やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は呆れている

side八幡

 

「さてと、行くとするか。」

 

その日、俺は授業終わりに何時もと同じように科特部の部室に足を向けた。

 

今日は沙希も彩加も用事があるとのことで、帰ろうと思ったけど、とりあえず帰る前に纏めておきたい怪獣関連の資料があったから、俺だけ残る形になっていた。

 

家に帰ってもやることないし、部室で瞑想や怪獣についてのレポートを纏めるって案外はかどるもんだから、ついつい長居してしまいそうになる。

 

まぁ、沙希や彩加もいてくれるし、大和や相模もなんだかんだ尋ねてくるから、こっちまで楽しくなってくるからな。

今まで考えられなかったことだけど、これが幸せってもんだと考えると悪い気はしなかった。

 

まぁ、小恥ずかしいから表だっていう事はないけどさ。

 

そんなことを考えながらも、部室まであと少しになったところで、それは目に入ってきた。

 

「ん・・・、あれは・・・?」

 

部室の前に、茶髪の男子生徒の姿があった。

 

あれは・・・。

 

「おい戸部、何やってんだよ。」

 

「あ、比企谷君・・・。」

 

ウチのクラスのリア充にして、先日の一件でウルトラマンゼノンに覚醒した戸部翔だった。

 

一体何の用事かは分からないが、まぁ、大体の察しはつく。

 

「そ、その、戸塚君か、川崎さんは・・・。」

 

「あー、沙希達は用事があって帰ったよ、話は俺でも聞けるから入れよ。」

 

京都で起きた事件の際に、あの二人と一緒にいて、今この場であの二人の名を呼んだという事は、おそらくウルトラマン関連の事だとは予想できた。

 

なので、俺は部室のカギを開けて彼を中に招き入れた。

 

「し、失礼しまーっす・・・。」

 

とりあえず戸部を椅子に座らせている間にお湯の準備をしておく。

 

先生からの寄付という形で電子ケトルを部室に置いているので、これまた貰い物のアストレイで使っている茶葉で入れる紅茶を飲めるという寸法になっていた。

 

まぁそれはどうでもいいか。

 

そんなことを考えている内に湯が沸いたため、茶葉を入れていたティーバッグをカップに放り込み、適量の湯を注いで準備完了。

 

出来上がった紅茶を彼の前に置き、俺も一口すする。

うん、宗吾さんが淹れたのに少しずつ近づいてるな、いつかはこれで生計でも立ててみるかな?

 

「うめぇ・・・、こんな旨い紅茶呑んだコトねーべ・・・。」

 

「そりゃよかったよ、ウルトラマンゼノン。」

 

感激している戸部に、単刀直入に聞きたい要件を切り出すと、彼は呑み込み損ねたのか、咽て急き込んでいた。

 

まぁ、なんで知ってるか分からない驚きが大きいんだろうな。

 

「な、なんでそれを・・・!?」

 

「俺もウルトラマンだからだよ。」

 

問い掛けの答え代わりに、俺は懐からギンガスパークを取り出して見せ付ける。

 

「大方、沙希や彩加にウルトラマンの事を改めて聞きたかったんだろ?」

 

「うっ・・・、そ、そうだべ・・・、こんなデケェ力、どう扱えばいいか分からねぇじゃん?」

 

なるほど、純粋な気持ちと勢いで変身したはいいが、改めて力の大きさを直視すると怖くるわな。

 

俺だって、最初の戦いの後はそうだったよなぁ。

怖くなって、戦えるのか不安になってしまうのも無理はない。

 

「良い心がけだよ、この力を使うには臆病な位がちょうど良い、間違った使い方をして、大切な人を傷付けたくないなら尚の事な。」

 

何せ、俺はその力を過信して一度間違えてしまった。

だから、傷つけたくない相手の事を考えると、慎重に、臆病にならざるを得ない。

 

だけど、その力の使い方を知らなければ、臆病なままで何も出来やしない。

だからこそ、彼は俺達に話を聞きに来たんだろう。

 

「俺が教えてやる、なんて言うつもりはないけど、同じウルトラマンなんだ、一緒に学んで行こうぜ。」

 

そんな彼の気持ちを無碍にする訳にはいかない。

少なくとも半年は先輩なんだ、手ほどき位は出来る筈だしな。

 

「ひ、比企谷君・・・!マジ良い人だべ・・・!」

 

戸部は感激した様に飛び上がって、俺に抱き着いてくる

 

「やめろ・・・!男に抱かれる趣味はねぇ・・・!!」

 

「照れないでくれよ~!」

 

こういうのは求めちゃいないが、これもコイツなりのスキンシップだと思って、あえて控えめな抵抗で済ませておく。

 

「ちわーっす、比企谷君いる~?」

 

「戸部君がこっちに行くの見たから来たけど・・・。」

 

そう思っていた時だった、何と言うタイミングで大和と相模が部室に入って来た。

 

「「あっ・・・。」」

 

「げっ・・・!?」

 

なんで普段あんまり来ないのに、こんなタイミングで尋ねてくんだよ・・・!!

理不尽すぎる状況に、思わず叫びたくなった。

 

「お、おまピト・・・。」

 

「待て相模、それは誤解だから、って言うかその発言はマズイ・・・!!」

 

相模もそういうの知ってるんだなぁと、若干感心したような心持になったけど、今は弁解が先だ。

 

「ははは、分かってるよ、翔君、そろそろ離れてあげなよ。」

 

俺が若干慌てているのを見れて満足したか、大和は冗談だってと笑いながら戸部を諌めていた。

 

コイツ、本当に図太くなったよな・・・、いや、こういう冗談も嫌いじゃないけど疲れるんだよな・・・。

 

「分かったべー、比企谷君焦り過ぎだべ。」

 

「一応彼女いるんでな、変に疑われたくないぜ・・・。」

 

からから笑う戸部に若干いらっとしたが、最早何を言っても暖簾に腕押しだろうから、タメ息一つ吐いて弁解だけはしておく。

 

こんな事で沙希に蔑まれたらマジで凹むぞ・・・。

 

そんな事してくる訳は無い、多分・・・。

 

「で、戸部と何話してんのか気になって来たのか?」

 

「まぁね、それと耳に入れときたい情報もあったんだ。」

 

「なんだそりゃ?」

 

どんな情報があるって言うんだ?

 

怪獣関連なら、先生達の方が情報を掴む速さは上なはず・・・。

と言う事は、それ以外の厄介事の事なのか?

 

「近々生徒会長の選挙があるじゃないか、ほら、城廻先輩の後釜決めだよ。」

 

「あぁ、あのぽわ~っとしたセンパイね、そう言えば話した事ないなぁ、で、それが何か問題でも?」

 

別に、毎年のように行われている慣例だろうし、それに目くじら立てる必要なんて無い気もするが、大和が気にするぐらいなんだ、話聞いておくとするか。

 

「それがさ、次期会長候補に名前が挙がってるのが、1年生の女の子一人なんだよね。」

 

「あー、それ、サッカー部のマネだべ、一色いろは、結構可愛いんだべ。」

 

補足するように話す相模のいう女子生徒に心当たりがあったのか、戸部が声をあげた。

 

女子マネ、ねぇ・・・。

大方、見てくれは良い葉山につられて入った奴だろうなぁ。

 

まぁ、偏見は良くないが、そう思ってしまうのは無理ないか。

 

「ふーん、沙希より可愛い女の子なんているかよ。」

 

ぶっちゃけ、女子のルックスに今は興味無いな。

総合して沙希に勝てる奴なんてそうそういないだろ。

 

いるとしたら、あの人達連れて来ないとなぁ・・・。

 

それはさて置き・・・。

 

「惚気乙、で、本題に戻るけど、その子、立候補じゃなくて推薦で挙がってるみたいなんだよね。」

 

「あぁ、大体察したよ、嫌がらせって訳か。」

 

なるほど。

ソイツを気に入らん女子が恥かかせるために推したのか。

 

陰険だが、まぁ手段としちゃアリだわな。

何せ、男子からしてみれば可愛いあの子が女子からも支持されてるって言う風にしか見えないし。

 

俺はそうは思わんが。

 

「ウチもその子の評判は知ってるよ、男子からは小悪魔、女子からは男漁り好きってね。」

 

「ひっでー評判だな、同じ事言ってるのにまるで印象違うな。」

 

俺の予想を肯定する様に、相模が吐き捨てるように発言する。

彼女も昔は同じ様なもんだったと思っているのだろうか、同族嫌悪に近い感情が見て取れた。

 

まぁ、今の相模は結構まともに良い女してるように見えるし、まぁ大丈夫だろうけど。

 

ってかこれ、完全に先生が知ったら爆笑案件じゃないか?

いや、弱者の遠吠えと鼻で笑うかの二択だろうなぁ・・・。

 

「いろはす聞いたらなんて言うかねー。」

 

戸部の奴、一応の後輩の事だってのにまるで他人事だな。

いや、付き合いたいって言う対象で見てない後輩女子への態度なんてそんなもんか、俺、後輩居た事ないから分からんが。

 

ってかいろはすってなんだ、潰しやすいペットボトルの水かなんかか。

 

そう思っていた時だった、唐突に部室の扉がノックされる。

 

「空いてますよー。」

 

一体誰だと思いながらも、取り敢えず部員の俺が代表して入室を許可する。

 

「し、失礼しま~す・・・。」

 

おずおずと入室してきたのは、2名の女子生徒だった。

 

「貴女は、城廻先輩?」

 

「あ、君はあの時の・・・。」

 

一人は現生徒会長でもある城廻めぐり先輩で、俺とは一度顔を合わせていたからか、驚いた様にしながらも何処か納得したような表情も浮かべていた。

 

なるほど、何となくここに来た理由が分かった気がする。

 

「ここが科特部ですか~、あんまり物無いですね~。」

 

俺が勝手に納得している傍らで、もう一人の女子生徒が部室内を品定めする様な目で見ていた。

 

訪ねて来ておいて挨拶も無しとは大したヤツだ、褒めてる訳ないけど。

 

「おー、いろはすじゃん、何しに来たべ?」

 

「げっ・・・、戸部先輩・・・。」

 

その少女に気付いた戸部が声を掛けると、いろはすと呼ばれた彼女が露骨に嫌そうな表情を浮かべていた。

 

なるほど、知り合いで、さっきのよく分からんあだ名みたいなので呼んだって事は・・・。

 

「大体察しましたよ、生徒会選挙のことですね?」

 

「そ、そうだけど、どうして・・・?」

 

「さっきまでその事で盛り上がってたんで。」

 

ちょっと引きながらも、なんで分かったのだと尋ねてくる先輩に、若干の皮肉を籠めて返しておく。

 

ここに来たと言う事は、恐らくあの女教師の差し金だろうと言う事は想像に難くなかった。

 

何せ、ここ最近奉仕部なんて校内の噂にすら上がらないほどに落ちぶれているらしいし、面倒事を持ち込むなら、此処しかないと思われてるんだろうな。

 

まぁ、顧問が顧問だから何でも解決出来そうに思われてるんだろうが・・・。

 

とは言え、俺達は奉仕部でもなんでもないし、依頼されたところで受ける気は更々無いが。

 

まぁ、話のタネに聞いておくとしよう。

 

「そ、そう・・・、だったら・・・。」

 

「貴女が話す事じゃないでしょう、おい一年、自分の事先輩に丸投げしてんじゃない。」

 

この事は、城廻先輩がどうこういう案件じゃない。

中心はあくまで一色とかいう一年だ、そこを履き違えてはいけない。

 

「ちょっと~!こんなに可愛い後輩に向かって、その言い方は酷くないですかぁ~!?」

 

俺の発言に、その少女は唇を尖らせて抗議の声をあげた。

 

なるほど、その怒った風なやり方も男を弄ぶためだけに取り繕うものだと思えば理解出来るな。

 

理解は出来るだけで、一切思う処は無いけどな。

 

「酷くないな、寧ろ、恥知らずなヤツだと呆れてるまである。」

 

「ま、まぁまぁ比企谷君・・・、一色さんも早く要件を教えてくれないかな?」

 

つんけんどんに返す俺を宥める様に、大和が間に入って要件を問い質していた。

 

こんな事で小競り合いをしている場合じゃない、そう言っている様にも思えた。

 

「わ、分かりましたよぅ・・・、私が生徒会選挙の候補に推されたのって、もうご存知ですよねぇ?」

 

一々鼻に突く喋り方だこって、それで可愛いと思ってるのかね。

 

「あぁ知ってるよ、男漁りし過ぎたツケ、回って来たんだろ。」

 

「言い方。」

 

別に間違っちゃいないだろ。

相模だって認めてたくせに良く言うぜ。

 

「ひ、酷いですッ!」

 

一瞬怒りに表情が抜け落ちた一色だったが、すぐさま調子を取り戻して非難の声をあげてくる。

 

なるほど、煽りはそこまで慣れてないってことかね。

だとすれば、幾らでも遣り様はあるな。

 

「そう言えば城廻先輩、推薦者って何人集まれば推薦と認められるんでしたっけ。」

 

「え、えっと・・・、確か30人以上集まったら、成立、なんだけど・・・。」

 

俺の言い草に若干引いてるんだろう、城廻先輩はおずおずと説明していた。

 

30人、か・・・。

少なく見積もって約一クラス分の推薦って事ね。

 

「なるほど、少なくとも30人には・・・。」

 

「言わせねーべ?」

 

俺が何を言おうとしたか察したのだろう、戸部が俺の口を物理的に塞いできた。

 

いや、事実だろうがと言いたいが、円滑に話を進めるには黙っておいて吉だろうか。

 

「それで、どうしてほしいんです?」

 

だが、本題はそこじゃない。

嫌われてるのはコイツの行いのツケだから仕方がないとして、この事態をどうしてほしいかが問題だろ。

 

「えっとですねぇ、お願いしても良いですかね?」

 

まどろっこしい、さっさと言えってんだ。

 

「そのぉ、このまま生徒会長になるのも何かカッコ悪いじゃないですか、出来たら、私が生徒会長にならない様にしてほしいんですぅ。」

 

何と媚びた言い方だろうか、何と言うか、こうお願いすれば何でも聞いて貰える、そんな思惑が透けて見える様だ。

 

まぁ、言い分は間違ってはいないな。

このままなったとしても、流されただけでカッコ付かないのも事実だし。

 

だが、まぁ慌てる必要は無い。

ここに来たと言う事は、本当に出来る手を全て打った可能性がある。

 

「なるほど、大体分かった、なぁ一色?」

 

だったら、好きなようにかき回してやるのも一興だな。

 

「なんですか?」

 

俺が悪い顔している事にも気付く事無く、一色はなんだと尋ねてくる。

 

それで良い、そして驚くと良い、俺はそれが見たい。

だから、俺はこの一手を打つ。

 

「無理やり推薦した奴等に、仕返ししたくないか?」

 

これ以上ない程、痛快な事になる事を期待した一手に、俺の周りは皆、表情が引き攣っていた・・・。

 

sideout




次回予告

一色いろはにより齎された問題は、八幡達を再び奉仕部と向き合わせるきっかけとなる。
それが齎すのは、如何なる決着か・・・。

次回、やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は掴んでいた

お楽しみに

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