がんっ、がこがこと衝撃音。
CV33が墜落……もとい、着地する。
「きゃあっ!」
「うおっ!」
ペパロニたちは車内に落下。
ただでさえ狭いCV33の車内が、とうとう四人乗りになる。
ほぼ同時に、プラウダの砲弾がIS-3の砲塔を撃ち抜く。
ぼろぼろになった戦車から、ぱっと白旗が咲く。
まさしく間一髪。
CV33が姿勢を崩さず、履帯からの着地に成功したのだって、けっこう奇跡的だ。
だが、アンツィオの
慣性力をドリフトに生かして、停止したときには方向転換を完了。
「継続の子はつかまえたか?!」と前を見たまま、アンチョビ。
「ばっちりっす!」と頭上から、ペパロニ。
「じゃあ、こんなところに用はない。さっさと引きあげるぞ!」
「了解!」
即座にエンジンを吹かして走行を再開する。
プラウダの左翼にとって、残る標的はCV33だけ。
砲弾は、前よりいっそう、小さなタンケッテに集中する。
「ペパロニ、煙玉は?!」
「あーっと…… 全部まいちゃったかもしれません」
「だからばらまきすぎるなって言ったろ!?」
こうなったら足で振り切るしかない。
目指すはカチューシャたちが立てこもる山の頂上。
さっき駆け下りてきた斜面を目指して、CV33は駆ける。
プラウダだって、遠くから撃つだけでは終わらない。
前に回って進路をふさごうとする。
もはやCV33に対抗策はない。
前方から飛来して鋭く地面に突きささる砲弾をかわして、ただ走るしかない。
「くそ。多いな」
操縦席から前をのぞきながら、アンチョビが毒づく。
包囲の台数が多い。
それにむこうは、こちらの行き先を読んでいる。
――あれを全輛かわしきれってか。
操縦の腕前より幸運が必要な場面だな、と自嘲したとき。
包囲網の一角で地面が炸裂する。
榴弾による大規模な爆発。
直撃されたわけでもないのに、巻きこまれた戦車が白旗を上げている。
「ねーさん、上! KV-2だ!!」
ふたたびハッチ上の定位置に戻ったペパロニが、うれしそうに叫ぶ。
こっちはおまえと違って、簡単には上を見られないんだっての――
そう言ってやりたいアンチョビではあるが、うれしいことに変わりはない。
それでもどうにかこうにか見上げた狭い視界には、下界に砲塔を向けたKV-2と、それに寄りそうT-34/85の姿。
T-34/85の砲塔から、見覚えのある戦闘帽の少女が上半身を出している。
(――やるなあ。プラウダのちびっ子め)
足回りが故障していたはずのKV-2を、いつの間にか動かしていやがる。
ともかく、退路はひらけた。
アクセルを踏み込んだアンチョビの前で、進路をふさごうとしたプラウダのBT-7が、横から撃たれて白旗を上げる。
BT-7の前をかすめるように視界に飛び込んできたのは、継続のアキとミッコが乗り込んだT-34/76。
山のふもとで合流した二輛は、競うように斜面を駆け上がる。
下からは、平原にとどまった包囲隊が砲撃を浴びせかけ――
上では、お供二輛を連れたノンナのIS-2が待ち受ける。
山上から、遠い雷鳴のように、どおん、と発射音。
着弾のこだまは、CV33の背後から。
KV-2は平原の戦車隊を妨害するほうを選んだ。
それはつまり、IS-2はそっちでなんとかしろ、というメッセージでもある。
#
ぐんぐんと、IS-2との距離が縮まる。
IS-2とお供の一輛は、さっきより低い位置につけている。
斜面を少し上に行ったところには、砲撃跡のくぼみ。
近くで一輛が白旗を上げて転がっている。
アンチョビが見ていない間に、IS-2もKV-2に砲撃されていたらしい。
そして、IS-2の砲口は、待ち受けるようにこちらへ向けられている。
合図はない。
しかし、CV33とT-34/76は以心伝心で、狭い斜面が許すかぎり左右にわかれる。
IS-2が砲塔を回したのは、継続の二人の乗るT-34/76の側。
アンチョビが心の中で悪態をつく。
さっきから隣でごそごそしていたカルパッチョが、アンチョビに手を差し出す。
握っているのは、鮮やかな色の塗られた小さな玉が三つ。
「ドゥーチェ! ありました、煙玉! これが最後です!!」
「よーし! ペパロニ、そいつをおもいっきりIS-2の砲塔に投げつけろ!」
「お任せを!」
カルパッチョが火をつけた煙玉を、ペパロニが受け取る。
おおきく振りかぶった、力いっぱいのオーバーハンド。
色つきの花火は、みごとIS-2の前面装甲にヒットする。
だが――
敵はさすがの傾斜装甲。
こんなときにも防御性の高さを発揮する。
車体前面に当たった煙玉は、こんころと斜面を転げ落ち……
下端にあるひだのような盛り上がりに、一個だけが、かろうじて引っかかる。
「よっしゃー!」
ペパロニがガッツポーズ。
IS-2が煙に巻かれているあいだに、二輛はすばやく横をすり抜ける。
まだ安心はできない。
CV33と違って、IS-2は砲塔を回転できる。
砲塔を後ろに回せば、抜けていった二輛を狙える。
車体前面でくすぶる煙玉の効果もなくなる。
隣のT-34/76に乗る継続のふたりも、そのことを理解している。
だが、砲塔を回すには時間がかかるし、斜面を登りながらではバランスも悪い。
だからT-34/76は、坂道を疾走しながらドリフトターン。
一瞬で前後を入れ替えて、砲塔を下界へ向け、高速後退で坂を登る。
「継続め。うちの得意技まで盗みやがって」
アンチョビの愚痴などどこ吹く風で、T-34/76が主砲を発射する。
今ならまだ距離が近い。
当たり所がよければ、T-34/76でもIS-2を行動不能に持ち込める。
しかし、幸運は続かない。
砲弾はIS-2の砲塔の傾斜に弾かれる。
次はIS-2の番。
こちらの主砲は、すこし距離が遠ざかった程度では、T-34/76の装甲などものともしない。
だが――
照準を定めきるより先に、頭上から大型の砲弾がIS-2を襲う。
KV-2の榴弾による大爆発!
重装甲のIS-2は、これにも生き残る。
しかし、土煙でしばらくのあいだ視界は奪われる。
逃走中の二輛にとっては、それだけでありがたすぎるくらいだ。
けれども、ノンナは待たない。
着弾の衝撃がおさまった瞬間、足元のペダルを踏み込む。
視界のきかない状態で発射した、あてずっぽうの砲弾――
傍観者からは、そうとしか見えない。
否。
ノンナには自信がある。
熟練のスナイパーゆえの計算と、身体にしみついた経験がある。
その自負にたがわず、砲弾はT-34/76に激突する。
T-34/76にとっては、全速で後退中だったので力が逃げたことと、さきほどのドリフトターンで、IS-2に装甲の厚い前面を向けていたことが幸いした。
ぶち当たった砲弾の衝撃で、T-34/76は全力できりもみ。
グリップを失いそうになるぎりぎりのところで、ミッコの操縦テクで立て直す。
カチューシャのT-34/85に衝突しそうになるのを寸前で回避し――
KV-2にお尻をぶつけて止まる。
一歩遅れて、CV33がT-34/85の横をすり抜ける。
アンツィオの三人と継続の三人は、みごと山頂への生還を果たしたのだ。
そして――
土煙が晴れ、KV-2が次弾を発射しようとしたとき。
ノンナのIS-2とお供の戦車は、すでに山腹から姿を消した後だった。