次からバトルに入りますが、心情描写中心なので盤面描写とかコア移動等の描写はバッサリかもです。
帯刀の実家、カードショップ「Hobby For You」は学校から徒歩約20分程度の場所に存在する。
地理的には小学校・中学校・高等学校の3つから包囲されているという素晴らしい立地条件だが、二階に自宅がある関係上住宅街にひっそりと立っているという、隠れた名店のようになっている。
自転車は置けるが車は置けない、でも住宅街なので基本徒歩でも大丈夫なその店は、そこそこに近所のTCGプレイヤーが集まる、謂わば子供たちのコミュニティの場になっているのだ。
そんなショップに向かうための道のりを、帯刀と陽菜は会話もなく歩いていた。
そう、会話もなく。
帯刀としては、世間話をしたほうがいいのではないだろうか?等という考えもあり、幾度かそれを試みようとちらちらと隣の長身の女生徒に視線を向けたりはしているのだが……。
「……、……」
隣の長身の女生徒が、自分の世界に入ったかのように心此処に在らずという状態では流石にそれは憚られた。トリップが解ける瞬間があるのだがすぐさま次のトリップに入ってしまうのでまずタイミングを逃す。隙なんてありはしない。これが女の子というものなだろうか等と頭の中で学習しながら、まぁいいかと帯刀は諦めて思考を放棄した。
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陽菜がトリップ状態から現実世界に戻ってきたのは、隣にいる男子生徒からの到着の合図からだった。改めて視線を男子生徒に向けた後、その建物を見る。
周囲の住宅街に溶け込むように存在するそれは、隠れ家と呼ぶにふさわしい佇まいをしている。唯一自己主張するようにある"Hobby For You"と書かれた看板がそれを店だということを表していた。
「少し、待ってて」
隣の男子生徒にそう言われて、少し肩を震わせる。思考が現実世界に戻ってきたとは言えまだ覚醒状態ではなかった陽菜はその言葉に驚いてしまった。今ので完全に思考が覚醒したのでもうこんなヘマはしまい、と思いながら了承の返事をする。
男子生徒は建物の横に回ると、そこから建物の中に入ってしまった。あそこが家用の玄関なのだろう、と当たりをつけておく。いづれあそこから入れるようになるのだろうか……、等という期待をしていたことは、後日気づいたことだ。
しばらくして、目の前の扉が開きそこから男子生徒が出てきた。普段着に着替えたのだろう。紺色のジーンズに灰色のパーカーという格好で迎えた目の前の男の子は、どうぞ、という一言と共に建物の中に迎え入れてくれた。
証明で明るくなった店内だろう場所をざっと眺めてみると、こじんまりしている割には広い印象を受けた。同時に6人程度が遊べる長机が2つと2人程度が遊べる机が1つ。あとはカードを陳列してある棚とレジカウンター。全体的に落ち着いた清潔感がある内装を見て、陽菜は雰囲気の良い場所だなと感じた。
こっち、と男の子に案内されたのはレジカウンター横の長机。長机にはプレイシートが2つと小さな青いモノがたくさん入った深さが無い箱が目に付いた。それがコアとコアケースだと解ったと同時に、お互いに向き合って座る。鞄をとなりの椅子において、中からデッキケースを取り出す。公式で発売されている、2重スリーブ40枚を横に2つ並べて収納できるデッキケースだ、上の方にコアを仕舞っておける場所があるので便利だと思い購入したもの。目の前の男の子も同じものを使用している様だ。
お互いにデッキを取り出しながら、お揃いだななんて考えていてふと思った。そういえば、自己紹介をしていないのでは、と。これからのことを考えるなら名前ぐらいは知っておきたい、そう思って声を掛ける。
「「あの、名前は…」」
声が、重なった。どうやら目の前の相手も同じことを考えていたようで、それがどことなく嬉しい。少しの間、目が合うとなんというかむず痒さを覚える。心がくすぐったい、とでも言えばいいのだろうか。そんなことを思いながら、視線でお先にどうぞ、と先を促してみる。ここは男を立てるべきだと、自分の部屋の本棚の小説という名の参考資料には載っていた。
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「進道。進道帯刀」
名前を聞こうと話しかけようとしたら声が重なり、視線が合って相手の顔に見蕩れた後に簡潔に自分の名前だけを言葉にした。思えば同じ年の女の子とここまで近い距離で話したことがあっただろうかと考え。いや無い、と変な反語表現で自己完結をしておく。
「龍海。龍海陽菜って言います」
そうしている内に相手からも返事が返ってくる。名前は覚えたけれど、どう呼んでいいべきか悩む。これが男子であれば適当なあだ名呼びや名前呼びが妥当だろうとも思うが、目の前の相手は女の子である。無難に苗字をさん付けが無難だろうか、なんて考えていると、目の前の女の子が爆弾を投下した。
「えと、帯刀君って読んでもいいですか?私のことも、陽菜で、いいですから」
少し思考が止まった。いきなり名前で呼び合うのはハードルが高いのではないだろうか、異性を名前で呼び合う関係というのはなんというか、男子の視点からすると"勘違いを起こしてしまう"というのが一般的だ。ちらりと目の前の爆弾発言女子を見る。表裏のなさそうな表情だが、何故か顔は少し紅いように見える。それを見て気が抜けた。以前母がリビングのめちゃくちゃでかいテレビで涙を流しながら見ていた魔法少女のアニメで「友達になるの、すごく簡単。名前を呼んで」というシーンがあったことを思い出し、そんなもんなんだと納得する。
「解った。陽菜はバトスピのルール、把握してる?」
納得したところでルール把握の確認。もう少しその綺麗と可愛いが綯交ぜになった表情を見ていたいという衝動に駆られないもないが、バトスピをする名目上出来ているので話を進めることにした。
「うん、基本的なところは。フラッシュタイミングは、怪しいけど」
名前を呼ばれて嬉しかったのだろうか、先程よりも紅く頬を染めた彼女の言葉を頭の中で咀嚼しながら、自分も彼女のようにならないように注意しながら言葉を選ぶ。
「ルールブックはここにあるから、確認しながらでいい。間違っていたら、指摘して巻き戻すから」
こちらの言葉に陽菜はこくりと頷く。名前呼び以外はまぁなんとかなりそうだと、自分のメンタルコンディションも考えながら、互いに準備をしていく。お互いのデッキをカット、シャッフルをして、ライフとリザーブにコアを置く。先攻は流れを見せる意味でもこちらが先に行うことを互いに了承し、初期手札として4枚を引く。
手札を見るとブロンズ・ヴルムが2枚、ダストワール、チャージドロー。やることは決まったかなと相手を見ると、相手も4枚の手札から視線を上げて準備が出来たことを伝えた。
「えと、あれ。言うのかな?」
と、陽菜が問いかける。あれが何かを察し、言葉を返す。
「カジュアルバトルだし、言わなくてもいいよ」
返した言葉に陽菜がホッとしたのを確認すると。それじゃあ、と声をかける。
あの言葉は言わないにしろ、これは言わないといけない。
「「よろしくお願いします」」
この言葉の裏で、互いに多分心の中ではこう思っているはずだ。
バトスピに於ける、戦いの合図。いつかは、声に出したいと思う。
とりあえずそれは頭の片隅に置いておき、心の中で言っておくことにしよう。
ゲートオープン、界放。
帯刀の初期手札4枚が割れてますが、この時点で帯刀のデッキがどういう構成なのかがわかった人はすげぇ、と思います。