「今日の試合惜しかったですわね・・・」
「マチルダの配置が悪かったと思うんです。もう少し防御を意識した陣形になさらないと」
「クルセイダー隊の前衛も何とかならないかしらね、特にローズヒップ車の挙動が不規則すぎて間違って撃ってしまいそうですの」
夕暮れ、「チャリオティア」が一番忙しくなってくる時間帯だ。戦車道を履修している生徒の殆どが練習後、この店に集まってくる。
それに聖グロはお嬢様学校だ。少々高めの値段に設定してもどんどん頼んでくれる。
・・・まぁ使っている材料もそれなりの質であるから利益は雀の涙ほどしかないのだが。
「スコーンとアールグレイおまちどうさん」
「どうもありがとう、とても良い香りね」
「そりゃどうも・・・」
俺は紅茶とケーキスタンドをテーブルに置いた。店の食器類は偶然にも聖グロリアーナにも卸している店と同じだった。どうりで聖グロの生徒に人気な訳だ・・・
「一佐、紅茶のおかわりいただけるかしら?」
「わかった、少し待っていてくれ。だから一佐はやめろって・・・」
アイツが一佐一佐言うから他のやつまで俺のことを一佐って呼んで・・・もしかしてアイツがそう言わせてるんじゃないだろうな?
聖グロの戦車道生徒は1時間ほど優雅なティータイムを堪能した後各々の帰路に就いていった。
校門前広場はすっかり人が居なくなってしまった。テーブルや椅子などをトレーラーに積み込んでいく。
「今日はアイツ来てなかったな・・・」
まぁ色々と忙しいんだろうな。全国大会も終わった訳だし、事後処理に追われているのかもしれない。
「まだ開いているかしら?」
「いらっしゃい・・・って、なんだお前か」
広場にはODカラーの装輪装甲車、NBC偵察車が停まっていた。
中から顔を出して手を振っていたのはかつての同僚、蝶野亜美、今は一等陸尉だった筈だ。
「なんだはないんじゃない?せっかくお客として来てあげたのに・・・」
「あー、はいはい。此方にどうぞ」
まだ片付けていなかったテーブルに蝶野を案内した。
「ご注文は?」
「任せるわ」
「はい、じゃぁ売れ残ったケーキと紅茶でいいな?」
「もっとマシな言い方はないの?」
蝶野とは自衛隊学校の時に同じだった。
後期教育で男女が一緒になった時の顔合わせでは大雑把な物言いからおっさんっぽいな~とか思っていた。
しかし一緒に活動していく内に芯が硬く面倒見の良い性格だと分かり、班内のお姉さん的ポジションだった。
今は戦車道の教官で連盟の強化委員になったという。機甲科志望だったもんな・・・
「ほれ、冷めないうちの飲めよ」
テーブルに紅茶とケーキを置いて片付けに戻ろうと思ったら蝶野に外を掴まれた。
「どうせこの後予定もないんでしょ?ちょっと座りなさいよ」
「お、おう・・・」
テーブルに上げていた椅子を1つ取って蝶野の向かいに座った。
紅茶を飲む蝶野の姿はとても上品だった。10式の砲塔の上とかにあぐらかいて座ってたりしてたのになぁ
「貴方が除隊して2年かしら?」
「正確には1年と9ヶ月だな」
「時が経つのは早いものね・・・」
「ババァみてぇな事言ってんじゃねぇよ。まだそんなこと言う年でもないだろ?」
つい数日前まで戦車道の全国大会が行われていた。連盟の人間である彼女はてんてこ舞いだっただろう。
聖グロは準決勝で敗退。その後の試合も見物に行く生徒が何人かいたため、俺も出店としてついて回っていたのだ。
「ほんと忙しいと時間が経過するのがとても早く感じるの。大会は終わったけど近々エキシビションが予定されているわ。それに世界大会の誘致もあるし、まだまだゆっくりできそうにないわね」
「それはご愁傷様だな・・・」
俺達は他愛もない世間話を交わしていると気づけば彼女のカップはからになっていた。
「もう一杯いるか?」
「いえ、もう良いわ。そろそろ帰らないと飛行機が間に合わないしこの艦も出港するでしょう?」
「そうだな・・・」
俺は空いた食器を片付けようと手を伸ばす。
「あっ・・・」
伸ばした手は空を切ってしまった。
それを見て蝶野は哀しげな表情を見せる。
「やっぱり・・・まだ片目の生活に慣れていないのね?」
「あぁ、明るいと大丈夫なんだがこうも薄暗いと見難くてな・・・」
そう、俺の右目は光を捉えない。義眼なのだ。
陸上自衛隊の第2師団に所属していたがある事故をきっかけに除隊、今に至るのだ。