赤ずきんと狼は恋をする。   作:◇ 愛月 ◇

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濁った目。

壁掛け時計に目をやると、時間はもう少し暗く感じる4時を過ぎていた。

いつも3時にはここを出ているからいつもより1時間も遅くなってしまった。

きっと母も心配しているに違いない。

けれど結局彼“フユ”を追い出すことは出来なかった。

今彼は体が暖かくなってこんな中途半端な時間にうとうとしている。

仮にもこの家の関係者がいるところで、そんなに隙を見せていいものだろうか。

 

「…そろそろ私、帰らないといけないんだけど」

 

困惑気味の表情で言うと、まだうとうとしながら彼は顔を上げた。

 

「……んー」

 

それだけ言うと彼はまた寝そうになってしまう。

私は慌てて席を立って彼の顔を覗く。

 

「あの…あなたに出ていってもらわないと安心して帰れないんだけど…」

 

まず祖母が見つかっていない時点で安心などできないけれど、狼人間が家にいたままなんてもっと安心なんてできない。

安心どころか、心配過ぎて食欲が無くなってしまいそうだ。

 

「これから俺住むって言ったけど」

 

「だから…認めてないってば」

 

あたかも自分の言っていることが正しいことのように当たり前に言ってくるから、私が少し拍子抜けてしまった。

 

「べつに、雨風しのげればいいってだけ。変なことしない」

 

そういう問題ではない気がするのだが、彼はどこかずれているみたいで、もういいでしょとでも言いたげな顔をしていた。

 

「だけど…そういうわけには……」

 

時計にもう一度目をやる。

時間はどんどん過ぎていって、外はどんどん暗くなってしまう。

早く帰ろうとは思うけれどこのまま彼を放置して帰るのも罪悪感で押し潰されそうだ。

焦りながら早く出ていって欲しいと心の中で思っていると、彼はふと私を見る。

 

「…俺が何かしそうだ、って怖いの?」

 

ふと言われた言葉に私は視線をそらすことしか出来なかった。

それもあるけど、一番は祖母のことが……

 

「…本当のことを言って欲しいの」

 

私は彼の質問には直接答えず、彼の瞳をまっすぐに見た。

 

 

「あなたは、本当におばあちゃんを食べてしまったの?」

 

 

これを聞くのが本当に怖かった。

手はかすかに震えているし、彼の瞳を見るのも怖かった。

フユは、とても濁った瞳をしている。

赤く夕日のような色をしているのに、どこか霞んでいて本当の部分が見えない。

雲の奥にある太陽が見えないのだ。

その雲さえなければ、彼はとても綺麗な目をするのだと思う。

 

「……俺が嘘をいう可能性あるけど」

 

「たとえ嘘でも、私はフユが本当のことを言ったって信じるよ」

 

少し信じてみようと思ったのだ。

彼は、まだ会ってばかりだけど少し優しい部分も見えた。

狼人間なんて怖いけど、人を食べたということが怖いけど、私のことを食べようとはしていない。

なんでかはわからないけど、私に敵意がないのなら、私だけが彼を怯えて逃げるのも彼が可哀想だと思ったのだ。

 

「俺は、最初から本当のことしか言ってない」

 

「……そう」

 

これ以上は何も言いたくなかった。言えなかった。

現実を突きつけられて、これ以上顔を背けるわけにもいかなかった。

私はもう帰ろうと思ってドアに手をかける。

そのとき、ふと思い立って振り返った。

 

「私のお父さん、猟師なの……」

 

彼の灰色の毛をした大きな耳がピクリ、と動いた。

 

「…そしたらフユは、私を殺す…?」

 

このあと家に帰って、私が父にこのことを話し、父がフユを殺しにここまで来るかもしれない。

そしたらフユの命が危ないし、そんなことになるのなら私を殺そうと、してしまうのだろうか。

 

「殺さない」

 

思っていたより返事が早くて、私は驚いてしまう。

 

「…アカツキは、そんな人じゃないよ」

 

こんな短時間で私の何がわかったというんだ。

私が父に言わないと何で決めつけられるんだ。

フユが何を思っているのかわからない。

私はまだフユのこと何もわかっていないのに、何であなたは私のことをそんなに知ったような口調で話すんだろう。

そんなことを言われたら、よけいに言えなくなってしまう。

彼を裏切るような気持ちになってしまう。

罪悪感に押し潰される。

……フユは、ずるいことをしてきた。

 

「…わからないじゃない、そんなこと」

 

声が小さくなった。

無意識に、もう既にこんなことを考えていることに罪悪感を感じているのだろうか。

 

「アカツキは、そんな人じゃないよ」

 

彼は一字一句変わらないまた同じ言葉を言った。

本当に何が言いたいのかわからない。

私はこの場にいるのが苦しくなって、最後に小さく「帰る」とだけ言ってドアから外に出た。

 

 

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