むかーし、むかし、一匹のガムートが雪山にいました。

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ながくいきたガムート

むかしむかし、ある雪山に一匹のガムートがいました。そのガムートは普通のガムートより長く生きており、頭もとてもよかったのです。ですが、長い時間を生きてきたため、体はところどころ傷だらけでした。自慢の長い牙は折れて、目も片方見えていません。それは全部、多くのハンターやモンスターを返り討ちにしてきた証だったのです。

 

ガムートが今いる雪山は、モンスターや人間が近づくことはめったにありませんでした。

 

モンスターたちにとってあの雪山は、とても強いガムートがいてそこに入ったものは生きて帰れないとまことしやかにうわさされており、人間はあの雪山は吹雪が強くて入れないのもあり、ガムートがすみついているため近づこうとはしません。

 

それが理由で、雪山は事実上ガムートのものだということになってました。

 

ガムートの日課は雪山のふもとまで降りて、そこで食事をした後雪山に戻り、自分の巣のあなぐらでじっとすることでした。自分の縄張りを見まわりをすることはせずにそのまま巣へと帰っていくのです。

 

 

 

いつものようにふもとまで降りて草を食べていると、地震が起きました。この地はよく地震が起きる……。そして雪山で雪崩が起きる…。長いこといたため、ガムートは鋭い勘で地震を察知してふもとまで降りて避難することを覚えて、あなぐらも地震で崩れないような場所を選んでいました。

 

 

 

巣にもどると、ガムートは驚きました。

 

あなぐらの前で、人間の少年が倒れていたのです。

 

雪を這った跡があり、それをたどってしばらく歩いてみると、ばらばらになった木材の破片や道具、荷車と思しきものの車輪が散らばっていました。

ここを渡ってる最中、おそらく雪崩に巻き込まれて命からがら逃れたあの少年は、あそこに行きついて意識を失ったのだろう。

 

戻ってみると、少年はまだ意識を取り戻していませんでした。このままでは命を落とすのも時間の問題です。

 

 

 

 

ですがガムートは人間が嫌いでした。

 

この雪山に来るまで、別の地にいたガムートは自分の愛するものと子供を人間のハンターに殺されていたのです。激怒したガムートは家族を殺した屈強なハンターを手にかけました。それ以来ガムートはハンターから恐れらました。ですが、何人ものハンターを倒しても自分のことを聞きつけてくるハンターはごまんといて、毎日がハンターと戦う日々でした。

 

それを何十年も続け、そんな日々に疲れ、嫌気がさしたガムートは愛する家族と暮らした地を離れて、この雪山に来ました。

 

自分の家族を手にかけたものと同じ人間が、目の前にいる。

放っておいても死ぬが、家族を殺された恨みを忘れていなかったガムートは大きな前足をあげて、少年を踏みつぶそうとします。

 

 

人間なんて碌な生き物ではない。

長く生きていてそう結論付けたガムートは足をそのまま少年に向かって……。

 

 

 

 

 

振り下ろせませんでした。

人間とはいえ、目の前で命が付きかけてる。それも幼い子供が…。そんな子供を殺すなんて自分にはできない……。

ガムートは無意識にも、この少年を死んだ自分の子供と重ねてしまったのです。

 

ガムートは長い鼻で少年を優しく抱き、あなぐらに連れて行きました。少年の身体は冷え切っており、こんな状態まで放っておいたことに後悔しました。

 

 

 

少年はまだ目を覚まそうとせず、時折うなされていました。ガムートは少年に寄り添い、いとおしそうにずっと見守りました。

 

 

 

 

 

後日、少年が目を覚ました。少年はガムートを不思議そうに見つめてます。少年の最後の記憶は迫りくる雪崩に吹き飛ばされて、あてもなくさまよっている途中で途切れてました。意識がなくなっても、途中から暖かくなっていたのはこのガムートが傍にいてくれたのだと感じました。

 

少年はガムートの鼻に抱き着きました。とても暖かく毛がふさふさして、心地よかったのです。ガムートは困惑するも、拒まずに見ていました。

 

少年のうれしそうな顔を見て、家族との日々が戻るような感覚をまだ味わいたくて…。

 

 

ガムートは食事の時間になったので、あなぐらから出て行こうとしましたが、少年はガムートを離しませんでした。少年は泣きそうな顔してガムートを見ています。

 

少年は一人になるのはいやだったのです。ガムートは仕方なくこれから食事に行くときは少年を連れていくことにしました。少年を鼻で抱き上げ背中に乗せて、吹雪が弱い時間帯に山のふもとに降りていきました。山に下りる途中、少年はガムートの背中でとてもきれいな雪山の絶景を楽しんでました。ガムートにとっては見飽きている景色でしたが、初めて来たときもガムートはこの景色に癒されていました。

 

山のふもとに来たガムートは早速食事にありつきます。鼻で草をむしり、それを食べていきます。

 

ところが一つ問題が出てきました。

 

少年の食事はどうしようか。人間は草など食べないので自分と同じものを食べさせるわけにはいかない。悩んだ末、今日は湖にいる魚を獲って食べさせることにしました。

 

 

魚がいる水面に鼻を近づけて、水ごと魚を吸い込みます。獲れた魚はサシミウオでした。ガムートはサシミウオを渡すと、少年はそれを食べました。サシミウオは口に合っていたらしく、少年は残さず完食しました。

 

 

 

あなぐらに戻り、少年を寝かしつけたガムートはふと思いました。

 

この子にも家族はいるはず。今でもこの子を探しているかもしれない。たとえそうじゃなくてもこの子は自分といては幸せにはなれない。人間は人間と共に暮らしていくのが本来の在り方…。そこにこそ幸せがあるものだとガムートは感じます。

 

ガムートは少年を起こさないようにそっと背中に乗せて、静かにあなぐらを出ていきました。

 

しばらく山道を歩き、ふもとについた後も歩いていきます。その先には村があり、当然人間もいる。村には関所があって、直接はいけないがそこから遠くないところには置いていける。

 

そこからはもう、二度と会うことはない……。少しの間だが、悪くなかった。

 

 

ガムートは少年をそっと、草むらに置いて振り向くことなく去っていきました。

 

 

 

 

 

これでいい。自分は正しいことをした。心が痛んでも、あの子が幸せになるのならどうということはない。また独りになってもかまわない………。

 

 

 

ガムートは心が痛むのを抑えて、あなぐらに戻りました。

 

 

 

 

 

 

 

あれから翌日、ガムートはいつものように山を下りて食事に行ってました。

ガムートは少年がちゃんと村へ行ったかどうか、気になって昨日はあまり寝ていませんでした。

 

 

草を食べ終わり、湖にいる魚を獲ろうとしたガムートはハッとしました。

 

 

 

あの子はもういない……。自分は何をしているのか……。

 

我に返ったガムートは湖から離れて山に帰っていきました。

 

 

 

帰りの山道、吹雪がいつもより強く感じたガムートでしたが、これくらいの風と寒さならどうということはなく、いつも通りあなぐらに戻ってそのまま朝を迎えるべく静かに目を閉じました。

 

 

 

 

 

 

 

ふと、何かを感じてガムートは目を覚ましました。地震や雪崩が起きるような前兆ではなく、何者かの気配を察知したのです。

 

ガムートはあなぐらを出て周辺の見回りにいきました。

 

 

 

あなぐらから出て数分、ガムートは気配の主を探しましたが見つけられませんでした。

 

考えてみたら、この雪山に自分以外の生き物はいない。自分の勘が当たらなかったことなど何度もあった。あの子がいなくなって、自分も少し動揺しているのだろう。

 

 

ガムートは探すのをやめてあなぐらに戻ろうとしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、何か音が聞こえました。

 

 

いや、音じゃない。これは……、声。声がする…。それもすすり泣くような。声がする方向からもにおいがする……。つい最近まで、感じたことのあるにおい……。まさか、そんな…。

 

 

ガムートはそれをたどってみると………。

 

 

 

 

 

 

 

そこには涙を流し、震えていたあの少年がいた。少年はガムートを見つけると、鼻をぎゅっと抱きしめて泣き始めました。

 

 

その様子を見てガムートは後悔しました。

自分がこの子の望まないことをしてしまった。この子は自分と共に暮らしたかったのだ。それを勝手に幸せになれないと決めつけてしまった。

 

……もういい。この子は自分が幸せにしてみせる。死んでいった家族もそれを望んでいるかもしれない。もう、傷つけたりはしない。

 

ガムートは振り払うことなく、抱き上げてあなぐらへ少年と一緒にいきました。

 

 

 

あれから数か月が経ちました。

 

ガムートは少年にいろいろなことを教えました。過去に何があったか。この雪山に何があるのか。少年と出会ってどんなことを思っていたか。ガムートは言葉は理解できましたが、話すことはできませんでしたので、独時の合図で言いたいことを少年に伝えていました。

 

 

 

 

それから数週間が経ち、異変は起き始めました。

 

ガムートがあなぐらから出てくる日が減りました。ずいぶん長く生きてきて限

界が出てきたのです。日に日に身体が衰弱してきて、

 

 

 

とうとうガムートはあなぐらから出ることがなくなりました。少年はそれ以来自分でふもとまで降りにいって、ガムートの食事である草を毎日とりに行き、ガムートに渡しました。

 

ガムートはそんな少年を見て、もうそんなことをしなくていいと何度も伝えました。

自分のために苦労してふもとに行くのではなく、少しでも自分と一緒にいてほしい。

 

そんなガムートの願いに、少年は気づかず草をとり続けました。

 

 

 

ある日、いつものように少年は草をとりに行こうと、あなぐらを出て行こうとしましたが、ガムートが弱々しい力で少年を引き留めました。

 

こんなことは1度もなかったので少年は驚きましたがこれもガムートのためにやっていことと割り切り振り払ってしまいました。

 

たくさん食べればまた元気になっていろんなことを教えてくれる。教えるだけじゃない。いろんなことだってできるかもしれない。

 

そんな願いを込めて、少年はふもとまで降りていきました。

 

 

 

 

 

帰り道、いつもより多く草をとってきた少年は、ガムートが元気になったらどんなことをしようか考えていました。

 

必ず元気になってくれる。そうしたらいろんな話を聞きながらどこかに旅をしたり、そこで見たこともない、いろいろなものを見て、忘れられない思い出を作る。

 

そう思いながら、草を運びました。

 

 

 

 

 

 

雪山に入ると、いつもより強い吹雪が少年を襲いました。ここまで強い吹雪ははじめてでした。冷たい風が体を冷やし、荒れ狂う雪が視界を遮ります。少年はそれに耐えて何とか進み続けます。

 

 

 

 

 

 

雪の中を歩き続けると、大きな影が見えてきました。少年はガムートが元気になって外に出てきたのかもしれないと思い、駆け寄ろうとしました。

 

 

 

しかし、よく見ると影はガムートより小さくて、普段ガムートが発しない唸り声を出しています。

 

少年はこれはガムートじゃないと分かり、すぐに逃げ出しました。影は咆哮をあげながら追いかけてきました。

 

影の正体は、あのティガレックスだったのです。

前にガムートがこの雪山で一度だけ追い払ったことがありましたが、それでも危険なモンスターだと少年は教えられてました。

 

 

 

ティガレックスはものすごい速さで少年を追いかけてきます。少年は死に物狂いで走りました。吹雪のせいでどこにいっているのかもわからず、ティガレックスの攻撃をなんとかよけながらも必死に逃げました。でも、少年は崖まで追い詰められてしまいました。

 

 

 

 

ティガレックスは少年に近づき大きな口を開けて少年にかみつこうとした瞬間、何かに投げ飛ばされました。

 

 

 

投げ飛ばしたのはあなぐらから出てきたガムートでした。しかしガムートは立っているのもやっとの状態で、体もふらふらしていました。

ティガレックスはそんなガムートに容赦なく飛びつき、かみついてきます。ガムートも必死にティガレックスを振り放そうとしますが衰弱した体が言うことを聞きません。

 

ガムートはティガレックスに肉を食いちぎられて悲鳴のような鳴き声をあげます。あたりに血が飛び散り、ティガレックスは血のにおいをかぎ、興奮してガムートに突進していきました。ガムートも痛みに耐えて、雪煙をまきちらしながら突進していきます。

 

体格差があったティガレックスは、ガムートに押し負けて壁にたたきつけられました。

ですが、ガムートも限界に近い状態でしたので、倒れこんでしまいます。

 

怒ったティガレックスは咆哮をあげガムートの上に飛び乗り爪と牙を使って、身体を引き裂きます。

 

ここまでか……。ガムートは自分が死ぬのを悟り目をつむろうとすると、目の前には少年がティガレックスに立ち向か追おうとする光景が目に映ります。ティガレックスは少年を鋭い爪で迎え撃とうとしました。

 

 

 

 

 

まだだ。まだ死ねない。あの子を、守らないと………!!

 

ガムートは少年を守らんとする執念だけで立ち上がり、少年を襲おうとするティガレックスに全体重を掛けた前足で踏みつぶしました。

 

ティガレックスの身体からは嫌な音が鳴り、口からは血と泡を噴き出してそのまま息絶えました。

 

 

 

 

少年が無事だったのを知ったガムートは安堵しながらゆっくりと崩れ落ちました。少年はガムートに駆け寄り、泣きじゃくって死なないでほしいと言いました。

 

ですがガムートは死を免れないことをすでに悟っていて、少年にそれを懸命に伝えます。少年はそれを聞き入れようとせず、必死にガムートの傷から血が出てくるのをふさごうとしてます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガムートはそれをやめさせて、少年に言葉を伝えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたを愛している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう伝えたガムートは少年の涙をやさしく鼻で拭いて……。

 

 

 

 

静かに目を閉じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうのが私のおじいちゃん、リィザにとってのひいおじいちゃんから聞いた話だ。」

「ふーん。それで、その子とガムートはどうなったの?」

 

「さぁてな。雪山の守り神様にでもなったんじゃないか?それとも、こいつがその生まれ変わりなんじゃないか?」

 

「パオオオ。」

 

「ハナコはそんなヨボヨボの年寄じゃないもん!ねぇー?」

「パオ。」

 

「ははは。そうかそうか。ほら、関所が見えたぞ。リィザ。帰ったら手を洗うんだぞ。ハナコも長旅お疲れ。村に帰ったらゆっくり休め。」

 

 

 

ガムートに乗った親子二人は雪のある道を進み仲睦まじく村へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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