「"朧"」
八幡はそう呟く。数瞬後、一輝は失った。自分の全てを。自分だけの物、そう思っていた記憶、それが失われた。
もう一輝には分からない。自分が何故此処にいるのかを。自分が何を信じてきたのかを。そして、自分が一体誰なのかという事を。
しかし、それは一輝の事。八幡には一切、何の関わりもない。だから、八幡は無言で零を構える。
この戦い、それに終止符を打つ為に。
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僕は…何をしてるんだっけ。何でこんな武器を握って…
何でこんな所に…何でこんな大勢に見られてるんだよっ
痛っ!何で痛いんだ?
何で、何で……何で………何で……………
何であの男の人は、僕の方にナイフを向けてるんだ?
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『…黒鉄選手はどうしたのでしょうか?突然膝を抱えて座り込んでしまいました。あれだと隙だらけでは…』
『これは…』
『どうしたんですか?西京先生』
『黒坊の奴、戦意が完全に喪失してやがる…』
『え……』
西京の一言、それをすぐに理解できた者は八幡くらいだろう。
一輝を知っていれば知っている程、彼にとっての諦めると言うことが、どれだけの事かを知っている。
故に信じられない、理解出来ない。
いつしか、あれだけあった声援も消え、会場からは音が無くなっていた。
だが一人、一人だけは耐えられなかった。一輝が負けそうなのを…一輝に、自分の大好きな騎士に、戦意が宿っていない様子を見るのが。だから、声を上げた。叫んだ。
「イッキぃぃぃ!最後まで…最後まで戦いなさいよっ!アンタが諦めたらっ…何を追い掛ければいいのよっ!」
ステラの声が響く。
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イッキ?それは、僕の事?僕は…何で戦わないといけない?こんなに痛いのに、楽しい事なんて何も無いのに…
そうだ、降参しよう…
ドクンッ
な、何で…僕は戦いたく無い、怪我なんて嫌だ。なのに、何で声が出ないんだよ…
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"朧"を使った瞬間、八幡は自分の勝利を確信していた。油断や自分の力を過信しているわけでは無く、単なる事実として確信していた。
しかし一輝は諦めきらなかった。いや、諦めきれなかった。
自分の全てが失われても、体に染み込んだ想いは抜けなかった。
八幡はそんな一輝の事を羨ましいと思った。思ってしまった。
だから…
「どこまでも"主人公"だな、お前は」
"朧"を使う事を止めた。
瞬間、一輝に失われた全てが戻って来た。そして理解した、次の一合で勝負が着くと。自分は全力を尽くさなければならないと。
だから使った。自分の全てを出し尽くす為に。"一刀修羅"を