【凍結】 真・恋姫†無双 これはひとりの仙人無双 作:成瀬草庵
「おはようございます紅龍」
「おはよう妖夢」
俺たちの朝というものは早い。
夜の訓練をしていないときの話ではあるけどな。木の上で寝ている俺たちは、ここで朝食をとって河に行って洗濯をして、釣りをして、そのあと訓練、ご飯、訓練、狩り、訓練、ご飯、農作業、寝るっていうのが流れになっているからだ。だから遅くまで起きている必要もないから早く目が覚める。
そしてどうやら今日は日が昇る前に起きてしまったらしい。
「茨木華扇って仙人が来るんだったよな?」
「ええ・・・・、まあ」
「ふう、じゃあ鍛錬でもしようか?」
「はいっ」
ここ最近になって気づいたことだが、妖夢は二人で別々に行動することよりも。一緒に行動しているときのほうが多少楽しそうにしている。
もしかしたら気を使わせれいるのかもしれないと思うと、ちょっと心が苦しいものもあった。
「そういえばあいつもそうだったなぁ・・・・・」
綿月、あいつも今の妖夢と同じ感じだった。
分かりにくいようにしているのかは知らないが、やっぱり楽しそうにしていたことは覚えている。
そして、勘違いかもしれないが、あいつはもしかしたら・・・・・・・・・。
いや、よしておこう。死んだ人間が言うようなことじゃない。
それに、こんなことを考えるのは俺の性分に合わない。
「紅龍、気が抜けてますよっ」
「痛っ!!」
イタタタタ・・・・。
妖夢の刀の峰で叩かれたらしい。不意打ちか・・・?
ん?不意打ちといってよかったのか?
ただ俺が考え事をしていたから不意打ちのように感じただけか?
「まったく、昨日はあれだけかっこよく戦ってみせたからには気を抜かないでください。そんなふ抜けた顔をしていては戦場で真っ先に息絶えますよ」
「悪い悪い、じゃあしっかりとやらせてもらいますよ」
「もちろんです」
二刀の少女と一刀の青年はほぼ同時に駆け出した。
そして再び、彼らの周りには洗練された剣技が飛び交った。
時は戻り、先ほどの会話より半年ほど前のことである。
そして、場所は紅龍の生前の世界であった。
「先輩が・・・・、死んだ?」
大きな屋敷で一人の少女が固まっていた。
昨日、先輩とあの巨大な狼のもとから逃げ出した、綿月依姫だった。
普段の彼女であれば、元気よく朝も動き回っているはずなのだが、今日この日ばかりは違った。
昨日はあの狼と紅龍の二人が放つ殺気によって彼女自身が気がつかないうちに体がダメージを受けていた。
そのせいだったのか?家に入って出迎えた姉の姿を見つけたと同時に倒れ込んでしまった。そして、目が覚めたのはついさきほどの事であった。
姉の言葉によれば、倒れこんだときうわごとのように『先輩・・・・、ごめんなさい』と言っていたらしい。失恋でもしたのかと思ったわよ?と笑いながらそう話してくれた姉の目元には濃いくまがあったことからおそらく寝ていないのだろうという考えに彼女は至っていた。
だが、さすがに紅龍が死すことは想定できていなかった。
『今日、明け方5時ごろ、地元の男性が道を歩いていたところ人と生き物らしきものが倒れているのを発見。警察に通報し、救急車が呼ばれましたが、病院に搬送後、死亡が確認されました』
『死亡した人物は地元の中学生三年生、八意紅龍くん。生き物は巨大な銀色の狼でした。八意紅龍君は右腕がなくなっていましたが、右腕は銀狼の口の中から発見されました。また、彼は地元ではハンターとして有名で、弓道、剣道、アーチェリー、フェンシング、空手などで全国優勝をしたことのある人物でした。警察では、なぜ人よりも巨大な狼が存在しているのか。また、日本になぜ狼がいるのかといった事柄のほかに、この事件の目撃者を探しています』
『また、もう一人なくなった人物がいますが、骨の一部分を除いて噛み砕かれており、身元が不明となっています』
テレビでは先ほどからこのようなものが流れている。
どこの局でも同じことを。違った言い方で放送している。
『コメンテーターの石見さん、今回のこの事件についてどう思われますか?』
快活そうなテレビの司会者が、髭面のおじさんにコメントを求める。
嫌だ聴きたくない。
なぜか彼女にはそう思えた。直感のようなものだったのかもしれない。
『そうですねぇ・・・・・・・、なぜ彼は中学生というのにハンターとして生きていたのかというのも気になる方も多いかと思いますが、彼にはどうやら両親がいなかったようです。そして生きるためにハンターになったと。にしても物騒なものですね。中学生という多感な時期だというのにナイフや警棒のようなもの、弓で武装していたというじゃないですか。これまでよく死人が出なかったと思いますよ』
あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
これか、これが聞きたくなかったんだ。
そう気づいたときにはもう遅かった彼女の目からは涙が流れ、頬をつたっていた。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
綿月の家は、かなりのお金持ちと言える家である。
そのために、結構な人数のホームキーパーがいたりするのだが、今日はいつもと違って異常なぐらいに静かだった。
今家にいるのは姉である豊姫と、妹の依姫。そして、鈴仙以下数名のホームキーパーである。
彼女たちは知らなかったが、実際は綿月の家と、紅龍の八意の家は数代前からのつながりもあったためにお互いが幼いころからのつながりもあった。
そして、会うたびに優しくしてくれたりと、彼女たちにとっていい人物であった。
その人物が死んだ。
そしてその原因は依姫が一端を担っている。
あまりにも重苦しい雰囲気の中、誰も声を上げることができず、先ほどからはカチッカチッという時計の音と、無造作に同じ内容を繰り返すテレビのアナウンサーの声だけが流れていた。
悲しみ、その言葉だけでは表せないぐらいに、彼女たちの心を大きく傷つけた。そこに追撃で心のないコメンテーターたちの言葉が突き刺さる。
憤りも感じていたし、何よりものうのうと安全な場所で紅龍のことをけなすのが気に入らなかった。
プツンッ
依姫が動き、テレビのスイッチを切った。
そして、彼女は辛そうな表情のまま、口を開いた。
「姉さん・・・・・、もし私が死んだら、悲しんでくれる?」
依姫の言葉には重みがあった。
まるでこれからそれを実行しようとでも言わんばかりに・・・・。
そんな依姫の言葉に豊姫はハッとする。自分も彼が死んだのは辛いが、妹にとってはもっと辛いことであり、放っておけば本当に死ぬかもしれない。
「馬鹿なことは言わないで。私や依姫が死んだって紅龍は喜ばないわよ」
「それどころかあの人じゃ怒る気もしますけどね」
豊姫の言葉に続けて、鈴仙もそんなことを口にするが、やはり依姫にはどこか暗いところもあった。
「ごめん、ちょっと学校行ってきます」
ちょっと一人にして。
そんなことを彼女の目は語っていた気がした。
それ故に、豊姫も、鈴仙も声をかけることができなかった。
止めなくてはならない、そうはわかっていても、彼女の雰囲気に足踏みしてしまう。学校に行けば、余計にみんなが声をかけてくる可能性はある。
それどころか茶化すようなものもあるだろう。
人の死というものが現代社会では軽くなっている。
友達間の喧嘩や、冗談交じりのふざけている最中にも死ね、という言葉は当然のごとく放たれる。
誰もがみんなそう簡単に口にするので、誰もそのおかしさには気付けていない。
一般的に死という言葉を口にするせいで、死に対する感覚も薄くなってきた。それに、今時は家で死ぬ人もいるが、病院でなくなる方が多いので、死に対する実感もわかない。
そんな中で学校に行けば彼に対する思い入れや、死の実感がない人たちが、依姫の周囲に群がるだろう。あの子は自分では気づいていないけど・・・・・、と豊姫はひとつのことを考える。
依姫はいわゆる美少女というやつであり、異性にも好かれている。恋慕という意味でだ。そしてこれまでは、紅龍と付き合っていたと勝手に周囲が判断している部分もあったので下手に声をかけられることもほとんどなかった。
だが、今はその紅龍が亡くなってしまったし、それをネタに話しかける人もいるはず。
「鈴仙、あなたも一応は中学二年生であのこと同じクラスだったわね?」
「はい、そうですけど・・・・」
「今日はこっそりあの子についていきなさい」
「分かりました」
せめて鈴仙をつけておかないと・・・・・・・・。
今のあの子は何をしでかすかがわからない。