ハイスクールD×D-Formal Abnormal-   作:素品

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日本には冬の寒波が来ることを、冬将軍が来たと称することがある。ならば春の陽気が過ぎ去り、夏の暑さが片鱗を見せ始めるこの時期を、夏提督の進撃とでも言えばいいのだろうか。

「・・・・・・語呂ワリィ」

下らないことを考えた、軽い自己嫌悪に陥りそうになりながらカーキの髪を逆立てた少年、匙 元士郎は重力に逆らえずに項垂れる首を揺らすようにして右側を見る。

自分と同じベンチに座る男たち。

まず一人目に、駒王学園二年の兵藤 一誠。茶髪の髪に黙っていればある程度整った顔立だが、変態三人衆の一人。今では三年のリアス・グレモリーの眷属であり、同じ元人間の転生悪魔。

最初こそ敵愾心しかなかったが、話してみれば中々気のいいヤツであり、今は同じ目的を持って行動する仲間である。加えて、一蓮托生の共犯者だ。

そして、さらにその一つ奥。深い藍色の髪に黒い包帯の男、神を信奉する教会最悪のエクソシスト、賽之目 双六。

「・・・・・・・・・・・・」

主である生徒会長から色々聞かされたが、その内容は凄惨の一音。

悪魔の討伐と聞けばそれだけだが、行われる戦闘内容は虐殺や殺戮といった一方的で残虐。殺し合いに人の道理を持ち込むことこそ的外れであろうが、彼が執行する処刑には生物としての尊厳すら遺さぬ、殺害という名の破壊活動。

まともな死体が残ることはなく、バケツの中身を撒き散らしたように赤黒く染まる現場に、変色し腐敗する肉塊が一欠片。

流石に眉唾だと思われる情報まで照らし出すなら、"悪魔を喰らっている"、そんな話すら飛んで来る始末。

「なぁ、一誠。ここらで、あと行ってない場所ってどこ?」

「あぁ・・・・・・、ないです、ね」

「だよなぁぁあぁ・・・・・・。この辺の地図にも、それらしい所一切なかったしな」

「? 包帯しながらでも地図見れるんですか?」

「見えるぜ? これ特注品だし」

「何で出来てるんですか?」

「市販の包帯と聖人の眼球」

「!?」

数日前は、会った瞬間に殺されるものだと思い込んでいたが、実際こうして行動を共にしていると身構えてるだけ無駄なのではと思わせられる。

「あっ、これ秘密にしろな。バレたら教会の連中が大挙して襲ってくるから」

「何つーもんしてんだよアンタ!?」

「・・・・・・・・・・カッケーから?」

「誤魔化すにしても、もうちょっと何かあるだろ!」

「だって黒い包帯で目を隠してんだぜ? 男なら心の中の中学二年生がリオのカーニバル発動してもおかしくない中二要素だろうが。異論は認めねぇ」

「自分で中二って・・・・・・、どうなんですかそれ?」

「羞恥心なんざ犬に喰わせたわ。お前の『赤龍帝の籠手』とかだって、それ以上ないくらい中二だろが」

サッと視線を逸らす一誠に、自覚はあったんだな、と呟きながら双六はベンチの背凭れに全体重を預け、オレンジの幕が掛かった空に肺の息を吐きつける。

「なぁ、匙くん」

「! な、なんすか?」

「見っかんねぇな」

「・・・・・・そうっすね」

疲れを滲ませる声に、疲れてるのは自分の方だと叫びたくなる、匙であった。

◇ ◇ ◇


第六話 男子高校生の日常会話

「ありゃりゃしたー」

 

気のない店員の声を聞きながら、コンビニの自動ドアから"三人の神父"が店舗を後にする。

 

もちろん、一誠、匙、双六の三人である。

 

公園での一件から数日、二人は双六たちと共に聖剣を捜す日々を過ごしている。ちなみに非公認、悪魔である一誠一行の四人は、結局自分たちの主へ報告していない。止められるのは明白であったが、最も心配していた双六が掌返すように了承したのが一番の理由だったろう。

 

曰く、男なら言ったことには責任持て、らしい。

 

「・・・・・・ていうか、本当にこんな"服"着てるだけで出てくるんすか?」

 

匙は今自分が着ている、聖職衣(カソック)の襟を摘まみながらそんなことを呟いた。

 

双六が一応の正装ということで持ち込んでいたものの予備である。

 

「多分、出てくる。おそらく新しい飼い主様の引っ越し先をバレないよう、律儀に猟犬やってるだろうからな。ほい、唐揚げ棒」

 

店先の唐揚げ棒を買い占めるという暴挙を平気で行いながら、三人はモサモサと唐揚げを平らげていく。

 

そんなこんなで十本近くあった唐揚げも無くなり、奪われた水分を補給するために三人がペットボトル内の清涼飲料を喉に落としていく。

 

「なぁ、匙やん」

 

「ん、なんすか? ていうか、呼び方・・・・・・」

 

「好きな娘いる?」

 

「ごふっ」

 

飲んでいた炭酸が気管に入る激痛に、匙が盛大にむせているのを腕を組みながら眺める成人男性がいる。

 

もちろん、双六である。

 

「その様子だといるみたいだな。可愛い? それとも美人系?」

 

「ごほっ、いや、ぐぶふ、な、何でそんな話 ごっふぉぉおおっほほう!?」

 

「いや、どんだけむせてんだよ。『ほほう』ってなに?」

 

「ぐぅっ、だから、何でそんな話になったんすか!?」

 

「流れ的に?」

 

「何処にそんな流れがあったんだよ!?」

 

「賽之目さん! コイツ、会長が好きなんですよ!」

 

「兵藤テメェーーーー!!?」

 

双六のぶっ込んだ質問に喉を痛め、あげく一誠の不意な裏切りに匙は有らん限りの絶叫をあげる。

 

弄る側と弄られる側の対極が完成した瞬間である。

 

「会長ってことは先輩か。あと俺を呼ぶときは双六か、ロクでいいぞ」

 

「分かりましたロクさん!」

 

「いい返事してんじゃねぇよ兵藤!? いいか、変なこと言うなよ? 言ったらお前・・・・・・」

 

「で、コイツのマドンナってどんな感じ?」

 

「すっげー厳しそうですけど、スレンダー系の知的美人です」

 

「アァアァァァァアアァァ!?」

 

夜中の住宅街に男子高校生の悲惨な絶叫が響く。これも弄られる側の宿命と言えるだろう。

 

「へー、脈あるの?」

 

「・・・・・・えーっ、まぁ」

 

「適当にどっちとも取れる濁し方すんじゃねぇよ!?」

 

「いや、大丈夫だって! お前の会長への熱い思いを知ればきっとイケるって!!」

 

「なにそれ詳しく」

 

「兵藤、お前マジで少し黙ってくんね!?」

 

熱い思い。それは一誠と匙がお互いに同士、もしくは同類であることを確認しあった瞬間に告白した至上の野望。

 

言えというのか? この場、この状況で。匙はひたすらに自問自答する。

 

無垢に輝く一誠の隣で、ニヤニヤしながら腕を組む双六に、逃げられはしないことを確信してしまう。

 

(いや、冷静になれ。ジョースター卿も言っていたじゃないか! 逆に考えるんだ。話してもいいじゃないか、と!)

 

それはただの諦めだ、ともしここに彼の主がいたならそうツッコンでいたことだろう。

 

(そうだ、冷静になれ。素数を数えるんだ。素数は何者にも割れない孤独な数字。1、2、3、4、5、6・・・・・・・・・よし!)

 

覚悟完了。当方に猥談の用意あり。

 

素数数えれてねぇよコイツ馬鹿なんじゃねーの、というツッコミはお控えください。彼は疲れているのです。

 

キリッと俯く顔上げ、二人を見据えながら初めて彼女に出逢った頃から胸に秘めて煮詰めていた欲望を、心高らかに宣誓する。

 

再度言います。彼は追い詰められています。

 

「俺の目標は、ソーナ会長とデキちゃった結婚することです!」

 

「よく言ったぞ匙! ちなみに俺の目標は部長の乳を揉み、なおかつ吸うことです!」

 

そんな匙の男気(?)に触発され、一誠も調子に乗って意気揚々と宣言する。

 

今の二人はまさに無敵だった。

 

無駄に昂るテンションは彼らから常識と羞恥心を抹消し、肩を組み合わせながら弾けるような笑顔が二人の青春を象徴するように街灯の無機質な光を霞ませる程の輝きを魅せる。

 

「「こんな俺たち、どうですか!?」」

 

「いや、普通に引く」

 

「「えっ」」

 

だが現実はいつだって非情であり、これが当たり前である。

 

「いや、一誠のは百歩譲っていいとしても、お前のはアカンだろ。世間体とかじゃなく、それをしたいと思ってる時点で、こう、人間としての根幹的な倫理の部分でアウトだろ。高校デビューで周りに溶け込むために有りもしない性癖言ってみた、とかじゃ・・・・・・ないのか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「匙!? ロクさんコイツ息してねぇ!!」

 

虚ろな目で力尽きた匙を、世界の中心で愛でも叫びそうな構図で一誠が抱き起こす。

 

一誠の場合は普段からのこともあり耐性があったが、匙のメンタルでは双六の一言は耐えられなかったようだ。

 

「なぁ、匙。お前って下に妹とか弟いねぇだろ?」

 

「・・・・・・いないっす」

 

「大変だぞ? 子供ってのはこっちの言うことは聞かねぇし、目ぇ離せば神隠し、気づけば室内大旋風。俺なんか下に妹と弟が十人以上居たからスゲー苦労した」

 

「「十人!?」」

 

「あぁ、孤児院育ちだからな、俺」

 

色々なものが砕けてしまった匙に、双六は自身の経験談を聞かせることにした。

 

一般家庭で育った二人にとって、孤児院育ちというだけで中々重い話題であったが、その下に十人の兄弟ということでさらに絶句する。

 

「子供ってのはな、愛してやれるまでが大変なんだよ。なにやっても好き勝手する奴らを、面倒だなんて思わずに最後まで責任持ってやる自信があるか? 男親なんて、九ヶ月も腹の子供を守り続けた母親よりも親の自覚が希薄がちになっちまうんだから」

 

「・・・・すいません」

 

「まぁ、変にキツく言うつもりはねぇけどよ。それに俺んとこの場合は、子供より"母さん"の方が大変だったし」

 

「ロクさんの、お母さんですか?」

 

「育ての親ってやつさ。肉体労働は得意だったんだが家事、とくに料理の類いが苦手でな。卵の殻とかも百発百中で入るし、それに誰かが泣くたびに・・・・・・」

 

「泣くたびに、どうしたんすか?」

 

最後の所で言葉を切って頭を抱えてしまった双六に、匙が気になり先を促すように言うと、ポツリと彼は答えた。

 

「・・・・・・ガトリング持ち出してくるんだよ」

 

「「はぁっ!!?」」

 

息の合った叫びに、言った本人は大仰に溜め息を吐く。

 

ちなみにガトリングとは複数の銃身円形に並べ、それを外部動力で回転させながら給弾・装填・発射・排莢のサイクルを繰り返して連続射撃を行う機関銃のことである。

 

「えっ、冗談すよね?」

 

「破壊された扉を修繕してる内に軽い小屋くらいなら建てられるようになったぜ」

 

「・・・・・・な、何者なんですか?」

 

「《棺担ぎ》っていう人類最強。ご主人に聞いてみ? すぐ分かるぞ」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

「・・・・・・子供思いのいい母親なんだが、その場のテンションに流されがちでな。まぁ、あれだよ、取り敢えず勢いはアカンよ、って話。あぁでもなぁ・・・、俺も"アイツ"のことあるしなぁぁあぁ」

 

「誰ですか?」

 

「・・・・・・聞きたい?」

 

「「はい」」

 

乗っかった船、周りの年上といえば女性ばかりの二人からすれば、双六という同性の大人の話は非常に興味の惹くものだった。

 

双六は二人を連れて、手近にあったバスターミナルのベンチに座り、話し始めた。

 

「そうだなぁ、五年前か。俺が十九の頃に、上からある女悪魔が悪さしてるから潰してこい、って言われてな。まぁ、上の性欲馬鹿がソイツに引っ掛って金奪られたからその腹いせだな」

 

疲れきった溜め息を吐く双六に、一誠も匙も頬を引き攣らせる。

 

如何に公正清廉な組織でも、長く続き肥大化すれば中から腐り出すのはどこも同じなのだ。

 

「でも、やっぱり悪魔だから、その・・・・・・」

 

「いや、やってることも魔力で男の精神を弄くって籠絡させる、美人局(つつもたせ)みたいなやつさ。殺しも死人も出ててねぇから、適当に仕置きして冥界に送り帰そうとしたんだよ」

 

「そういうのもアリなんすか?」

 

「駄目だね。だけど、いいんだよこれくらい。殺し殺さればっかじゃ、救いが無さすぎる」

 

染々と語る双六に思わず感嘆の声をあげる二人。

 

とくに一誠からしてみれば、フリードやゼノヴィアといった排他的なエクソシストしか逢ったことがなかったからか、存外に嬉しそうだった。

 

「んで、パッと見つけてサッとしばいて、さっさか叩き出そうとしたんだけどよ・・・・・・」

 

「何かあったんすか?」

 

「・・・・・・押し倒されてな」

 

「「おおおおおおおお!!?」」

 

思春期真っ只中の男二人が、テノールのデュエットを市街地内に反響させる。

 

押し倒す。ある意味、男の夢というか本能的に訴えかけられるシュチエーション。

 

しかも、"した"じゃなく、"された"だ。

 

煩悩が手足を生やしているような一誠はもちろん、匙でさえ明確な興奮を隠しきれずにいた。

 

「ロクさん! そ、そのお相手はどんな感じの方だったんですか!?」

 

「場所はどこっすか? やっぱ屋外っすか!?」

 

「少し落ち着け。まぁ、今思えば胸も背丈も足りなかったが、顔はかなり整ってる将来有望の美少女だったよ。あと、場所はビルの屋上」

 

「「ふぅぉおおおおおおおお!!?」」

 

二人のボルテージは、遂に最頂点に辿り着き、止まらぬ上昇が脳内麻薬を異常分泌させる。

 

もはやジャングルクルーズと化した狂気の鍋底で、チェリーが二つ舞い踊る。

 

「とにかく煽るのが上手かった。俺の耳を甘噛みしながら鈴みたいな声で誘ってきやがるから、正直かなりマジになってたよ」

 

もはや二人は喋らない。

 

彫像のように黙り、一音たりとも聞き逃すまいと正座しながら爛々と光る瞳で次の展開を待ち望むばかり。

 

「拙い手つきで俺の服をめくって、細い指が腹を擦るのさ。んでもって一言、『シよ?』 だとさ。文字通り悪魔の囁きだな」

 

二人の表情が、もはや文体に表現するのも憚られる程に酷いことになり始めた。

 

とにかく鼻息が荒く、男でも見れば反射的に悲鳴を上げてしまいそうになるような顔になっているとだけ言っておこう。

 

「俺もご無沙汰だったからよ、勢い任せに手を出しちまおうかな、って思ったんだ。したっけよぉ・・・・・・」

 

急に悲痛な声を上げ始めた双六に、二人は怪訝そうに首を傾ける。

 

クライマックスはすぐだと言うのに語らぬ先輩に焦れて声をかけようとしたとき、事の顛末が知らされる。

 

「・・・・・・泣き出してな」

 

「「ん?」」

 

予想の斜め下、むしろ上だろうか、とにかく理解の追い付かないオチを知らされ、困惑する二人に双六は話を続けた。

 

「実は初めてでだったらしく、俺がエクソシストだから殺される、っていう脅迫観念から勢いで押し倒したらしいんだが、結局俺自体も"する"のも怖くなって、らしい」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

「しかも後から聞いてみれば、その時十四歳だったていうじゃねぇか。中学生だよ、俺中学生に興奮してたのかよ、どんな鬼畜だよ。お巡りさん俺でーす、みたいな?」

 

すっかり二人を置いていき、一人でブツブツと自己嫌悪の暗黒面に落ちていく双六を、一誠と匙は何とも言えぬ気まずさで眺めていた。

 

「いいか、二人とも。若さに踊らされるなよ? 勢いでやって上手くいくのなんざ、山勘張った期末テスト程度だ。でないと、俺みたいに引きずるぞ?」

 

実はこの人、結構ダメな人なんじゃないだろうか。

 

二人は声に出さず、そう思った。




猥談とは、低俗なことを如何に上品で高尚事かのように語り合うことである。

少なくとも私の学生時代は膝裏と土踏まずのどちらがより興奮できるかで盛り上がったりしました。

真の変態は趣味の話で一時間は独り語りが出来ます。

よって原作の一誠たちが変態と思っている方、まだまだ甘いぞ。

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