やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は手を挙げる 中編

side八幡

 

雪ノ下が飛び出してから程なくして、会議は恙無く終了した。

 

俺達総武側は主にゲストの招待と食事類の用意、海浜側は劇の製作と現場調整に落ち着いた。

 

海浜側が考えていた、吹奏楽バンドやマジシャンを招待して、演奏や出し物をしてもらうと言う案があった様だが、クリスマスの時期は予定が詰まっていて、今更打診しても来てくれる可能性がほぼ無い事を説明して差し上げると、悔しそうにしながらも納得してくれた。

 

まぁ、CD音源でも演出さえ考えれば迫力出る事を暗に伝え、それで上手くやってくれる事を期待している旨を、心の底から言っている様に伝えた時は、やる気に満ちた目で応じてくれていたな。

 

まぁ、あの手の輩には、やる気を煽れば簡単に操れるからそれはそれで解決したとする。

 

だから、俺と彩加は残った纏め作業を一色と大和達に任せて、雰囲気の犠牲になったヤツを追いかける事にした。

 

海浜高校の中に、雪ノ下が発していた闇の気配は無かった為、俺達は今、闇の気配を辿って走っている所だった。

 

「ねぇ八幡・・・、さっきの事なんだけど・・・。」

 

その道すがら、彩加が俺に先程のやり方を問うてくる。

 

その瞳には、分かっていると言ったような色と、やり方を納得していない様な、相反する色が有った。

 

分かってる、分かってるさ・・・。

幾らこのやり方で周囲の空気を換える事は出来ても、一人の人間を生贄にしている様なモノだ。

 

俺だって、このやり方は本当はやるべきではないと感じていた。

だが、負けたくない思いが勝ってしまった事が災いして、結局この手を使ってしまった。

 

やった事に後悔はないが、それでも心の何処かでつっかかりがあるのは確かだ。

 

「分かってるよ、雪ノ下のやり方じゃ何も変わらない事にキレて、ちょっと感情的になったよ・・・、でも・・・。」

 

だからと言って、あのままでいる訳にもいかない。

自分から何とかしてやると言った手前、そして、先生との計画の為にも、俺は憎まれる事を承知でこの手を打った。

 

「たとえどう思われてたとしても、俺は気付いて貰いたいんだ、一人の力の限界を、周囲を巻き込むための手段は一つじゃないと。」

 

「分かってるよ八幡、だったらちゃんと向き合ってあげてね。」

 

俺の言葉に、彩加は優しく微笑みながらも俺の背を押してくれる。

 

まったく、本当に敵わないなぁ・・・。

 

「勿論だ、何としても探し出すぞ。」

 

「うん!」

 

だったら俺は突き進んでやる。

間違いも跳ね除けられるぐらいに、強い絆と共に・・・。

 

sideout

 

noside

 

「何故・・・!?何故なの・・・!?」

 

会議室から飛び出した雪乃は、海浜高校の外へと出て、誰もいない場所を目指して走っていた。

 

その瞳には、克明な怒りと悔しさが見て取れた。

 

無理も無い、八幡の策略にまんまと嵌ってしまったとは言え、完全な敗北を突き付けられたのだ。

 

それが真っ直ぐな、真っ当な課程を踏んだうえでの結果ならば、納得出来ただろう。

 

だが、今やられたやり方は、自分を生贄にする、何時ぞややられたやり方とまるで同じだったのだ。

 

自分は何も間違った事を言っていない。

それなのに、周囲はそれを理解しようとせず、あまつさえ自分を悪人の様に見てくる。

 

それは、嘗て、葉山隼人が自分を庇うつもりで行った仲裁が原因で行われた、自分を悪として行われた迫害と、全く同じだった。

 

「私は間違ってなんかいない・・・!間違ってなんか・・・!!」

 

これまで、そうされることが無いように、自分を孤高の存在として、周囲から畏怖されていた。

 

そうであれば、孤独を孤高とすり替える事が出来たから。

 

だが、それは今は崩れ去り、自分は再び悪に仕立て上げられた。

 

まるで、嘗ての魔女狩りのように、大衆を操作するための生贄にされたような、そんな悪意だけがあるようだった。

 

その生贄に自分がならされたことが、彼女にとっては屈辱以外の何物でもないモノだった。

 

「そうよ・・・!私は何時だって正しいのよ・・・!何も、何も間違いなんてない・・・!!比企谷八幡・・・!あの男こそ、全ての間違いそのもの・・・!」

 

故に、そう仕立て上げた周囲を憎む。自分は間違ってなどいない。

常に正しいのは自分のやり方だけ。

 

だからこそ、自分の邪魔をしてくる上に、自分のやり方を否定する八幡こそが悪であり、間違いの元凶であると、激しい憎悪を抱いた。

 

八幡を排除すれば、自分はまた正しさを貫ける。

 

「邪魔をするなら・・・!今度はこっちだって・・・!!」

 

故に、彼女は力を欲する。

誰にも屈しない力を、自分の正義を貫ける絶対的な力を・・・。

 

『力を欲したな・・・?』

 

「えっ・・・?」

 

その声を聞いたのは、海浜高校から程近い公園に辿り着いた時だった。

 

まるで抑揚のない、淡々と問うてくる様な声に、彼女は弾かれた様に顔をあげた。

 

そこには、黒いローブで頭部を覆い、三日月形に歪む口元しか窺えない女がいた。

 

「あ、あなたは・・・?」

 

何時の間に近くに来たのか、そして、何故自分の願いを知っているかのような口ぶりで話しかけて来たのか。

 

全てがあまりに不審であったため、雪乃は少し距離を取る様に引きながらも問い返した。

 

だが、相手の女はそんな事などお構いなしに雪乃との距離を詰め、心の奥底を見透かすように畳み掛けて来た。

 

『憎いのだろう?お前の邪魔をする者が?』

 

「ッ・・・!!」

 

心を抉る様な問いに、雪乃は思わず息を呑みこんだ。

 

そうだ。

確かに自分はあの男が、あの男の周りにいる者が憎い。

 

まるで自分が悪であるかのように、そのやり方の一切を否定してくる。

そのくせ、自分達の意見をあたかも正しいモノと触れ回り、周囲をその方へと誘導していく。

 

何と傲慢で、何と許しがたい行いだろうか。

 

その事を改めて認識すればするほど、雪乃の心と思考は激しい憎悪に塗り込められて行く

 

その怒りと憎しみに彩られた瞳を見た女はニヤリと、満足げに笑いながらも雪乃の耳元へ唇を近づけていく。

 

『今のままで悔しくは無いか?負けたままでは、悔しかろう?』

 

「えぇ・・・!悔しいわ・・・!あの男に、目に物見せないと気が済まない・・・!!」

 

心を蝕む様に沁みこむ言葉に、雪乃は心の底からの叫びを以て答えた。

 

八幡に仕返ししたいと、その鼻っ柱を圧し折ってやらねば気が済まないと。

 

それが出来るならば、最早プライドも減ったくれも無い、ただ勝利のみを見ていた。

 

『ならばこれを取るがいい、お前の怨みを晴らし、望みを叶えてくれる、とても素晴らしいモノだ。」

 

その心を酌み、女は掌から黒い闇のようなモノを発生させ、闇に包まれたダミースパークと一体の怪獣のスパークドールズを雪乃に手渡そうとする。

 

そのあまりの禍々しいオーラに圧倒されたが、雪乃が伸ばす手は止まらなかった。

 

ダミースパークの柄をしっかりと掴み、左手でスパークドールズを掴んだ

 

それは、彼女が闇の誘惑に負けた証左でもあった。

 

「ダメよ雪乃ちゃん・・・!!」

 

「ね、姉さん・・・!?」

 

その直後だった、陽乃が公園に駆け込んできた。

 

どうやら、雪乃が思いつめた様な表情で駆け抜けて行った所を目撃し、何が有ったか理解したために追い駆けて来たのだろう。

 

そして、今の状況が良く無い事だと察したため、制止に入ったのだ。

 

「その先に行っちゃダメ・・・!雪乃ちゃんが、そんなに苦しむのは、私のせいだから・・・!だから止まって・・・!!」

 

コートニーから教えて貰った事から推察し、その危険性を推し量った彼女の表情に余裕と言うモノはなかった。

 

そんな姉の表情に面食らうが、それでも憎悪が止まる事は無かった。

 

何を言うか。

自分をこんな風にした元凶のくせに、何故自分を止めようとしてくるのか。

 

「黙って・・・!!貴女に指図される筋なんてない・・・!」

 

冗談では無い。

自分はお前を超える為に必死にやって来た。

 

その成れの果てになろうとしているのに、今更止めてくれるなと。

 

憎悪に満ちた瞳で陽乃を見るその瞳には、肉親への情など、ひとかけらも見受けられなかった。

 

「雪ノ下!待て!!」

 

その時だった、公園に駆け込んできた八幡が声をあげて彼女を制止した。

 

彩加もほぼ同じタイミングで駆け込んでおり、その表情は険しいモノだった。

 

「また、貴方達・・・!!」

 

だが、雪乃はその姿に怒りを掻き立てられる。

 

無様に逃げ出した自分を追いかけ、更に追い打ちの如く責め立てて嘲笑するつもりだとでも思っているのだろう。

 

その瞳には怒りと、何処か勝ち誇った様な色が有った。

 

「私を嘲笑う事は、もう二度とできないのよ・・・!私こそ、私のやり方こそ、この世で一番正しいんだもの・・・!!」

 

「待て!!それ以上進むな!」

 

半狂乱になりながらも叫ぶ雪乃の言葉に、八幡は表情を顰めながらも制止に掛かる。

 

陽乃が居た事はこの際驚かないとしても、彼の表情に余裕は無く、切羽詰まった色さえ見受けられた。

 

だが、その必死さも無駄なのか、彼女の動きが止まる事は無かった。

 

「私が、貴方の間違いを正してみせる・・・!この、力でぇぇッ!!」

 

「やめろっ!!」

 

八幡が止めるが時すでに遅し。

スパークドールズが、ダミースパークに読み込まれ、闇が一気に溢れだした。

 

『ダークライブ!クトゥーラ!!』

 

「あ、アァァァァッ!!?」

 

闇に呑み込まれながらも、彼女は絶叫と共に取り込まれて行く。

 

そして、彼女を取り込んだ闇は、その形を醜悪な怪獣の姿へと変えていった。

 

クトゥーラ。

フィンディッシュタイプのビーストに分類される、非常に醜悪な見た目をした生命体。

 

その外見は、ムンクの叫びのように歪んだ顔の形になっており、醜悪な外見を持つビーストの中でも、一際目立つ姿をしていた。

 

しかし、その中でも特に厄介なのは、全身から生える様に蠢く触手であった。

掴まれば最後、逃道を塞がれたうえで歪んだ口から火炎球を吐いて攻撃し、獲物を仕留めるという悪趣味さを持っていたのだ。

 

この場に居ないアストレイのメンバーも、スペースビーストと戦う時は、相応に気を引き締めて掛かる様にしていると言う。

 

何せ、スペースビーストは心を責めてくる個体も多く、知能を持った生物が生み出す、恐怖を糧に生息しているのだから。

 

「ゆ、雪乃ちゃん・・・!」

 

目の前で妹が怪物になってしまった事にショックを受けたか、陽乃は呆然と呟く。

 

しかし、それも無理ないコト。

如何に目の前で人がウルトラマンになる所は目撃した事があったとしても、闇に墜ちて怪物になる事を受け入れられるかと言われれば、否である。

 

「くそっ・・・、やっぱりこうなるか・・・!!」

 

既に消え失せた女、ダークルギエルのやり口は、八幡達とてすでに織り込み済みだった。

 

だが、あえて止めなかった節があるとはいえ、こうもみすみす怪獣化を防げなかったとなると思う処もあるらしい。

 

「お姉さんは下がって下さい、後は俺達が何とかします。」

 

だからこそ、八幡は自ら矢面に立ち、闇に墜ちてしまった者を救う。

 

それが自身が仕掛けた陰謀と罠に嵌ってしまい、生贄になった者であるなら尚の事だった。

 

「雪乃ちゃんを、お願いね・・・?」

 

何時ぞや聞いた言葉と同じ頼みを受け、八幡は肩越しに頷きつつもギンガスパークを、彩加はエクスデバイザーを展開する。

 

「行くぜ彩加!」

 

「うん!!」

 

親友と言葉を交わし、二人はスパークドールズを掴んで読み込ませた。

 

「ギンガーーーっ!!」

 

「エックスーーっ!!」

 

光に包まれた二人は巨人となり、醜悪な怪物と向き合った。

 

その怪物が抱える闇と向き合い、自分を再び律するために・・・。

 

sideout

 




次回予告

叫びはお前の涙なのか。
苛烈なる戦闘の中で、彼等は何を想って向き合うのか。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は手を挙げる 後編

お楽しみに

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