赤ずきんと狼は恋をする。   作:◇ 愛月 ◇

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第12話

 

目の前の光景に、私はいつまでもフリーズしていた。

 

獣の耳がある、目が片目だけ赤い。

 

間違いない、この人は“フユと似ている”

 

 

「え、あ……」

 

私が彼を見あげたまま声にならない声を上げていると、彼は目を丸くして私を見下ろした。

 

「ごめんね、ぶつかっちゃって」

「えっ……」

 

てっきり私は怒られると思っていた。

狼のように見えるし、最悪の場合襲われてしまうのではないかと思っていたのだが、どうやらそれは杞憂だったらしい。

彼はとても優しい笑顔で私の顔をのぞき込んだ。

 

「顔大丈夫?痛くない?」

「はっ、はい……」

 

その端正な顔が目の前にまできて私は慌ててしまった。

数歩後ろに下がって手をブンブンと振ると、彼はホッとしたため息をついて笑った。

 

「そういえば、僕みたいな人を見なかった?」

「え?」

 

そういうと彼はフードを取って自分の耳を指さした。

フードからは綺麗な銀髪の髪が露になって、つい見とれてしまいそうだった。

そこからはえている耳は狼のような灰色をしていて、フユと重なる。

 

「あ、それなら……」

「見たことあるんだね?」

「い、一応」

「その子に会いたいんだ。案内してくれるかな?」

 

フユのことを話していいのか迷ってしまったが、どうやら仲間のようだし話しても大丈夫かと私は頷いてしまった。

 

「けど、あなたの探してる人が彼なのかわからないんですが…」

「ああそれなら心配いらないよ。村からいなくなった狼を探してるわけだから誰でも構わないんだ」

 

この人はもしかしたら村から出ていった狼を連れ戻そうとしているのだろうか。

だとしたらフユはどうなるのだろう。

フユは祖母の家から頑なに出ようとしない。

それは元いた場所に戻るのが嫌だからなのか……?

 

「そういえば、僕の名前はユキ。よろしく」

「あ、アカツキです」

 

彼から差し出された手を握り、私も名前を言った。

 

フユとユキ

 

名前が似ているのは気なせいなのか、なにか関連があるのか。

少なくともユキはフユの知り合いみたいだし、祖母の家からフユが出ていってくれるのならそれはそれで嬉しいのでユキを家につれていってデメリットはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここに彼がいるの?」

「…はい」

「なるほどねー」

 

ユキは何かを考え込んでいるようで、祖母の家を見上げた。

 

「これはアカツキの家でもあるの?」

「私の祖母の家です。…祖母はもういませんが」

「……まさか」

「はい……」

 

ユキは青ざめた顔をしてこめかみに手を当てた。

そして顔を上げると本当に申し訳なさそうな顔をして私を見る。

 

「ほんとに悪いことをしたね…。君の祖母は何も悪くないのに…」

「い、いえ。ユキは悪くないですよ」

「でも……」

 

私はえへへ、と苦笑するとユキはまだ晴れない顔をしていたが私を見て微かに頷いた。

それを確認してから私はドアへ向き直る。

ドアを開けて、中にフユがいるか確認した。

 

「ただいま。フユに会いたいって人がいるんだけど」

「……は」

 

フユは相変わらずいつもの椅子に座っていた。

だるそうな目をしながら私を見て、その後ろにいる人物も見た。

 

「なっ……!」

「フユの知り合いなんだよね?」

「お前…!馬鹿ーーーーーーーー」

 

フユが珍しく慌てた顔をして椅子から立ち上がり私に手を伸ばす。

何が起きたのかとまだわからずに突っ立っていると、フユが私の手を掴むより先に、私は後ろに引っ張られた。

 

「わっ!?」

「会いたかったよ、人狼くん」

「……へ…?」

 

私を後ろに引っ張ると、私はユキに思いっきり寄りかかる形になってしまった。

慌てて態勢を戻そうとしても力が強くてユキから逃げることが出来ない。

フユの手を空を掴み、そのまま元に戻っていった。

 

「……ユキ」

「お久しぶり」

 

ユキが後ろから私に顔を近づけてきて、私の顔のそばで笑う。

その雰囲気から、先程までとは違う何かを感じる。

 

「ふふ、ごめんねアカツキ。君には人質になってもらうよ」

「ゆ、ユキ…?」

 

 


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