先程の騒ぎから一転し、ゼロ達の逃げ込んだ廃劇場。そこは誰もおらず静かな場所だった。そこでゼロはスザクと二人っきりで話していた。
『これで分かっただろう。枢木スザク。ブリタニアはお前の仕える価値のない国だ。だからこそ、お前は私と来い。私と共にブリタニアを倒そうじゃないか』
「悪いけれど、それは出来ない。後一時間で軍事法廷が始まる。僕はそこに行かなくちゃならない。行かないと、イレブンや名誉ブリタニア人の弾圧が始まる」
ゼロからの誘いをスザクは即答で断った。
『ば、馬鹿かお前は!あそこはお前を犯人にする為だけに設けられた場だ!検察も、弁護人も、裁判官でさえ!』
「でも、それがルールだ。ルールがあるならそれに則して行動する。間違えた方法で得た結果に、価値などないと思うから。でも……ありがとう助けてくれて」
そう言ってスザクはその場を後にしようとする。ゼロは……ルルーシュはそんなスザクを止めることは出来なかった。
心の中でルルーシュは『この馬鹿が!』と毒づく。せっかく助けてやったのに、また己の意思で死地へ向かう親友を。
そしてスザクが廃劇場から出ていこうとした、その時だった。ゼロとスザク以外には誰もいない、この場に拍手が鳴り響いたのだ。その拍手に二人は辺りを見回す。
『誰だ!?』
「二階の場所に!」
音の発生源を辿り二人の視線が廃劇場の二階部分に向けられると其処には、いつの間にか二人に追い付いたリョウトが腰を下ろして拍手をしていたのだ。
「お見事お見事。護送車から枢木スザクを救いだし、誰もいない場所への逃走。ついでにブリタニアの悪い部分を把握している知識。どれも一級品だ」
『誰だ……キミは?』
突如現れたリョウトを警戒しながらゼロは訪ねる。リョウトは二階から瓦礫を足場にトントンと軽いステップで降りるとゼロとスザクの間に降り立つ。
「紹介が遅れたな、俺はリョウト。リョウト・T・ヴァルトシュタイン。一応、ブリタニア軍所属だよ」
『リョウト……ほう、キミがあの噂に名高いリョウト・T・ヴァルトシュタインか。お目にかかれて光栄だ』
リョウトが自己紹介するとゼロは納得する仕草を見せた。
「あれ、俺有名?」
『軍事やテロに関わる者でキミを知らない者の方が少ないだろう。ナイトオブワンの養息子にて第一皇子オデュッセウスと第一皇女ギネヴィアの直轄部隊レイスの長』
リョウトが自身を指を差しながらゼロに聞くとゼロは淡々と己の持つリョウトの情報を出す。
「レイス……?」
『ブリタニア内部の腐った貴族や軍人を裁く部隊。それ以外でもテロリストを殲滅するブリタニアでも有数の部隊だ』
レイスの事を知らなかったのかスザクが首を傾げたがゼロが補足説明をした。
「そこまで知ってるなら……俺がクロヴィス殿下を殺した犯人を見逃すと思うか?」
『………っ!』
リョウトが懐から通常よりも大型のリボルバーを構えた。ゼロはそれを見て身動ぎする。
「と……言いたい所だけど俺が指示を受けたのはクロヴィス殿下暗殺の犯人を探す事でな。仇討ちまでは俺の仕事じゃない」
『………』
リョウトは銃口を下げると再び、懐に手を伸ばした。
「スザクの裁判なら心配するな。真犯人の自白もあったし、アリバイの証拠もある。レイスの名に置いて公正な裁判にする事を約束しよう」
『……………キミはクロヴィス暗殺を恨んでいるのか?』
ゼロにスザクのアリバイが納められているデータチップを見せながら説明するリョウトにゼロは訪ねた。
「個人的な恨みも組織的な恨みもあるよ」
リョウトはそう言うとスザクと共に廃劇場から出ていこうとする。
『甘いな……私が今、キミを撃とうとしたらどうするつもりだ?』
「こっちのトリガーにも……まだ指が掛かってるんでな」
リョウトは銃口を空に向け、ゼロにトリガーに指が掛かっている事を見せつける。
「枢木スザク救出には感謝するが……次は捕まえるぞ」
『私には為すべき事があるのでね、遠慮させて貰おう』
その言葉を最後にリョウトとゼロは言葉を交わさずに廃劇場を後にした。
この後、バイクでスザクを裁判所に送り届けたリョウトはレイス権限。更にオデュッセウスやギネヴィアの名の下に裁判を公正な物とした。
そしてスザクの無罪を勝ち取らせたリョウトは疲労困憊のまま特派へと帰った。