狩る立場。
今日はいつもより早めに祖母の家に来た。
父はいつも通り森に狩りへ行き、母には祖母に作ってあげたい料理がいつもより時間がかかるから早めに出ると言った。
父は私がこれから狼人間と会うなんて想像もしていないのだろう。
私が狼人間と会っているなんて言ったらきっとすぐに祖母の家に行って彼を仕留めるはずだ。
祖母を食べたのだから仕留めたって良いのだけれど、やっぱり両親に彼のことを話すのはできなかった。
彼のあの言葉が頭から離れなくて、彼を裏切るような気がして口にすることは出来なかった。
またこれから彼と会うことになるけど、彼はどうしているのだろうか。
行きの道でも祖母はいなかった。
あちこちを見回したけど、声も聞こえなかったし、やっぱり外にはいないのだろうか。
祖母を探しながら家に向かったため、彼のいる家に着いたのはいつも通りの時間だった。
両親に嘘をついているのが少し後ろめたいが、今はそれどころではなかったのだ。
恐る恐るドアを開けてみる。
少し錆びた音がして、中が見えてきた。
「…あれ」
家には誰もいなかった。
いつもなら奥に見えるベッドに祖母が横になっている。
彼はまたうとうとと椅子に座っているのかと思っていた。
どこへ行ったのか、もう家から出ていったのか。
まっすぐ歩いてテーブルに視線を落とす。
昨日はここにいた彼が、椅子をだらしなく置いたままでどこかへ消えてしまっている。
ため息をついて、後ろを振り返ろうとした。
ーーーーー息が、止まるかと思った。
いや、実際少しの間息を吸うのを忘れていたと思う。
彼が、フユが私の背後に立っていて、体中に返り血のようなものを受けて、口の周りは赤く染まっていた。
そこまで血が飛んでいたわけではない。
そのはずなのに、私は死ぬほど驚いたのだ。
手には力なく項垂れた鳥が握られている。
そのままガタッ、とテーブルに体重を預けてしまった。
口から言葉を出そうとしても、ぷるぷると震えるだけで声が出てこなかった。
彼は私を見て一瞬驚いた顔をしたが、すぐいつも通りの顔になった。
「脅かそうと思ったのに」
もう十分驚いている。
こんな姿を見せられて、普通でいれるはずがない。
「な、何をしているの……」
私の驚きを無視して、彼は手に持っていた鳥を見た。
「腹減ったから、狩りしてた」
やっと足に力が入ってくるようになった頃、フユは鳥を片手で持って少し嬉しそうな顔をした。
「…わからないの」
彼は、首をかしげた。
「……そんな姿、私に見せないでよ」
怖くて仕方がなかった。
彼が狼人間で、生き物の命を奪って生きているという事実を突きつけられるから、見たくなかった。
彼は自分の服を見て、やっと理解したようだった。
「アカツキは、血が苦手なんだ」
「……あなた、何匹の生き物を狩ったの?」
手に持っている鳥はできるだけ見ないようにして、彼の血に染まった口元を見ながら、気丈に話していた。
「今日は、5匹くらい」
何のためらいもなく彼は告げてくる。
その数に、私はこの場から逃げ出したくなった。
「……早く、血を落としてきて」
彼から目線をそらして言うと、彼は手に持っていた鳥を冷蔵庫の中に適当に突っ込んで部屋の奥に行ってしまった。
あっちは風呂場があるところだ。
昨日、私がいなくなった後にでも部屋を調べたのだろうか。
私は冷蔵庫を見る。
あの中には、今日命を奪われた鳥が入っているのだ。
まだ生きたかったに違いない。
死にたくなかったはずだ。
彼が、狼で、生き物の命を奪っていることを、再確認してしまった。
祖母も、あんな無様な姿をしていたのだろうか。
触るだけでいろいろと文句を言ってくる祖母は、あの狼に体中を噛まれて、食べられてしまったのだろうか。
「…わかってたのに……」
彼がそういう人だなんてわかっていた。
私達だって、生き物の命を奪っていきているんだ。
だけど、ああやって目の前で見せつけられると、やっぱり怖い。
彼が怖い、いつでも私を食べられてしまう、そんな彼が怖い。