「……報告は以上か?」
「はい。現状で伝えるべき報告等は全てお伝えしました」
政庁の総督室でリョウトはコーネリアに呼び出され、今回の件の報告をしていた。
ジェレミアの汚職疑惑。キューエル・ソレイシイが引き起こした純血派の内輪揉め。更にそれに巻き込まれてユーフェミアがケイオス爆雷を浴びせられそうになった事。ユーフェミアを庇った事によるレイス隊のKMFの損傷。どれもこれもコーネリアの機嫌を損ねるに事足りない事件ばかりである。
「そうか……ご苦労だったな」
コーネリアは深い溜め息を吐いた。頭痛がしてるんだろうな、とリョウトは考える。
ユーフェミアの件にしても、ユーフェミアが警備の者を振り切って勝手に何処かに出掛けようとした事が切っ掛けで、まさか皇族が死に至る様な事態になるなどと誰が想像できるだろうか。
「ユフィ……いえ、ユーフェミア様もご無事でしたし、何卒恩赦を頂けると幸いなんですが」
「ああ……いや、レイスと特派には感謝している。よくぞユフィを守った。損傷したKMFも気にするな。本国からグラン博士がエリア11に赴任される」
リョウトはレイスや特派に何らかのペナルティが下るのかと内心ビクビクしていた。これがオデュッセウスなら「仕方なかったよね・大変だったね」と労いの言葉を頂けるがコーネリアはそうではない。寧ろ、「何故、このような事態になる前に収束出来なかった?」と睨まれる所だろう。
だが、コーネリアの反応はリョウトの予想とは違っていた。コーネリアはレイスや特派に怒るよりも感謝をしていたのだ。
「ふふっ……意外だったか?まあ、此処に他の将兵がいたら別の言葉を考えたが今は貴様しかいないのだ構わんだろう」
ギシッと椅子に体を預けるコーネリア。その仕草にリョウトはコーネリアが酷く疲れていると感じていた。コーネリアは普段から他者に弱いところを見せようとしないが、リョウトやグラン等の人物と二人きりの時には少しだけ肩の力を抜いている事が多い。長年の付き合いもあるのか、彼等に意地を張る意味がないと感じているのかもしれないが。
「取り敢えず純血派は纏めて後方部隊へ転属だな。ジェレミアの汚職疑惑の真意は定かではないが最早、その辺り関係なく追放処分だ」
「うわぁー……」
コーネリアの発言にリョウトは引いていた。コーネリアの怒りは、ジェレミアの汚職云々よりもユーフェミアが傷付けられそうになった事の方が大きそうだ。
「厳しいと思うか?私としてはかなり甘い判断を下したと思うがな。ユフィを……皇族殺しをしかけた者達を生かした上に軍の在籍を許すのだからな」
「そりゃまあ……そうでしょうが……」
コーネリアの言葉にリョウトは既に反論できなかった。普通に考えれば、即打ち首でも可笑しくはないだろう。
「それにしてもキューエル・ソレイシイの影響で純血派は瓦解か……ジェレミアには苦労を掛けるな」
「え……ジェレミア卿の汚職疑惑で純血派は被害を受けたのでは?」
コーネリアの発言に驚くリョウト。コーネリアはそんなリョウトを見て口端を上げた。
「ジェレミアの人成を知っていれば汚職など信じないだろう。今は贈賄の疑惑があっても一時的なものだ。直ぐに収まっただろうが、キューエル・ソレイシイが暴走した事で瓦解に拍車が掛かった。大人しくしていれば良いものを……」
つまりコーネリアの言葉通りだとすると、ジェレミアの汚職疑惑は時間経過共に収まるはずだったのをキューエルが余計な事をした為に悪化。純血派は後方部隊へまるごと移籍。しかもコーネリアの口振りからはジェレミアの汚職疑惑は順を追って解決する筈だったのが、キューエルの勝手な行動によりダメになった。
「つまり純血派はジェレミア卿の汚職疑惑云々よりもキューエル卿の暴走により瓦解……って事ですか」
「ああ、私としてはジェレミアに頼みたい事があったから今回の件は遺憾だがな。もういいぞ下がって良い」
リョウトの疑問に答えたコーネリアはリョウトに退室する様に告げたが何かを思い出した様に再び口を開いた。
「待て、リョウト。ジェレミアに一言伝えておいてくれ『また、頼む』とな。この言葉はジェレミアが一人の時に伝えろ。他の者が居る時は伝えずにタイミングを図って後で伝えれば良い」
「承知しました。ですが、その伝言の意味は?」
リョウトはコーネリアに呼び止められ、伝言を頼まれたがその意味が理解できなかった。
「貴様には関係の無い話だ。話は以上だ、下がれ」
「Yes,your highness」
リョウトの疑問にコーネリアはピシャリと言葉を切り、退室を促す。こうなると何を聞いても無意味だと分かっているリョウトは敬礼をした後に総督室を後にした。