バジュラを利用し、銀河全土を掌握しようとしたグレイスの野望を新統合軍とSMSの部隊が打ち砕いた戦いから4ヶ月が過ぎた。
戦いによって傷ついたフロンティア船団はバジュラの母星を新天地とし、バジュラとの共存の道を選んだ。
その戦いの中で、人類にとって、俺にとって大きかった存在。
「ちょっとぉ、アルト聞いてるの?」
「アルト君、疲れてる?」
そう。ランカとシェリルだ。2人は希望の歌姫として人々に力を与えた。
もし2人が居なければ、俺達はこうして平和な日々を送る事は出来ていないだろう。
俺達がこの星に降り立って間もない頃。人類はバジュラとのコミュニケーションの術を持っていなかった。二人だけがバジュラとの接点だった。そこで2人とバジュラのコミュニケーションシステムを研究し、改良し、今ではバジュラと直接的に会話する技術が確立されつつある。
そして何より、2人は俺の翼となり、俺に戦う力と、守る勇気をくれた。
「ああ。悪い。大丈夫だ。」
「アルトの癖にこの私の目の前で考え事なんて、いい度胸じゃない。ここはアルトのおごりね。」
「…ったく。わかったよ。…で?今日は一体何すんだ?」
「そうねえ…じゃあ、ショッピングに行きましょ」
「…はあ?」
そういってニヤリと笑うシェリルに、俺とランカはただ呆然としていた。
「ここに来るのも久しぶりだな。そういや、ランカはここが初ライブだったっけ。」
俺達はシェリルに従い、ゼントラーディのショッピングモールに来ていた。
「うん。あの時はアルト君に励ましてもらったんだよね。…ほんと、アルト君には助けてもらってばかりだな。」
そういってランカは少しだけ照れたように、少しだけ懐かしそうに、微笑む。だけど。
「いや、俺もランカには助けられたよ。初めてヴァルキリーに乗った時も、SMSへの入隊を決めた時も、お前を守りたいと思ったから、動けたんだ。それに、この前の戦いでは、お前の歌が俺の力になった。バジュラをとめて、俺達を救ってくれた。だから、お互い様だよ。」
そういって振り返る。すると目の前にランカの顔が現れた。
視線がぶつかり、互いの吐息が絡まる距離。ランカは見る見るうちに赤く頬を染める。俺も自分の顔が火照るのを感じる。でも、それでも2人の視線は絡み合い、互いに目をそらせなくなって。
「ちょっと2人とも何やってんのよ。これじゃまるで私が蚊帳の外じゃない。」
シェリルの声を合図に、とまった時が動き出す。俺とランカはどちらからとも無く、互いに視線をそらす。でも、やはり胸の高鳴りは収まらなかった。
ふたたび歩き出す。あれこれと見て回るランカとシェリルに、振り回されながら休日が過ぎていく。
突然、左のうでにずしりと重みが伝わる。
「…何をしている。」
見れば、シェリルが俺の腕に抱きついていた。
「見たらわかるでしょ。腕、組んでるのよ。」
シェリルはこれが当然とでも言うかのように、平然と言い切る。
…まったく。こいつは何考えてるんだ。こんな事やったらまた…
「シェリルさんずるーい!私もアルト君と腕組みたいよ!」
…ほらな。こうなると思ったんだよ。
「あら、ランカちゃん、素直になったんだ。」
「当たり前です!私、ぜえ~~ったい、負けませんから!」
こうして、2人の口げんかの火蓋は切って落とされた。
…まったく。勘弁してくれ。シェリルは突然「アルトは私の奴隷よ!」とか言い出すし、ランカはランカで「アルト君は奴隷なんかじゃありません!私のお姫様です!」とか。ちょっと待ってくれ二人とも。俺は奴隷でも姫でもない。それにランカ、姫と言われるくらいなら、奴隷のほうがまだマシだ。
第一お前らはこれでも一応は希望の歌姫。こんなところでぎゃあぎゃあと言い合いをしていれば当然周囲の人々の関心を集める。頼むからもう少し場所と時間を考えてくれ。
こんな俺の抗議はどこ吹く風。2人の言い争いは留まるところを知らない。
正直、二人がこうやって言い争うのは、俺のせいであると気付いている。以前、俺達がバジュラの母星に降り立った時、俺は二人の事を始めて異性として意識した。いとおしいと思った。けど、どちらかを選ぶにはまだ覚悟が足りなくて。
結局俺は、2人が俺の翼だといって答えを出せなかった。そのせいで今二人は苦しんでいる。2人は俺を救ってくれた。俺に本物の空を与え、俺に戦う理由をくれた。俺の心に温もりを感じさせてくれた。
今の俺は、そんな二人の優しさに甘えているだけだ。二人に、何も返せていない。
だから、いい加減俺も…
「ちょっとアルト!あんた、結局どっちを選ぶのよ?」
「ああ。わかってる。近いうちに必ず答えを出す。だから、今はまだ待っててくれないか?」
そうだ。俺は、自分で選ぶんだ。周りに流される事なく、自分の意思で、選ぶんだ。
「…わかったわ。それじゃ、待ってあげる。…でもアルト、あんまり待たせるのは感心しないわよ?」
そういって、シェリルは歩き出す。辺りはすっかり暗くなっていて、ショッピングモールの出口にはすでに迎えの車が来ていた。
「それじゃ、アルト、ランカちゃん。今日は楽しかったわ。」
そういってシェリルは車に乗り込み、手を振る。シェリルを乗せた車はゆっくりと加速し、走り去っていった。
「さてと、それじゃ、俺達も帰るか。」
ランカと2人、夕日に染まる町を歩く。路面電車の走り去る音。自動販売機の駆動音。道行く人々の笑い声。昨日と変わらず、明日も、そして明後日も続いていく何気ない日常。やっと手に入れた俺たちの平穏。
「アルト君、今日は楽しかった。ありがとうね。」
「ああ。じゃあ、また。」
気付けば、すでにランカの家に着いていた。手を振りながら家に入るランカを見送り、再び歩き出す。
「…、どうしたもんかな…」
吐き出した白い息は、群青に染まりはじめた空へと舞い上がる。
…俺は、本当に選べるのだろうか。どちらかを、傷つける覚悟が、あるのだろうか。
今はまだわからない。でも、もう逃げないと決めた。俺は、どちらか一方を選ぶ。そして、返すんだ。俺が力をもらったように。
そう決意をかみしめて、俺はまた歩き出す。