「…あなた、名前は何ていうの…?」
今は、 まず動揺しているのをバレてはいけないと思った。
相手にペースを掴まれては、それこそ不利になってしまう。
「…俺の名前しってどうすんの」
無表情な顔にプラス寄った眉をされるとそれなりに怖くて、つい体が震えてしまう。
「ど、どうってわけじゃないけど…知っておきたいじゃない」
相手の名前を尋ねるのに理由なんているのだろうか。
顔を会わせて、名乗る流れは常識として頭の中に入っていたからそんなことを聞かれるとつい考えてしまう。
「じゃあ、言わない」
一瞬、目を丸くしたままぽかんとしてしまった。
まさか名前をいうことを拒否されるとは思わなかったのだ。
「…何でよ」
「必要性を感じない」
バッサリと切り捨てられて少しムッとした。
けれど変に反抗して何かされたらそれこそ取り返しのつかないことになるのでここはぐっと抑えた。
「…祖母を探してきます」
このままここにいても何も解決しない。
この人がいる限り家を片付けることも、家の中で祖母を探すことも出来ない。
ならば外を探した方が効率的な気がする。
一応私のことを食べる気は今の時点ではなさそうだし、多少動いても大丈夫だろう。
「だから、食ったって言ってんじゃん」
「そんなの…信じられるはずないでしょ」
祖母が食べられたなんて信じたくない。
きっと祖母は生きている。
これはあの狼の嘘だ。
祖母はどこかで寒さに震えながら生きているに違いない。
私が見つけないと、誰も祖母を見つけてくれない。
祖母をなんとしてでも見つけなくちゃいけない。
両親が悲しんでしまうから。
どうしても見つけないと……
「…あんな奴、なんで心配すんの」
ドアの元まで歩いた時、彼は私に背を向けたまま問いかけた。
私も振り返ることはなく、俯いたまま答えた。
「…血が繋がってるから、あんな人でも…私のおばあちゃんなの」
そう言い残して私はドアから外へ出ていった。
狼を外に追い出すなんてあとだ。
まずは、この寒い中どうやって祖母を見つけるか考えないと…
白い息が外の寒さを表している。
手が凍えるように冷たい。
マフラーをつけていても顔が冷たい。
こんなとき、頭巾のようなものがあれば…きっと暖かいのに。
茶色いコートを羽織っていても寒さは決して拭えきれなかった。
肌がチクチクと痛くて、いろいろありすぎて涙が出てきそうだった。
もう少し早く祖母の家に来ていれば、もしかしたら祖母はまだベッドにいたのだろうか。
あんなに重い足取りで歩かなければ、まだ間に合っていたのだろうか。
せめて祖母をかばうことが出来れば、祖母は生きていたのかもしれないのに。
まだ祖母のことは諦めていないけど、彼の“食った”という言葉が頭から離れない。
こんなことになるのなら、いろいろ対処法はあったはずだ。
狼というくらいだから、極端な話猟師に頼んでも良かった。
猟師ならあの狼から祖母を救ってくれたかもしれないのに。
「…っ!……おばあちゃん!いたら返事して!」
ただ心の中で呟いて歩いているだけでも祖母は見つからないかもしれないと思って、声に出して祖母を探した。
少しの可能性を信じて、なんとしてでも祖母を見つけないといけない。