真夏のエリカチュ作戦です!   作:ばらむつ

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プロローグ
エリカとカチューシャ、作戦を話しあう


 夏の終わり。

 日の沈みおえる寸前。

 あかね色の光が空を満たして、山々の稜線を影で黒く染めあげる逢魔が時。

 どこかでヒグラシがさびしげに鳴いている。

 私は高台から望遠鏡で見下ろす。

 平原を進むのは、くさび形の隊列で進む戦車の小隊。

 

「T-34四輛、IS-2一輛、前進中」

 

 隣で、少女のかわいらしい声が数え上げる。

 でも、かわいらしいだけじゃない。

 声の中にあるのは、暴君めいた傲慢さ。

 いや、子どもっぽいわがままと言うべきだろうか。

 

「さすがプラウダ。きれいな隊列組んでるわね」

 

 うんざりと、私はつぶやく。

 声の主がますます自慢気になる。

 

「そりゃそうよ。あれだけ速度を合わせて隊列を乱さないで動けるなんて、すごいでしょ!」

 

 今は敵なのに、なんでそんなにうれしそうなんだか。

 

 練度なら、うちの学校だって負けてない――

 そう言い返してやりたい。

 だが、口に出してもしかたがない。

 今の私は、黒森峰の副隊長でもなければ、戦車長でもない。

 わが愛車(ティーガーⅡ)が恋しい。

 それに、規律正しい隊員たちも。

 でも、彼女たちがいるのは、千キロ以上かなた。

 私がこんな山奥で、やっかい事に巻き込まれているなんて、知りもしない。

 味方は愚連隊めいた寄せ集めだけ。

 頼りないことこのうえない。

 だから私は、これだけ言う。

 

「向こうにはIS-2の122㎜砲がある。こっちが近づく前に撃ち抜かれるわよ」

 

「そこは戦術と腕よ」

 

 びっくりするくらい自信満々な声。

 望遠鏡を下ろして横を見てみる。

 横にいるのは、黒い戦車帽にモスグリーンのユニフォーム、かぼちゃパンツ、黒のブーツ姿の、背の低い金髪の少女。

 あきれた。

 この子ときたら、仁王立ちで腕組みなんかしている。

 見つからないよう地面に伏せていた私が馬鹿みたいだ。

 こっちは私服なのに。

 

 起き上がって服のほこりをはたく。

 その間に、先に戦車にたどりついた彼女が、ふりかえって、怒ったような目で私を見る。

 なんだろう。

 ああ、わかった。

 背が低いから、車体の上にのぼれないのだ。

 

――はいはい。手伝えってことね。

 

 気をきかせたつもりで、両腕を彼女の脇の下に入れて持ち上げ、斜面を登っている最中にずり落ちないようにお尻を支えてやると、彼女は礼を言うでもなく、むしろプライドを傷つけられたような表情で、上から私をにらむ。

 

 なによ。どうしろっていうのよ。

 

 私は彼女に続いて、濃緑の傾斜装甲を登る。

 操縦席に座っているのは、ちゃんと会うのは今日が初めてであるはずの、赤毛でおさげの女の子。

 開いたハッチ越しに目が合う。

 この子も何も言わない。

 ただ、おもしろがっているような表情で、白い歯を見せてにやりと笑う。

 なにを考えているのかわからない。

 不可解だ。

 ここにいる人間は全員不可解だ。

 

「行動開始。エンジン音が響かないように注意しながら展開するわよ!」

 

 車長用ハッチから上半身を出した小さな暴君が、私を待たずに号令をかける。

 ちょっとくらい待ちなさいよ!

 私はあわてて砲塔に登り、もうひとつのハッチに両脚を滑りこませる。

 T-34/85が、カタカタと履帯を鳴らして進みはじめる。

 左右にひかえるのは、プラウダのおちびさんがごった煮(ボルシチ)小隊と命名した、頼りない仲間たち。

 いや、私の乗るT-34はいい。

 黒森峰を何度となく苦戦させてきた傑作戦車だ。

 しかし、あとの車輌ときたら。

 

 頭でっかちのうすのろが一輛。

 戦車未満のトラクターもどきが一輛。

 残る一輛ときたら戦車ですらない。ただの輸送車輌ではないか。

 

(……これでプラウダの一軍とまともに渡り合えたら、それこそ奇跡ね)

 

 だが、車長席の彼女は自信たっぷり。勝算ありげだ。

 ただの虚勢(ブラフ)だろうか。

 それともほんとうに勝つ気だろうか。

 

 ちらりと横を見る。

 併走するトラクターもどきの天板から上半身を出しているのは、黒のリボンと緑のツインテールの少女。

 あいさつするように、こちらに鞭を振っている。

 のんきなものだ。

 とても事態を飲みこんでいるようには見えない。

 

 でも、事情を知らないという点では、私も同じ。

 所属する学園艦が違う。目的だって違う。

 そんな私たちが、なぜこんな混成部隊で、プラウダに立ち向かう羽目になったのか――

 逸見エリカは、すべてが始まった瞬間を思い出していた。

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