「通常のセリフ」
〔無線を通したセリフ〕
(心の中の独白)
となっています。
時計のアラームが鳴っているのを感じた。重いまぶたを開け、ちらりと時計を見る。時刻は午前7時。今日はスカル小隊は非番だ。もう一眠りしよう。
そう思い、布団をかぶりなおした、その時だった。
〔大統領府よりエマージェンシー。コードレッド。コードレッドが発令された。各小隊長はブリッジに集合。全小隊、スクランブル体制。非番の小隊も早急に出撃体制を取れ。繰り返す。…〕
…コードレッド?全小隊スクランブル?
一気に覚醒した脳は状況の全てを飲み込めたわけじゃない。でも、やることはわかっている。
「おい、今の聞いたか?」
俺と同じように今目覚めた風体のミシェルが上から覗き込んできた。
「ああ。コードレッドなんて、どうなってんだ?」
コードレッド。それは、第二防衛ラインが破られた時に出される、いわば警戒レベルを示すサインだ。ブルーは平常。イエローは不明機接近、各小隊アラート待機・当直機のスクランブル。レッドは攻撃の意思を持った機体との交戦あり、全小隊スクランブル。
ブルー、イエローを通り越して一気にレッドが出されるという事は、敵が相当危険だという事を意味していた。
「全くだ。わけがわからん。とりあえず、急いだほうがよさそうだな。」
そういってミシェルはベッドから飛び降りる。俺もベッドから転がり落ちるようにして、更衣室へと走った。
更衣室にはルカがEXギアを装備した状態で待っていた。俺達も自分のロッカーからフライトスーツとEXギアを取り出し、手早く装着していく。
3人全員が出撃できる状況になったところで、ハンガーに移動。コックピットに飛び乗る。
エンジン出力、フラップ駆動、レーダー。その他各項目をチェック。異常無しのサインを送る。
ハンガーには俺達スカル小隊のほかにピクシー小隊とレグルス小隊。そしてカノープス小隊が待機していた。
1分もせずに各小隊長達がハンガーに駆け込んできた。各々自分の機体に乗り込み、無線で状況を伝える。
〔こちらスカルリーダー。スカル2から4へ。これより状況を説明する。現在、未確認ヴァルキリー郡が第二防衛ラインを突破。こちらに向かっている。総数は20。先行スクランブルで出撃した統合軍の無人迎撃機4個飛行隊とスピカ小隊及びリゲル小隊が全滅。第二陣のブラボー小隊とハリケーン小隊、イプシオン小隊が応戦中だが、長くは持たん。我々SMSは統合軍第3次迎撃陣と合流。迎撃に当たる。各機、十分に警戒せよ。〕
隊長が淡々と状況を説明する間に他の小隊は次々に出撃していく。突然の戦闘に、心が焦る。
〔こちらマクロスクォーターブリッジ。スカル小隊、出撃してください。〕
ようやく出撃許可が出る。スカル小隊のメンバーがそれぞれの滑走路へとタキシングしていく。メカニックが搭載兵装をホワイトボードに示した。
了解の合図を出し、4番カタパルトへと機体をタキシングさせる。
滑走路では、大勢の兵士が慌ただしく動いていた。兵士がスイッチを入れ、リニアカタパルトが展開する。
カタパルトオフィサーがこちらにサムアップ。出撃準備完了の合図だ。
こちらもサムアップで返し、スロットルを押し込んでエンジン出力を上げる。
カタパルトオフィサーの合図とともに機体のロックが外れる。リニアカタパルトとスーパーパックの力を借りた機体は急加速。あっという間にクォーターから離れた。
出撃許可が下りて、僅か1分だった。
〔スカル1より各機。異常は無いか。〕
〔スカル2異常ありません。〕
〔スカル3同じく大丈夫です。〕
「こちらスカル4。異常なし。」
〔よし。全機、前方のアステロイドベルトに突入。機体に傷をつけるなよ。〕
〔〔「了解。」〕〕
言い終るが早いか、俺達の脇を3機のVF―27と5機のゴースト、12機のVF―171EXが編隊を組んですり抜ける。
〔こちらアンタレス1。SMS。待たせてすまない。〕
「アンタレス1?ブレラか!」
〔ああ。スカル4、よろしく頼む。…イーグル小隊、ジャッカル小隊。フォールドで先行しろ。レッド小隊は後方支援および観測任務に就け。パープル小隊は俺達とともに行動。戦闘区域に突入後は各機自由戦闘。〕
ブレラの指示を受け、統合軍機は動き出す。フォールド特有の淡い紫色の光が周囲を照らし出す。
数分後、俺達は戦闘宙域へと到達した。
周囲に動くものは無く、ただ時折近くの隕石群で隕石がぶつかり合う音だけが響いていた。そして、周囲には無数の金属片と、統合軍機の物と思しき残骸が散らばっていた。
〔こ、これは…ジャッカル小隊の…〕
〔こっちにはイーグル小隊の機体が!〕
その残骸は、フォールドで先行した部隊の物だった。弾薬を使った形跡はほとんど無かった。恐らく、デフォールドして間もなく攻撃を受け、撃墜されたのだろう。
グレイスとの戦い以来、統合軍の錬度は以前とは比較にならないほど高まっていた。
その統合軍機を瞬時に落とすほどの腕と、機体性能。
もしかしたら、今こうしている瞬間も、敵は俺達に狙いをつけているかもしれない。
最悪の事態を想像して、出た汗が頬を伝った次の瞬間、コックピット内に警報音が鳴り響く。
〔アルト、6時の方向!ミサイル多数接近!避けろ!〕
反射的にスロットルを押し込み、回避軌道を取る。
〔レグルス4、7時方向よりミサイル接近!ブレイク、ブレイク!〕
シザースからのスプリットS。
〔こちらレグルス4!クソッ!振り切れな…うわああああ!〕
次いでコブラ。
〔レグルス4被弾!信号ロスト!〕
スロットルを引き絞り、パワーダイブ。
〔クソ!どこから打ってきたんだ!〕
〔こちらレッド2、左主翼に被弾、離脱します!〕
〔パープル3、被弾。右エンジンを持ってかれた!離脱する!〕
〔統合軍各隊、状況を報告してください!〕
現場は混乱していた。どこから飛んできたのかもわからないミサイルを受け、多くの仲間が宙に散った。周囲からは爆発音が響き、爆炎で視界が遮られる。
一度は途切れた警報が再びコックピット内に響く。気付けば、敵に後ろを取られていた。
スロットルを押し込み、敵を放そうとするが、機体の性能差からか、敵は全く離れない。操縦桿を縦横無尽に繰り、軌道を不規則に変えても振り切れない。
すでに限界以上のエンジンパワーを出しているにもかかわらず、敵はぴたりと俺の後ろについてくる。
…こうなったら、一か八かだ。
スロットルを一気に引き戻し、エンジンパワーを落とす。と同時に操縦桿を目いっぱい引いて、機体を反転させる。180度回転したところでスロットルをニュートラルポジションに戻す。逆推力を受けた機体は一気に減速し、敵機が俺の脇をすり抜ける。再び操縦桿を引き、元の体制に戻る。クルビットにより前後がそっくり入れ替わり、俺が敵の後ろを取る形となった。
敵は隕石群に逃れる。俺も後を追って隕石群に突入。無数に散らばる隕石の間をすり抜けながら、狙いを定める。しかし、敵は隕石の影に隠れ、なかなかロックオンできない。隕石群に気を取られたその一瞬のうちに敵はいなくなっていた。
レーダーの反応が薄く、索敵が出来ない。目視での索敵を行うが、見つからない。
「どこだ…?」
音の無い世界。1分にも、1時間にも感じられる沈黙。それを破ったのは、敵を捕捉した事を知らせるアラームだった。同時にレーダー照射の警告。
2時の方向、こちらにまっすぐ向かって来る敵機。機首を敵に向け、スロットルを押し込む。敵機から無数のミサイルが放たれる。こちらもローリングでかわしながらミサイルを撃つ。
ミサイルを撃った瞬間、機体に衝撃が走った。バリバリッと金属が避ける音が聞こえ、すぐさまモニターに異変が映し出される。避けそこなったたった一基のミサイル。それが俺の機体の右側に突き刺さり、右主翼を根こそぎもぎ取っていた。
俺の撃ったミサイルも敵に直撃。敵の右エンジンに深く突き刺さる。信管が作動し、弾頭が爆発。敵を撃墜した。
〔スカル1より各機、敵が撤退を始めた。全機、帰艦するぞ。被害を受けた機は報告。〕
隕石群の向こうで、敵がフォールドしていくのが見えた。…なんとか、生き残れた。機体は中破ってとこか。
「こちらスカル4。敵ミサイル被弾。右主翼損失。中破です。」
〔こちらスカル3。同じく被弾。イージスパックが大破。左エンジン出力に異常があります。〕
〔スカル2、左主翼の駆動系が破損。コントロールが効きません。〕
無傷の機体は1機も無かった。どの機体も傷ついていた。無線の中で口を開く者は居なかった。戦闘中にたまっていたGが、軽減されつつも身体にのしかかる。
何人のパイロットが死んだのだろう。10分にも満たない戦闘で、多数の死者が出た。一瞬の油断が、少しの不運が、一手のミスが命を奪う戦場。そこから俺たちは、まだ解放されていなかった。
〔そういえば、敵の通信の中で気になる言葉が…〕
沈黙を破ったのはルカだった。
〔なんだ?〕
〔敵が撤退する直前、無線で言ってたんです。プロキオン…と〕
プロキオン…聞いたことが無い。
〔プロキオン…だと…!?〕
反応を示したのはミシェルだった。
「知ってるのか?」
〔…ギャラクシーの同型で、10年前に消息不明になっていた22番目の船団…マクロス・プロキオンだ…〕
マクロス・プロキオン…。消息不明の船団。ギャラクシーの同型…。妙な胸騒ぎがする。大きな脅威が迫っているような、得体の知れない焦燥感。以降、帰還の道中で口を開くものは居なかった。
宇宙空間で音が伝わらないのはよく言われることですが、演出の関係上、「音」は重要なのでそこは気にしないでください(笑)