【完結】魔法少女リリカルなのはA's~紅き英雄の軌跡~   作:秋風

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二日連続でどん!
明日は就職活動があるので更新ができませんが、残すところあと1話です!

あと数話といったな?アレは嘘だ



24「悪夢」

 相変わらず平和な海鳴。穏やかな日々は流れていく。しかし、管理局から調査や出動の要請が来ないわけではない。日本の海鳴市は休日だが、管理局は年中無休。はやてとヴォルケンリッター他、なのは、フェイト、ユーノ、アルフがアースラに来ていた。当然ゼロもそこにいる。研修期間と言うことで、全員が揃うアースラ。この面子であれば、もう1回か2回、世界を救ってしまうのではと思える。また、ゼロがいるのはゼロの個人的な志願だった。というのも、最近平和を享受し過ぎたせいかどうも身体が鈍っているのではないか、と感じていたからだ。ゼロもレプリロイドだが、その中でも戦闘に特化する戦闘型レプリロイド。いつまでも家の手伝いなどをしているようでは、いざ自分の世界に帰った時に対応が鈍くなる。だからこそ、このように調査への志願や、シグナム達との模擬戦を定期的に行っている。

 

「さ、行こう!」

 

 なのはの掛け声と共にアースラから無人世界へ向けて出発し、無人世界に一同は降り立った。今回の任務はS級ロストロギアの回収。何が起きるかわからないので、万全の体制と言うことでの出撃である。

 

「これって…」

 

「これが、世界の崩壊した場所……か」

 

 そこはただの無人世界ではなかった。倒壊して砂漠の砂に埋もれるビル群、枯れてしまっている木々、そして周囲に散乱する動物の骨、そして人骨。その世界の悲惨さは、はやて達に衝撃を与える。しかし逆に、ゼロとしてはこのような似た光景を目にしたことがある。それは、自分の世界の砂漠地帯。レジスタンスベース本部も、似たような場所だったのを覚えている。

 

「さ、反応地点に向かってさっさと回収しよ。このままやと私達も砂だらけや」

 

「そうだねー。でも、反応地点はもっと先みたい…飛んでいったらゼロさんが置いてけぼりになっちゃうから歩いて行こう」

 

「いや、構わない。俺は走ってお前らに付いて行く…ゆっくり飛んでもらえれば十分だ」

 

 なのはが歩くことを提案するが、ゼロはそれに反対する。集団で歩いて行くよりも全員が飛んでいる方が効率はいいし、索敵もしやすい。それに、ゼロも地上で走れない地形でも距離でもない。こうして、一同は反応地点へと向かった。

 

 

「ここもすごいね…」

 

 飛ぶこと数十分。崩壊した都市の中心と言える部分に辿りついた一同。そこは何かの研究所の跡地のようで、多くの瓦礫等が散乱していた。反応はあるが砂の中という可能性も捨てきれないし、周囲のどこかに隠れているという可能性もある。そのため、一同は周囲を探し始めた。しかし、探し物はすぐに見つかってしまった。はやての視線の先には、砂に半分埋もれている鈍色の宝玉がある。反応もそこが一番強いようで、はやてはそれを見て駆け寄った。

 

「これやな…? みんなー! あったでー!」

 

「さすがはやてちゃん!それじゃあ、封印して任務完了だね」

 

 はやてが発見したことで喜ぶ一同。こうしてはやてたちが封印を施そうとする。が、そこで宝玉が光り始めた。

 

「えっ!?」

 

 淡い光が周囲を包んだかと思うと、宝玉から触手のような何かがはやてに伸びた。まるで、何かを求めるかのように動くそれは、凄まじい勢いではやてへと迫る。

 

「な、なんや!?」

 

「下がれ!」

 

 ゼロは咄嗟にはやてを庇い、その触手の攻撃を受ける。ゼロはZセイバーを抜刀して、触手を振り払おうとするが、触手は絡みついたかと思うと、すぐにそのまま離れてしまった。

 

「なんだ? っ…!?」

 

 そして紅い宝玉はさらに光を発し、何か人の形を作り上げていく。その時ゼロの直感が叫ぶ。「コレは危険だ」と。そう感じた瞬間、ゼロはバスターを構えてトリガーを引く。動かない光に向けて放たれたバスターの弾丸。確かにそれは着弾し、その人のような何かを捉えていた。しかし、その光が収まった時、一同は驚愕する。

 

「…! お前は」

 

 真紅と黒のボディ、流れる金髪の髪。額には宝石がはめ込まれたヘルメット。手には、宝石のような輝きを放つ剣がある。その姿はまるで…

 

「ゼロが、二人…?」

 

 フェイトが思わず口から漏らす。そう、その姿はまるでゼロそのもの。しかし、ゼロは今自分たちの横にいる。目の前のゼロは、ロストロギアによって作られた偽物だろう。しかし、ゼロは首を横に振る。

 

「違う…あれは、俺ではない」

 

「え?」

 

 ゼロは言いながら、手に持っていたZセイバーを強く握りしめる。そしてその表情には、いつにもなく焦りの顔が見える。確かにフェイトの言うとおり、その姿はゼロだ。しかし、違う。ヘルメットの額の宝石は蒼く、Zセイバーの色は禍々しい紫。そして、自分たちに向けられている殺気を放つ眼光は真紅。この特徴から、ゼロは思う。

 

――俺は、後何回「俺」と戦えばいいんだ

 

「我は英雄(メシア)なり!はーっはっはっは!」

 

 はやてたちが知るゼロに似たそのゼロ。ゼロのオリジナルボディを持つレプリロイド、オメガが再臨した瞬間だった。

 

「全員上へ飛べ!」

 

 すでにオメガは立っていた地点から近くにまで跳んでいた。ゼロが叫ぶと、ゼロ以外の全員が慌てて宙を舞う。あのゼロが、叫ぶほどの事態。呆けている暇などない。襲いかかるオメガの一振りを、ゼロがZセイバーで受け止める。すると、そこに衝撃が走り、周囲にあった物が吹き飛び、半径4メートルほどのクレーターが出来上がった。

 

「なっ…」

 

「たった一撃で!?」

 

 もし、あの場所にいたら、ただでは済まなかったかもしれない。そう思うとゾッとする。しかし、その攻撃に耐えるゼロも流石だと言えるだろう。防戦一方のゼロを見ていたはやてだったが、その後ろでシャマルが声を上げる。

 

「そんな…!? 手立てはないんですか!?」

 

『その兵器の能力にもよるんだ! 君たちもはやく避難し……ザ、ザザ―…!』

 

「どうしたん、シャマル!?」

 

 通信相手はクロノ。シャマルはロストロギアが発動したことで緊急に連絡を取っていたのだろう。それも今、ゼロとオメガがぶつかった衝撃で回線が繋がらなくなってしまった。

 

「今、クロノ君に聞いたの……あのロストロギアについて」

 

「クロノ君に? あのロストロギアはいったい…」

 

 ここに来る時、S級ロストロギアであることはクロノに聞かされていた。すぐに封印処理を施し、持ち帰れとも。しかし、世界を滅ぼしたロストロギアであることは聞いていたが、そのロストロギアがどのようにしてこの世界を滅ぼしたのかは聞いていなかった。

 

「あのロストロギア…名前は『コピーウェポン』…戦争のために生み出された最悪の魔導兵器よ」

 

「最悪の、兵器…?」

 

「事前調査でわかったことだけど…元々、魔法軍事産業が盛んだったこの都市で開発された魔力兵器らしいわ。あらゆる世界の歴史を、そして兵器を読み取り、蒐集する。そしてそれを具現化するんだって…」

 

 兵器を収集し、それを具現化する。これはあらゆる世界の、あらゆる国の兵器を理解することが出来る。これなら敵国の開発した兵器に対して対策を取ることが出来る。また、その模造品の設計図も作ることができるのだろう。

 

「じゃあ、なんで…それがゼロに?」

 

「…クロノ君の話では、この都市が、この世界が滅びたのはロストロギアの暴走だって言っていたわ。そして、あのロストロギアはあらゆる世界の武器を『読み取り』、『具現化』する。ゼロは人間ではなく、レプリロイド。人間からすれば、レプリロイドは兵器とも取れるわ」

 

 この都市が滅びたのは、ロストロギア『コピーウェポン』の暴走。あらゆる兵器が具現化され、暴走した結果だった。そして、ゼロに触手が触れ、すぐに離れた理由。それは、ゼロの記憶として存在するデータバンクへハッキングをしたからだった。ゼロの記憶を貯蔵するデータバンク、そこから読み取った兵器の構成、イメージ、そして戦闘力…その全てからコピーウェポンは『史上最悪』にして、『史上最強』の兵器データを手に入れた。

 

「ちょっと待てシャマル! では、コピーウェポンが得たデータから作り出されたアレは…!」

 

「あそこで戦うもう一人のゼロは!」

 

 シグナムとリインフォースがまさかという声で戦っているゼロたちを見る。ゼロの過去を聞いた一同は考え、答えを出した。ゼロが戦う『兵器』とは何か? それは彼が戦って来た敵に相当する。では、その彼の考える最強の敵とはなにか? 今自分たちの目の前にいる『ゼロのような何か』は何なのか? シャマルは頷き、戦うゼロ達を見て結論を言う。

 

「そう、あれがゼロの話に出てきた…ゼロの本当の身体。史上最強の体と、史上最悪の心が混ざり合って誕生したレプリロイド『“Ω(オメガ)”』よ」

 

 

 一方、ゼロとオメガの戦いは続いていた。Zセイバーが鍔迫り合いとなり、そこからエネルギー波の火花が飛ぶ。何度もぶつかり合うZセイバーだが、ゼロのパワーではオメガのパワーに押され気味となってしまう。現在、別の武器を使う余裕などないほどに速い攻撃をオメガは繰り出してくる。

 

「セアッ!」

 

「滅びよ!」

 

 ゼロがZセイバーで薙ぎ払おうとするが、その瞬間、オメガは地面に拳を叩きつけ、いくつもエネルギーで出来た光の柱を出現させる。その衝撃で吹き飛ばされるゼロだったが、その吹き飛ばされた直後にバスターを連射する。しかし、オメガも同じようにバスターを連射してゼロのバスターを打ち消す。

 

「くっ…やはりこれでは!」

 

「はーっはっは!」

 

 ゼロとオメガはその廃墟の都市を駆けまわりながら戦闘を繰り広げる。この都市内部で隠れて狙撃したり、高い所から奇襲をかけたりするためだ。戦闘技術を思考して戦うゼロと己の力を解放して暴れまわりながら戦うオメガ。圧倒的な戦力差を前に、ゼロは苦戦を強いられる。

 

「クロワール! 防御機能を上げろ! このままでは持たん!」

 

『も、もうやってるわ! これ以上は無理!』

 

 ゼロは思う。これが、オメガであると。以前、リインフォースの内部で戦った模造品とは違う。ダークエルフの加護を受け、全盛期の力を得たオメガそのもの。忘却の研究所で戦ったオメガと同じ性能、耐久性、技…あの時の戦いが、今まさに繰り返されている感覚をゼロは覚える。

 

「消え去れ!」

 

「ぐっ!」

 

 オメガの攻撃を避けてバスターを連射するも簡単に避けられ、同じようにバスターを連射されて攻撃を打ち消され、そして貫かれる。その威力は桁違いだ。そのバスターの一発がゼロに命中する。

 

「ぐあああっ!」

 

『ゼロ!』

 

 オメガの放つバスターを直撃で受け、地面に叩きつけられる。その威力はゼロの持つバスターでは絶対に出せない出力と威力だ。強靭なボディ、無敵と呼べるオメガの攻撃、最強と呼べるオメガの技の数々。それは、どれをとってもゼロを超えた力。

 

「う、ぐ…!」

 

「消えるがいい!」

 

 オメガが跳躍し、その勢いと共にZセイバーがゼロに向かって振り下ろされる。ゼロもオメガが跳躍している所を立ち上がり、その刃を迎え撃つ。

 

「ぐぅ…!」

 

「ふはははは! 弱い! 弱すぎるぞ! 貴様はそんなものか!」

 

「俺を…舐めるな!」

 

 腕にエネルギーを集めてZセイバーの鍔迫り合いを弾き、その隙をついてゼロはZセイバーを叩きこんだ。

 

「はあっ!」

 

 一瞬の隙を狙ったゼロの攻撃。確かにオメガにはヒットしたが、それは浅い。それを受けたオメガはゼロと距離を取るが、そのゼロと同じ顔で、歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「少しはやる…しかし、貴様はもう限界か…このメシアに敵うはずもない…くくく、あーっはっはは!」

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 ここまでの攻防、そんなに時間は経っていない。しかし、ゼロは満身創痍であるも、オメガはかすり傷程度。力の差は歴然だった。

 

「さあ、終焉だ…」

 

 オメガは腕にエネルギーを集め、手に持っていたZセイバーにエネルギーを蓄積させていく。しかしその時、そのオメガに刃が振り下ろされた。

 

「紫電一閃!」

 

「むっ!」

 

 紫の雷撃が舞い、オメガに刃が迫る。しかし、その一撃は虚しく空を切る。オメガが距離を取ると、そこにはゼロを追って駆けつけたはやてたちの姿があった。

 

「ゼロ、大丈夫!?」

 

 はやてとリインフォースが倒れているゼロに駆け寄り、シグナム、ヴィータがオメガへと向かって行く。

 

「喰らえ、飛竜…一閃!」

 

「ラケテーンハンマー!」

 

 鞭のように撓り、オメガに迫るレヴァンティン、ジェット噴射の勢いで振り下ろされ、オメガに振り下ろされるグラーフアイゼン。しかし、その二人の渾身の一撃はオメガの腕に掴まれていた。

 

「「なっ!?」」

 

「この程度で我を仕留めようなど…片腹痛いわぁ!」

 

 オメガから一番近い距離にいたヴィータはそのままグラーフアイゼンと共にシグナムへと投げられ、ぶつかる。

 

「ぐっ…」

 

「落ちろ蠅共!」

 

 ヴィータを抱きかかえるシグナムだったが、既に上空にオメガが“跳んで”いた。そのままZセイバーが振り下ろされ、衝撃で地面へと叩きつけられる。空中から重力に従って落ちるオメガ。その地面に足を降ろした瞬間、今度はその身体に向かっていくつもの鎖と糸が迫っていた。

 

「鋼の軛っ!」

 

「戒めの糸よ!」

 

「チェーンバインド!」

 

「ストラグルバインド!」

 

 ザフィーラ、シャマル、ユーノ、アルフの拘束魔法がオメガを捉える。4人分の拘束魔法。その拘束魔法の効力と魔力を考えれば、普通なら絶対に解けることはない。このまま拘束して破壊すれば、このロストロギアの暴走は止まるだろう。そう考えた作戦。しかし…

 

「こざかしいわぁ!」

 

 オメガは次の瞬間、エネルギーを足から放出して乱暴に地面を踏みつけ、地響きを起こす。すると、その地面から光の柱が出現し、その拘束魔法を断ち切る。

 

「ふんっ!」

 

 拘束する魔力の供給を断たれた軛や糸、バインドはオメガに寄って弾き飛ばされ、その衝撃でシャマル達も吹き飛ばされる。

 

「きゃあ!」

 

「ぐっ!」

 

 しかし、吹き飛ばされる直後、ユーノとアルフは上空を見ていた。そう、なにもオメガを止めるための策はこれだけではなかった。彼女達の最大の“切り札”は、すでにそこにいた。

 

「なのはぁ!」

 

「フェイトぉ!」

 

 その上空、シグナム達がいたさらに上で、なのはとフェイトが砲撃の構えを取っていた。二人の魔力を合わせた砲撃魔法。中距離殲滅のコンビネーション、空間攻撃『ブラストカラミティ』。これを発射し、オメガを消し去る。これが最終策。すでにそれを知っているシグナム他、シャマルやユーノ達はリインフォースの力によって離れた場所まで転移している。

 

「行くよフェイトちゃん!全力全開!」

 

「うんなのは!疾風迅雷!」

 

 二人は頷き合い、その魔力を解放して標準をオメガへと向ける。その高さはオメガが跳躍しても届かない絶対領域。オメガがバスターを構えようとした瞬間、二人は叫ぶ。

 

「「ブラストシューット!」」

 

 なのはとフェイトの魔力が解放、なのはのレイジングハートによるバレルフィールド展開がなされ、フェイトのバルディッシュの刀身へ魔力が集約し、フェイトも自身の魔力を乗せて斬撃を放った。それはオメガへと直撃し、魔力は爆発。周囲を光で包みこんだ。

 

「ぬおおおおおおおっ!」

 

 オメガもそれを避けることは敵わず、真正面から受ける。それと同時に周りの建物も倒壊、砂埃と爆発が周囲を支配する。

 

「やった…よね? フェイトちゃん」

 

「うん、さすがにこれなら…」

 

 実際、オメガは人間ではなくレプリロイド。厳密に言えばロストロギアだ。彼女達のデバイスに搭載された“非殺傷設定”は効果が無い。周囲のビルと同じように跡形もなく吹き飛ぶはず。地上に降りた二人だったが、その直後に大量のエネルギー弾が弾幕となって二人に襲い掛かった。

 

「きゃあ!?」

 

「うああっ!」

 

 咄嗟に防御魔法を張って防御をする二人だったが、その防御魔法も耐えきれずに割れると、そのまま二人は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。そしてその爆炎と砂煙から姿を現すのは、身体の所々にヒビが入りながらも、その怒りの表情を露わにするオメガの姿だった。

 

「ぬるい! ぬるいぞ! この程度で我を・・・! メシアである我を倒そうなどと!」

 

「そんな…」

 

「これでも、駄目なんて…」

 

 “ぬるい”。かつて、闇の書の中の闇さえも突破した夜天の守護者ヴォルケンリッターと、なのは、フェイトの力が、オメガにとっては“ぬるい”と言われる程度。その様子を見て、はやては愕然とする。自分達はなんてちっぽけだったのか。そんな気持ちがはやての中に生まれていた。

 

「そんな、あの二人の魔力攻撃でも…」

 

「主、ここは引きましょう」

 

「リ、リインフォース!? 何言うてんのや!」

 

 突然のリインフォースの言葉に、はやては驚きの表情でリインフォースを見る。しかし、そのリインフォースの顔には、悔しさと絶望を噛みしめる姿があった。

 

「このままでは、みんな死んでしまいます。私達の不安定なユニゾンでは、寸分たたず敗北するでしょう。将達や…ゼロですら敵わない…そんな恐ろしい敵と戦って、勝てるとは思えません」

 

「それは…」

 

 否定は出来ない、とはやては率直に思う。アレだけ圧倒的な力を見せられて、勝つ方法があるかと言われても、あるわけがない。物理攻撃も、魔力攻撃も、拘束すら効かない相手に、どうやって挑めというのか。しかし、その時だ。はやてとリインフォースが支えていたゼロが、ゆっくりと立ち上がる。

 

「ゼロ!?」

 

「だいぶ、身体も回復できた。それに、あのオメガに手傷を負わせてくれた。もう十分だ」

 

 言いながらオメガに向かって行こうとするゼロ。そんなゼロをリインフォースとはやてが止める。

 

「ゼロ! 無理や! そんな体で、そんな状態で戦ったら今度こそ死んでしまう!」

 

「そうですゼロ! これ以上やれば、貴方の身体が…!」

 

「……クロワール、やれるな?」

 

 二人の言葉を無視し、ゼロはクロワールへと問い掛ける。クロワールは頷くとゼロの中へと溶けていき、エネルギーを解放する。

 

『以前、結界を破壊した時以上のエネルギーが今、ゼロに溜まっている…勝負は一瞬。外せば終わりよ』

 

「分かっている」

 

「ゼロ! 駄目! 行ったらあかん!」

 

 最早悲鳴となったはやての声が、ゼロに響く。オメガに向かって歩いて行くゼロだったが、一度だけ足を止めた。

 

「はやて……俺を信じろ」

 

 そう言い残し、ゼロはオメガの前に立つ。互いにボロボロだが、ダメージは圧倒的にゼロの方が大きい。エネルギーを極限までにチャージしたZセイバーがゼロの手に握られている。それを見て、オメガは笑う。

 

「我が前に、そのような状態で向かってくるか…貴様はつくづく愚か者だな」

 

「……」

 

 オメガが笑いながら腕にエネルギーを送り、チャージする。この瞬間に斬りかかることが出来れば楽なのだが、そのような隙をゼロに与える暇もなく、オメガの持つZセイバーにはエネルギーが灯っていた。

 

「偽りの英雄よ…今度こそ、形残さず消し去ってくれようぞ」

 

オメガの言葉に、ゼロは目を閉じる。

 

「俺は…正義の味方でもなければ、自分を英雄と名乗った覚えはない」

 

 かつて、ドクター・バイルにも言い放ったその言葉。ゼロは今一度、噛みしめるように言い放つ。ゼロの掲げる信念は、どんな場所でも、どんな世界でも同じこと

 

「俺はただ、自分の信じる者のために戦ってきただけだ」

 

 過去も、今も…そして未来も…それは絶対に揺るがない。強い意志。強い体を持たずとも、最強の力を持たずとも、それよりも勝るものを、ゼロは持っている。

 

「俺は悩まない…目の前に敵が現れたなら…」

 

 ゼロはZセイバーを強く握り、駆け出す。その手からは莫大なエネルギーが解放される。

 

「叩き斬る、までだ!」

 

「こざかしい! 絶対的な力の前にひれ伏すがいい!」

 

 互いに持つ、解放されたエネルギーはZセイバーへと注がれ、Zセイバーは肥大化して振り下ろされた。

 

―― 一刀両断 幻無・零

 

 互いに振り下ろされた刃が放つ、最終奥義。かつて、ゼロが作り出した技であり、ゼロの記憶にはなくとも、紛れもなく、ゼロの作りだした最強の技である。オリジナルの身体を持つオメガ、そしてオリジナルの魂を持つゼロ。互いの技が衝突し、輝きが生まれる。一方は怒りと憎しみの塊を纏う戦士。もう一方は、信頼と希望を携えて戦う戦士。それぞれ決して交わることのない二人が放つ最後の技が同じとは、何と皮肉なことか。しかし、双方から生み出された光は美しい輝きを放っていた。どんなに美しく輝きを放つ宝石も、その光の前では霞んでしまいそうなほど。やがて二人はその光へと包まれ……そして

 

 

――ズガアァァァァン!!

 

 

 

 どちらかが消えたことを教える、爆発音が鳴り響いた。その爆発と共に消えたのはゼロか? それともオメガの姿を模したロストロギアか? 次第に煙が晴れ、その機を見計らってはやてはその煙の中へと飛び込んだ。もし、倒れたのがゼロではなくオメガだったら? そんなことを言うリインフォースの制止を振り切り、はやてはその煙の中へ飛び込んだ。しかし、周囲を見渡しても双方の姿はどこにもない。まるで、はやてが求めていた物など最初からそこにはないと言うかのように。しかし、ふと視線を降ろすとはやての足元に粉々に砕け散った宝玉があった。紛れもなくそれはコピーウェポン。ならば、勝ったのはゼロではないか。はやては嬉々として周囲を見る。しかし、一向にゼロの姿を確認できない。ゼロが勝ったのなら、ゼロはそこにいるはず。一番に抱きついてやろう。そうはやては思っていた。煙が晴れ、視界ははっきりする。遠くにいるリインフォースや、なのはたち、それにシグナムたちの姿も確認が出来る。しかし、そこにゼロの姿はない。

 

「……え?」

 

 はやての視界に、紅い何かが映り込んだ。それはボロボロになり、落ちているヘルメット。ゼロが装着していた、戦闘時に使うヘルメットだった。ヘルメットは確かにそこにある。しかし、所有者であるゼロの姿はない。

 

「ゼ、ロ…?」

 

 よろよろと、はやてはヘルメットの所へと近づいて行く。そして、そのヘルメットを抱きかかえ、周囲を見渡す。

 

「ゼロ? どっかにおるんやろ? 出て来て…」

 

 しかし、はやての言葉に答える者はいない。そして、はやての目からボタボタと大粒の涙が零れ落ちる。

 

「ゼ、ゼロ…ゼロ、そんな…」

 

 そしてはやては理解する。理解してしまった。確かに、敗北はしなかった。ゼロは、オメガを倒していた。しかし、それは『勝利』を意味するものではない。ゼロは自らの命を代償とし、オメガを倒したのだと…そうはやては理解する。

 

「ゼ、ゼロ―――――――――!」

 

 夜天の最後の主でもない、悲しみの運命を背負った少女でもない、紅き戦士を愛した1人の少女、八神はやての叫びが、この世界に虚しく響きわたるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ…」

 

明るい光を感じ、ゼロはとある場所で意識を覚醒させた。

 

「ここは…俺は、生きている」

 

 自分の最大出力で放った技、幻無・零が自分たちを飲みこんだことは覚えているのだが、その後のことはまったく覚えていない。しかし、ゼロは周囲を見て目を疑った。

 

「馬鹿な…」

 

 先ほどまで崩壊したビルと砂漠が広がっていた場所にいたはずが、今は自然に溢れる場所に立っている。木々が心地の良い風で揺れ、近くを穏やかな小川が流れている。果たして、自分はどこへ飛ばされたのか? そんなことを思っていると、ゼロの目に一つの看板が映し出される。それはつい最近に建てられたようで、まだサビてもいないし、汚れてもいない。その看板にはこう書かれていた。

 

――エリアゼロ――

 

「エリアゼロ…まさか、戻って来たのか?」

 

 その名をゼロは覚えている。そこはゼロがシエル達と共に守ろうとしていた場所。自然の広がる、ゼロの世界に残された最後のオアシス。

 

――近いうちに、別れが訪れる

 

「そうか…」

 

 マザーエルフの言葉を思い出し、彼女の暗示がこのことだったと確信する。すると、そのゼロの身体からフワリとクロワールが姿を現した。

 

「ゼロ、大丈夫?」

 

「ああ、身体は問題ない。反動は少し残っているが…動くのに支障はないだろう。後、聞きたいことがある。クロワール」

 

「何?」

 

「奴は…オメガはどうなった?」

 

 最後の一瞬、ゼロは意識を失ってしまったため、オメガがどうなったか覚えていない。もし、あのままオメガが健在の状態で自分がこの世界にいるのだとしたら、そう考えると不安が拭えない。しかし、クロワールは笑顔を見せた。

 

「大丈夫よ、ゼロ。あのロストロギアが消滅するのは、ゼロを通してハッキリ見ていたわ」

 

「そうか…」

 

 それならば問題はないだろう、と安堵するゼロだったが、そう簡単に世界はゼロを休ませてはくれなかった。

 

――ドオォォン!

 

「…っ!?」

 

「爆発!?」

 

 動物たちがその爆発に驚いて逃げていくのがわかる。ゼロはその方角を確認して焦りを感じた。周辺の地図がインプットされているゼロ。そしてその地図と照らし合わせて導かれた爆発地点。

 

「あれは…集落のほうか!」

 

「行きましょうゼロ! シエルやアルエットたちが心配だわ!」

 

「わかっている。行くぞ!」

 

 こうして、ゼロは自分の帰りを待つ少女達の元へと急ぐのだった…

 




いかがでしたか? 割と絶望感をかもし出してみました
次回で最終回です。ではまた

Next「遠いどこかにきっと」
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