【完結】魔法少女リリカルなのはA's~紅き英雄の軌跡~ 作:秋風
いつも魔法少女リリカルなのはA's~紅き英雄の軌跡~をご覧いただき、誠にありがとうございます
本日の話をもちまして、このお話を終わらせていただきたく思います。とはいっても、ご存知の方もいらっしゃいますが、StrikerS編の続編がありますので、そちらでまたお会いしましょう
では、最後のお話をお楽しみください
それは、ネオアルカディアが誕生するよりも、そして、妖精戦争が起きるよりもずっと前の話。この世界に生きる人々はかつて宇宙に進出をしていた。スペースコロニーと呼ばれる宇宙の人工居住区に人は移り始める。人類が宇宙へと進出した第一歩でもあった。そしてその中でも、特大の大きさを誇るコロニーがあった。名を「ユーラシア」という。それは人類にとって、宇宙で住む人間達の象徴とされ、多くの人間やレプリロイドがそこで暮らしていた。しかし、その象徴は突如人間の住む星へと落下を始める。とあるイレギュラーの手に寄って占拠されたユーラシア。イレギュラーハンターたちの抵抗も虚しく「ユーラシア」は地表へと激突。多くの人間とレプリロイドの犠牲が生まれた。そして傷跡を残したその地は、いつしか踏み込まざる場所とされ、人々の記憶から忘れ去られて行った。時は戻り、荒廃した外界、そして人々の理想郷『ネオアルカディア』がある時代。バイルの圧政から逃れるために外界へ逃げてきた人間達は、偶然にもその踏み込まざる地に巡り合った。かつて踏み込まざる場所とされた、ユーラシア落下の跡地。その大地には自然が蔓延り、荒廃した世界に1つのオアシスを形成していた。そう、ユーラシアの機能は死んではいなかった。コロニーに搭載されていた環境維持装置が破損することなく稼働し、そのコロニーの残骸を中心に荒廃した大地でオアシスを築いていた。そしてこの地は、生きる術を探していた人間達にとって、オアシスと呼べる場所だったに違いない。そして、その地を見つけた1人の人間は言った。
――俺達は、ここで新しく“ゼロ”から始めよう
そんな言葉と共に、このオアシスはいつしかエリア・ゼロと呼ばれるようになった。かつて多くの犠牲を生んだ地球の傷跡は、人間が再び自分たちの足で歩きだすための第一歩となった。しかし、そう話は上手く進まない。無限とも呼べる悪意が、その大地に牙を剥いた。ドクターバイルによる、ネオアルカディア以外の自然を抹殺する『ラグナロク作戦』。力のない人間達にそれを阻止する手立てもない。もうここまでか、また終わってしまうのか。そんな絶望が人間達を支配する。しかし、人間が絶望するにはまだ早かった。その地に、1人の戦士が舞い降りたのだ。ネオアルカディアに反旗を翻した、人間達からすれば平和を脅かす破壊神、レプリロイド達からすれば英雄である彼は、人間のために剣を取った。その地上に残るわずかな自然、エリア・ゼロを守るために。ネオアルカディアで危険な存在と言われてきた彼らレジスタンスが、何故自分達のために剣を取るのか、なぜエリア・ゼロを守ろうとするのか、人間達には理解できなかった。しかし、次第に人間達は理解する。彼らは、自分達と同じ想いでいるのだと。この世界に、平和をもたらすことを望んでいるのだと…自分たちを背に、その悪意に立ち向かう1人の破壊神の姿を見て、人間達は思う。
――彼らと自分達は、もう一度やり直せるのではないか?
ただその存在に恐怖し、否定していた彼らレプリロイドが、自分達人間のために戦ってくれている。それを理解した時、人間達は再びレプリロイドと向き合う勇気を得る。人間達とレプリロイドは共に歩くことが出来る。そう確信できた。しかし、その希望さえも、悪意は潰そうとする。発動されるラグナロク作戦、軌道衛星上から地上へ向けた無差別攻撃。しかしそれでも、人間達もレプリロイドも諦めなかった。自分たちのために戦ってくれる英雄がそれに立ち向かうのに、自分達が諦めてどうするのか。そんな想いを受けた英雄は、エリア・ゼロを守るためにバイルと激戦を繰り広げる。その結果、エリア・ゼロは守られ、多くの人間とレプリロイドの命は救われた……しかし、そのバイルと死闘を繰り広げた両種族の英雄は、未だエリア・ゼロには戻っていない。
*
エリア・ゼロ
バイルは死に、衛星砲台ラグナロクが無くなってから早『1ヶ月』が経過した。未だ、エリア・ゼロを救った英雄『ゼロ』は帰還しない。エリア・ゼロの一角に置かれたトレーラーの研究室、そこにはレジスタンスのリーダーである、シエルの姿があった。ゼロが自分たちの所へ戻ると信じ、日夜研究に明け暮れる。エリア・ゼロの中で人間が暮らす上で、いくつも出てくる問題の解決を目指す彼女だが、その頭からは自分たちの英雄、ゼロの姿が離れないでいた。
「ゼロ…」
ふと、机の上に写真へ目を向けた。そこには、自分とゼロ、そしてレジスタンスの面々が映る写真があった。それは、レジスタンベースを離れる時に撮った写真。この写真を撮ったのは少し前のはずなのに、もう随分と時が経ってしまった気がすると、シエルは思う。そんな時、研究室のドアが開かれた。
「こんにちは、シエル」
「ネージュさん」
そこに現れたのは、紅い髪のシエルよりも年上の女性。かつてはネオアルカディアからキャラバンを率い、このエリア・ゼロへと逃れてきたジャーナリストの人間。最初はシエル達レジスタンスを“危険な存在”と認知していたが、次第にその考えは代わり、共に手を取ることが出来るようになった。現在、彼女は次々とネオアルカディアから避難してきた人間やレプリロイドをまとめるリーダーを務めている。
「そろそろお昼だからお誘いに来たの」
「ありがとうございます…でもごめんなさい、もうちょっと頼まれた仕事を進めたくて」
シエルの前に映し出されるパネルには、このエリア・ゼロの自然をどれだけ確保しながら、人間やレプリロイドの住む居住区が建てられるか? また、どのような形が最適なものなのかという案がびっしりと描かれている。そんな様子を見て、ネージュは頭を抱える。ついこないだ出された問題を既に半分以上目を通しているシエルは、どう見ても休みを取っていない。まるで、気を紛らわすかのように仕事に没頭している。
「シエル、あんまり根気詰めちゃだめよ? ちゃんと休んでるの?」
「ええ、それはもちろん。心配しないでください」
そんな風に笑顔を見せるシエルだったが、シエルの目は充血し、薄っすらと隈が出来ているのが分かる。それは一目で疲労していることを教えるようなものであった。
「その笑顔、無理があるわシエル。気を紛らわせるのは構わないけど、仕事に没頭して倒れました…なんて、私は許さないからね」
「ネージュさん…」
シエルが無理をしている理由もわかっているし、気を紛らわせたい気持ちも、ネージュは理解している。自分もシエルと同じように、好意を抱いていたレプリロイドを少し前に亡くしているからだ。しかしそれでも、今目の前で無理をしているシエルをネージュは放っておくことはできなかった。
「ほら、行くわよ。丁度お昼が出来上がるころだわ」
「え、あ…ネージュさん!」
ネージュはシエルの手を引き、トレーラーを後にするのだった。
*
トレーラーのある場所から集落の場所まではさほど距離はなく、外はテントがいくつも張られていたり、木造の家が何軒か出来たりしている。1か月も経つと、建物や水路、道路も段々と増え、エリア・ゼロで人間が生活する上での生活ラインが整い始めてきたことを示している。現在、エリア・ゼロにはネオアルカディア跡地から来た人間、そしてレジスタンスのレプリロイドがそこで暮らしており、人間は1000人も満たず、レプリロイドに関しては500も満たない数しかいない。しかし、今後さらにネオアルカディアにいる人間やレプリロイドが来れば、さらに増える見込みだ。食事をとるときには広場があり、そこでは炊き出しのような形で人間とレプリロイドが食事を作ったりしている。
「あら、ネージュさん。それに、シエルさん。お二人のご飯、すぐにご用意しますね」
「ええ、お願いね」
「ありがとう」
炊事を担当する女性型レプリロイドが二人に気がつくと、すぐに料理を盛り付け、トレーを渡してくれる。
「はい、どうぞ」
「ありが……サラ、これ多くない?」
「…こんなに食べきれるかしら」
サラと呼ばれた女性型レプリロイドが二人に渡したトレーの皿には、大盛りで乗せられたパスタがあった。確かに、女性が食べる量にしてはちょっと多いかもしれない。そんな二人の様子を見て、サラはニッコリと笑う。
「何を言っているんですかお二人とも。それくらい食べませんと」
「…そうね、ありがとう」
「ありがとう…」
サラにお礼を言って席へ向かう二人だが、ネージュは小さくため息をついた。
「あの娘のコレにも困ったものね…」
「ま、まあ…私達に気を使ってくれてるわけですし。ここで働けること、きっと嬉しいんだと思います」
「……それもそうね」
サラはエリア・ゼロに来る前ではネオアルカディアで“イレギュラー認定”をされ、廃棄を待っていたレプリロイドであった。理由は先ほどの様な世話焼きが原因。いつも人間を心配する優しい心の持ち主なのだが、それ故に人間の間違った行動に対しても黙認できず、抗議をしてしまったのである。主に忠実でないとそれだけで判断され、不当にも廃棄を待つばかりであったサラだが、ラグナロク事件後レジスタンスに助けられて今にいたるのである。サラのような事情を持つレプリロイドも何人か存在しており、完全に人間に対して忠実なレプリロイドとは違うタイプもいる。前者こそ人間のレプリロイドの理想形ではあるが、エリア・ゼロにおいては段々とその考えはなくなり、人間とレプリロイドは平等だという考えも生まれて来ている。
「私達も食事にしましょう。この後は会議だからね」
「そうですね…システマ・シエルについても改良の余地を見つけたので、それについても議論に出さないと」
このエリア・ゼロではネージュが統治者という風になっているが、それはあくまでもキャラバンをまとめていたころの名残であり、ネージュ自身もそんな気はない。このエリア・ゼロでの決まりごとを決めたり、建設、研究などを進める場合はそれに詳しい人間、レプリロイドを集めて会議をする共和制の形を取っている。かつてバイルがネオアルカディアを牛耳っていたころの恐怖がまだ根付いているらしく、時間はかかるも公平に多くの人間やレプリロイドの意見を取り入れるようにする努力をしている。
「私としては、会議よりジャーナリストの仕事したいんだけどね」
「でも、ネージュさんが会議にでていると、皆安心していますよ」
「そろそろ、互いに慣れて欲しいけどね…人間もレプリロイドも」
と、言いながらため息をつくネージュだが、実際人間とレプリロイドの間を取り持つことが出来るネージュはこのエリア・ゼロではかかせない存在である。まだまだ、人間とレプリロイドにはそれぞれ思うところがあり、衝突が起きないわけではない。会議でも意見はそれぞれ人間とレプリロイドに偏りがちで言い合いになることもあるが、ネージュがその間に立つと、互いに公平な判断を下して会議を進めてくれるため、問題が起きにくい。
「ま、人間とレプリロイドが1つの会議で言い合い出来るってんだから、時代も変わったわねぇ…内容が最近くだらないけど」
「そうですね、この間なんか運動場を作るか、図書館を作るかで揉めちゃいましたし」
平和になった証だわ、とぼやきながらパスタを口に運ぶネージュに苦笑しながら、シエルは少し離れた広場で遊ぶ子どもとレプリロイドたちを見る。仲よく遊ぶ子供たちの姿。そして、それに混ざってレプリロイドも遊んでいる。これが、自分達が手に入れた平和。そう思うと、シエルは嬉しくなるが、それと同時に少し切なくなる。
(ゼロ…貴方のおかげで、人とレプリロイドは分かり合うことができたわ。貴方もきっと、帰ってきてこの光景を見たら、喜んでくれるわよね)
そんなことを思いながら、シエルがパスタを食べようとした、その時であった。
――ズガアアアァァン!
「「!?」」
広場から離れた場所で、大きな爆発音が鳴り響いた。そして、鳴り響く警報音。ネージュは腰に付けていた無線機を取り出し、通信を入れる。
「見張りの矢倉にいる人、応答して! 何があったの!?」
『こちら、コルボー! 敵襲です! 警戒レベル5を発令します!』
「警戒レベル5!? 一体何が来たっていうの!?」
レジスタンスのコルボーから来た“敵襲”という言葉に驚きを隠せないシエルとネージュ。エリア・ゼロでは何かが起きた時には警戒レベルで警報音が変わる。その中でも最大値である、災害レベルの危険度を出すのだから、何か相当まずい物が来たと考えていい。そして、次にコルボーの通信で聞いたのは、恐ろしいものだった。
『あれは…バリアント・ファイアや、その派生形の軍勢です! それに、それを統率する大型レプリロイドの姿も!』
バリアント・ファイア。かつてネオアルカディアで作成されていたエックスの劣化コピーであるパンテオンよりも高性能にバイルが作った、バイルの私兵である。ゼロとの戦いの後、バイルが死んだことで機能を停止した彼らがなぜ再び動き出したのか。
「急いで非戦闘員の人間とレプリロイドは地下シェルターへ! 急ぐのよ!」
ネージュが無線からエリア・ゼロ内で聞こえるスピーカーに切り替えて指示を飛ばす。すると武装を施した人間、そしてレプリロイドがネージュの元へと駆け寄ってくる。
「ネージュ! 俺達は奴らと戦うぞ!」
「なっ…馬鹿なこと言わないで! 相手はヴァリアント系列のレプリロイドよ!? 人間の貴方達じゃ無理よ! そこのあなた達も非戦闘型のレプリロイドでしょ!?」
そう、このエリア・ゼロには戦闘員と呼べる者達はかつてレジスタンスとして前線で戦ってきたレプリロイドしかいない。
「それでも、このままエリア・ゼロがまた襲われてるのに黙ってられるか!あの野郎が…ゼロが守ったこの地を、アイツらの好きにしていいわけねーだろうが!」
「…っ! でも!」
「俺達人間にも、俺達の戦い方がある!」
「それは私達も同じです!」
そう言って駆け出してしまう人間とレプリロイドの男たち。ネージュとシエルが制止を呼びかける前に、彼らは走って行ってしまった。
「っ…! 彼らを追うわ! シエル、貴方はシェルターに行きなさい! いいわね!」
そう言ってネージュも走り出し、その広場に1人残されたシエル。しかし、シエルはその場を動かず、ただボーっと立ち尽くしていた。
「なんで…せっかく、ゼロが平和に…なんで、そんな」
再び平和が訪れたはずだった。なのになぜ、こんなにもすぐに平和は崩れるのだろうか…シエルは思う。何故今頃になってバイル軍がここを襲ってきたのか? どうして、戦わなければならないのか? 知りたい、何故また平和が脅かされるのか? その理由を…シエルはいつの間にか、見えなくなったネージュを追うように戦場へと走り出していた。
*
エリア・ゼロの外れ。爆発地点
ここは、エリア・ゼロの元居住区画。かつてゼロとクラフトが戦った場所であり、現在バイル軍が侵攻してきている場所である。ネオアルカディアの旗を掲げ、侵攻してくるヴァリアン達と、それを迎撃するレジスタンスとエリア・ゼロの住人達。その中には当然、ネージュもいる。だが、数が多くエリア・ゼロの住人達は劣勢を強いられていた。
「くそ! このままじゃ…!」
「泣きごと言う暇あったら引き金引きなさい!」
ネージュが皆を励ましながら必死に応戦する。すると、突如ヴァリアント達がその侵攻の足を止める。そのヴァリアント達の前には鷹を模したような顔と翼をもち、下半身はライオンのような形…そう、まるでグリフォンを模したようなレプリロイドが立っていた。
「我らはネオアルカディアを統治するバイル様の特殊部隊。私はその隊長のグライフだ…人間どもよ、大人しくネオアルカディアに戻るがよい! バイル様の亡きあと、私達がネオアルカディアの管理者となっている。大人しく従えば手荒なことはせん!」
「誰があんな地獄に戻るか!」
「そうだ! ここから出て行け!」
レジスタンスや人間達の言葉を聞き、グライフは小さくため息をつく。
「愚かな…バイル様のご慈悲をわからんとは…よかろう、1人1人、始末してくれる」
そう言って動き出すグライフ。銃を構えようとしたネージュたちだったが、その横を何かが走り、通り過ぎた。そして、自らの手をいっぱいに広げ、グライフに制止をかける少女の姿が、全員の前に映った。
「シエル!? なんでシェルターに行ってないでこっちに…!」
「シエルさん! 危ないですから戻ってください!」
突然のシエルの登場に驚く一同。すると、グライフが「ほぅ」と声を漏らした。
「貴様が“あの”シエルか…」
「教えて! どうして、こんなことをするの…? せっかく平和になったのに、せっかく、人とレプリロイドがわかりあえたのに…どうして貴方は、また戦いを生み出そうとするの!?」
シエルの言葉に、唖然として動けないレジスタンスとネージュたち。しかし、そんな中グライフは笑っていた。それはシエルを馬鹿にするかのような笑い方。
「何故? おかしなことを言う…それはバイル様に貴様らが盾付くからであろう」
「バイルは死んだわ! もういない! それなのに、こんなことをするなんて…!」
「バイル様は死んでなどいない」
「え…?」
突然のグライフの言葉に驚くシエルだったが、グライフはコツコツと自分の頭を叩く。
「私のメモリーデータにはバイル様の人格データがインプットされている。バイル様がもし、死んだら…そんな時に備えて作られたバックアップ。それが私なのだよ」
「そんな…」
シエルの顔に、絶望の表情が浮かぶ。シエルにとって大切な存在。かけがえのない存在であったゼロという犠牲を払い倒したと思っていた敵、バイルが生きている。肉体を消し去ることが出来ても、その魂を消すことは出来ていない。そんな絶望の表情を浮かべるシエルに対して、グライフはその表情を歪めて笑う。
「そう…お前のそんな絶望の表情が見たかった! 私はそんな絶望する人間やレプリロイドの表情が大好きなのだよ! 生かさず、殺さず! バイル様と永劫の未来を歩かせてやろう…!」
「…ない…」
「うん?」
嬉しそうに語っていたグライフの耳に、消えるような声が届く。それは、顔を伏せていたシエルから聞こえていた。
「させない、そんなこと…私達レジスタンスが…ゼロが…そんなこと、絶対にさせない!貴方の…バイルの野望は、私達が止める!」
つい先ほどまで絶望の表情を浮かべていたシエルが、グライフを睨みつける。しかし、グライフは笑みを崩さない。
「貴様らが? ネオアルカディアに怯え、逃げ続けていた貴様らがか? そしてゼロ? バイル様の肉体と共に滅び、既にいないものが私達を止める…? 滑稽だな! 人間は狂ってしまうとここまで愚かとは!」
「違う…ゼロは、ゼロは生きている!」
グライフからすれば、シエルの言うことは無茶苦茶に聞こえる。それは、レジスタンスやネージュ達人間も同じだった。今、劣勢を強いられる自分達の現状を見ても、シエルは諦めていない。そして、ゼロは生きていると、この場で豪語する。そんなこと普通なら出来ないが、シエルがそこまで言うのには理由があった。もし、今ここで自分達がこの男に降れば、人類とレプリロイドがまた絶望に呑まれてしまう。それはバイルに敗北したことを意味する。ゼロが必死に自分たちを守り、希望を見せてくれたのに、それではゼロの行為全てが無となってしまう。彼が自分たちに残した物だけは、何としてでも守りぬかねばならない。その結果で自分が死ぬことになったとしても、それだけは守り抜きたい。
「なるほど…あくまでも我らには降らぬと…ならば今ここで貴様を葬り去り、これから先生きて行く者達の絶望の礎としてやろう!」
グライフが言葉と共にその腕をシエルへと振り下ろした。その振り下ろされた拳、恐らく普通の人間が喰らえば一溜まりもないだろう。レジスタンスが、そしてネージュ達が息を呑む。シエルは目を瞑り、咄嗟に祈った。
(ゼロ…!)
最後に、自らを救ってきた英雄の名を呼んだ。自分がもう助からないのは分かっている。ゼロが助けてくれるわけでもない。それでもシエルがその名を呼んだのは、ゼロを信じていたからだ。自分が死に、それが人々やレプリロイドの絶望の始まりになろうとも、それでもゼロが皆の前に現れ、再び絶望を斬り払い、希望の道を作ってくれる。そう信じているからだ。しかし、祈っていたシエルへ振り下ろされた拳は、いつまで経ってもシエルへ降り注ぐことはなかった。恐る恐る、シエルはその眼を開けた。そのシエルの前にあるのは、1つの影。
「なっ…貴様、は…!」
「……シエル、大丈夫か」
シエルの目に映るのは2人。1人は自身の拳を受け止められて驚くグライフの姿。そしてもう一人は、自分の前に立つ人物。それは太陽に照らされて輝く金髪の髪と紅い装甲を纏う人物。戦いに出た時に被っていたヘルメットは失われているが、それでもシエルは間違えようがなく、その人物の名を呼んだ。
「ゼロ…!」
そう、シエルの前で奇跡が起きた。いつかの時のように、英雄はシエルの目の前に降り立ち、その窮地を救っていた。
「ゼロ、だとぉ…!? 生きていたのか!」
「あいにく、死んだつもりはない」
ゼロは言いながらその受け止めていたグライフの拳を握りつぶす。壊れはしなかったものの、ヒビが入ったのが確認できる。悲鳴を上げ、グライフは距離を取った。
「この偽物の英雄がぁ…未だにバイル様へ盾つくか!」
「バイル? アイツが生きているのか」
「そうだ! 我が身体にはバイル様のご意思…が?」
グライフがそう言った瞬間、素早く何かが通り抜けた。そしてグライフは、自身が宙を舞っていることに気がついた。そして視界に入るのは自身の下半身。その下半身の後ろには、すでに抜刀し、Zセイバーでグライフを斬り払ったゼロの姿だった。
「なら消えろ。バイルの意思など、もうこの世界には必要ない」
「バイル様ああああああああああああああああああああああああああああっ!」
グライフはそう断末魔を上げて爆発四散した。ゼロはZセイバーを収納し、シエルに向き直った。
「……帰ったぞ、シエル。任務完了だ」
「ゼロ…本物、なのよね? 幻なんかじゃ、ないのよね?」
シエルはまだ自分が夢でも見ているのではないかと疑うが、ゼロはゆっくりとシエルに近づき、その頭を撫でる。
「ああ……俺はここにいるぞ、シエル」
「ゼロ――――――――!」
シエルはその言葉に涙を流し、ゼロを強く抱きしめる。もうどこにも行かないで欲しい。ずっと傍にいて欲しい…そう願いを込めて
*
八神家
ゼロがいなくなってから、早くも一カ月が過ぎた。はやては1人、家のキッチンで朝食の支度をしていた。
「ゼロ、お鍋を…って、あかんあかん」
そう、手を出した方向には誰もいない。いつもなら「これか」とゼロが渡してくれるのだが、そこには誰もいなかった。
「はぁ…」
はやては小さくため息をついた。ゼロがオメガ(コピーウェポン)を倒した時、ゼロははやてたちの前から居なくなった。むしろ、忽然と消えたと言った方が正しいのかもしれない。それから、その世界ではやてたちは必死になってゼロを探した。何時間も何時間も、自分が倒れるまでゼロの姿を探し続けた。それでも見つかったのはゼロのヘルメットだけ。それだけ見つかっても、それでは生きているのか、死んいるのかさえわからない。
「ゼロ……」
はやては泣きそうになる自分を必死に抑える。いつもだったら隣で一緒に朝食を作っているはずの時間。完成して置いた料理をクロワールがつまみ食いをして、それをゼロが止めて、はやてが笑う。いつもの八神家の朝の姿は、忽然と消えてしまっていた。
「って、あ、お鍋お鍋」
そんなことを考えていると、鍋に入れていた味噌汁を沸騰させそうになってしまい、慌てて火を弱める。自身で考えないようにしていても、やっぱりゼロの顔は浮かんでくる。買い物の時、任務の時、リハビリの時、学校の送り迎えの時、ゼロはいつもはやての隣にいた。戦士として戦うその姿や、稀に見せる笑みに、いつも胸が熱くなる。いつからだったろうか? 気付いた時にはゼロのことをよく目で追っていたと、はやては思う。なるべくゼロの傍にいたいと思った。ゼロがなのは、フェイト、すずか、アリサ、リインフォースなどの、自分以外の女の子と話をしている時はイライラしたり、胸がもやもやしたりしてしまう。自分は果たしてゼロのことをどう思っていたのか、と不意に考えた。ゼロは大切な家族。そんなの、もう自分の中では当たり前のこと。だが、家族であるという意識の他に別の感情がはやての中にある。
「好き…なんやろうなぁ…」
そう呟いていると、自分の頬からいつの間にか涙が垂れているのに気がつく。必死に拭いているが、それはしばらく止まりそうにない。
「ゼロ…何で、急にいなくなってしまったん…?」
はやての涙が、床へと零れた
*
朝食の時間になって八神家が全員揃い、朝食となった。ただ、ゼロの席は空席のまま。そして、とても重い沈黙が食卓を支配している。ここのところ、八神家の食卓はいつもこうだ。何か打開するような話はないか? そうはやてが考えた時、はやては1つ思いだしたことを話すことにした。
「あんな…? 実は今日、ゼロの夢を見たんや」
「ゼロの!?」
はやてが言ったとたん、驚いて一同がはやてを見た。そんな皆の様子に驚きながらも、はやては言葉を続ける。
「うん。ゼロがバイル軍っていう軍隊の残党と戦ってて…その中で金髪の女の人、多分シエルさんを助ける所の夢やったんやけど…って、どうしたん?」
全員が驚いた様子ではやてを見ていた。たかが夢の話のはずが、まるで幽霊を見たかのような驚きの表情をしている。すると、ヴィータが口を開いた。
「あ、あのさはやて…それとまったく同じ夢…今日、アタシも見たんだ」
「ヴィータ…お前もか。主はやて、実は私も同じ夢を見ました」
「ええ!? 二人もなの!? 私も同じ夢を見たわ」
「お前達もか…我も同じ夢を見た」
そう、ゼロが出てくる夢を見ていたのは、はやてだけではない。ヴィータもシグナムもシャマルもザフィーラも、まったく同じ夢を見ていたのだ。これは、偶然なのだろうか? はやては、リインフォースへと顔を向ける。
「まさか、リインフォースも?」
「……はい。私も同じように夢を見ました。ゼロが戦う姿を」
全員がまったく同じ夢を見たことに驚く一同。こんな偶然が果たしてあるのだろうか? それに、全員が見た夢、それはあまりにもゼロの様子がリアルに見えていた。
「全員揃って同じ夢を見る…か。やはり、あの夢は…」
「本当にあった事…なんでしょうね」
シグナムとシャマルが言うと、はやてもさっきとは違う笑みを見せる。その笑みには、どこかホッとしたかのような、安心感を見せる笑顔だった。
「そやね。こんな偶然、普通は起らへんし…もし、あの夢が現実ならゼロとクロワールは無事に元の世界に帰れたんや」
はやて自身、自分で言っておいてなんだが、とても安心したと思う。どうして全員がそんな夢を見たのかは知らない。しかし、ゼロが生きていることは全員が確信できることだった。
「でもさ、はやて。ゼロ…元の世界に帰ったんだよな。だったら…」
もう会えないのではないか? そうヴィータが言おうとする。もうゼロがこの世界にいる必要はない。こちらに来る理由もない。しかし、ヴィータが言いきる前に、はやては首を振った。
「大丈夫、絶対また会える…だって、家族やもん」
家族だから、きっと会える。とても確信を持てないような理由だが、それでもはやては思う。きっと会えると。ふと、窓から外の天気を見てみる。夢で見た、ゼロの世界と同じ雲ひとつない素晴らしい青空が広がっている。
「いい天気やなぁ…」
なぜだろうか、この空を見ているとまた会える。はやてはそんな気がしていた。
(また会えるとええな…ううん、きっと会える。そうやろ? ゼロ)
異世界の英雄に救われた夜天の書最後の主、八神はやて。彼女はその英雄との再会を願いながらも、静かにその時を過ごしていくのであった。
Fin
ご愛読、ありがとうございました
今回の話にて登場したグライフについては、イメージとして『ロックマンゼロオフィシャルコンプリートワークス』に収録されている没案のボスであるグリフォン型のレプリロイドを採用しました。グライフはまんま、ドイツ語で『グリフォン』です。
では、後書きでお会いしましょう…