やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
「待っていたよ八幡君、沙希ちゃん。」
その日の放課後、俺と沙希は科特部の部室で待っていた織斑先生を訪ねていた。
理由なんて他にはない、平塚センセイに対する防衛策を教えてもらうためだ。
以前からずっと、これ以上の奉仕部との関係を続けることは得策ではないと改めて感じていたし、ずっとその影を引き摺る訳にもいかないと考えていた。
だから、俺以上に暗部が得意な先生に教授してもらって、完全に奉仕部との因縁を立つつもりだ。
そうなれば、今後は厄介な事に首を突っ込まなくて済むし、これ以上お互いに苦しまずに済む。
「ここに居てくれると思ってましたよ、先生。」
「なるほど、決着を着ける時か?良い覚悟だよ。」
短く言葉を交わしただけなのに、俺の意図をすぐさま読み取れるその洞察力には感服する。
いや、どっかで聞き耳立てて、そっから予想してくれたのかも。
まぁその辺はどうでも良いか。
「俺もそろそろ、平塚サンは潰しておくべきだと考えていたところでねぇ、気が合うようで何よりだよ。」
先生と気が合うのは、多分俺が先生に近い思考になっているからかもしれないな。
多元世界で戦士として名が知れてる先生に近付けるのは、どんな形であれ何となく嬉しいもんだな。
「はい、奉仕部とはこれまで目立った抗争は有りませんが、向こうもあたし達を目の仇にしてるでしょうから、きっかけさえあればかかってくれますね。」
先生の言葉に、沙希が答える。
沙希の言葉通り、これまで目立った争いや諍いは無かったけど、それでも火薬庫に近い状況なのは間違いない。
火種さえ与えれば、勝手に爆発してくれること間違いなしなんだ。
間違いなし、なんだが・・・。
「その火種が無いん、だよな?こっちが与えてやる訳にもいかない。」
そう、問題はこちら側から手を付ける訳にもいかない。
まぁ、大義名分さえあれば何とでもなると思うが・・・。
「そこで、だ・・・、奉仕部の内部崩壊を狙いたいが、どうするかね?」
「何か方法があるんですか?俺は勝てるならなんだってやりますよ?」
もったいぶる言い方だな。
俺達は手詰まりだから、先生を頼って来てるんだ、その先生が思いつく手なら、俺達も安心して乗っかれる。
結果が奉仕部との手切れなら、何にも思うトコなんて無いさ。
「分かった、教えようじゃないか、覚悟して聞けよ?」
俺の返答に何を思ったか、先生は黒い笑みを浮かべて話し始めた。
俺達が勝つための、その第一手を・・・。
sideout
noside
「うー・・・、どうしろっていうのよ~・・・。」
その日、生徒会室では一人の少女が、一つの書類の前で頭を抱えていた。
「生徒会って、こんな事もするなんて聞いてないし~・・・!!」
その少女、つい先日生徒会長に就任したばかりの一色いろは、顧問から突き付けられた問題に直面しているのであった。
その内容とは、海浜高校との合同クリスマスイベントについてだった。
「残り一か月も無いのに、どう準備しろって言うのよ・・・、それに・・・。」
だが、イベント自体に問題があるのではない。
問題は期間の短さと、相手側との交渉が難航していたのだ。
しかも、どうにも話が通じていないのか、これまで何度かミーティングを行っていたのだが、回を追うごとにその拗れは酷くなる一方だったのだ。
これでは成功どころか、開催さえ危うくなる一方だった。
故に、人を、それも多数の人間を纏めると言う経験の少ない彼女では、その方向を正すのは酷だった。
「はぁ~・・・!誰か、助けて~・・・。」
「お困りの様だな?」
弱音を吐いたその瞬間だった、生徒会室のドアが開け放たれ、数名の生徒が入ってくる。
「あ、貴方は・・・!!」
その一団の先頭に居た男子生徒、比企谷八幡の姿に、いろはは声をあげた。
先日の、科特部でのやり取りが今だつっかえているのだろうか。
「よう一色、頑張ってるみたいだな。」
「お邪魔するね。」
そんな彼女に、八幡は飄々と返し、その隣にいた彩加が手を振って挨拶していた。
二人の後ろには大和と南、それから巻き込まれたか姫菜の姿もあり、いずれもなんだかなー、と言わんばかりの様子で事の成り行きを見守っている様だった。
彼女の少々鬱陶しいと言わんばかりの視線も、彼等は意に介していないのか、受け流して笑うだけだった。
「何しに来たんですか?」
「いやなに、今日は取引に来たんだよ、ちょいとばかしのアフターケアも兼ねてな。」
少し棘が含まれた彼女の言葉に、八幡はわざとらしく肩を竦めてここに来た理由を語り始める。
取引、そう言う言葉に嘘は無いだろうが、その後のアフターケアには嘘くささがあるなと、大和は苦笑を禁じ得なかった。
何せ、彼は八幡から色々と聞かされている身だ、中立にいろと言うなど度台無理な話だったのだ。
それはさて置き・・・。
「一体どんな風の吹き回しですかぁ?それとも、私が何にも出来ないってバカにしたいんですか?」
八幡が何の思惑も無く自分を助けるとは思えなかったのだろう、いろははムッとした様に彼を睨みながらも問うた。
無理も無い、彼女はあの後、自分が唆された事に気付いたのだから。
自分を乗せる様な男が、何の打算も無く近付いて来るとは考えにくかった。
「なぁに、こっちにもやらなきゃいけない戦いがあるんでな、その足掛かりに利用させてもらいたい、それだけだ。」
そんな彼女の態度に、八幡は肩を竦めながらも、何処か張り詰める様な気配を漂わせていた。
まるで、敵と相対した時の様な、緊張感に満ちている様でもあった。
「こっちはこっちで、企みのためにクリスマス会を成功させるために生徒会を手伝う、生徒会はこっちを使ってクリスマス会を成功させる、Win-Winの関係じゃないかな?」
八幡の言葉をフォローするように、彩加がどうするかと提案する。
互いに持ちつ持たれつ、利害関係の一致だと強調していた。
「本音、と信じていいんですね?」
暫くの沈黙の後、いろはは躊躇う様に、探る様に問いかける。
怪訝の色の中にも、何処か戸惑いと希望が見えるあたり、相当難しい状況に陥っていたと言う事が窺い知る事が出来る。
こんな怪しい提案にさえ乗りかけてしまうほど、追いつめられているのかも知れない。
それを察した八幡は、浮かべていた緊張を解き、何処か安心させるような、力強い何かをその瞳に宿した。
「あぁ、科特部の、比企谷八幡の名誉にかけて、俺達がお前をバックアップする事を約束する、裏切りは好きじゃないんでな。」
裏切る事が嫌い、名誉云々は兎も角としても、ただそれだけは彼の根本にあるものだった。
喩え動機がどうであれ、裏切りだけは赦さない彼の想いがそこにはあった。
「・・・、はぁ・・・。」
そんな彼の真っ直ぐな瞳と、周りの彩加や大和、南や姫菜の大丈夫だと言わんばかりの笑みに、暫く考え抜いた揚句、観念した様にタメ息を吐いた。
「分かりました、分かりましたよぅ・・・、こっちも相当切羽詰まってるし・・・。」
何処か愚痴る様に小さく呟いたあと、彼女は生徒会長としての顔を作り、八幡達を見据えていた。
「その提案、受け入れさせてもらいます、科特部の皆さん、よろしくお願いします。」
「その頼み、確かに承った、俺達が最大限力を貸そう。」
頭を下げたいろはに習い、八幡も頭を垂れて契約は成った。
その時の八幡の表情は、いろはからは見えなかっただろう。
八幡が浮かべた笑みが、何処か酷く歪んでいた事に・・・。
sideout
noside
「という訳で、ウチの助っ人として参加してくれる皆さんです~。」
其の後、いろはの案内で海浜高校の生徒会室に移動した八幡達は、海浜側の生徒会メンバー、及び、クリスマス会の為だけに結成された助っ人メンバーと顔合わせを行っていた。
「よく来てくれたね、僕は生徒会長の玉縄だ、よろしく頼むよ。」
「比企谷です、突然の参加を受け入れてくれてありがとうございます。」
代表として、海浜高校の生徒会長、玉縄と八幡が握手を交わして会議は始まった。
「では、時間も惜しい事だ、ミーティングに参加して貰いたいんだが、時間は大丈夫かい?」
「構いませんよ、寧ろ、そうさせて頂けて光栄です。」
短いやり取りを交わして、八幡は彩加達と共に指定された席に着いた。
既に総武側のメンバーも揃っており、その中には何故か奉仕部の面々もいた。
どうやら、総武側の御目付である静の差し金で此処に居る事が窺いしれた。
八幡達が来たことにより、雪乃は険しい表情を浮かべており、結衣は何処か安堵した様な、それでも怒りの様な表情を浮かべていた。
彼女達が何を思うか、そんな事などに興味が無い八幡は我関せずと言わんばかりに席に着いていた。
最早奉仕部など眼中にない、そう見せる様な態度だった。
尤も、彼の腹の内などそうでない事など、彼を取り巻いている者達は知っていたのだが・・・。
そんな思惑をよそに、彼等は配られた資料に目を通していくが、その項目の中にある不自然な点に、違和感を感じざるを得なかった。
「(ミーティングが5回目なのに、会場以外決まってない、だと・・・?)」
予想外の遅滞振りに言葉も出ないのか、八幡は目を丸くしていた。
無理も無い。
普通ならば5回目のミーティングと言うモノは、もう骨子も大まかに固まって、後は実行に移す段階に達していなければならない回数であるはずだ。
だと言うのに、方向性すら固まっていないのは、それ以前の問題としか言いようが無かった。
「(なるほど、会長殿が頭を悩ませる訳だ、一体どんな理由が有ってこうなったのやら・・・。)」
八幡同様、大和もタメ息を吐きたい気分を抑えつつ、どうしてこうなったのかという理由を探ろうとしていた。
そこが分からなければ、成功への道筋など見えないと感じているのだろう。
だが、その原因はすぐに露呈する事となる。
「それでは、前回と同じ様にブレインストーミングを行おう、新たな提案があれば遠慮なく発表してくれたまえ。」
玉縄がそう宣言すると、海浜側から次々と提案が上がる。
熱意がある生徒が多かったのだろう、一見して白熱している様には見えた。
だが、何かがおかしい。
「(なんだ・・・?全部取り込むつもりなのか?)」
その違和感の正体、それは提案の全てを吟味することなく受け入れるばかりで、淘汰、発展させようとしていなかった。
これでは無駄にやる事が増えるばかりで頭でっかちとなり、首が回らなくなることに繋がりかねない。
「(なるほど、だからこんなに遅々として進まない訳だ、これは何とかしないとな。)」
問題点を見付けた八幡は、どうすべきかと頭を悩ませていた。
問題を見付ける事と解決する事はまた別の問題、参加したばかりの彼にはそれは出来なかった・・・。
「もう時間が来てしまったね、それでは、また三日後に打ち合わせをしよう。」
結局、まだその糸口さえ見つからないまま、この日の打ち合わせは終了する事となる。
そのまま八幡達は生徒会室を辞し、帰路に就いていた。
「さて、どうする?比企谷君?」
そんな中、考え込む八幡に大和がどうするのかと尋ねていた。
彼もまた、この問題に危機感を抱いたのだろう、その表情は硬かった。
「さぁな、だが、やるからには成功させる、俺達がな。」
困難なのは百々承知、だが、彼等はやる以外の選択を残してはいなかった。
何せ、この一手は勝利へのカギとなるのだから。
「そうはさせないわ。」
決意を固めた八幡の前に、鉄の女、雪ノ下雪乃は憤慨した様に声を張り上げながらも現れた。
その瞳は怒りと敵意に満ちており、今にも飛び掛らんばかりの勢いだった。
その様子に、八幡は悟れぬ程小さく、それでも何処か影のある笑みを浮かべていた。
それはまるで、獲物が罠にかかった狩人の様な、勝利を確信した笑みだった・・・。
sideout
次回予告
奉仕部は、何を以て奉仕部か。
その意味が今、科特部の手によって問われようとしていたのだ。
次回、やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は笑っている
お楽しみに