リョウトは戦場へと来ていた。場所はとある国の市街地。
ブリタニアの支配から逃れようとする現地のテロリスト達を相手にリョウトは相棒であるグラスゴーカスタムで戦っていた。
グラスゴーカスタムの両手に持つアサルトライフルが火を噴き、次々に敵KMFを破壊していく。
「何をしている!敵はたった一機なんだぞ!」
「しかも型落ちのグラスゴーだ!油断せずに戦え!」
敵の指揮官は前線で戦っている兵士達にヤジを飛ばすが、兵士達は気が気じゃ無い。
テロリスト達が使用しているKMFもグラスゴーだが数は圧倒的にテロリスト達の方が上だった。にも関わらず此方の攻撃は当たらない上にグラスゴーカスタムの攻撃は的確に此方を捉えているのだ。着実に数を減らされていく恐怖に兵士達の士気は下がっていく。
「後、数機か……同じくグラスゴーを改造した機体みたいだけど……」
リョウトはグラスゴーカスタムのコックピットで周囲の状況を確認しながら戦っていた。
「性能や数が戦力の決定的な差じゃ無い……ってね!」
リョウトはグラスゴーカスタムの肩に収納されている可変式のトマホークを抜き取ると左手に構え、ビルの影から敵KMFに迫った。
グラスゴーカスタムの接近に気付かなかった敵KMFは右肩ごと腕を破壊された。更に体勢を崩した所で左脚をアサルトライフルで破壊され、そのまま崩れ落ちた。
「こ、この野郎!」
「っと!?甘い!」
グラスゴーカスタムを狙い他の敵NMFがライフルを撃ちながらグラスゴーカスタムに迫る。間一髪で敵の弾を避けたグラスゴーカスタムは左手に待っていたトマホークを投げて敵KMFの頭を破壊した。
「フーッ……流石にキツい。早く終わらないかなぁ……」
リョウトは周囲に機影が無い事を確認すると深く溜息を吐いた。
リョウトがこの戦場にグラスゴーカスタムだけで戦っている理由。それは囮だった。
リョウトがテロリストの本拠地近くで暴れて出て来たKMFを相手に戦う。その隙に別働隊がテロリストの本拠地を制圧するのがこの作戦であるのだがリョウトは一人で囮役をしていた。
何故、リョウトが一人で囮役をしているのかと言えば原因は今回の上司にあった。
今回の作戦はブリタニア第一皇女ギネヴィア・ド・ブリタニアの発案なのだ。
戦場には趣かないギネヴィアだが今回の作戦の前に態々ブリタニア本国から通信を寄越したのだ。
『オデュッセウス兄様やナイトオブワンのビスマルクが認める実力ですもの。一人でも立派な囮役をしてくれるのでしょう?』
この一言によりリョウトは一人で囮役をやらされる事になったのだ。
第一皇女のギネヴィアは徹底的な貴族主義で戦場には出ないが皇族としての振る舞いを重要視するタイプで庶民でありながらビスマルクの養子になり、オデュッセウスと繋がりを持ち始めたリョウトを良く思っていなかった。
しかしギネヴィアは傲慢ではあるが無能ではない。今までの戦績からリョウトが一般のブリタニア軍人よりも強い事を知っているからこそリョウトに無茶な要求を突き付けるのだ。ある意味ではリョウトの事を認めているのだろうが、それは本人も気付いていないのだろう。
そしてリョウトも『成り上がりの庶民』としてブリタニア軍人からも疎まれている事も含めて一人で囮をする事を異議も出さずに了解した。
「流石にこれ以上ってなると………って、お?」
リョウトがボヤき始めているとテロリスト達の本拠地から爆発が起き、煙が立ち上がっていた。
「やっと終わったか……ちかれた……」
リョウトは気が抜けたかの様にグラスゴーの操縦桿に頭を乗せた。
「よう、お疲れさん!」
「あ、どーも」
気を抜いたリョウトが本陣に帰ろうと思った際にグラスゴーカスタムの肩をサザーランドが叩く。
サザーランドとはグラスゴーの後に開発された機体でグラスゴーを上回る性能を持つKMFだ。
今ではこの機体がブリタニア軍の主力となりグラスゴーは型落ちの機体とされていた。
「まさか本当に一人で囮役を完遂しちまうとはな」
「敵が俺の機体を見て油断してたってのと……このグラスゴーカスタムは実際はサザーランド以上の機体ですからね。それに助けられました」
リョウトに話し掛けているのはブリタニア軍人の中でも気さくなタイプで今回の作戦で唯一リョウトを気に掛けていたパイロットだった。
「ハハッ……たがそれだけでは無理だったろうな。パイロットの腕もある筈だ。流石はヴァルトシュタイン卿の息子だ」
「義理の……ですけどね」
リョウトは苦笑いをしながら答えた。そしてそんなリョウトのグラスゴーカスタムに通信が入る。
通信は部隊長からで直ぐに本陣に戻れとの事だった。
なんでもお偉いさんからの通信が来ているとの事。
本陣に戻ったリョウトはモニター室に案内された。直接の交信に加えて他の者は見てはいけないと仰せだったらしい。この時点でリョウトは誰からの通信か予想が付いていた。
『見事に役割を果たした様ですね』
「ええ、なんとかなりました」
モニターに映ったのはギネヴィアだった。リョウトは少し砕けた口調で話す。
『まったく……オデュッセウス兄様は許したかもしれませんが私に対してその口調は……』
「失礼しました」
ギネヴィアの発言にリョウトは素早く頭を下げた。ギネヴィアはお説教が長い事でも有名でリョウトも何度も長々としたお説教を聞いた事が有るのだ。それ故に頭を下げる速度も速い。
『まったく……本来なら不敬罪に当たる事を自覚なさい』
「了解です。しかしギネヴィア皇女殿下が直接俺に通信とは何事なんでしょう?」
お説教が長引きそうだと思ったリョウトは話題転換を振る。
『そうでした。……以前よりオデュッセウス兄様が考えていた政策が実行できる段階まで来ました』
「そりゃあ……驚きですね」
ギネヴィアの言葉にリョウトは驚いていた。
オデュッセウスの政策はナンバーズの差別を減らしたり、テロリストにも温情を与える物が多い。
故に他の皇族や貴族からはあまり良い顔をされなかったのだ。
そんな中で政策が通ったとなれば驚きである。
『ナンバーズの犯罪者共をブリタニア軍で働かせる温情を与える政策。私は賛成はしていないのですよ?』
「承知してますよ。ですが決まったのでしょう?」
オデュッセウスの考えた政策に眉を顰めるギネヴィアにリョウトは「さっきも俺を囮にしたのはそれでイラついてたからでしょ?」と言いそうになったが口を閉ざした。
言ったらリョウトに対するお説教は+2時間程度じゃ収まらないからだと思ったからだ。
『アナタがブリタニア本国に帰ったらオデュッセウス兄様も交えて本格的に始動となります。そしてアナタにはその部隊へと転属して貰います』
「俺の転属命令が出る辺り……マジなんですね」
リョウトはギネヴィアの発言に今回は本当にオデュッセウスの政策が叶ったのだと感じていた。
『………部隊名は【レイス】と名付ける事にします』
「ギネヴィア皇女殿下が名付けになりましたか……」
随分と皮肉の効いた部隊名だとリョウトは思った。
【レイス】……『亡霊』の名を持つ部隊へリョウトは転属する事となる。