模擬戦が開始され、ランスロット・プロトとグラスゴー・リッパーの機体が同時に動く。
グラスゴー・リッパーは腰部に装備されている対KMF用のナイフを両手に持つと真っ直ぐランスロット・プロトに襲いかかる。
対してランスロット・プロトは迎え撃つ様に構えるがワンテンポ遅かった。
「ちっ!早い!」
「遅いっ!」
グラスゴー・リッパーのナイフを腕のスタントンファで上手く捌き、反撃に移ろうとしたがグラスゴー・リッパーの動きは素早く、既に攻撃範囲外まで移動していた。
「おお、早いですね」
「グラスゴー・リッパーは接近戦と高速機動戦用に調整しとる。そうそう捕まる事はなかろう」
ケインはグラスゴー・リッパーの機動力に驚き、グランはそれは当然だと言い放つ。
「しかし、妙ですね。隊長殿ならもう少し動ける筈なのでは?新型機で慣れてないのを差し引いても動きが鈍い気がしますが……」
「あっは~流石はレイスに配属されてるデヴァイサーだけはあるね。実はランスロット・プロトにはある秘密があるんですよぉ~」
ケインの推察にロイドは嬉しそうに口を開いた。
「出力が高いし、機動性もある……でも妙に違和感がある……なんだ、この操作性の鈍さはなんだ?」
リョウトはコックピットの中で呟く。ランスロット・プロトは思った以上に動きが鈍かった。先程見せてもらったスペック通りなのだがそれでも全体的な違和感が拭えなかった。
そしてクレスの駆るグラスゴー・リッパーは予想以上に早く、アサルトライフルを撃っても回避され、無駄弾となり直ぐに底をついた。
「ほらほら、どうしたの?たいちょー!」
「ぐっ……この……!」
重い機体を操作してなんとか戦おうとするリョウト。しかし、一向に事態は好転しなかった。
「はあっ!?機動補正プログラムを抜いたですって……」
「あーっ!止めて、怒らないでっ!」
一方、ランスロット・プロトに隠された秘密を話したロイドはセシルに胸ぐらを捕まれて殴られる一歩手前までの状態になっていた。
しかしセシルが怒るのも無理はない。
KMFにおいて機動補正プログラムとはKMF内部に搭載されているプログラムで云わば動きスムーズにする為のサポートシステム。それが無いとなれば当然、動きは遅く鈍くなる。
「機動補正プログラムの無いKMFなんてヨチヨチ歩きの赤ん坊みたいなものですよ!それを……え?」
「そ、だから不思議なんだよね」
既に拳が振り下ろされ、ロイドの顔面にセシルの拳が叩き込まれる寸前でピタリと止まり、模擬戦に視線を移した。
そこには相変わらず苦戦をするランスロット・プロト。だが動きが少しずつ洗練されていた。
「そこにあるデータはプロトの学習データなんだけど凄いね。一般のKMFパイロットとは比較にならない程の速度でデータが蓄積されている」
「つまりリョウトはプロトのコンピューターに影響を与えておると?」
ロイドの嬉しそうな声にグランが質問する。
「そーなんですよ先生。彼はプロトの学習コンピューターに様々な動きを覚えさせているんですよ。だから動きが少しずつ良くなってるでしょう?」
「……なるほどの。つまりお主はプロトの稼働データとリョウトのデヴァイサーとしてのデータを両方得る訳じゃな」
ロイドの嬉しそうな声に納得したと言う表情のグラン。
「だったらパイロットのリョウト君にも一言、言いなさい!」
「あいたぁ~!?」
ロイドの考えは理解したが不条理な事には違いないのでセシルはロイドを制裁した。
「運が良かったの。もしもビスマルクか第一皇子が居たら大事じゃったぞ。今回は何事もなかったがリョウトが怪我でもしたら洒落にもならん」
「………そうですね」
グランの言葉にセシルは背中に冷たいものが走る感覚に襲われた。
義息子を大切にしているビスマルクにリョウトを可愛がっているオデュッセウス。もしも今回の件でリョウトが怪我をした場合、責任は特派にのし掛かる。しかも事故ではなく故意的にやったのであれば重罪だ。
「兎に角、模擬戦を中止に……」
「おや、その必要は無さそうですよ」
セシルが慌てて模擬戦を中断させようとしたがケインはその必要はないと言い放つと模擬戦が行われている場所を指差した。
そこにはグラスゴー・リッパーを地面に叩き付けたランスロット・プロトの姿があった。
少し時間を巻き戻し、模擬戦。
ランスロット・プロトの操作性の鈍さとグラスゴー・リッパーの機動性に翻弄させられていたリョウトは次の一手に悩んでいた。
此方から攻撃を仕掛けてもグラスゴー・リッパーには掠りもしない上に相手の攻撃を避ける事も叶わない。
「一か八か……やってみるか」
そう考えたリョウトはランスロット・プロトの腰を落とすと中段に構えた。思えばケインのグラスゴー・フルバレットとの模擬戦も一か八かだったなと思うとリョウトはコックピットで苦笑いを浮かべた。
「何を考えてんだか知らないけど……これでフィニッシュ!」
「来いっ!」
一方、ランスロット・プロトが構えたのを見たクレスは攻め続けても決定打にならない苛立ちから真っ正面からの一撃を狙った。先程から動きの悪いランスロット・プロトならこれで十分と判断したのだろう。
しかしそれはリョウトの思う壺だった。
グラスゴー・リッパーは手にしたナイフを逆手に持ってランスロット・プロトの頭を切り裂こうとしたがランスロット・プロトは両腕をクロスして十字受けでナイフを受け止める。ナイフはランスロット・プロトの左腕に刺さっていた。
「えっ嘘!?」
「隙有り!」
まさか受け止められるとは思ってなかったクレスは動きを止めてしまう。リョウトはそれを見逃さず次の行動に移っていた。
十字受けを解くとリョウトは無事な右腕でグラスゴー・リッパーの左腕を掴むと左に受け流す。それと同時にランスロット・プロトの腰をグラスゴー・リッパーに寄せると破損した左腕をグラスゴー・リッパーの右肩に当てる。そしてその勢いを殺すこと無く、グラスゴー・リッパーの上体の体制を崩したランスロット・プロトは仕上げとばかりにグラスゴー・リッパーの左足を払い除けた。
「ひきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
クレスは男性とは思えぬ甲高い声をグラスゴー・リッパーの中に響かせる。
それと同時にグラスゴー・リッパーは地面に叩きつけられた。その衝撃でグラスゴー・リッパーは行動不能に陥り沈黙した。
「ふぅー……危なかった。って……こりゃ引き分けかな?」
なんとか勝てたと思ったリョウトだが引き分けかと呟いた。
ランスロット・プロトの間接の節々が煙を発したり、漏電して動かなくなっているのだ。
KMFの行動限界を超えた動き投げ技をすれば間接のパーツが疲労限界を越えるのも、ある意味当然の結果とも言えるが。
しかしリョウトは知らなかった。KMFで払い腰をするなど今まで誰もしなかった。否、出来なかった事。
今回の一件でKMFの開発が大きく変わっていく事など今のリョウトには知る術は無かった。
『グラスゴー・リッパー』
レイスに配属されたクレスの為に用意されたグラスゴーの改造機。
徹底的な接近戦用機で機体をギリギリまで軽くする為に装甲が薄いがその分、機動性が従来のKMFを上回るほどに速い。
武装
アサルトライフル×1
KMF用ナイフ×2