真夏のエリカチュ作戦です!   作:ばらむつ

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その6

 がんっ、がこがこと衝撃音。

 CV33が墜落……もとい、着地する。

 

「きゃあっ!」

 

「うおっ!」

 

 ペパロニたちは車内に落下。

 ただでさえ狭いCV33の車内が、とうとう四人乗りになる。

 

 ほぼ同時に、プラウダの砲弾がIS-3の砲塔を撃ち抜く。

 ぼろぼろになった戦車から、ぱっと白旗が咲く。

 

 まさしく間一髪。

 

 CV33が姿勢を崩さず、履帯からの着地に成功したのだって、けっこう奇跡的だ。

 だが、アンツィオの統帥(ドゥーチェ)の腕前はそれに留まらない。

 慣性力をドリフトに生かして、停止したときには方向転換を完了。

 

「継続の子はつかまえたか?!」と前を見たまま、アンチョビ。

 

「ばっちりっす!」と頭上から、ペパロニ。

 

「じゃあ、こんなところに用はない。さっさと引きあげるぞ!」

 

「了解!」

 

 即座にエンジンを吹かして走行を再開する。

 

 プラウダの左翼にとって、残る標的はCV33だけ。

 砲弾は、前よりいっそう、小さなタンケッテに集中する。

 

「ペパロニ、煙玉は?!」

 

「あーっと…… 全部まいちゃったかもしれません」

 

「だからばらまきすぎるなって言ったろ!?」

 

 こうなったら足で振り切るしかない。

 目指すはカチューシャたちが立てこもる山の頂上。

 さっき駆け下りてきた斜面を目指して、CV33は駆ける。

 

 プラウダだって、遠くから撃つだけでは終わらない。

 前に回って進路をふさごうとする。

 もはやCV33に対抗策はない。

 前方から飛来して鋭く地面に突きささる砲弾をかわして、ただ走るしかない。

 

「くそ。多いな」

 

 操縦席から前をのぞきながら、アンチョビが毒づく。

 

 包囲の台数が多い。

 それにむこうは、こちらの行き先を読んでいる。

 

――あれを全輛かわしきれってか。

 

 操縦の腕前より幸運が必要な場面だな、と自嘲したとき。

 

 包囲網の一角で地面が炸裂する。

 榴弾による大規模な爆発。

 直撃されたわけでもないのに、巻きこまれた戦車が白旗を上げている。

 

「ねーさん、上! KV-2だ!!」

 

 ふたたびハッチ上の定位置に戻ったペパロニが、うれしそうに叫ぶ。

 

 こっちはおまえと違って、簡単には上を見られないんだっての――

 そう言ってやりたいアンチョビではあるが、うれしいことに変わりはない。

 

 それでもどうにかこうにか見上げた狭い視界には、下界に砲塔を向けたKV-2と、それに寄りそうT-34/85の姿。

 T-34/85の砲塔から、見覚えのある戦闘帽の少女が上半身を出している。

 

(――やるなあ。プラウダのちびっ子め)

 

 足回りが故障していたはずのKV-2を、いつの間にか動かしていやがる。

 

 ともかく、退路はひらけた。

 アクセルを踏み込んだアンチョビの前で、進路をふさごうとしたプラウダのBT-7が、横から撃たれて白旗を上げる。

 BT-7の前をかすめるように視界に飛び込んできたのは、継続のアキとミッコが乗り込んだT-34/76。

 山のふもとで合流した二輛は、競うように斜面を駆け上がる。

 

 下からは、平原にとどまった包囲隊が砲撃を浴びせかけ――

 上では、お供二輛を連れたノンナのIS-2が待ち受ける。

 

 山上から、遠い雷鳴のように、どおん、と発射音。

 着弾のこだまは、CV33の背後から。

 KV-2は平原の戦車隊を妨害するほうを選んだ。

 それはつまり、IS-2はそっちでなんとかしろ、というメッセージでもある。

 

#

 

 ぐんぐんと、IS-2との距離が縮まる。

 

 IS-2とお供の一輛は、さっきより低い位置につけている。

 斜面を少し上に行ったところには、砲撃跡のくぼみ。

 近くで一輛が白旗を上げて転がっている。

 アンチョビが見ていない間に、IS-2もKV-2に砲撃されていたらしい。

 そして、IS-2の砲口は、待ち受けるようにこちらへ向けられている。

 

 合図はない。

 しかし、CV33とT-34/76は以心伝心で、狭い斜面が許すかぎり左右にわかれる。

 

 IS-2が砲塔を回したのは、継続の二人の乗るT-34/76の側。

 

 アンチョビが心の中で悪態をつく。

 さっきから隣でごそごそしていたカルパッチョが、アンチョビに手を差し出す。

 握っているのは、鮮やかな色の塗られた小さな玉が三つ。

 

「ドゥーチェ! ありました、煙玉! これが最後です!!」

 

「よーし! ペパロニ、そいつをおもいっきりIS-2の砲塔に投げつけろ!」

 

「お任せを!」

 

 カルパッチョが火をつけた煙玉を、ペパロニが受け取る。

 おおきく振りかぶった、力いっぱいのオーバーハンド。

 色つきの花火は、みごとIS-2の前面装甲にヒットする。

 

 だが――

 

 敵はさすがの傾斜装甲。

 こんなときにも防御性の高さを発揮する。

 

 車体前面に当たった煙玉は、こんころと斜面を転げ落ち……

 下端にあるひだのような盛り上がりに、一個だけが、かろうじて引っかかる。

 

「よっしゃー!」

 

 ペパロニがガッツポーズ。

 IS-2が煙に巻かれているあいだに、二輛はすばやく横をすり抜ける。

 

 まだ安心はできない。

 CV33と違って、IS-2は砲塔を回転できる。

 砲塔を後ろに回せば、抜けていった二輛を狙える。

 車体前面でくすぶる煙玉の効果もなくなる。

 隣のT-34/76に乗る継続のふたりも、そのことを理解している。

 

 だが、砲塔を回すには時間がかかるし、斜面を登りながらではバランスも悪い。

 だからT-34/76は、坂道を疾走しながらドリフトターン。

 一瞬で前後を入れ替えて、砲塔を下界へ向け、高速後退で坂を登る。

 

「継続め。うちの得意技まで盗みやがって」

 

 アンチョビの愚痴などどこ吹く風で、T-34/76が主砲を発射する。

 今ならまだ距離が近い。

 当たり所がよければ、T-34/76でもIS-2を行動不能に持ち込める。

 

 しかし、幸運は続かない。

 

 砲弾はIS-2の砲塔の傾斜に弾かれる。

 次はIS-2の番。

 こちらの主砲は、すこし距離が遠ざかった程度では、T-34/76の装甲などものともしない。

 

 だが――

 

 照準を定めきるより先に、頭上から大型の砲弾がIS-2を襲う。

 

 KV-2の榴弾による大爆発!

 

 重装甲のIS-2は、これにも生き残る。

 しかし、土煙でしばらくのあいだ視界は奪われる。

 逃走中の二輛にとっては、それだけでありがたすぎるくらいだ。

 

 けれども、ノンナは待たない。

 着弾の衝撃がおさまった瞬間、足元のペダルを踏み込む。

 

 視界のきかない状態で発射した、あてずっぽうの砲弾――

 傍観者からは、そうとしか見えない。

 

 否。

 ノンナには自信がある。

 熟練のスナイパーゆえの計算と、身体にしみついた経験がある。

 その自負にたがわず、砲弾はT-34/76に激突する。

 

 T-34/76にとっては、全速で後退中だったので力が逃げたことと、さきほどのドリフトターンで、IS-2に装甲の厚い前面を向けていたことが幸いした。

 

 ぶち当たった砲弾の衝撃で、T-34/76は全力できりもみ。

 グリップを失いそうになるぎりぎりのところで、ミッコの操縦テクで立て直す。

 カチューシャのT-34/85に衝突しそうになるのを寸前で回避し――

 KV-2にお尻をぶつけて止まる。

 

 一歩遅れて、CV33がT-34/85の横をすり抜ける。

 アンツィオの三人と継続の三人は、みごと山頂への生還を果たしたのだ。

 

 そして――

 土煙が晴れ、KV-2が次弾を発射しようとしたとき。

 

 ノンナのIS-2とお供の戦車は、すでに山腹から姿を消した後だった。

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