【完結】魔法少女リリカルなのはA's~紅き英雄の軌跡~ 作:秋風
とある世界に、一冊の本が生まれた。その本はその開発者と共に旅をし、様々な世界に散らばる技術を記すために生まれた魔法の本であった。製作者だけでは覚えきれないその多くの技術。それらを記録し、それを研究する。それが人のために、後世のためになると、製作者は思い、それを作り上げた。
――全ては、人の未来のために
そう願った作者が作り上げた一冊の本。最初は、本当にただそれだけだった。その本は製作者の意思を継ぐ者に受け継がれ、様々な運命を経て多くの人間の手に渡る。本は思う。
――主がそう願うのなら、私はその願いに力を添える
本はただひたすらに蒐集する。その技術を、力を…それが、製作者と、自分を持つ主の願いなのだと。だが、その想いは製作者と同じ人に裏切られた。
――自分のために力を集めよ
何代か本を受け継いだ人間が、本にそう命じる。本が経験したのは、人と人が争う『戦争』の時代。それが故に人は力を、破壊を望み、本はそれに答え続けた。そんなものを望む人間達により、本は段々と穢れていく。製作者が亡き前に付けた本が旅をするという機能はその本が転生する機能へ、復元機能は無限再生機能へと姿を変える。転生し、転生を重ねるにつれて、闇の書は本来の機能を成さず、覚醒すればその世界を滅ぼすだけの破壊兵器へと姿を変えていた。
そして人々はいつしか、この本を『闇の書』と呼んだ
*
海鳴市の街中、そのビルの屋上。ゼロは闇の書が浮かぶ場所から一番近くのビルの屋上へと舞い降りた。その紅い装甲と、そこからなびく金髪の髪を見て、闇の書がそれに気づいた。
「貴方は…貴方は、ゼロ」
「…俺を知っているのか」
「はい」
ゼロの問いに、素直に頷く闇の書。その眼はどこか優しく、そして悲しい眼をしていた。
「私はあなたのことを見ていましたから。だからこそお願いです、ゼロ。退いてはいただけないでしょうか?」
「……何?」
いきなり攻撃を仕掛けてきた相手が何を言うかと思うゼロだが、闇の書は己の胸に手を当て、眼を閉じる。
「我が主が、烈火の将が、鉄槌が、癒し手が、盾が、意識もないのに、私に語りかけてくるのです。『あなたと戦って欲しくない…』と」
「……」
「だから「言いたいことは、それだけか」っ!?」
ゼロはその闇の書の声を遮ると、持っていたZセイバーを闇の書に向ける。
「なんの、つもりですか?」
「俺はそんな話をするためにここに来たわけじゃない…アイツらを救うためにここに来た」
ゼロの言葉に驚いていた闇の書であったが、その表情はすぐに元に戻った。
「貴方なら、きっとそう言うと思っていました…どうあっても、その言葉を曲げるつもりはないのでしょう?」
「ああ」
ゼロの言葉に、闇の書はやはりか、というような様子で手に持っていた杖を向ける。
「ならば私は、我が主から与えられた我が使命を果たしましょう」
「使命?」
「そう、我が使命…それは永遠の闇、そして安らぎの時を……この手に得ること」
闇の書は戦闘態勢を取った。しかし、その表情は戦う者の目ではない。顔こそ無表情であったが、その眼には涙が流れていた。その様子を見たゼロは、闇の書に語りかける。
「…ひとつ、聞かせろ」
「……?」
「お前はなぜ、泣いている?」
「これは私のではありません、これは…我が主の涙」
その言葉を聞いて、ゼロは確信する。闇の書が与えた使命は彼女の願いではない。そして、その涙を見た瞬間に、ゼロははやての声を聞いた気がした。
《ゼロ、この子を止めて…!》
その声は、もしかしたら幻聴なのかもしれない。だが、ゼロはその涙を見た瞬間に感じ取っていた。彼女の…八神はやての本音を
「お前の言う願い…それはアイツの願いではない」
「何故?」
「アイツの願いを、俺は知っている」
――まだ、死にたくない
病院ではやてがゼロに見せた、唯一の弱さ。死の足音が迫るはやてが望んだ願い、それは生きること。生きていたい、もっと家族との時間を過ごしたい…ゼロは一人で涙を流すはやてを見守っていた。
「だからこそ知れ…その涙の訳を…そして理解しろ、アイツ(はやて)の本当の願いを」
そう言いながらゼロはZセイバーを構え直した。その瞬間、闇の書が魔力を収束させる。
「刃以て、血に染めよ」
収束された魔力の塊は周囲へ飛び散ると、それは形を変える。闇の書の周りとゼロの周囲に無数の赤い短剣が漂う。それは一本一本が真紅の短剣。ソレはまるで血からできたのではないかと思わせた。
「…!」
「穿て、『ブラッディーダガー』!」
そのまま無数の赤い短剣は一直線にゼロへと飛来する。ゼロはそれをZセイバーで弾き飛ばしながら、その攻撃をかわしていく。
「なるほど、最早会話は不要、か。ならば、高町なのはと同じように『お話』をしてやる」
言いながらゼロが駆け出し、Zセイバーを振り下ろした。そのZセイバーと、闇の書の持つ杖が激突し、衝撃波が生まれる。
「いいでしょう、来なさい…赤き破壊神、ゼロ」
「……」
ゼロは一旦距離を取ると、チャージしていた、バスターを撃ち放つ。真っ直ぐにそのエネルギー弾は飛んでいくが、その攻撃は闇の書の作りだした防御壁に阻まれてしまう。
「こんなもの…」
「せあっ!」
闇の書が防御態勢をしている所へ、今度はシールドブーメランが闇の書めがけて飛んでいく。だが、それは闇の書の魔力によって弾き飛ばされる。そして闇の書が持つ杖の先端から、強力なエネルギーが収束した。
「咎人達に……滅びの光を」
その収束方法、そして発射する態勢…それにゼロは見覚えがあった。
「まさか…あれは…!」
「星よ、集え…全てを撃ち抜く光となれ…」
その発射シークエンスまでの態勢、そしてそれらからゼロが予測する攻撃。間違いなく、なのはの必殺技である『スターライトブレイカー』である。なぜ闇の書が使えるのか?そんな疑問がゼロに浮かぶが、その疑問は解決した。
「アイツだからこそ、か…!」
闇の書がそれを使うことが出来る理由、それは『蒐集』だ。闇の書は蒐集した者の技が全部使える。今までゼロがヴォルケンリッターの行動を抑える前に蒐集された魔導士達の技、そしてその後にも蒐集することとなった高町なのはやフェイト・テスタロッサの魔力。それによって彼女は多くの技術を得ているのだ。
「手数では、奴が有利か…」
そんなことを考えていると、遠く離れた場所にいたはずのなのはが飛んできた。その表情には、焦っていることが伺える。
「ゼロさん!」
「高町なのは?どうしてこちらに…」
「近くに結界内に取り残された人がいるの!」
「なんだと…!?」
広域結界によって周囲は遮断されているはずにも関わらず、何かの手違いで人が紛れてしまうことは稀に存在する。それをゼロは知らないが、そんなことよりも彼女が周囲にスターライトブレイカーなど放ってしまえば周辺はただではすまない。仮にその力に『非殺傷』が混じっていようとも、無機物を破壊するその力でビルが倒壊を起こせばその結界内に取り残された人間も無事ではすまないはずだ。
「貫け、閃光」
「ちぃっ…!」
闇の書の詠唱が終わりつつある。時間が無い。どうにか、砲撃を阻止し、足止めをする必要があるだろう。ゼロは持っていたZセイバーとは別の物を取りだした。
「手荒だが…仕方がない!」
ゼロが取りだしたのはチェーンロッド。ゼロはチェーンロッドを闇の書に向けて伸ばし、闇の書の体を絡め取った。
「!?」
「せああああああっ!」
そのまま力任せに闇の書を投げ飛ばした。それによって闇の書はビルに突っ込み、ビルがガラガラと崩れた。
「…今のうちだ」
「は、はい!」
ゼロの行動に驚きながらも、なのははその結界に閉じ込められた人の方向へ飛び始める。安全を確認するためにも、ゼロはなのはと共にその結界の中に閉じ込められた人間の救助に向かった。
*
海鳴市 繁華街
しばらくゼロが走っていると、途中でフェイトやアルフ、ユーノも合流。5人はその反応地点へと急いだ。その先に2つの人影が見える。なのははその人影に呼びかけた。
「すみません!ここは危険ですので、そこでじっとしていてください!」
「え?」
「今の声って…」
そう言って振り返えるのは二人の人物。なのはやフェイトと同じくらいの子供だった。その二人を見て、なのはとフェイト、そしてゼロが驚く。
「にゃ!?アリサちゃん!?」
「すずかも!?」
「なのは!?」
「フェイトちゃん!?」
互いが互いに名前を呼び合い、それぞれが違う理由で驚いていた。
「いったい、何がどうなっているの?それに二人の格好…」
「お前たち、どうしてここにいる?」
「あ、ゼロさん…ですよね?」
と、その装甲を纏った姿に戸惑うすずかだが、その後ろでなのはとフェイトがアタフタしている。
「あ、あのね…」
「えっと…」
二人とも言葉がでない。アルフとユーノの二人に関してそんな二人に何とも言えない表情である。
「あの、その、と、とにかく、安全な場所まで移動させるから、詳しいことは後で…」
と、なのはが言いかけて、いきなり大気が揺れるのを感じる。一同が驚いて空中を見ると、その先にはにかなり巨大な光球があった。その光球は禍々しい光を放っている。その様子から見るに、闇の書がもう回復したことを示していた。
「もう、あんなに!?」
「なのは、フェイト!慌てている場合じゃないよ!早く逃げないと!」
慌てる二人に対し、ユーノが叫ぶ。確かに、あんな物がこちらに着弾すれば確実にただではすまない。しかも、闇の書はゼロ達の位置が掴めないため周囲一帯を消し飛ばすつもりなのだろう。それを理解したゼロはシールドブーメランを取り出し、今まで自分の補助をしていたクロワールに呼びかける。
「クロワール!俺へエネルギーを最大限で回せ」
「ゼ、ゼロさん!?」
「ゼロ、貴方一体何を…」
突然のゼロの行動にパニックになるすずかとアリサだが、ゼロはそれを無視してシールドブーメランを展開する。
『りょ、了解!』
展開したシールドがクロワールのエネルギーを得てその守備範囲を拡大していく。そのシールドによってゼロ達を襲う衝撃波が防がれる。しかし、そのエネルギーは留めなくゼロ達を襲う。それによって周囲の建物は倒壊を始めた。
「「きゃあああああああああああああああ!」」
「クロワール!シールドの耐久能力をもっとあげろ!」
『もう無理よ!これが限界っ…!』
最初は攻撃に対してもっていたシールドに、段々とヒビが入り始める。
(このままでは…!)
普段感情を見せないゼロだったが、その表情はいつになく焦っていた。自分だけならまだしも、何人もの人間を守らなければならない状況など、今までになかった。だが、そんなゼロの手に、そっと、二人分の手が添えられた。
「ゼロさん、このままエネルギーを送ればいいんですね?」
「このまま貴方に魔力を流します」
そう、その手はなのはとフェイトの手であった。彼女達も同じく、友達を守りたいと思ったからこその手段だった。今から魔力防御壁を張った所で間に合うわけがない。ならば、その自分達の魔力をそのままゼロに送ることで、そのゼロが展開していたシールドブーメランが強度を増していく。そして、ゼロ達に向けられていたその攻撃は次第に弱くなり、完全に消失した。
「感謝する、高町なのは、フェイト・テスタロッサ」
「あ、はい…」
「うん…貴方も、私達の友達を守ってくれてありがとう」
と、感謝する二人だが、それですぐに思い出した。自分達が秘密にしていたことが、親友であった二人に知られてしまったことを。なのはたちがそちらを振り返ると、すずかとアリサは未だに驚いた表情のままであった。
「すぐ安全な場所まで運んでもらうからね。ユーノ君、二人のことお願いできるかな?」
「アルフも頼める?」
と、なのはとフェイトが頼むと、それぞれが頷いた。
「僕は構わないけど」
「アタシも」
「え?ユーノ君って?」
「それにアルフって?」
二人がそれぞれを見て驚く。しかし、そう言った途端に二人はアルフとユーノの転移魔法により転移して行った。そんな二人を見送るなのはとフェイトは終始複雑な表情である。
「知られちゃったね」
「…うん」
「ちゃんと、説明しなきゃね…」
「…うん」
どうにも、秘密を知られてしまったからか、この後がどうなるかが怖いのだろう。彼女達が関わらない、非日常。そんな世界に自分達はいる。だからこそ、それをアリサやすずかが知った時、彼女達は自分たちをどう思うのか?それが二人は不安でたまらない。
「高町なのは、フェイト・テスタロッサ」
「「え?」」
そんな二人に、ゼロが声をかける。その様子には、若干二人のことに呆れているような感じにも見て取れる。
「…少なくとも、俺の知るあの二人はこの程度のことでお前達に何かを言うような奴らではないだろう。長く付き合った友であるのならば、その友を信じろ。そしてコレが終わってから全てを話せばいい。それだけだ」
ゼロもかけがえのない友がいる。だからこそ言った言葉なのかもしれない。そんな友を信じ、そのために戦い、今の自分がいる。だからこそ出た言葉だった。
「そう、だね…」
「うん…ありがとう、ゼロさん」
「…さて」
二人の言葉を受け取りながら、ゼロはZセイバーを再び抜刀すると、遠く先にいる闇の書を見つめる。
「ここからは3人で時間を稼ぐ…行くぞ」
「はい!」
「うん!」
こうして、ゼロが駆け出し、その後を空中からなのはとフェイトが続く。闇の書との第二ラウンドが始まった。
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