マギの世界に転生?したようです。 作:フお
明かりのついた部屋ではなく、またその奥の暗い部屋へと通された。
「あ、あの」
カタンと部屋の扉の閉まる音と共に、小さな火の光が付いた。
部屋に十分とはいかないが光が差し、四角く、机以外何もない部屋だというのが認識できた。
「名前は?」
「え」
「貴方の名前はと言っているのです」
冷たく言い放つその声には警戒も含まれているように感じた。
けれど、それ以上に。
何故か、自分の心境に恐怖が伴っていないことに気付き、違和感。
「……シンドリアのアマカと言います」
自分でも何故か制限のきかない何かが、勝手に冷静を持って動いているようだった。
自分のようで自分では無い。
「…、アマカ。何をしにこの場所へ来たのですか」
「紅玉姫に連れられここに」
少し驚いた声がし、同時に溜息が溢れる音がした。呆れたのか、少し目を節目がちにする、練、紅明。
「貴方、ここで何か聞きましたか」
呆れの混じった声にはまだ警戒心もあり、視線が合うと一つ睨まれたような気がした。
「いいえ」
「では何故こんな奥に。紅玉が居ないというのに貴方だけこの奥に来た理由は」
「何か、声がしたからです」
「……。声ですか。ではやはり何か聞いたのですね」
ピリリと緊張した空気。
「いいえ。それも違います。とても聞き取れないような小さな声でした。内容はわかりません、ただ声のようなもの、と認識したまでです」
一歩、紅明が踏み出て来る。ギィと一つ床が軋んだ。
「信じられませんね。証拠がない」
「信じてほしいとしか言いようがありません」
強く言い放ち、相手の冷たい視線に向き合ったまま、僕も冷静に返した。
至って睨むことすらなく、冷静に。
ここで気がつくが、初めてだった。
僕は初めて、敵視されている。明らかな敵意を向けられている。
何故だか僕は、それに慣れている。
昔の自分に関係があると、そんな結論が出る。
また一歩、紅明が前に出る。手に持った明かりが近づき、お互いの顔が良く見える。
僕もそうだが、相手も、引く気がない。
「適当な事を言えばタダではすみませんよ」
「事実しか話していません」
沈黙。視線を外せば負けのような、そんな気がした。
「灯台下暗しという言葉を知っていますか」
「え?」
「灯台の下が暗いように、身近な方がかえってわかりにくいという意味があります」
「……」
「ここは灯台の光である王達のいる場に隣り合うようにしてある暗い部分。灯台下の場所なのです」
「それが、なんなのですか。僕に関係は、」
ない、と言おうとした時。
ダンッッ!!
と強く力を込めた音がした。紅明がすぐ横にあった壁を叩いたのだ。
「今の、この大きな音でさえ外に漏れない作りとなっている。それはとても重要な場所だからだ」
僕はこの時一歩、下がってしまった。無意識に気迫に押されたのだ。
「ネズミが入り込んでいい場所では、無いのですよ」
早かった、一瞬だった。
紅明が僕の前へ大きな一歩を踏み込み、僕の腹を一つ殴り飛ばした。
加減は一切なく、ガードも間に合うことなく。痛みが全身に響く。
背後の壁に打ち付けられ、流れるようにそのまま、胸元を掴まれ押し上げられる。
苦しい。
「何を聞いた?吐かなければ、どうなるかくらいわかるでしょう」
「ゲホッ、だから、なにも、」
「吐けば今すぐにも帰しますよ」
嘘なのは明白だ。
けれど、吐くことは出来ない。何も聞いていないのは事実だからだ。吐くことがない。
と、おもむろに紅明が部屋を照らす光を側の机に置いた。
空いた手を自身の胸元に滑り込まし何かを取り出す。キラリと光るものが見えた。
小さな、ナイフ。
それもまた、とてもゆっくりと、無駄のない動きだった。突き刺すような形で、刃先が僕の肩に触れる。
「……、3、2、」
「な、」
びくりと反応しても遅かった。
「1」
「〜〜ーーーーッッッ!!!!」
ぐりりと、深く、抉るように。
慣れた手つきだった。
肩が焼けるように熱く感じた。あまりの痛みに目に涙が溜まる。
小さなナイフといえど、刃物は刃物。それなりの大きさの物が肩にめり込む痛さ。
訓練で誤って怪我した時の痛さの比ではない。明確な敵意を持って、痛みを出来るだけ増幅させるようなそんな刺し方。
息苦しい。
突然掴まれた胸元を離され、無様に落下する。何度も噎せた。
噎せる度に肩に痛みが走った。
「喋る気にはなりましたか」
顎を掴まれた。反抗出来ない強さで無理やり顔をあげられる。
目の前で冷たい視線をぶつけられる。
守る物の為には犠牲はつきものだと、するりと言えてしまう側の人間だと思った。
「ッし、らない。聞いて、ない」
小さく呟く。
肩から流れる自身の血が気持ち悪いと感じた。
「…………」
刺さったままだったナイフを掴まれた。
「〜〜〜ーーッッッ!!!」
抜かれる時の痛みもまた、恐ろしいものだ。歯を食いしばって無ければ涙が溢れるところだっただろう。
「最後です。吐きませんか」
「っ、は、ない、しらな、い」
「…………」
捨てるように顔から手を離された。
紅明は一つ息を吐き出して立ち上がる。
「…………完全に信じたわけでは無いですが、嘘ではないと判断しましょう」
平坦な声だった。
「ここにいてください治療して差し上げます」
とてもすんなりと、そんな事を言った。煌の人間が皆んなこうだと言うなら、僕は二度と煌の人間と関わらない。
ったく誰だよこんなとこに来たの。僕だけどさぁ。
ジクジクと痛む肩を抑えつつ、くだらない思考が混ざる。
カタンと音がして紅明が部屋から出た。一人になる。逃げたい衝動に駆られるが、逃げたら逃げたでそのあとどうなるのか。考えたくもなかった。
それよりも。
とても冷静でいた自分に、今更驚く。いつもの自分なら、みっともなく怖がったんじゃないだろうかとそう思う。だいたい相手は男だ。腕を掴まれた訳じゃないから、大丈夫だったのだろうか。
よく、わからない。
カタンと音がして箱を手に持った紅明が。
「肩を見せてください」
と、言われてはたと気づく。
「どうしたのです、さっさと服を脱いで」
少し苛立つ声を出す紅明を相手に、初めて冷や汗が吹き出る。
ここに来て初めて焦る。
服を脱いだりなんかできるわけないだろ変態!!!
「あ、の」
「何ですか」
言いつつも冷静に紅明は箱から医療道具を取り出している。
「僕、自分で治療を」
「先程までの態度は申し訳ないと思いますが、貴方もいい加減強情ですね。だいたい貴方がここへ入るからこうなったのですよ」
「えっと」
「貴方が入ったことでこの場所も廃棄です。別へ移らなければ」
「それは、すいません……?」
「まぁ…、そろそろ頃合いかとも思っていたんですが。……、どうしたんですか、早く脱いでください」
道具を出し終えたのか、膝をついた紅明が僕を見つつ変な顔をする。
変な顔をしたいのは僕の方なんだが。
態度変わりすぎでしょ。
仲間にいれば心強く、敵であれば最悪なやつだな。いやというか敵なのか、最悪かよ。
「まったく」
「あっちょっと!!」
脱がそうとしてきたので思わず叫ぶ。
どうしようとフル回転したのち、
ビリっ!!
「…………」
ポカンとする紅明。
肩の部分の服だけ破り裂いた。自分でもアホみたいだなとはちょっと思う。
「こ、これでいいでしょう。診てください……」
「……え?あ、はい」
吃驚したよう顔のままそう答える。
僕もやばいやつな行動だって自覚してるよ全く。
「……面白い人ですね」
「え?」
「いえ、なんでもないです」
そう、反応くるか。
と、僕の肩を診始める。とても近くに寄られて視線を暗い部屋に外した。
そっと血を拭きとられ少し震えた。が、拭いているうちに、ぴたりと紅明が手を止めた。
視線を紅明へ向けると、とても険しい顔をしている。
目線があった。
「貴方、何者ですか」
「え」
「傷が既に治りつつある。異常な治癒力だ」
その言葉に驚いて自身の肩を見る。確かに、おかしい。もう少し傷は広く深かった筈だ。痛みも少し和らいでいる。
なんなんだ。初めてのことに混乱する。だいたいここまで痛みのある傷を受けたこと自体初めてでよくわからない。
冷ややかな視線に気がつく。
なんとなく、これはばれてはいけない事のだと気がつく。
人と違うのだ。敵に情報を知られることはこちらにとって不利となる。
「貴方は、」
紅明が口を開けかけた時、足音がした。
がたんと大きな音とともに、煌の服を着た紅明の部下だろう人が扉を開け、息も絶え絶えそこに立っていた。
「紅明様!!例の特異魔薬についての調、」
「口を慎まないかッ!!」
一つ声を上げた紅明。
それによって部下が僕に気がつく。
とても恐れた顔をひとつして背を曲げ身を低くした。
「も、申し訳、」
「いい。下がれ」
「は、はい」
部下が物音一つたてないようにそっと扉を閉め去った。
紅明が何度目かもわからない溜息をついた。
「その肩の傷とおあいことしましょう」
そのセリフにすぐにピンとくる。
ちらりと聞いてしまった、『特異魔薬』と、僕の『異常な治癒』という相手にバレては不利になるだろう情報をどちらもが黙って無かったことにしてしまおうという事だろう。
既にこの国の頭脳とも言われる練紅明にバレているという事はとても良い事では無いが、こちらはただの事務官。恐らく『特異魔薬』というこの単語自体を聞いてしまった僕にとってとてもいい話だろう。
嫌と言う訳はない。
「わかりました」
「……お互い此処での事は黙ることとしましょう」
「はい」
「……これを」
ひとつ布を肩にかけられた。
「治療は自身で済ます方がいいでしょう」
「……はい」
治療道具を持たされ、やっと部屋から出ることができた。
紅明にあまり人の居ない道を教えられ、そこを通るように言われた。
紅玉姫は多分、お叱りになるだろう。
肩の痛みは引きつつある。
…………とても濃い時間だった。