俺、だ? ……あいや、誰、だ?」
目を開ければ目の前に見知った顔。
この展開を俺は知っている。
「あぁ、そうか。俺は……」
……死んだんだ。
この時間軸では未来の、俺にとってはさっきの出来事。
「? 話、聞いてるか?」
あんな理不尽な死に方、一体どうすれば…………いや、今は目の前の俺に事情を説明しないとか。
そうしなければ何も始まらないし、終わらせられない。
対処方法を考えるのはそれからだ。
「……あぁ、すまん。聞いている。だからとりあえず落ち着いて欲しい」
「お、おう」
「俺は未来の――――いや、未来で死んだお前だ」
俺の時の未来の俺と同じように言いかけて、止める。
今はとにかく考えるための時間が欲しい。どうしようもないかもしれない以上、時間は出来るだけあった方が良いに決まっている。
過去の俺には悪いが、多少急でも説明は早めに済ませてしまおう。
ひいては、それが過去の俺たちの為になると信じて。
「み、未来? ……え? 死ん……冗談だろ?」
「残念ながら冗談じゃない。お前なら俺がこんな状況でこんな冗談を言わない事、何となく分かってしまうだろ」
「いや……でも。だったら一体、いつ……」
絶望に染まる自分の顔を見るというのは、心に直接くるものがある。
……未来の俺もこんな気持ちを感じていたのだろうか? ……いや、感じていたんだろうな。
「具体的にいつとは言えないが、明日。明日の午前7時から死ぬようなことが何回も起こる。そして俺は文化祭の帰り、家の前で刺されて殺された」
「……」
――嘘だ。
しかしこの時の俺にどうしようもないかもしれないことを言ってしまえば、今まで積み重ねてこられたものが駄目になってしまうかもしれない。
心が折れないにしても、別のルートを探してしまうかもしれない。そうなれば死ぬ瞬間はすぐに訪れてしまうだろう。
結果、考えるための時間は減る。何かを試すための時間も減ってしまう。それでは駄目だ。
「整理がつかないのも分かる。俺もお前と同じように未来の俺を召喚した時はそうだったからな」
「……お前も?」
「あぁ。そして俺は未来の俺から、この先起こる死の要因を避ける方法を聞いて実行した」
しかしすべてを嘘にしてしまえば、バレてしまうだろう。
だから本当の事も当然のように混ぜていく。
「……だが未来の俺達が死んだ要因を避けた後に、さっき言ったとおり殺されてしまった。だがそれさえ避けられれば可能性は有るんだ」
「でも無いかもしれないんだろ……? 避けたところでまた死んでしまうかもしれないじゃないか」
「そうだな……」
過去の俺の言うとおりだった。
あれを避けたところで、待っているのはどうすりゃいいのかも分からない突然死。あんなことが起こりえるなら、それこそ隕石や人体発火現象とかがあってもおかしくはない。
――――それでも諦めるわけにはいかなかった。
「…………けど俺達が死んでしまえば親や友人、なによりななちゃんが悲しんでしまう。俺はたとえ過去であったとしてもっ! ななちゃんが悲しみ続けるなんて……嫌なんだよ!! 嫌、なんだ……!」
「……なな、ちゃん」
呟く過去の俺の目に灯が灯る。
当然だ。ななちゃんが悲しむと分かっていて、悲しまない可能性が有るのに手を伸ばさないはずがない。俺は絶対に手を伸ばす。
……今だって、伸ばし続けている。
「だから絶対に諦めない。可能性が有るなら何だってしてやる……第一、可能性が無いんだったら何回も何回も殺そうとする必要が無いはずだ。最初でサクッと殺せばいいんだ。でもそうならないって事は…………可能性は有る、はずだ」
自信があるわけじゃない。それでも可能性が有るかもしれないなら…………。
「あぁそうだ……そうだ! ななちゃんを悲しませるなんてありえない!! だったらやってやる! どんなに少ない可能性だとしても! たとえ可能性があるか分からないとしてもっ!! 可能性が在るかも知れないんだったらやってやる!! …………やるぞ! 俺はやるぞ!!」
「……! あぁ、それでこそ俺だ!!」
意気込む過去の俺に同調する。
そしていつの間にか流れていた涙を袖でふき取った。
「未来の俺! 俺は一体どうすればいいんだ!? 教えてくれ!!」
「もちろんだ! 今すぐに教えてやる……と、言いたいところだが、数が結構あってな。言葉で言うと覚えるのが大変なんだ。だから俺が紙に書いている間に、お前は風呂にゆったりと浸かって体とか頭を休めるといい。そろそろ空いてる時間だろ?」
「そういえばそうだな……じゃ、そうさてもらうぜ。紙とペンの場所は分かるよな?」
「当たり前だろ? 俺はお前なんだからな」
冗談めかした言葉に笑いながら答えると、過去の俺も笑う。
それだけで少し空気が和らいだ気がした。
「だな。じゃぁ俺は風呂に行ってくる」
「あぁ、行ってこい」
過去の俺が部屋を出て扉を閉める。
さて、とりあえず書き出すことはやっておかないとな
「……ふぅ」
未来の俺と同じように書き出し終え、背もたれに寄りかかる。
思わずため息が漏れたのは、正直どうすればいいのかが分からないから。しかし何もしなければ結果は変えられない。
そう思い、とりあえず何か手がかりは無いかと、例の本を見直すことにした。
しかし結果は……
「……駄目か。特にヒントはなさそうだ」
机に置いたノートを見ながら呟く。
内容には特に現状を打破する方法は載っておらず、書いてあるのは蘇生術のやり方だけ。
しかし蘇生術の本なのだからそれも当たり前か……死の運命をどうこうする方法なんて書かれているはずがない。
「……でもこれ、改めて見直すとかなり悪質だな」
呟いて、ページをパラパラとめくる。
そこに書かれているのは「死んだ人間を生き返らせる」というものであり、「死んだ未来の自分を生き返らせる」なんて一言も書かれていない。
確かにそのおかげで死の運命に対して抗う事が出来ているわけだけど…………それともこれはイレギュラーな出来事なのか? 本来は未来の自分を蘇生させることは想定されていなかったとか。
……あり得る話だ。そう考えると現状は不幸中の幸いと言うやつなのかもしれない。まるで漫画やアニメの如く都合のいい展開だとは思うが……
「……」
……
「…………そうだ。都合がよすぎる」
在りえないような死ぬ運命がいくつもあって、俺は蘇生術の本をたまたま拾い、その内容に書かれていない未来の自分の蘇生を身近なものだけで成功させる。
これは……いくらなんでも都合がよすぎるというものではないだろうか? 有りえない、とは言い切れないが偶然が重なり過ぎている。
「もしかして――――――」
俺の考えていたことは根本から間違っていたのではないか? それこそ「死の運命」についても、蘇生術についても。
だとしたら………
その後、風呂から出て来た過去の俺に回避方法(最後の部分は俺の時とは違う方法)を教え、互いにななちゃんの話で惚気てから就寝の時間を迎える。
俺は未来の俺と同じように押入れに入り、暗闇の中で眠ることもなくまとめ続けた。さっきの考えで思い浮かんだ1つの仮説を。そしてそれを実行する術を。
「……」
もし正しければもう過去の俺が死ぬことは無くなるはずだ。ななちゃんも悲しまずに済む。
全て、うまくいくだろう。そう、全て。
翌日、過去の俺が動く音で大体の時間を把握する。しかし今はまだ出て行かずに、声をかけられるのを待った。
そして、
「起きてるかー? 俺は朝飯食べに行くしなー」
「おー。しっかり食べとけよー」
未来の俺と同じような会話をして、部屋を出て行ったのを確認してから押入れを出る。
しかし未来の俺と同じようにベットに寝転がるわけでは無く、椅子に座って紙を取りだし、ペンを持つ。
「絶対うまくいく、とは限らないしな……」
駄目だった時の為にしっかりと残しておかないと、過去の俺も同じことをしてしまうかもしれない。
それでは意味が無いから…………今回の俺がやる事を書いておく。これが必要なくなることが一番いいんだけどな……。
「それじゃぁ……行ってくる」
「あぁ、行ってこい!」
過去の俺が学校に向かう時間。そして死の運命が降りかかり始める。
窓からこっそりと外を覗くと、そこには過去の俺を待つななちゃんの姿。こんなに遠くから見ても変わらず可愛い。
「……よし」
ななちゃんの姿に勇気をもらい、俺も行動を開始…………はしない。
とりあえずは母さんが文化祭に出かけるのを待ってからじゃないと見つかるかもしれないしな。そうなるとややこしくなってしまうので、ここは安全に行く。
たぶん10時前には出ると思うんだけどな……。
玄関で扉の閉まる音がする。おそらく母さんが文化祭に行ったのだろう。
念のために窓から外を覗くと、母さんが歩いているのを確認できた。
「時間は10時前ってところだな……」
だからなんだという事はないが、早いに越したことは無い。
早速行動を開始しよう。
部屋を出て、一応音を殺しながら台所を目指す。
もし忘れ物とかをして帰って来た時に家から物音がしたら怪しまれるしな……母さんの行動が分からない以上は慎重に。
「……とか言う間に到着、っと」
家の中でそこまでの距離があるわけがない。
そして目的の物も何処にあるか分からないようなものなので、あっという間に見つかる。
「………………さて」
後はこれでやる事をやるだけ。
心の準備は一晩かけて出来ている。ならば躊躇うことは無い。
これも全て、これからのななちゃん。そして俺と関わりのある人達すべての為に。可能性があるなら喜んで受け入れよう。
そうして俺は、包丁を胸に突き刺した。
――――俺の立てた仮説はこうだ。
今まで俺は「未来で俺が死んだから蘇生できた」と思っていた。だけどもしかしたら、それは大きな勘違いだったのかもしれない。
つまり「今の俺が蘇生術を使ったから未来で俺の死が運命づけられた」のではないか、と。
未来の俺の魂を蘇生させるために、俺を死なせて魂を回収しているのだとしたら…………悪質以外の何物でもない。
蘇生される前の未来を変えられない以上、結局俺達は死と蘇生を繰り返し続けるのだから。
しかし、そう考えると疑問点が出て来る。
何故死ぬのが
でもそうならないのはきっと、この本で行われるのが「人体蘇生術」だからだろう。
俺の体は人形。つまり魂が同じでも「人体」には含まれない。その為、過去の俺だけが避けても避けても死ぬような目に合い続ける。
結果、俺は最終的にどうあっても死んで魂は過去へと回収、蘇生されるわけだ。
全く以て納得できたことではないが、こう考えれば辻褄は合うように思える。
……そしてもし、仮にそうだとしたら、さらに疑問が沸く。
さっきも言った通り、
だとすれば――――――
言ってしまえば今の俺の魂も「人体に入っていた魂」であるし、過去の俺の魂も「人体に入っていた魂」であることには違いない。
つまり魂の状態になってしまえば、俺の魂も「人体蘇生」の範囲に入るんじゃないだろうか。
もし入るのであれば、それは大きな希望になる。
何故なら人体蘇生で回収される魂は1つだけ。1人分の人体蘇生なのだから増えたりはしないはずだ。
そう言った話も未来の俺から聞いてないし……そもそもこんなことを考えた俺が俺だけな可能性が高いけど。
……まぁとにかく今は、俺が死ねば回収されるのは俺の魂という事だと仮定する。
同じ魂であれば、早い方が回収されるだろうから。
…………ようするに、だ。
この仮説があっているのであれば――――――――
「……収まった、か?」
声が聞こえる。
重力を感じる。
「一体何だった、ん、だ……あ?」
聞き覚えのある声だ。
一番身近な声だ。
「お、おおおおおおおおおお俺!?」
意識が覚醒していく。
体の感覚が戻っていく。
「お、お、お前は、俺、だ? ……あいや、誰、だ?」
目を開ければ目の前に見知った顔。
この展開を俺は知っている。
「あぁ、そうか。俺は……」
……成功したんだ。
この時間軸では未来の、俺にとってはさっきの出来事。
「? 話、聞いてるか?」
正直、自信なんてほとんどない賭けみたいなものだったけど、うまくいったみたいだ。
これで回収・蘇生のループは崩壊したはず。ななちゃんの笑顔と過去の俺達の未来は守られた……かもしれない。
未来を確認できない以上、確かめるすべはないのだが…………でもこうして蘇生された以上、もう他の俺の魂は必要ないはずだし。
なにより、それでも殺すって言うならそれはもう「人体蘇生の本」ではない。ただの殺戮本、それだったら蘇生なんてせずに問答無用で殺す機能だけをつければいい。
だから…………うまくいったんだ。
これであとは――――
「おーい……?」
――――感慨に浸っていて俺の存在を忘れてた。
肩の荷が軽くなったのは良いが、やるべきことは忘れちゃいけない。過去の俺には10時くらいまでは生きていてもらわないといけないからな。
多少は省いても大丈夫だろうけど、説明はしっかりとしないと。
「……あぁ、すまん。聞いている。だからとりあえず落ち着いて欲しい」
「お、おう」
これから先、これからの光景を俺は見続けるのだろう。
似たような会話をし続けるのだろう。
遠くから見るななちゃんに癒され続けるのだろう。
ななちゃん達の為に。俺達の為に。周りの人達の為に。
いつまでもいつまでも、永遠に繰り替えす。
この責任は重大…………でも上等だ。やってやる。
何回でも何回でも――――
「俺は……未来のお前だ」
――――死に続けてやるよ。
蘇生輪廻 完。
これでこの話は終わりです。
もし彼が救わることがあるとすれば…………死ぬ事をやめたとき。
そうすればいつかの彼が同じことをやるでしょう。
……もしくは、
それこそチートなバクキャラみたいのがフラっと来たときとか……。
まぁそれは置いておいてキャラ紹介。
短編なのでそこまで簡易的なものではありますが。
・にっくん。
・主人公。
・男。
・料理は得意な方。
・告白はしていないが、菜々美の事が好き。周りにはバレている……と言うか漏れてる。
・ななちゃん。
・女。
・告白はしていないが、綴の事が好き。周りにはバレている。
こんな感じです。
……それでは、
ここまで読んでいただき有難う御座いました。
またいつか、
書いたものに興味を持っていただけたら幸いです。