やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は笑っている

noside

 

「よぉ雪ノ下、役に立たないくせによくもまぁ出て来れたもんだ。」

 

目の前の相手、奉仕部部長である雪ノ下雪乃に対して、八幡はせせら笑う様に声をあげた。

 

まるで、喧嘩を売っている様な物腰ではあったが、それだけ雪乃の存在に嫌気が差しているのだろう。

 

そんな彼の周りにいた大和と南は、何処かタメ息を吐いてその成り行きを見守っていた。

 

最早対立は決定的であったし、どちらかの崩壊も決まっている様なものなのだ、止めるだけ徒労だと感じているのもあるだろう。

 

そして、一体何事かと様子を見に来た野次馬達も、彼等が醸し出す殺気にも似た雰囲気に呑まれ、何も出来ないでいる様だった。

 

「黙りなさい・・・!散々こちらの邪魔ばかりして・・・!一体何様のつもりなの・・・!?」

 

そんな彼等の思惑など全く知らず、雪乃は怒りに任せて声を荒げていた。

 

毎度毎度、自分の前に現れては邪魔をするばかりか、手柄を全て掻っ攫って行く盗人の様な振る舞い、そして何よりも鼻に付くのが、自分を見下すその眼、その態度だった。

 

それら全てが彼女の精神を逆なでし、憎しみにも似た怒りを掻き立てていく。

簡潔に言ってしまえば、八幡の事を排除したくてたまらない、そう言わんばかりの態度だった。

 

「この件以外は、完全に巻き込まれてばっかだぜ俺達、尤も、千葉村の件はお前に任せなくて良かったよ、あの子を助けられなかったらと思うとゾッとする。」

 

そんな雪乃を煽る様に、八幡は心底嫌悪するかのように吐き捨てた。

 

お前が何を出来たと言うのだ、問題を解決したのは、半ば巻き込まれる形になった自分達だと言うのに。

 

しかも、直近の一件、葉山グループがらみの一件は、一歩間違えれば八幡達が謂われのないバッシングを受ける羽目になっていたと言う最悪のモノだった。

 

その一件に関しては、奉仕部はあまり関わっていないとはいえ、それでもダシとして使われかけた事が気に喰わないのだろう。

 

「聞くが、お前が何かを解決した事はあるのか?」

 

「っ・・・!そ、それは・・・!」

 

八幡の指摘に、雪乃は言葉を詰まらせて渋面を作っていた。

 

返す言葉が無いのだろう、実際、彼女が解決出来た問題は殆ど皆無に等しく、最初の、八幡が強制的に参加していた時の実績以外、校内での地位を確立できるほどの働きをしていないのだ。

 

それに対して、八幡側はどうだ。

巻き込まれる形となったチェーンメール、千葉村での小学生の虐め問題、文化祭でのフォロー、そして、修学旅行での一件。

 

彼等が関わった大きな事件は、どれも解決やそれに繋がる糸口を与えられている。

 

一夏の思惑や静の差し金と言う見方も出来るだろうが、結局は奉仕部にとって代わっている様なものであった。

 

「だが、別にそこは問題じゃない、俺は俺のやりたいようにやった結果が上手くいってるだけだ、それ以上でもなんでもない。」

 

だが、八幡自身はそれを誇るつもりなど毛頭なかった。

結局は一夏や沙希、彩加や大和などの助力が無ければ、何も出来ずに自己犠牲に走っていたであろうと想像しているし、そうなっていたかもしれないと言う恐怖があるからだ。

 

だからこそ、彼は支えて貰っていると言う自覚を改めて持つ事が出来、それを他者と共有する事で上手くやれたのだと理解していた。

 

だが・・・。

 

「だけどな雪ノ下、お前、何様のつもりだ?」

 

彼の苛立ちは、何もしようとしないくせに、突っかかってくる雪乃に向けられていた。

 

自分では策も無いくせに突っかかって、そんなにプライドを護りたいのかと。

 

「お前は何のつもりで俺に突っかかってくる、俺なんて放っておけばいいだろ。」

 

「・・・。」

 

八幡の言葉は尤もだ。

奉仕部を自分から辞めると言って出て行き、放置しておけば奉仕部にとって特に意味も無い八幡に固執する理由が無いのだ。

 

放っておけば、今までの件の様に介入してくる事は無く、奉仕部がコトを進める事など容易い事だった。

 

尤も、それに関しては静が手を引いている部分も多々あるため、一概にそうとは言い切れないのだが・・・。

 

「お前が見下す俺に御教授くれよ、その理由をな?」

 

だが、そんな事などどうでも良い八幡は、煽る様に尋ねた。

 

その理由を知るために、喩え性悪と罵られたとしても。

 

「黙りなさい・・・!私は、私は負けたままじゃいられないのよ・・・!!」

 

彼の言葉に、雪乃は怒りに震えた言葉を発する。

 

その言葉には、ただただ昏い色だけが有った。

 

「私は負けられないのよ・・・!あの人にも、他の人にも、貴方にも!!」

 

語られる言葉に、徐々に悲痛な色が混じって行く。

 

過去に何かあったのか、誰にも負けられないと語るその表情は、何処か鬼気迫っていた。

 

「だから、貴方には手を出させない!この件は、私が成功に導いてみせる!!」

 

「そりゃ結構、俺も腹が決まったよ。」

 

雪乃の言葉を受け止め、八幡も彼女を真っ直ぐ見返す。

 

自分も退く訳にはいかないと、その先に待つ使命を果たすためにも。

 

「勝負するぞ雪ノ下、奉仕部流の、依頼を果たした者が勝ちだ。」

 

「望むところよ、その傲慢の鼻っ柱、圧し折ってあげるわ。」

 

最早言葉は不要、やるからには徹底的だと、お互い少ない言葉を交わして決闘を誓う。

 

一方は自分が正しいと知らしめる為、もう一方はすべての決着を着ける為に・・・。

 

それを見ていた、野次馬に紛れていた一人の少女が、少年を見詰めていた事に、誰も気付いていなかった・・・。

 

sideout

 

side八幡

 

「で、本当にどうするの?あんなコト言ってたけどさ。」

 

ひと悶着あった後、其々いったん帰宅して着替えてから、バーとしての営業を始める前のアストレイに御邪魔して作戦会議と洒落込んでいた。

 

現在ここに来ているメンバーは、俺と彩加、そして大和と相模だった。

 

海老名は用事があるという事なので、海浜を出てすぐの所で別れた。

 

まぁ、戸部だけはアストレイメンバーとの顔合わせも兼ねて連れて来ても良かったのだろうが、流石に無理は言えないよな。

 

「ん、まぁ俺は戦うだけだよ、アイツにだけは負けたくないね。」

 

大和の質問に、俺はそう答える。

なにせ、やる事なんて決まっているんだけどな。

 

「ふっ、一夏みたいな事を言う、アイツが死んだら、君が俺達を率いてくれても良いんだぞ。」

 

カウンターでグラスを磨いていたコートニーさんが、俺をからかう様に呟いていた。

 

って言うか、その発言は些かまずい様な・・・。

 

「そ、それは恐れ多いッスよ・・・。」

 

この人達を率いるには、俺には度量も経験も足りてなさすぎる。

如何に先生に近付いてるって言っても、俺は先生には成り切れるはずもない。

 

それはさて置き、今回はある人を呼んで話を聞き出す事にしている。

その為にコートニーさんにも同席してもらったわけだ。

 

とは言え、後でリーカさんには土下座だな・・・、何せ、その相手は・・・。

 

「こ、こんばんわ~!」

 

勢いよくドアが開け放たれ、一人の女性が殴り込むように入ってくる。

 

まぁ、皆様には誰だか説明しなくても分かるだろうが、一応説明しておこうじゃないか。

 

「あ、どうも雪ノ下のお姉さん、待ってましたよ。」

 

その女性は、俺が潰そうと思っている相手、雪ノ下雪乃の姉である雪ノ下陽乃だ。

 

彩加達には事前に説明し、コートニーさんにお願いして呼び出してもらった訳だ。

 

「あれれ?また君達・・・?」

 

俺達に気付いたお姉さんは、少し表情が曇っていた、

 

まぁ仕方ない、片思い中の相手から呼び出されて気分上々の所に、俺達と言うロマンス上の邪魔者がいるんだ、少し機嫌も悪くはなるわな。

 

因みに、俺の後ろでは相模が何とも言えない表情で彼女を見ていた。

 

まぁ無理も無い、自分がやらかした失態の遠因を作った内の一人が現れたんだ、普通なら顔も見たくはないだろう。

 

とは言え、今日ばかりは情報収集も兼ねてるから、事情を知ってる相模には暫く我慢してもらうとしよう。

 

「何してるのかなぁ?っていうか、未成年がこの営業時間に来るのは拙くない?」

 

「心配ご無用ってなもんですよ、制服じゃないですし、大丈夫でしょう?」

 

それに、この店は先生のテリトリーでもあるし、コートニーさんが今は睨みを利かせている、この人が何かを出来る筈も無い。

 

それを分かってて、この場に呼び出してもらったわけだが、今は語るべき事は別にある。

 

「まぁ、最初に謝っておきますけど、コートニーさんの名前使って呼び出したの、俺なんですよ。」

 

「なるほどねぇ、こりゃ一本取られたよ、でもね、つまらない用事なら帰るよ?」

 

わーお、よっぽどご機嫌斜めじゃないですか。

纏う雰囲気が雪ノ下そっくり、周囲を凍てつかせるつもりですかね。

 

そんなジョークはさて置き、俺はカウンター席に腰掛けたお姉さんから二席離れた所に腰掛ける。

 

怖い訳じゃ無い、一応彼女持ちだし、軽はずみに違う女性の隣に座るのを避けているだけだ。

自意識過剰乙とか言われるけど、家族でも仲間でもなんでもない相手の隣に座るのは、相当難しいもんなんですよ。

 

「つまらなくは無いですよ、あぁ、駆け引きは面倒なんで、本音で言いますね。」

 

この人に駆け引きなんてつまらない真似は必要ない、そう言うものはこの人の方が数枚上手に違いない。

 

だったら、そういう駆け引きをかなぐり捨てて、相手が仮面を被っているなら、真っ直ぐに殴り掛かって引き剥がせばいい。

実にシンプルで分かり易い、今の俺にはその方が合っている。

 

「貴方の妹を、完全に敗北させます、そのための御力添えを頂きたい。」

 

俺の発言に、ほんの一瞬だけ貼り付けられたような、対人用の微笑みが消えて、無表情と形容すべき表情が現れた。

 

前の俺だったら見逃してしまうほどの一瞬だったから、それに気付けたのは彩加とコートニーさんだけだろう。

 

「今度、総武と海浜高校の合同クリスマス会があるんですが、その結果でアイツとのケリを着けたいんです、その為にも、俺は知りたいんですよ。」

 

「どうしてそこまで拘るの?あっ、まさか雪乃ちゃんにホの字とか~?」

 

俺が雪ノ下に拘っていると思われたのか、何処か探る様に、だけど冷やかす様に聞いてくる。

 

ホント、真面に相手すると疲れそうな人だこって。

 

「えぇ、本気で殺したいと思える位には。」

 

そのからかう様な目に、俺は殺意を持って答える。

 

どういう訳か、俺の背後からも殺気が飛んでくる。

 

振り向いてみれば、目の奥が笑っていない彩加とコートニーさんがいた。

 

彩加君、コートニー兄さん、どんだけ沙希の事好きなんですか・・・。

あれなの?身内にはトコトンLOVEなアストレイの精神そのものなの?

 

「おわぉ・・・、ゴメン、彼女いるんだったね・・・。」

 

コートニーさんにも睨まれたら引かざるを得ないのか、あっさりと謝罪、すっかりおとなしくなった。

 

まぁ、仕方ないか。

 

んでもって、俺も襟元を直して飲み物を呷った。

 

「アイツは負けたくないと言っていた、誰にも、俺にも、そして、アンタにも・・・。」

 

「ッ・・・。」

 

俺の言葉に、お姉さんは言葉を詰まらせていた。

 

アイツはあの人としか言ってはいなかったが、総武の伝説と呼ばれている(と聞いた)この人がそれに該当しない訳がないと当たりを着けた訳だ。

 

「アイツの搦め手は貴女だ、それが分かってるなら利用しない手は無い、弱点、教えて頂けませんか?」

 

「・・・。」

 

返事は無い。

だけど、何処か苦しげな雰囲気が伝わってくる様だ。

 

過去に何かあったか、それを察するには十分だった。

 

「どういう手口使うか教えてよ、納得したら・・・。」

 

「貴女に納得してもらうつもりはありませんよ、これは俺達の戦いだ、本当なら巻き込むのは筋違い甚だしい。」

 

探ろうとする彼女の言葉をばっさり切り捨てる。

この戦いは俺とアイツの殴り合いに代わりは無い、だからこそ、この人からは情報だけを聞き出すだけだ。

 

それをどう使うかはこっちの勝手、お姉さんが感知すべき問題じゃない。

 

「アイツがどうしてあんなに意固地になったか、それだけでも構わないですよ、尤も、大まかには想像できますけどね。」

 

まぁ、この人がデキ過ぎたから歪んだのは大きな原因だろうと想像に難くは無い。

 

尤も、今までの付き合いでは、ただ迷惑で喧しいお姉さんという印象しかないから、ぶっちゃけデキる女って言う印象は無いが。

 

「何か貶された気がするけど・・・、まぁ・・・、いいか・・・。」

 

俺の思考を呼んだか、お姉さんはタメ息を一つ吐いて出されたノンアルコールワインを一口呷った。

 

「雪乃ちゃんがあんな感じになったのは、ただ私に勝つ事に拘ってるだけじゃないの。」

 

どういう事だ?

この人だけが原因でないとすれば・・・、まさか・・・?

 

「昔っから雪乃ちゃんてば、黙ってれば人形みたいに可愛かったのよ、でもね、人付き合いがそんなにうまくない子だったから、どうしても一人になる事が多かったんだよね~。」

 

なるほど、道理で友達がいない様な雰囲気は出してる訳だ。

まぁ、俺も前までは人の事言えないぐらいだったけどな。

 

「それでも、可愛いから男子からの人気は一番だったワケ、それだけならいいけど、やっかむ女の子は出てくる訳よ、ホ~ント、バカみたい。」

 

そこも理解はできる。

一歩道が違えば一色みたいになってたのかなとかも想像できるが、どうやらそうならなかったのは違いない。

 

では、そこから先何が有ったか、答えを紐解かれるのを待った。

 

「でもねぇ、一人のバカな男の子がね、状況をもーっと悪くしちゃったの、その子、結構顔も良いし、勉強も出来てたから、女子から人気あったの。」

 

なるほど、そう言う事か。

 

「つまり、ソイツが雪ノ下の虐めをやめさせようとして、更にいじめが酷くなったって事ですか?」

 

俺の言葉に、お姉さんは無言で頷いた。

 

予想が当たってある意味で納得はしたが、それでも共感はまるで出来なかった。

 

俺は誰にも庇われる事なく、今年まで過ごして来たんだ、たった一度の裏切り程度でへこたれたとしか思えないね。

 

まぁ、俺も今の今までその状況が続いてたらどうなってたか、分かったもんじゃないけど。

 

って言うか、その手口、どっかで聞いた様な、見た様な、止めた様な・・・。

 

「って、まさか、その男って・・・?」

 

何となくだが、嫌な予感がしてきた。

 

俺の質問の意味を理解したか、大和も何処か不安げな表情を浮かべていた。

 

恐らく、俺達が思い浮かべた男は全く同じ人物の筈・・・。

 

「葉山隼人だよ、皆仲良くをモットーにしてる、つまらないヤツ。」

 

「やっぱり、な・・・、っていうか、同じ失敗を繰り返そうとしてたのかよ・・・。」

 

もうここまで来ると呆れしか来ないな、雪ノ下にも、そして葉山にも。

 

とばっちりと逆恨みを喰らうこちらの身にもなって欲しいモノだ。

 

「だから、かな、そこから誰も信じなくなっちゃったの、自分の力で全てを変えられる、そんな風に思い込む様になったのかな・・・。」

 

嘘か誠か、彼女の表情には何処か憂いが有った。

自分が何かしてやれたのではないか、何をすべきだったか、そんな後悔が見て取れるようだった。

 

だけど、この人に罪があるとしたら、姉妹で支え合えなかった事ぐらいだ。

そこが、俺と小町、沙希と大志との大きな違いだった。

 

なんでだか、頭に昇っていた血がスーッと降りて言った様な、妙に冷えた感触が有った。

 

俺とどこか似ていて、それでも原因や境遇は違って、それでいて同族嫌悪みたいになっていた。

 

何て言うか、俺も単純だよな。

それが分かっただけで、これまでの苛立ちがほんの少しましになってるんだから。

 

とは言え、手加減するつもりはないけどな。

 

「分かりました、ご協力感謝しますよ、決着、着けてみせます。」

 

お陰で大まかには対策が出来そうだ。

決行は3日後の合同ミーティング、その一回で決めるとさせてもらおう。

 

この人の憂いを断つためにも、アイツの闇を炙り出して祓う為にも、俺はやらなくちゃいけない。

 

なんでだか、そんな使命感に駆られた。

お節介だとかそんな事はどうでも良い、今、やらなきゃ嘘だよな。

 

「うん・・・、お願いね・・・?」

 

「了解です。」

 

だから、俺は戦おう。

俺を信じてくれる人達と共に、誰も信じられない彼女と。

 

孤独だけが強さでは無いと、分かってもらえる様に。

 

sideout

 




次回予告

似て非なる者は、理解すれど共鳴は出来ないのか。
だが、それが勝利への活路となる。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は手を挙げる

お楽しみに

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