帝国最強騎士のナイトオブワン事、ビスマルク・ヴァルトシュタインは部下からの報告に耳を傾けていた。
「一人の少年にブリタニア軍の軍人が負けたと言うのか?」
「は、はい……お恥ずかしながら……」
ブリタニアのとある軍事施設を歩きながら報告をしている部下を一睨みしながらビスマルクはある場所へと向かっていた。
「何せ、恐ろしく強い少年でして……大人数人と喧嘩して勝ち、その後騒ぎを聞きつけて集まった警官を数名倒してます。その後、軍人が10人掛かりで漸く拘束できました」
「ほぅ……それは面白い少年だな」
部下の報告を耳に入れながらビスマルクは目的の場所に到着する。そこは囚人などを入れておく牢屋である。
「此処か?」
「はい、拘束衣で動きは封じてます」
ビスマルクは牢屋の扉を開けた。其処には長い黒髪の10歳ほどの少年が拘束衣で動きを拘束され、芋虫の様に転がっていた。
「…………何?」
「警官や軍人相手に大立ち回りだったらしいな。何故、そんな真似をした?」
ビスマルクを睨みながら問う少年にビスマルクは報告を聞いてから思っていた事を口にする。
「最初はブリタニア人が日本人を虐めてたから。んで虐めてた奴等をぶちのめしたら警官が来て訳も聞かずに俺を罵倒したから、ぶちのめした。最後は軍人さんが来たから抵抗したけど、この様」
「………そうか」
少年の発言にビスマルクは読んだり聞かされた報告との食い違いを感じていた。
報告書では『イレブンの指導をしていた貴族を少年が邪魔をしに来た。その後、警官の説得も聞かぬ少年を拘束しようとしたが大暴れ。最後は軍人が速やかに少年を拘束した』とされていたが、少年の話を聞いて話を統合すると『イレブンを意味も無く虐待していたのを見た少年は貴族を倒し、イレブンを救った。警官は殴られた貴族を見て状況把握もせずに少年とイレブンが悪いと勝手に判断した。そして軍人による速やかな拘束とあるが軍人も数名倒されているので実際は速やかにとは言いずらい』と言った所である。
「正義の味方にでもなったつもりか?」
「そんなつもりはないよ。俺は俺が気に食わないと思った奴をぶちのめしただけだ。そう言う奴に悪党が多いだけ」
ビスマルクの問い掛けに少年はビスマルクから視線を逸らさずにそう言った。そしてそれを聞いたビスマルクは笑いそうになったがギリギリで耐えた。
少年は自分の行いを恥じていない。それどころか正しかった。報告に上がった貴族だが弱い者虐めで有名な輩で今回の事も揉み消そうと躍起になっているらしい。
仮にこの少年がいなければ真相は闇へと葬り去られていただろう。
ブリタニアが掲げる『弱肉強食』
この考えに当てはめればイレブンを虐待していた貴族は間違いなく『弱者』でしかない。弱い者虐めなど自分より立場が低い者にしか出来ない謂わば『弱者』の行為。
逆にこの少年は己の立場が弱くとも弱き者を守る、そして救う為に戦った謂わば『強者』。しかも貴族の取り巻きや警官や軍人の計20人近くを一人で倒しているのだ。今はこうして拘束されてはいるがビスマルクの目には少年が『強者』に見えていた。
「小僧、名は?」
「……………天川リョウト」
ビスマルクは少年の名を聞くと少年は少し悩んだ後に名を告げた。名を聞いたビスマルクは少し意外だという表情を見せる。
「ブリタニア人ではないのか?」
「………父さんが日本人で母さんがブリタニア人だった」
ビスマルクの問いにリョウトは苦々しい口調で答える。リョウトはブリタニアと日本人の両方の血を継いではいるがどちらかと言えばブリタニア寄りの顔付きをしているのだ。
「なら両親は……」
「いない……父さんも母さんも死んだよ。兄弟も居ないから天涯孤独って奴だ。両親が死んでから俺はスラム街で生活してた」
ビスマルクが言葉を重ねる前にリョウトは口を開く。
「……………そうか」
ビスマルクはそれ以上は何も言わず牢屋から出て行った。
「殺さないのかよ?」
「そうなるかは貴様次第だ」
牢屋から出て行く寸前にリョウトはビスマルクに声を掛ける。ビスマルクは振り返らずに背中越しに返答すると牢屋から出て行き、牢屋の扉は閉まっていった。
「あの少年の経歴を調べろ。それまで刑を執行するな」
「ヴァルトシュタイン卿、あの少年が何か……?」
牢屋から元来た道を戻る最中、ビスマルクは部下にリョウトの事を調べろと命じた。部下はそんなビスマルクに困惑気味だった。
「少々、気になる事がある。急げよ」
「Yes、My Lord」
ビスマルクの言葉に敬礼しながら了解する部下はビスマルクと別れ、リョウトの事を調べに行った。
天川リョウトとビスマルク・ヴァルトシュタイン。
後に義理の親子となる二人が出会ったのは日本がブリタニアとの戦争に負け、エリア11となってから二ヶ月後の事だった。