やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
「仕返し、したくないか?」
俺の言葉に、科特部の部室内は水を打った様な静寂に包まれた。
そこに至った原因は、目の前にいる一年女子の相談だった。
目の前の、一色いろはとかいう一年が、男に媚を売った結果の逆恨みに、望まぬ生徒会長選挙に立候補させられたと言う。
それを回避できないかと、現生徒会長である城廻先輩を伴って相談に来たわけだ。
まぁ、自業自得みたいなもんだから、断っても良いし、鼻で笑ってやる事の方が良いかもしれない。
とは言え、一体誰に唆されてきたのか気になる所ではある。
俺なんてあんまり目立たない一般生徒でしかないんだがなぁ。
恐らく、あの女教師の差し金では無かろうか。
俺を使い潰すために、俺を体の良い駒のようにしか思わないあの平塚静とかいう女に唆されて来たんだろうな。
なるほど、それなら辻褄はあう。
俺を手元に置いていると言う事と、問題を自分の指示で解決させたと言う名声が欲しいがための行為だと。
なんて女だ、早々に縁切っておいて正解だったな。
織斑先生に見出して貰わなかったら、今頃潰されてたかもな・・・。
おっと、それは今問題じゃなかったな。
「ど、どういう、事ですか・・・?」
俺の提案を理解しきれなかったのか、一色は上擦った声で問い掛けてくる。
なるほど、計算高くはあるが、そこまで頭は回る方ではないと・・・。
まぁ仕方があるまい。
会長になりたくないと言う想いの方が勝っている今の状況では、見返すと言う選択肢はまず以て浮かんでこないだろう。
だからこそ、誑かす価値があると言うモノだが・・・。
「なぁに、簡単な話だ、お前、完全に嘗められてるんだよ。」
挑発するように、そして憐れむ様に一色に説いて行く。
「な、嘗められてる・・・?」
「あぁ、そうじゃなきゃ、こんな陰湿な事されないだろ?」
意味が分からないといった表情を浮かべる一色に、そうじゃないかと投げかけてやる。
一色を陥れようとした女子が何を考えていたかは、俺が知る由も無いし、知りたいとも思わない。
だが、その女達が一色を自分達より格上とは見ていない事だけは分かる。
だからこそ、面と向かってやるよりも、こういった手口で陥れた方が楽だと思われたからだろうと想像できる。
「お前が本当に出来る奴で、生徒会長になっても、名声を増すだけで何の影響もない奴だったら、こんな事は無い、違うか?」
「ち、違わないですけど・・・、私がダメって言われてるみたいですね・・・。」
「悪い意味でしか有名になってないからな。」
俺がバッサリ言い切ってやると、一色は反論する言葉も無いのか、がっくりと肩を落としていた。
そんな一色を憐れんでか、城廻先輩が慰めるように肩に手を置いていた。
大和や相模も、言い過ぎではないかと言った様な表情をしているが、本音はその通りだと言いたい所だろう。
まぁ、そんな事は後回しだ。
「話を戻すぞ、推薦されて降りれない事が決まっちまってる以上、やる事は二つに一つだ。」
だから、コイツは選ばなきゃいけない。
真っ向から戦うか、尻尾を巻いて逃げ出すかだ。
「一つは、他に候補に挙がった奴に頼んで会長になって貰う、まぁ、葉山辺りにでも頼めばいいんじゃないか?」
「それは・・・、葉山先輩に迷惑が掛かるんでぇ、遠慮したいかなぁ~、って・・・。」
勝手な奴め、まぁここまでは予想の範囲内。
葉山の奴が、コイツに気があるかどうかなんて知らんが、まぁサッカー部の女子マネになっておいて奴に気が無いのはうそになるだろう。
何せ、男漁りをしているコイツにとって、葉山はこの学校一の獲物に違いは無いのだから。
まぁそれが嫌なら、選ぶ選択肢は一つしかないがな。
「じゃあこれしかないな、お前が生徒会長になって、総武高の伝説になる事だな、あの雪ノ下雪乃すら叶わないぐらいにな?」
「あぁ・・・、なるほど・・・。」
俺の話を聞いていた戸部が、そう言う事かと察しを付けていた。
案外、察しが良いじゃないか、単純なテンション任せかと思っていたが、評価を改める必要があるな。
「ど、どういう事ですかぁ・・・?」
それとは対照的に、理解が及ばなかった一色は困惑と驚愕の表情を浮かべていた。
「なぁに、簡単な事だ、今、この総武の才女、雪ノ下雪乃がならない生徒会長のポジションに座って、お前が№1になればそれで終いだ、下の奴の言う事なんて戯言や負け犬の遠吠えでしかない。」
言い方は悪いが、つまりは誰にも文句を言わせないぐらいの高みに昇ってしまえばいい。
虐められているなら、環境を変えてやる事でねじ伏せてやれば良い。
俺は、今そうさせてもらってるからな。
そうなれば、後はくだらない弱者の戯れだと鼻で笑える様になる。
曖昧な、やりたくないのかどうかさえ分からない今の態度よりは遥かにマシだ。
やってる事は兎も角、姿勢だけは共感できるようにはなるだろう。
「で、どうするんだ?結局はお前次第なんだぞ?」
俺が出来るのは示してやることだけ、結局は変わろうと言う意思が無い限り何にも起こりはしないのだ。
それは、俺が身を以て体験した事だからよく分かる。
「そ、それ以外の方法って、無い、ですかぁ・・・?」
一々あざとく演技する事を忘れん奴だな。
まぁ良い、此処まで言ってダメなら他にも手はあるさ。
「無いね、寧ろ、そんな甘っちょろい考えがどうして出て来るんだ。」
俺は彩加や大和程優しくは無い。
喩え喧嘩腰だと揶揄されようとも、変わってもらうためには仕方ない。
「呆れたぜ、結局は媚びるだけで何にも出来ないのかよ、そうだ、お前がやってみろよ戸部?お前イイ奴だからな、応援するぜ?」
このまま正攻法で行ってもダメなら、少し力を借りるとしよう。
「俺かぁ、面白そうだべなぁ、いろはすでも出来るって思われてんなら、俺にも出来るかもなー。」
戸部に俺の意図が理解出来たのかは定かではないが、すぐに笑みを浮かべてやってもいいと言っていた。
明らかに一色を意識して、俺にも出来ると言わんばかりの言い回しだった。
馬鹿にはしていないだろうが、なんかイラッとくる言い回しなんだよなぁ。
まぁ、無意識に抉るのが得意なのだと思っておこう。
「なんですか・・・!なんなんですか・・・!!」
その言葉に、一色の顔色が克明な怒りに染まった。
掛かった。
俺はこの時点で勝利を確信した。
「私をバカにしてるんですかッ!?嘗められてるってなんですか!!私はそんなにダメなんですかッ!?」
吐き出される言葉には怒りが籠められていて、自分はそんなに愚鈍では無いと言いたげな色があった。
口では何とでも言える、だから、示すべきは行動と結果だけだ。
「お前の行動や態度を見てるだけじゃ分かるワケ無いだろ、なんなら、俺を見返してくれるぐらいまで頑張ってくれよ。」
故に、俺も悪者になる事を覚悟で煽る。
これでどうするかは、一色次第だ。
俺の言葉に思う処があったか、一色は怒りに震えながらも拳を握り締め、暫くの間俯いていた。
それがどれほど続いた時だろうか、彼女は勢いよく顔を上げ、この部屋に入ってくる時とは違う顔つきを作っていた。
「分かりましたよ!やってやりますよ!!推薦した子達にも、貴方にも!!私が一番の生徒会長だって、分からせてあげますから!!」
俺を力強く指差し、開いていた教室のドアに向かって走って行く。
そして、教室から出た所で振り向き様に、怒った様な表情のままあっかんべーをして走り去って行った。
「よし、作戦成功ッ!!」
一色の靴音が聞こえなくなった所で、俺は思いっきり手を叩き、ガッツポーズを取る。
「酷い人だね君も、一色さん怒ってたじゃないか。」
そんな俺に苦笑しながらも、大和が少しだけ咎めるような口調で話しかけてくる。
だが、少し茶目っ気が窺える辺り、本気じゃ無い事ぐらいは察する事が出来た。
「良いんじゃない?あれぐらいなら下手な嫌味よりも随分良いと思うよ?」
そんな大和を宥める様に、相模が俺のやり方に理解を示してくれていた。
確かに、あの手の女に下手な嫌味を言った所で効果は薄いだろう。
だからこそ、小細工なしに真っ向から言葉をぶつけてやった方が効き目があると見立ててこそだった。
まぁ効果があればこそだったからある意味賭けだった事には変わりなかった。
「戸部もサンキューな。」
「良いって良いって!俺もハッキリさせたかったかんなー。」
戸部に礼を言うと、彼は二カッと笑って大丈夫だと言ってくれた。
まがった事は嫌いとでも言いたいのかね、好きだぜ、そう言うの。
あ、そう言えば忘れてた人がいたよ。
「あ、城廻先輩、問題解決しましたよ、お疲れ様でした。」
完全に展開に付いて行けずに目を回していた会長殿に声を掛けて現実に引き戻させてやる。
「はっ・・・!?えっ、終わってる・・・!?」
「一体どこから着いて行けてなかったんですか・・・!?」
マイペースというかなんというか、よく分からん人だな。
なんでこの人が生徒会長に成れたのだろうか、そこが一番気になるなぁ・・・。
まぁそれを考えるのはまた今度と言う事にしておくとしよう。
「見ての通り、一色は自分の意思で、生徒会長になって見返してやると意気込んでましたよ。」
「そ、そうなんだぁ~・・・、で、でも・・・。」
俺の説明に、彼女は何処か納得のいっていない様な声で返していた。
まぁ仕方あるまい。
やってる事は完全に煽って煽って、そうなる様に仕向けているのだから。
彼女のように、自己意志で生徒会長のポジションに就いた人からすれば、人を生徒会長になる様に誘導する事なんて、理解さえ出来たモンじゃないだろう。
だが、それはそれ、これはこれ。
人によって見方なんて幾らでも変わるんだ、これは、俺のやり方だ。
「嫌がらせもねじ伏せりゃ、立派な仕返しですよ、殴られっぱなしも、一色には嫌だったみたいですよ。」
俺が考えるに、一色はさせられる、やらされるでは無く、自分でどうするかを決めたがっている様にも見えた。
自分で決めた事をやっている、やって行きたい。
そんな想いの片鱗が見え隠れしている様にも思えてならなかった。
だが、彼女の性質上、何かきっかけが無いとそこへ踏み出せないと言うのなら、俺が煽る事で切っ掛けを作ってやれば良い。
それが、バカにするやつを見返すと言う、怒りに起因した動機だったとしても、見返すやり方が自分を高める事に繋がるのならば俺は肯定しよう。
「だから、あれはあれで正解なんです、アイツがやると決めたなら、後は影から応援してやりゃ良い、それだけですよ。」
ドライだとか言われようとも、それぐらいの関わりの方が後腐れなくていいだろう。
それに、アイツは一度目を着けたら粘着してきそうだからな、印象悪くしておいた方が、面倒事は少なくなるだろう。
具体的に言えるとするなら、顎で人を使う事なんて平気で出来るだろうしな。
それで沙希との関係が悪くなったら大真面目に踏み潰してやりたいね。
まぁそれはさて置き・・・。
それに後で沙希に説明して、面倒事を避ける為に数日はべったりくっ付いて貰う口実になるし。
そんな事を考えてたら、邪な部分だけが伝わったのか、大和と相模がジトッとした目で俺を見てくる。
冗談だよ、半分冗談だってば。
「そっか・・・、そう、だね・・・、君って、凄いんだね。」
そんな俺に微笑みかけ、その一言を残して先輩は部室から去って行った。
これにて、本当に一件落着だな。
そう思い、俺は紅茶を啜って息を吐いた。
これで良い。
これで、彼女もまた前に進めるだろう。
自分が後悔しないやり方で、自分が望む未来へ。
影ながら応援してやるとしようじゃないか。
覚悟を決めたヤツがどれほどのモノか・・・。
そう思っていた俺達の前に、その人物は姿を現した。
「君ならやってくれると思っていたよ、比企谷。」
「アンタ・・・!」
俺は紅茶のティーカップを落としそうになるもを必死に堪えて、その女を睨み返す。
俺にとっては目の仇でしかない、敵でしかない存在・・・!
この依頼も、最初から仕組まれていた。
気付いていたとはいえ、怒りのやり場は、目の前に収束していくばかりだった。
「平塚センセイ・・・!!」
奉仕部顧問の、平塚静だった・・・。
sideout
年内最終投稿でございます。
次回予告
奉仕部との決着が訪れる時、それは八幡の戦いが終焉へと近付いて行く証でもあった。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
川崎沙希は立ち上がる
お楽しみに