やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
『どうやら、片付いた様だな。』
その頃、ダークルギエルを相手取っていた一夏は、戦闘が終結した気配を感じ取っていた。
彼の言葉からは余裕が感じ取れ、既に長く戦っている割には一切の疲労を感じていない様にも取れた。
それも有る意味では当然だった。
何せ、彼は生まれてからの何百年、何千年を戦士として、戦いに身を置いて来たのだ。
戦闘におけるペース配分など、既に染みついた物になっているのだから。
『お、のれ・・・!』
そんな彼に対し、ルギエルは既に満身創痍、疲労困憊と言わんばかりの様子で、片膝をつきながらも、怨めしげに呻いていた。
無理もない。
完全に力が戻っていないとはいえ、こうも一方的にやられているのだ。
闇の支配者を名乗るルギエルからしてみれば、屈辱以外の何物でも無いだろう。
『お前の負けだ、大人しく負けを認めろ!!』
一夏に帯同し、ルギエルに対して挑んでいた八幡もまた、ルギエルが呼び出した怪人達を相手取りながらも降伏を呼びかける。
もうこちらの勝ちは目に見えている。
大人しくここらで退け、そう言っている様にも聞こえた。
『ま、八幡君の言う通り、この辺で幕引きにしようじゃないか、だが・・・。』
その通りだと頷きつつ、一夏は向かってくる光弾を最早防ぐ必要すらないと言わんばかりに身体で受けながらも前進し、ルギエルの首を片手で掴み、ゆっくりと持ち上げる。
ミシミシと、何か固いモノが軋むような嫌な音が聞こえてくる辺り、一切の手加減をしていない事が窺い知る事が出来る。
『消える前に、俺のティガの力を返してもらおうか、こんな紛い物じゃあ、弟子に力を授けてやる事さえままならんのでね。』
『ぐぅ・・・!』
元の力を取り戻すため、一夏の言葉からは殺意にも似た何かが滲みだしていた。
自分の手で決着を着けたい、そして、何れ別れる事となる弟子に教えを授けたいと言う想いが、その言葉からは滲み出ていた。
首を絞められるルギエルは、その圧倒的な力の前にただもがく事しか出来なかった。
無理もない、何せ、ルギエルはまだ、本来の力を取り戻している途中なのだ。
それを、嘗て多くの多元宇宙に名を馳せていた一夏に真っ向から勝負を挑まれているのだ、勝てる道理など無いに等しかった。
『お前が持っているんだろ?安心しろ、すぐに渡してくれりゃ苦しまずに消してやる。』
そう言いつつ、一夏は更に首を掴む手の力を強めていく。
このまま首を圧し折り、終わらせても良いと言わんばかりに、その軋む音はどんどん大きさを増して行った。
『く・・・、くくく・・・、ふははは・・・!』
今まさに命の危険と隣り合わせている状況にあっても、ルギエルは嘲笑う様に嗤った。
まるで、愉快痛快、そう言いたげな様子だった。
『何がおかしい?自分の消滅が怖くないのか?』
『哀れだな・・・、ティガよ・・・、貴様は、ウルトラマンの姿には戻れぬ・・・!!』
『えっ・・・!?』
ルギエルの言葉に、八幡は驚愕に声をあげ、意識を逸らしてしまう。
それが仇となり、先にルギエルが召喚していた、バド星人とシャプレー星人がギンガに組み付き、その動きを阻害する。
『しまった・・・!!』
闇の力で強化されているのだろう、ギンガのパワーを持ってしても抜け出せなかった。
その隙を突くかのように、巨大なライフルの様なものを持ったダダが現れ、ギンガを討とうとする。
『八幡・・・!!』
弟子の危機に、一夏は角度的に攻撃出来ない事を悟り、一瞬の躊躇いも無くルギエルの首から手を外し、身体を八幡の方へ向けて光弾を三連射する。
それは、狙い違わずにギンガを狙っていた三体の異星人に直撃し、跡形も無く消滅させてしまった。
『大丈夫か?あのライフルを持ったヤツははヤバい奴でね、ウルトラマンでもそうそう喰らいたくない、気を付けたまえ。』
『す、すみません・・・、お、俺のせいでルギエルに・・・。』
八幡を立たせながらも、一夏は周囲を警戒するように見渡す。
そこに、最早ルギエルの姿は無く、逃げられた事を窺わせる気配だけがあった。
「君に比べれば些末な事だ、気にするな、次のチャンスがある。」
変身を解きながらも、一夏は気にするなと彼の背を叩く。
気落ちは不要、次があると。
―――次など無いぞ、ティガよ・・・!―――
「「ッ・・・!」」
その時、何処からともなくルギエルの怨嗟に満ちた声が二人の耳に届く。
―――貴様の力、ティガはこの世界には存在しない・・・!貴様は、矮小な存在のままこの世界に閉じ込められたまま、終わるのだ・・・!!―――
その言葉を最後に、周囲に在った闇の気配はすべて消え失せていた・・・。
だが、八幡はまだ、表情を硬くしたまま押し黙っていた。
先の戦いの最中に発せられた、一夏がウルトラマンに戻れないという言葉の意味を告げられ、まだ思考が追い付けていないのだろう。
ルギエルの言葉が正しければ、この地球がある宇宙にティガのスパークドールズは存在せず、別の並行世界に飛ばされていると言う事になる。
それはつまり、一夏はこの世界を出ない限り、ティガには戻れないというコト・・・。
「なるほど・・・、だから戻ってこないという訳か・・・、こりゃ、参ったね・・・。」
だが、当の一夏本人は、納得した様に笑いながらも呟き、その場を立ち去ろうとしていた。
その背からは、何とも言えぬ感情が伝わってくる様で、八幡はいたたまれぬ心地を味わっていた。
力を戻せぬと分かってしまった一夏の心地は、最早生き地獄にも等しいモノだろうから・・・。
師にかける言葉が見付からないまま、彼はその後を追うしかなかった。
自分が出来る事が、またどこにあるか見失わない様に・・・。
sideout
noside
「う・・・、あ・・・?」
「海老名さん・・・!?目が覚めた・・・!?」
その頃、林道の奥にて、姫菜は意識を取り戻していた。
既に闇の力は祓われており、自分の意思でしっかりと会話できる状態である事は窺い知れた。
それに気付き、彼女の身体を支えていた翔が声を掛けた。
最初は沙希がやるべきと遠慮していたが、好きなんだろと念を押されての結果だったらしい。
「戸部っち・・・?あぁ・・・、そっか・・・、私・・・。」
彼の顔を見て、姫菜は自分に何があったかを思いだし、静かに納得していた。
無理もない。
混乱し、怒りに狂っていたとはいえ、自分は取り返しのつかない事をしてしまった。
自分が必要としていた場所を自分自身で壊し、それの八つ当たりをして、最後は諭されて怪獣の力で暴れ回る。
それは、癇癪を起す子供と何ら変わりなく、気に入らないとただ周りに迷惑を掛けているだけなのだと。
「もう・・・、終わりだよね・・・、あんな、あんなコト・・・っ!」
故に、彼女は赦されないと知りつつ、小さく呟いて涙を零した。
自分が悪い、そう言っているかのように・・・。
「そんな事言ってて、なんか変わるワケ?」
だが、それだけで許さないのが沙希と彩加だ。
泣くのは結構、悪いと認めるのも結構、自分達もそうしてきたし、彼等が関わって来た者達は、多くがそうやって前に進んでいる。
だが、今の彼女はどうだ。
最初から諦めてしまっているのだ。
これからを、離れてしまったと思い込んで、自棄を起こす気も無くしていると。
「アンタが勝手に突っ走って勝手に転んだだけじゃないか、こっちからしてみりゃ、泣かれてもキレたいだけだよ。」
「ッ・・・!」
沙希の突き放す言葉に、姫菜の目に再び何かが宿った。
昏い何かでは無く、ただ、怒りと困惑だけが見て取れた。
「じゃあ・・・!じゃあどうしろっていうの・・・!?」
翔の膝枕から起き上がり、彼女は再び沙希に詰め寄った。
如何しろと言うのだ。
如何すれば正解だったのだ。
その答えが欲しかったのだろう。
「君を想って動いた人の事、忘れてない?」
そんな姫菜に、彩加は言葉を投げかける。
誰かを忘れていないかと、その想いを無にしてしまうのかと、そう言いたげだった。
「彼に真摯に向き合ってあげて、それがきっと、答えになる筈だから。」
だから、真っ直ぐ彼と向き合い、答えを出せと。
それが、OKかNOかは別として、きっと彼女に新たな道を指し示す事を確信していたから。
「海老名さん・・・。」
姫菜が振り向くと、そこには微笑みを浮かべた翔が、真っ直ぐ彼女を見据えていた。
逃げるつもりなどない、真っ直ぐに受け止める。
そんな想いが、その瞳からは伝わって来た・・・。
「戸部っち・・・。」
その瞳から、彼女は目を逸らそうとしてしまう。
真っ直ぐ見れないから、後ろめたく、羨ましいとさえ思えてしまうから・・・。
だが、彼女が背を向けても、その目の前には逃げさせてくれない壁があった。
だから、逃げる事は始めから選択肢にはなかった。
彼女は翔の目を真っ直ぐ見詰め、自身が抱える本音を吐露し始めた。
「私ね、戸部っちのこと、実は何とも思ってなかった、かも・・・。」
「・・・。」
「私の趣味ってさ、普通なら誰にも受け入れられないモノだし、優美子達だって、何処まで付き合ってくれてるのか分からなくって、さ・・・。」
静かに受け止める翔に対し、彼女は言葉を紡ぐ。
自分は誰にも受け入れられないと、そんな弱さを隠す為に、トップカーストのグループを利用していたと。
だから、翔本人の事なんてどうとも思っていなかったし、邪魔になれば切り捨てる事だって出来た存在である事は、彼女自身が認める所であった。
「だから、なのかな・・・、告白されても、断っちゃうって分かってたから・・・。」
「だから、川崎さんや戸塚君に頼んで、グループが壊れない様に頼んだ、って事・・・?」
自分の言葉を遮る様に発せられた翔の言葉には、ただ事実を確認する様な色だけがあった。
事前に彩加達から大まかな事件の内容を聞いていたのだろう、そこに困惑などの感情は無かった。
それにつられ、姫菜も首肯する。
それは、彼女が認めた事に他ならなかった。
「そっか・・・、そうだったんだ・・・。」
翔の言葉から、何処か痛ましい色が伝わってくる。
仕方あるまい、想い人から何とも思われていなかったと、道具とさえ見られていれば、傷付かない者などいないのだから。
そんな翔の様子から、姫菜は次に飛び出す言葉に身構えた。
罵倒か、それとも別のモノか・・・。
想像するだけで、怖くなった。
「なら、謝んなきゃいけねーのは、俺の方だべ。」
「えっ・・・?」
だが、翔の答えは、そのどちらとも違っていた。
予想外の返答に、姫菜は間の抜けた声をあげるしか出来なかった。
「だって、それって俺が無理に告白しようとしてたからっしょ?なら、俺が無理強いしたみたいじゃんか。」
「そ、それは違う・・・!私が・・・!」
自分が告白するために、どう思っているかもわからない相手にOKさせようとしていたと、翔は自分の行動を改めて振り返った。
その浅はかな行動が、姫菜にグループを護るための行動を取らせたと考えれば、悪いのは自分だと言う事になると行き着いたのだろう。
「俺は何とも思ってないべ、だから、ゴメン!」
翔は勢いよく頭を下げ、自分が悪かったと謝罪する。
まるで、謝る必要は無いと、そう言っている様にも捉える事が出来た。
「戸部っち・・・。」
そんな彼の姿勢に、姫菜は自身の頬を、先程の涙とはまた違うモノが零れ落ちていくのが分かった。
それは、感涙だった。
こんな自分を責める事無く、ただ自分に原因があったと、それで姫菜の事を許そうとしたのだから。
自分が蔑ろにしてしまったのに、自分を想ってくれていた。
それが、何よりも嬉しくてたまらなかったのだろう。
「だからさ、俺達もっかい始めない?付き合ってなんて言わないべ、友達として、さ・・・?」
そんな彼女に、翔はもう一度微笑みかけ、尋ねた。
友達としてやり直そうと。
今迄の様な偽りでは無く、本物としての友人として・・・。
「うん・・・、うんっ・・・!!」
その温かな想いに打たれ、姫菜は大粒の涙を零しながらも頷いた。
今度こそ、周囲の目から怯える必要のない本物を、彼女は目の前に得たのだから。
「姫菜・・・!戸部っ・・・!」
そんな二人に、優美子が駆け寄ってくる。
戦闘が終わり、何処かの親切な誰かに、二人が此処に居ると教えて貰ったのだろう。
彼女は迷うことなく二人に駆け寄り、母親が幼い子供にする様に二人纏めて抱き締めた。
「バカっ・・・!二人とも、バカだしっ・・・!!」
「「ゆ、優美子・・・。」」
余程心配していたのだろう、彼女も大泣きしながらきつく、きつく友を抱き締めていた。
そんな優美子に、姫菜は泣きながら笑い、翔は照れ笑いを浮かべながらもされるがままになっていた。
偽りの中にも、本物はあった。
それを感じられたのだろう。
そんな二人の様子を見て、もう大丈夫だと安堵した沙希と彩加は頷き合い、静かにその場を後にした。
今は此処に居ない、本物の関係を築けた者達の下へ戻るために・・・。
sideout
次回予告
京都での一件を終え、故郷に戻った八幡達。
そこでは、新たな戦いの幕が開こうとしていた・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は踏み出した
お楽しみに