孤独な英雄譚   作:どうしようもない

4 / 5
IV

「"朧"」

 

八幡はそう呟く。数瞬後、一輝は失った。自分の全てを。自分だけの物、そう思っていた記憶、それが失われた。

もう一輝には分からない。自分が何故此処にいるのかを。自分が何を信じてきたのかを。そして、自分が一体誰なのかという事を。

しかし、それは一輝の事。八幡には一切、何の関わりもない。だから、八幡は無言で零を構える。

この戦い、それに終止符を打つ為に。

 

――――――――――――

 

僕は…何をしてるんだっけ。何でこんな武器を握って…

何でこんな所に…何でこんな大勢に見られてるんだよっ

痛っ!何で痛いんだ?

何で、何で……何で………何で……………

何であの男の人は、僕の方にナイフを向けてるんだ?

 

――――――――――――

 

『…黒鉄選手はどうしたのでしょうか?突然膝を抱えて座り込んでしまいました。あれだと隙だらけでは…』

 

『これは…』

 

『どうしたんですか?西京先生』

 

『黒坊の奴、戦意が完全に喪失してやがる…』

 

『え……』

 

西京の一言、それをすぐに理解できた者は八幡くらいだろう。

一輝を知っていれば知っている程、彼にとっての諦めると言うことが、どれだけの事かを知っている。

故に信じられない、理解出来ない。

いつしか、あれだけあった声援も消え、会場からは音が無くなっていた。

だが一人、一人だけは耐えられなかった。一輝が負けそうなのを…一輝に、自分の大好きな騎士に、戦意が宿っていない様子を見るのが。だから、声を上げた。叫んだ。

 

「イッキぃぃぃ!最後まで…最後まで戦いなさいよっ!アンタが諦めたらっ…何を追い掛ければいいのよっ!」

 

ステラの声が響く。

 

――――――――――――

 

イッキ?それは、僕の事?僕は…何で戦わないといけない?こんなに痛いのに、楽しい事なんて何も無いのに…

そうだ、降参しよう…

ドクンッ

な、何で…僕は戦いたく無い、怪我なんて嫌だ。なのに、何で声が出ないんだよ…

 

――――――――――――

 

"朧"を使った瞬間、八幡は自分の勝利を確信していた。油断や自分の力を過信しているわけでは無く、単なる事実として確信していた。

しかし一輝は諦めきらなかった。いや、諦めきれなかった。

自分の全てが失われても、体に染み込んだ想いは抜けなかった。

八幡はそんな一輝の事を羨ましいと思った。思ってしまった。

だから…

 

「どこまでも"主人公"だな、お前は」

 

"朧"を使う事を止めた。

瞬間、一輝に失われた全てが戻って来た。そして理解した、次の一合で勝負が着くと。自分は全力を尽くさなければならないと。

だから使った。自分の全てを出し尽くす為に。"一刀修羅"を

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。