やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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コートニー・ヒエロニムスは見据えている

noside

 

『『コートニーさん・・・!!』』

 

姑息な手を使うフィンディッシュタイプビースト、クトゥーラに苦戦するギンガとXに助太刀するかのように現れた銀色の巨人、ウルトラマンネクサスは、目の前の敵を威嚇するように大きく構えを取る。

 

何時でも飛び掛って来い、そう言わんばかりの殺気が窺う事が出来た。

 

『二人とも、下がっていろ。』

 

自分の名を呼ぶ二人の弟子に頷きつつ、此処は自分が受け持つ事を告げる。

 

ネクサスは対スペースビーストに特化したウルトラマンであり、その技も、スペースビーストを消滅させる事の出来る性質を持っている。

更に、コートニーはこれまで何度もスペースビーストを滅した経験もある事から、スペースビースト退治の専門家とアストレイ内でも名が上がる程だった。

 

故に、経験が少ない八幡達よりも、自分が前に出て戦った方が良いと言う結論に達したのだろう。

 

『ま、待ってください・・・!あのビーストには、陽乃さんの妹が囚われてるんです・・・!』

 

だが、アストレイが持つ苛烈さに恐れを抱いた八幡は、彼に待ったをかけた。

 

これが自然出現した怪獣なら止めてはいないが、生憎今は人間がライブした存在だ。

もし、その中にいる人間の事を無視して攻撃をされてしまえば、彼は何を信じて戦えば良いのか分からなくなってしまう気さえしたのだ。

 

『なるほど・・・、君達がやり難そうにしている訳が分かった、相手の声が聞こえて来て、戦えない、だろ?』

 

しかし、そんな八幡の懸念とは裏腹に、コートニーは納得したと言わんばかりに尋ね返した。

 

『ど、どうしてそれを・・・!?』

 

自分達の拳を鈍らせている大きな要因の一つを簡単に言い当てられた事に、彩加は驚愕を禁じ得なかった。

 

見透かされたと言う感情よりも、そんな事など分かり切っていると言わんばかりの、コートニーの態度に驚かされたのだろう。

 

『フィンディッシュタイプのビーストは、人間の心を利用できる奴も多い、彼女の声だけで済んでいる内に、ヤツを倒さなければならない、さもないと・・・。』

 

『さもないと・・・?』

 

そこで言葉を切ったコートニーの言わんとしている事に、途轍もなく嫌な予感を抱いた八幡が身を乗り出して尋ねた。

 

まるで、雪乃の身に何かが起きる、そんな言い方に気が気でないのだろう。

 

『このままライブを続けていれば、彼女は間違いなく命を落とす、それだけだ。』

 

『なっ・・・!?』

 

彼の口から飛び出した、直接的に死に関わると言う言に、八幡は訳が分からずに絶句する。

 

当たり前だ、これまでライブに限界がある事は聞かされていたが、直接死ぬなどと言う事は聞いていなかったのだ、その驚きも並大抵では無いだろう。

 

だが、それはそこだけしか知らない八幡だからこそ抱けた想いであり、ビーストの危険性やライブの特性を知るコートニーだからこそ理解出来たモノだった。

 

『ビーストが人間を恐怖ごと喰らうのは知っているだろ?今の彼女はそんな危険な奴と無理やりライブしている状態だ、そんな状態が長く続けば、彼女の精神は食い尽くされ、やがて肉体も完全に取り込まれて戻らなくなる。』

 

『そ、そんなのって・・・!!』

 

淡々と、だが何処か吐き捨てる様な口調で語るコートニーの説明に、彩加は嘘だと言って欲しいと言わんばかりの声で叫ぶ。

 

誰かが死ぬなど、目の前で見たくも無い。

それが、喩え敵対しているとはいえ、自分の知る誰かだとすれば尚の事だった。

 

一度、護れなかった命が有ったからこその想いだった。

 

『だから、俺がクトゥーラを完全に消滅させる前に、君達が闇を祓って彼女を救い出せ、方法はそれしかない。』

 

それしかないと言い切るコートニーの言葉には、今までの戦いの中で得て来た答えが有った。

 

斃す。

それ以外にないと。

 

だが、八幡はそうは思っていなかった。

 

『それしかない、なんて事無いですよ。』

 

しっかりと地を踏みしめて立ち上がりつつ、彼は口角を釣り上げて笑う。

 

まるで確信があるかのように、その言葉と表情には力が有った。

 

『コートニーさんと俺でアイツをぶん殴って止める、その隙に彩加が闇を祓ってアイツを助ける、これ以上なくシンプルじゃないですか!』

 

自分達なら必ず止められる。

その確信があるが故の力強さが有った。

 

『ふっ・・・、ははは・・・、ははははっ!』

 

その言葉を受け、コートニーは堪え切れないと言わんばかりに笑った。

 

心底愉快、そう言わんばかりの笑みだった。

 

『良いだろう、その手に乗ってやろう、この力で、君の想いを見せてくれ。』

 

自分が出張れば良いモノではないと、その矛を一旦収めたコートニーは、右腕を胸のエナジーコアに当て光を収束させた。

 

そして、それをギンガに向けて受け渡す。

 

それは、嘗てメビウスやタロウ、光の戦士たちが、八幡達新たなウルトラマンに力を託したモノと、全く同じだったのだ。

 

『行くぞ、終わらせてやろうじゃないか。』

 

『はいっ!!』

 

銀色の姿、アンファンスからスピードを重視した青い姿、ジュネッスブルーへと変わったネクサスと、新たな力を得たギンガが構えを取る。

 

それに負けじと、Xもまた構えた。

 

今度こそ決着を着ける、ギンガとXからはその気概が強く感じ取れる程だった。

 

目の前の闘気に反応したか、クトゥーラは苦悶の叫びをあげながらも、彼等に向かって再び触手を突き出した。

 

それに対し、ネクサスとギンガが走り、向かい来る触手を弾きながらも左右に分かれて攻撃を分散させつつ、発生させた光の剣、ソードレイ・シュトロームとギンガセイバーで無数にある触手を断ち切って行く。

 

その剣に一切の迷いは無く、ただ、必倒と救出に全力を注ぐ想いだけが滲み出ていた。

 

どれ程剣閃が煌めいた時だったか、抵抗する力の鈍った一瞬の隙を見逃さず、ネクサスとギンガがクトゥーラを掴んで動きを封じた。

 

『今だ、彩加ぁ!!』

 

『うんっ!!』

 

八幡の叫びに反応し、彩加はエクスラッガーを構えて突っ込んで行く。

 

スライドパネルに指を3度奔らせ、手首を返してブーストスイッチを押し込んで発動する、究極の浄化技を発動した。

 

『『エクシードエクスラァァァッシュッ!!』』

 

光を纏った刃が煌めき、クトゥーラに纏わりついていた闇をあぶり出し、その全てを祓った。

 

闇が祓われた事で戦意を喪失したか、クトゥーラの身体から力が徐々に抜けていった。

 

『ピュリファイウェーブ!!』

 

通常形態に戻ったXが、スパークドールズと人間を分離させる光を放ち、クトゥーラから雪乃を切り離す事に成功した。

 

それは、彼等の想いが勝利を勝ち取った証であった。

 

『八幡、君が決めろ。』

 

殆ど抜け殻となったクトゥーラから離れたギンガに、ネクサスがトドメを刺せと、終わらせろと背を押した。

 

『はいっ!!』

 

師の後押しを受け、彼は胸に手を当てた左腕のブレスを操作、与えられた力を使用する。

 

『ウルトラマンネクサスの力よ!!』

 

胸に当てた左腕に光が収束し、矢尻を形作る。

その先をクトゥーラに向け、彼は弓を引き絞るかの如く右手で光を引き、その光を更に高めていく。

 

『オーバー・アローレイ・シュトロームッ!!』

 

そして、光が臨界になった瞬間、光の矢が勢いよく撃ちだされ、その先にいたクトゥーラを容赦なく射抜いた。

 

その威力に耐えられず、クトゥーラは断末魔の叫びと共に、青い光の粒子となって消え去った。

 

それは、彼等に勝利が訪れた証であったのだ。

 

『な、なんとか、勝てた・・・。』

 

トドメの一撃に体力を持って行かれたか、八幡が膝を着いて荒い呼吸を整える様に息を吐いた。

 

それだけ、気負っていたモノが下りたと言うべきなのだろう。

 

だが・・・。

 

『お疲れさん、だが、まだ終わってないだろ?』

 

そんな彼にコートニーが労いの言葉を掛けつつも、終わってないと立たせた。

 

彼も、八幡が今行っている件に乗りかかっている様なものだ、決着まで見届けるつもりなのだろう。

 

『八幡、僕は先に戻ってるよ、決着、着けようね。』

 

雪乃を陽乃のすぐ傍に降ろした彩加は、先に戻っていると言いつつ変身を解除した。

 

それを見て、八幡もまた表情を引き締める。

 

そうだ、まだ本題は終わっていない。

最後の詰めの一歩手前まで来ているとはいえ、終わってはいないのだ。

 

だからこそ、彼はまだ気を抜く訳にはいかなかった。

 

『分かった、行きましょう、コートニーさん。』

 

『あぁ。』

 

師匠に声を掛け、彼等もまた変身を解除して地に降りたった。

 

本当の意味で、この因縁にケリを着ける為に・・・。

 

sideout

 

noside

 

「う・・・、わ、私、は・・・?」

 

戦闘の終結から暫くして、クトゥーラより救い出された雪乃が意識を取り戻す。

 

「雪乃ちゃん・・・?よかった・・・。」

 

彼女を介抱し、膝で寝かせていた陽乃が安堵した様に声を掛けた。

 

その表情と声色からは、普段の雪乃に対するからかいや挑発などは感じ取れない、ただ純粋に心配と安堵だけが窺えるようだった。

 

「姉さん・・・、それに・・・。」

 

陽乃に膝枕されている事、そして、それを囲う様に見ていた八幡と彩加、コートニーに気付くが、それ以上何かできる体力が戻っていないのだろう、ぐったりとしたままされるがままになっていた。

 

「目が覚めたか。」

 

そんな雪乃に対し、八幡は素っ気なく声を掛けた。

 

恨みは有れど、取り敢えず無事かどうか聞いておかねば色々とめんどくさい事になると分かっているから。

 

「えぇ・・・、最悪だわ・・・、よりにもよって、貴方達なんかに・・・。」

 

「知ってたみたいな口ぶりだな、何時からだ?」

 

雪乃の言葉から、自分達の正体を知っていた事を察した八幡は、何時から知っていると問い質す。

 

知っていたのなら何故、自分達の搦め手を使わなかったのか、その理由も知りたかったのだろう。

 

「知ってた所で、関係ないでしょう、貴方自身との決着に、そんな事なんて・・・。」

 

「そうか・・・。」

 

何と言う事かと、八幡はある意味敬服する以外なかった。

 

もし自分がそう言う立場なら、それをしなかった自信は無い。

 

自分自身の力だけで決着を着けたかった、その想いだけは伝わって来た。

 

「だが、お前は俺に負けた、二つの意味でな。」

 

だが、それとこれとは話が違った。

 

彼等はフェアな条件での勝負など一度も言っていない。

その上で、勝ったのは八幡だった。

 

「お前は人を信じなかったから負けたんだよ、俺も、お前があのやり方をしてくると信じて賭けた、それだけだよ。」

 

誰も信じられなかったから、周りを巻き込むやり方に負けた。

誰も信じられなかったから、あの場で誰も救いの手を差し伸べなかった。

 

八幡と雪乃は良く似ていた。

境遇も、性格も・・・。

 

だが、たった一つ違っていたから結果が分かれたのだ。

 

「えぇ・・・、負けたわ、完全に、完膚なきまでに・・・。」

 

悔し気に、だが、何処か清々した様に呟く雪乃の頬を涙が伝った。

 

何処か憑き物が落ちたかのように、まるで、憑りつかれていた怨念から解放されたかのように、その表情に敗北への悔恨は見られなかった。

 

「不思議ね・・・、今まで、こんなに悔しいのに、こんなに清々しい事なんて無かったわ、何時も、誰かが私を嗤ってる様な、そんな気がしてた。」

 

彼女の言葉は、今までにないほどに真っ直ぐで、今までにないほど素直だった。

 

「だから、嗤わせない為に一人で何でもやって来た・・・、でも、届かなかった、のね・・・。」

 

嗤わせない為に、自分が迫害の対象にならぬように。

自分を殻で被い、周りから護っていたのだ

 

だが、その被った状態では、彼女は勝てなかった。

自分の全てを賭すつもりで挑んでも、勝てなかったのだ。

 

「一人でできる事なんて、結局たかが知れてるんだ、なぁ雪ノ下、お前、あの時俺に言ったよな、世界の全てを丸ごと変えたいって。」

 

そんな彼女を責めるでもなく、追及するでもなく、彼はぽつぽつと語り始めた。

 

何時だったか、彼女と初めて会ったその日、八幡は彼女から世界のすべてを丸ごと変えると言う想いを伝えられていた。

 

最初から馬鹿げていると思ってはいたが、雪乃とは違う道で、その可能性を見出した。

 

「一人の力で出来る訳ない、だけど、誰かと一緒なら、それも出来るとおもったよ。」

 

たった一人でできると言えば強がる事だけ。

それを教えてくれたのは、今、彼の周りいてくれる者達のお陰だと、八幡は理解していた。

 

「まずは、今お前がいる世界、そっから変えてみろよ、奉仕部なら出来るんだろ?」

 

その言葉を置き土産と言わんばかりに、八幡は自分の肩に手を置いたコートニーに従ってその場を離れた。

 

後は、残った二人で片付けろ、そう言わんばかりに・・・。

 

「姉さん・・・。」

 

雪乃はためらいがちに、いまだ心配そうに自分を覗き込む陽乃を呼ぶ。

 

今迄のように突き放す訳では無い、距離感を探る様な、恐る恐る呼びかける様な気配が有った。

 

「ごめんね、雪乃ちゃん・・・。」

 

そんな雪乃を抱き締める様に、彼女と同じ様に涙を零しながらも、陽乃は詫びていた。

 

「ゴメンね、ダメなお姉ちゃんで・・・、苦しかったよね、怖かったよね・・・!」

 

何も出来なくてすまなかったと。

周りからどう思われても、結局は不器用な陽乃の一面が出た瞬間だった。

 

「姉さん・・・、ごめんなさい・・・・!」

 

自分を本当に想ってくれていたのだと、今この瞬間に理解した雪乃もまた、彼女の胸に顔をうずめ、声をあげて泣いた

 

「ごめんなさい・・・、ごめんなさい・・・!」

 

「ゴメン、ゴメンね・・・!!」

 

本当の意味で、しっかりと向き合った姉妹は、しっかりと抱き合っていた。

 

これまでの空白を埋める様に、そして、これまでの世界を変える様に・・・。

 

sideout




次回予告

恋人たちの聖夜が近付く中、彼等を取り巻く空気も変わりつつあった。
それは破滅か、それとも・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

戸塚彩加は知っている

お楽しみに

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