『まさか特派のKMFがなんてねー。完成したランスロット、スゴいねたいちょー』
『隊長殿。既に終わった様ですぞ』
「そーね……」
リョウト達が現場に到着した頃には、既に勝敗は決していた。報告を受けてから大急ぎで駆けつけたものの、特派所属のスザクが完成したランスロットでキューエル達が乗るサザーランド四機を鎮圧したのだ。
リョウトは此処に来る途中で特派のロイドからスザクがランスロットで現場に向かった事を聞いていたが、まさか既に終わっているとは思っていなかった。
ランスロットの背後には、ジェレミアが乗っているであろう半壊状態のサザーランドが鎮座していた。
完全に出遅れた形になったリョウトは、深い溜め息を溢しながら今後の後処理をどうするか悩んでいた。とりあえずは勝手にKMFを持ち出した純血派の処罰だろう。
『こ、こうなったら……』
ハーケンも、ランスも破壊され、打つ手のなくなったキューエルがケイオス爆雷の使用を決断する。
ケイオス爆雷とは、一定の方向に無数の弾丸を放つ、散弾発射型の手投げ弾である。その発射される弾の多さから回避が困難であり、キューエルもこれを使うつもりはなかった。自分達に被害が及ばぬ様に、キューエル達はランスロットから距離をとる為に下がり始める。
『分かってくれたんですね。キューエル卿』
サザーランドが下がったのを見て、スザクはキューエルが諦めたのだと勘違いする。
「いや、まだ油断するなよスザク……ってアレは!?」
リョウトは、過去の経験からキューエル達がまだ何かする気なのだろうと警戒していた。
そして次の手がどう来るのか各センサーとモニターを確認すると、球場へ見覚えのあるピンク髪の少女が侵入してくるのが見えた。
「ちょっ……お前等、やめ……」
リョウトはピンク髪の少女のキューエル達に少女の存在を伝えようとする。彼女の正体を知ってる身としては止めなくてはならないと叫んだ。しかし、時既に遅く、キューエル機は腰部から取り出したケイオス爆雷を空中へと放り出していた。
『あれは……っ!』
「スザク!」
リョウトの叫びによりスザクもピンク髪の少女の存在に気付く。彼女だけでなく、彼等の後ろには半壊状態のジェレミアもいる。避けるわけにはいかない状況だ。
『ここは僕が!』
「ちっ!各機、防御しろ!」
『『yes、my load!』』
ランスロットが両腕に装備されたシールドを展開する。対してリョウト、ケイン、クレスのKMFにはランスロットの様なシールドが無い。リョウトはケインとクレスに身を持って防御しろと指示を出す。
ケイオス爆雷から無数の弾丸の雨が降り注ぎ、大半はランスロットのシールドで防ぐものの、防ぎきれない弾の何発かがリョウト達のKMFへと降り注ぎ、機体に損傷を与える。
機体を揺らされながらも、リョウト達はジェレミア機とピンク髪の少女を守り抜いた。そして散弾を撃ちつくしたケイオス爆雷が地面へと落ちる。
『なんとか……なった……』
「あー……流石に肝を冷やしたわ」
ゆっくりと防御態勢を解くランスロットとリョウト達。ランスロットはシールドを消耗したが、本体に傷は無かった。リョウト達のKMFは機体にダメージが有ったものの無事である。そしてもう危険はないとリョウト達が思った頃、ランスロットの足元からピンク髪の少女が姿を現す。
『あ、あれは……ま、まさかっ!?』
『馬鹿な……何故、あの御方が此処に!?』
それを見て、キューエルとジェレミアが驚きの声を上げる。その少女の姿に見覚えがあり、それが誰かが分かったからだ。
「双方とも、剣を納めなさい!我が名において命じさせていただきます!私はブリタニア第三皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアです。この場は私が預かります! 下がりなさい!」
ユーフェミアの透き通った声が響き、ジェレミアは勿論、キューエル達も武装解除しKMFから降り始めた。
『そんな、ユフィが?』
「ん、スザク……ユフィと知り合いだったのか?」
驚くスザクに、首を傾げたリョウト。スザクのユーフェミアを呼んだ時の名が愛称だったから疑問に思ったのだ。ユーフェミアをユフィと呼ぶのは、皇族やリョウトの様に昔からユーフェミアを知っている者のみ。リョウトにはスザクとユーフェミアの繋がりが見えなかったのだ。
「ま、まことに申し訳ございません!! 」
キューエル達は、下手をすれば自分達が皇族殺しをするところだったのに気づき、ユーフェミアの前にひざまずく。
「皇女殿下!知らぬこととは言え、失礼いたしました!」
スザクも機体から降り、ユーフェミアに先の無礼を詫びる。リョウト達も機体から降りて膝を突いた。
「スザク、私もあなたが父を失ったように、兄クロヴィスを失いました。これ以上、皆が大切な人を失わずに済むよう、力を貸して頂けますか?リョウト、レイスが私やお姉様の補佐に付いた事は伺ってます。お願いしますね」
「「「yes,your highness!」」」
こうして、ユーフェミアの手により、この場は一先ずの収まりを見せた。
しかし、リョウトは今回の一件がコーネリアの耳に入る事と、先程のケイオス爆雷によって傷付いたKMFをどうしようかと頭を悩ませる事となる。