【凍結】 真・恋姫†無双 これはひとりの仙人無双 作:成瀬草庵
あの人は、紅龍様はどことなく不思議なところがある。
どことなく大人びているし、私たちより2歳年上だから、という言葉ではおかしいぐらい年上に感じられることもある。
ほとんどの曹家の家臣が影では馬鹿にしている。
何か言いたいことがあるのであれば正面から言えばいいものも、こそこそと馬鹿にしたような話をしている。
無能だ、とか。
まだ子供だというのに妹に負ける。
私たち曹家の親戚筋にすら負けている。
などといったものばかりだ。
だが、実際にはそれは正しくない。弓の腕では私は彼に勝つことができない。
うぬぼれではないが、私は大分と弓の腕を極めたつもりだ。まだ子供であるが故の慢心もあるだろう。それでも、優れた腕を持つ人たちの技術を奪おうと共に一生懸命鍛錬も行い、その射かたを見た。
そして、そんな私だからこそ、気がつくことができた。
彼はわざと的から外して射っている。
目線、では見抜くことができない。目線はしっかりと的の中央を射抜いている。
だが、わずかに構えが狙っている場所がずれているのだ。
なんと言えばいいのだろうか?
手の位置?角度?
的の中央を狙っているにしては何かがおかしい。
毎日しっかりと、よくよく見ていてようやく気がつくことができた。
最初から的の中央など狙っていない。
全て違う場所を狙って射っている。
もしも本当に中央だけを狙う気になったら・・・・・・・・・・・・・・・・・。
恐ろしいものだ、本当の意味での『百発百中』とは彼の射る矢のようなことを言うのではないだろうか?
今日、なんとなくそう思い至ってすぐに紅龍様に質問を投げかけてみた。
一瞬だけびっくりしたような顔になったが、すぐに普段のどこか落ち着いた大人びた雰囲気を身にまとい、誰にも話すなと仰られた。
なぜなんだ、なぜ自分の力を見せようとしないのか。
それが私には理解が出来なかった。
紅龍様の力を見せれば、誰も無能だなどと言わなくなる。
誰も紅龍様の陰口など叩かなくなる。
紅龍様もつらい思いをしなくて済む・・・・・。
もう、あいつらは寝ているか・・・・・・。
俺は夜目がきく。
だから、夜の闇の中であっても正確に矢を射ることができる。
距離は50m前後。正確なものさしがないし、何よりもこの世界で使われている尺度が違うから正確には知ることができない。
狙う的は、昼間いた時より僅かに小さく見えるが、実際の大きさは変わっていない。
ただ、俺が遠くに、ほんの少しだけ遠くに来ただけだ。
前世での最大射程距離は827m。我ながら馬鹿げた距離だろうと思う。
そして、神界での最大射程距離は2479mだった。
前世では無意識に、神界では意識的に気を矢に纏わせていたからだというが、よくもまあ、たかが弓矢でこの距離を飛ばすことができたものだと思う。
この世界では、残念ながらそんな距離での射をしたことがないのでわからないが、今的から離れている程度の距離であれば、狙った通りに当てられる。
まずは第一射。狙いは昼間の第一射と同じく的の中央。
ゆっくりと構える、だなんてことはしない。狩場でしていたように素早く弓を引き絞り、間髪いれずに放つ。
矢は風を貫き、切り裂く。
鏑矢ではないというのに音をわずかに撒き散らしながら直進し、その先で待っている的の中央へと突き刺さる。
時間の無駄はいらない。
すぐに矢をつかみ、今度は複数、3本同時につがえる。
狙う場所は全て同じく右斜め上の的の縁。
再び弓がしなり、矢が放たれる。3本の矢は光の如く直進し、乾いた音を立てて突き刺さる。矢筒から15本ほど矢を掴み空に向かって投げる。
紅龍は軽くその場で跳ぶと、一番手近にあった矢を一本掴み弓につがえ射る。
直後に同じように一本の矢を掴むと紅龍は落下を始めていた。紅龍はそれを気にすることなくそのまま矢を射る。そして大地に着地をすると同時にその場で旋風を巻き起こしながら右足を軸に回転する。その旋風に巻き込まれ6本ほどの矢が的へと向かって飛び立ち、残りの矢は再び上空へと打ち上げられる。
紅龍は再度飛び上がり、3本の矢を蹴り飛ばし的へと飛ばし、残りの4本の矢は同時につがえて放つ。
スタッ、という軽い音を立てて紅龍が着地した時には全ての矢が的へと突き刺さっていた。
感覚はやっぱりだいぶ戻っている。
気をまとわせて射ることをまだするわけにはいかないのが残念だ。
今の現状では、これ以上に派手なことは出来ないか・・・・・・・・・・・。
あと何年で黄巾の乱が起こるのかが俺には分からない。
この世界が本当の三国志ではない以上、時期の前後はあり得る。
いつ起きても対応できるようにしなくてはならない。そして、どこにあるかわからない崑崙山に、この大陸が戦乱の世となる前にたどり着かなくてはならない。
やらなくてはいけない事はたくさんあるのに、それが出来ない。
やはり、この家をそろそろ・・・・・・・・・。
いや、もう少し考えるか?
まだ時期尚早ということもありえる。だが、あまりのんびりしすぎて遅すぎたというのも笑えない冗談だ。
やれやれ、全くどうしたらいいんだろうな?