…あれ?僕は、誰と戦っていたんだっけ。思い出せない…勝ったのか?いや、此処までどんな攻防をしてきたのかは覚えている。
だけど、勝った記憶は無い。じゃあ、相手は何処に…
「っ!」
『おおっと黒鉄選手、ギリギリで防ぎました!先程までは互角に見えた戦いが一転、比企谷選手が優勢か?』
『へぇー』
『西京先生、どうなされたんですか?』
『ん?ああ。多分、今の黒坊には比企ちんが見えてない』
『へっ?…』
比企谷…僕の戦っている人は比企谷っていうのか…何で思い出せない!?その人に向けて立てたはずの戦術は思い出したのに、いつ使えば良いのか分からない。
いや、分からないのなら掴めば良いんだ。比企谷という人の剣を、戦いを、その人自身を…
なら見ろ、感じろ、そして考えろ。見えないのなら感じれば良い、感じられたら考えられる。考え切ったら見えてくる。
研ぎ澄ませ、感覚を。
…っ
『黒鉄選手、防戦一方です!』
まず、相手の武器は短剣やナイフなどのリーチの短い刀剣類。
攻撃の仕方は…死角からかと思ったら真正面から、武器での攻撃を餌にして拳や足を向けてくる…多分、性格が悪い。
それならそろそろ…
ガキンッ
『黒鉄選手、今度は完全に防ぎました。何か対策を見つけたのでしょうか』
『桐やんの時と同じ事をやろうとしてるな』
『それは、"完全掌握"という事でしょうか』
『そだな。まぁ、出来なくは無いだろ。前にルームメイトだった事が有るみたいだし』
『これは分からなくなってきました!この戦い、どちらが勝利を手にするのでしょうか!?』
…ルームメイト?ステラの前にルームメイトだった人は…優しかった、気がする。だけど
容赦は無かった、気がする。
「…そこにいるのかい?比企谷君」
君?僕は何で男だって思ったんだ?比企谷、君…
「はぁ…やっぱこの位が限界か」
っ!確かに聞こえた、声が。背後から。
『黒鉄選手、遂に反撃に出ました!遂に掴んだのでしょうか?比企谷選手の全てを!」
掴む?そんなのは無理だ…こんな、こんなに矛盾だらけの人を掴める筈が無い。
だけど…だけどっ!僕は、
「僕は諦めない、僕が僕である限り!」
「そうか、まぁそりゃそうだよな」
あ…思い、出した。比企谷君、彼はそういう人だった。矛盾だらけで不可解な人。でも、曲がっていても一本の芯が通っている。
「どうだった?相手選手が分からない状態での戦いは」
「いい経験になったよ。こんな事、学生じゃ中々出来ないからね。」
「はぁ…やっぱお前は主人公だよ。そして俺じゃあ力不足だ、お前の物語に参加するには。
だけど、その物語をより劇的にする為の障害くらいにはなってやるよ」