【凍結】 真・恋姫†無双 これはひとりの仙人無双 作:成瀬草庵
私の兄は不思議な人物だった。
いや、不思議というのはこれまでの頭の固い見方で見たときの話であって、別の視点から見るととても優れた人物だった。
朝は必ず早く起き、鍛練を怠らなかった。
勉学に励んでいたかと思えば、いつの間にか抜け出していて、市井へと出かけている。
私もたまに顔を出すが、兄さんみたいに護衛もなしに一人出たことはなかった。
たまたま街で見かければ、誰とでも仲良く気さくに話していた。
兄さんが話せば民が笑い、民もみんな兄さんに話しかけていた。
どうやら、兄さんがこの町を治める曹家の長男であるという事実は知っているようで、そのことでからかわれていることすらあった。
母様や、父様はあんまりいい感情を兄さんに抱いていない。
身分を理解できない馬鹿者と罵っていたり、武芸すらおぼつかない、知恵も働かないでくの坊。
もう言いたい放題だった。
だけれども、私にはそうは思えない。
父様は役人としてはまともな方かもしれないけど、民に好かれているわけではない。
だけど、兄さんはみんなから愛されているように見えた。
それに、知恵もまわらない馬鹿者ならば、民が笑うような話ができるのだろうか?
武芸すらおぼつかないというが、兄さんが賊の討伐時に矢を外した姿を見たことがない。
前に兄さんがこんなことを言っていた。
「これからの時代、漢王朝は廃れ、賊が増えて、そのあとは群雄割拠の戦国となるだろうな」
その時は思わずそんなことがあるわけないと思ったのと、誰かに聞かれたら大変だという思いから周囲を見渡し、春蘭と秋蘭以外には周りに人がいないことを確認してほっとしたものだった。
「それはどういう意味ですか?」
秋蘭も一瞬だけ驚いたような顔をした後に、怪訝そうな顔をして尋ねていた。
何を急に言い出すのだろうか?
という思いとなぜそんなことを言ったのかは私も知りたかったから、別に秋蘭とめることもなく、兄の顔を覗き込んだ。
「賊が増えてきているだろう?」
兄さんはそういった。
まず最初にはこれだけしか言わなかった。
私には何が言いたいのかさっぱり見当がつかず、春蘭と秋蘭を見た。
春蘭は私以上に頭が追い付いていないのだろう、猪突猛進で本能で動いている部分が大きいためか、頭から湯気を発して目を回していた。
秋蘭も意味が分からなかったようで、困惑とした表情だった。
「兄さん、それだけじゃさすがに意味が分からないわ」
「そうか・・・・・。街によそからやってきた商人の集団が来ていたんだけどな。各地で賊が増えてきているらしい。民たちも生活が苦しくなり、村そのものが崩壊している地域もあるそうだ。そんな村もある中、領主たちは税を一向に下げようとせず、民たちは領主に反感を抱く。そして賊になる。領主の中にも野心を抱くものや、ただ単純に民たちの生活をよくしたいがために漢王朝そのものを敵性と判断している人たちもいるそうだよ?それに対して漢王朝の政権は王が握っているのではなく、その下の十常侍が握っていて、彼らがまともに政治をしていない。軍事力をも彼らの配下以外はほとんど牙をもがれなくなっている。もし今各地の勢力が立てば簡単に漢王朝は滅亡するんだよ」
「・・・・・・・・・」
兄さんが何を言いたいのかは半分ぐらいしか当時の私にはわからなかった。
だけれども、兄さんは馬鹿なんかじゃない。
それだけはもはや確実の事実だった。
街の人たちとは遊んでいるようで、情報を知るためでもあった。
そして、その情報をもとにしっかりと世の中の状態を判断できていたのだ。
いつもなんだかんだ言って私たち三人の面倒を見ていてくれた。
「兄さん、帰ってきたらこき使いますからね。私の下でその知略と武力をふるってもらいますよ」
私の前には一枚の手紙だけが残されていた。