【凍結】 真・恋姫†無双 これはひとりの仙人無双 作:成瀬草庵
華扇が完全に沈黙し、ほんの一瞬だけ静寂が訪れた。
そして、その静寂を吹き飛ばすかのように歓声のようなものが周囲から溢れ出した。
この山の最強の象徴であった華扇が崩れたのは大きな変化である。
そしてこれは格下のものが格上が倒せるという下剋上が可能であるということをNO.2である紅龍が証明してみせたのだ。
この慟哭も仕方がないものだろう。
だが、そんな周囲の反応に対して紅龍の顔は苦々しいものだった。
「愛紗、お前はこの山をでろ」
「は?」
そして彼が突如口にした言葉に関羽が驚くのも仕方がなかっただろう。
「な、何故ですか!!」
「お前の刃に既に迷いはない。さっき華扇に斬りかかった時に既にそれは断ちきれていた。お前はもうこの山を出ても充分に生きていける」
「ですがそれがこの山をでる理由にはならないのではないのですかっ!?」
事実、関羽の言うことは間違いではない。
迷いが断ちち切れた?
だからといってなぜ山をでる理由になるのか?
未だ妖夢にも、紅龍にも届かず、自分の後に続く鳳凰とは大きな差もない。
そんな自分がここを出て・・・・・
「・・・・、華扇が起きるまでに出て行け。結構強めに入れたから後2日は目を覚まさないだろうが・・・、起きた時に守りきる自身はない。なに、俺たちもすぐに出ていく。愛紗は先にここを出て崑崙山の名前を売っといてくれればいいさ」
紅龍はニヤリと笑うと戸惑っている関羽に向けて付いて来いという感じで自分の後ろを指差す。
待てといっても聞く気がないのだろう。ひとり勝手に歩み始め、ほかの人も付いてい飾らない状況を作り出していた。
そして、彼の向かう先にあるのはこの山の出入り口ではなく、これまでともに生活していた場所である華扇の屋敷だった。
関羽は本当に自分がこの山を出るとなると最後の見納めとなる華扇の屋敷が実に感慨深いものに思えた。
先ほど、その持ち主である華扇は自分を殺そうとした。
そして自分も・・・・・・、華扇を殺そうとした。
刃に迷いなどなく、正確にその喉笛を切り裂こうとまでしていた。
だが、それを少しだけ忘れることができていた。
「その青龍偃月刀、外には持ってくな」
「へっ!?」
とんでもない爆弾を紅龍は投下したのである。
「いやいや、私素手じゃ戦えません」
青龍偃月刀を持っていくことができないということは、武器無しでこの山を出るということになる。
この山で、徒手格闘ができるのは一応華扇と紅龍、妖夢と鳳凰に蔵六だ。
40人以上も山には居るというのに、たった5人しかできないのだ。
それに加えてまともに扱うことができているのは華扇しかいない。
逆に華扇は武器を使うことを得意としていないが、あまり人前で戦わないせいでほかのメンバーが徒手格闘を学ぶ機会は少ないのだ。
さらに、紅龍や妖夢達もほかの武器と比べてあまり得意ではないので滅多にその稽古を誰かにしようということがないために余計に学ぶ機会は減少しているのだ。
当然それは関羽も例外ではなくほとんど徒手格闘戦の鍛錬はしたことがない。
「そうだろうな。そんなことは分かってるし誰もお前に武器を持って行かせないとは言ってないだろ?」
「あ、そういえば・・・・・・」
関羽はまさにそのことを忘れていたらしく、ハッとした顔で紅龍を見つめる。
それに対して紅龍はいたずらが成功した子供のようにニコニコと笑いながら自分の後ろを指差す。
彼の後ろにあるものは華扇の屋敷であり、これまで関羽が数年間暮らしてきた馴染みの深い場所であった。
この山を出るということはもうこの屋敷で生活することはないだろう。
そして、山頂から遠くを眺めたり、みんなでのんびりと釣りをしたりといった平和な生活からはかけ離れるということなのだろう。
そういったことが未だ幼い少女でしかない関羽の脳裏を駆け巡った。
そう思えば、この数年の生活も深いものであった。
そして先ほど自分が殺されかけ、殺しかけた華扇のあの性格もこの山での生活を楽しくしていたものにも思える。
確かにあの性格は空気を一瞬で凍えさせることもあったが、みんなに笑いを運ぶこともあった。
そして、もっともな、一番の根底にある話として、彼女がいなければこの崑崙山はなかった。
つまり、この集団も生まれていなかっただろうことを思い出す。
彼女はなんだかんだ言っても仲間思いでもあったのだ。
さっき私を殺そうとしていた中にも、理由はあった。
私がむざむざと外に出てから殺されないように。
死よりも酷い目に合わないように。
崑崙山の出を名乗る私の堕落、失墜によって他の崑崙山の出の者たちが馬鹿にされることを避けるために自らの手で変わる気配のなかった私を消そうと思ったのだろう。
「あれ?私の青龍偃月刀が・・・・」
無い・・・・?
いつの間に、今私が考え事をしている間にかっ!!
紅龍も居ない。
どこに・・・・・・
周囲に紅龍の姿を探す彼女だが、見当たらなかった。
だが、次の瞬間にはその理由もすぐさま理解できた。
ガラガラッという戸を転がす音がして屋敷の中から紅龍が出てきたからだ。
そして関羽の視線は紅龍の持つ武器に奪われることとなった。
大きさはこれまで扱っていた青龍偃月刀と同じく自分の体などよりも大きい。彼女が成長し切った状態を見越して作られている武器のせいか、今の彼女などよりもずいぶんと大きかった。ただ、もし彼女が成長し切ったとしてもやはりその大きさには届かないであろうが・・・・・・。
刃渡りの長い刃は、陽の光を受けて銀色に輝いた。
まるで太陽そのものであるかのように鋭く輝き、その刃の美しさは人を殺めるためにあるのではなく、宝石か何かなのではないかと思わせるほどであった。そして、その鋭い輝きはその刃の切れ味そのものを語っているようにも見える。
装飾部も大きな変化はないが、これまでは完全な緑色であった龍の装飾に所々金色の線が入っていた。刃の中にある紅い線もこれまで以上に紅く見える。
「これは・・・・・まさか・・・・」
関羽の声は疑問や驚きのものではなく、感嘆のものとなっていた。
「おそらくそのまさかだ。これはお前の新しい武器で銘は『青龍偃月刀』。銘こそ同じだがその格はもはや天と地ほどの差がある。もちろんこっちのほうが天だがな。柄の部分の材質の木はこの山で最も硬い樹から削り出したものだ。斬鉄のできる達人と名剣を揃えたとてこの柄を斬ったり折ったりすることはまず不可能だろう。それに加えて俺と華扇の気が最大限に込められているから気による攻撃も防げるだろうし、余計に傷がつきにくくなり、腐食することもない。刃の部分に使っている金属は名称を言うわけにはいかないが、そちらも一級品だ。いくら血潮がついたとて錆びることも傷が付くことも刃こぼれもありえない。それに加えてこちらにも俺と華扇の気が込められているから持つ者には軽く感じれるようにできている。ただ、受ける相手はその重量を感じることは出来ないどころか多少重く感じるほどだ。全体での能力としては中に太極図や術式を放り込んどいたから妖術や仙術も俺未満のものであれば関羽限定で無効化できる。いやぁ、俺と華扇の二人で作っていたんだが、まさかここまで恐ろしい武器になるとは思わなかったな・・・・・」
一陣の風が二人の間を駆け抜けた。
いいや、二人ではなく山全体だったのかもしれない。
この武器の性能を知っていたのは紅龍と華扇の二人だけであった。
この武器の存在を知っていたのは何人もいたし、ここで初めて見たものもいた。
だが・・・・・・・、まさかここまでの化け物武器であるとは誰も思っていなかったせいだろう。
紅龍が笑っている以外は全員の顔が引きつっていた。
「これ・・・、本当に貰っていいのですか?」
なんとか立ち直った関羽は思わず控えめに紅龍に聞いていた。
あれだけの性能を聞けばこうなるのも仕方があるまい。
それに、自分だけの武器が高性能であり、他の人員の武器が大したものでなかったら困るという負い目もあるのだろう。
それに対して、紅龍は笑いを崩さない。
「ああ、全員分がほとんどこんな感じだから」
それを聞き、関羽は聞くべきでなかったと頭を悩ませたが、まあそれならば遠慮する必要もないかと考え方を改め、『青龍偃月刀』を紅龍の手から受け取った。
「さて、そろそろ行きな。俺たちも湿った別れはしたくない。『さようなら』って言うよりも、『また会おう』。そう言って分かれてまたどこか出会えたほうがいいんだよ」
「はいっ」
紅龍は右手を前に握り締めながら突き出す。
それに合わせるように関羽もゆっくりと右手を突き出して紅龍のそれにぶつける。
「また会う日まで」
「ええ、紅龍たちも」
ぐっと強く紅龍の右手を押し、その手を下げる。
何かを決意したような目で紅龍の顔を彼女は見つめ、ゆっくりと彼女は口を開いた。
「やられたな・・・・」
「ええ、そうですね」
仙界の出口に向かって駆け抜けていく関羽の後ろ姿を見えなくなるまで見つめ続ける紅龍の横に現れた妖夢が軽く紅龍の足を踏みながら答える。
「なあ・・・・、踏むなよ」
「知りません」
はぁ・・・と紅龍は小さくため息を着くと、この状況をニヤニヤしながら見ているであろう隠密たちのいる方向をしばらく見てから、もう小さくなった関羽の背中を見る。
「あいつが一番最初に出ていくとは思わなかったな」
「それに関しては同意します」
むすっとしながらでも本当にそう思っていた妖夢も答える。
そんな妖夢の姿にもう一度、今度は大きくため息を紅龍はつくのだった。
「紅龍、私、関羽雲長愛紗はあなたのことが好きです」
後に黒髪の山賊狩りと呼ばれる齢13の少女はそう口にしたのだった。