やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は知らなかった

side八幡

 

「ったく・・・、何だったんだ今の・・・。」

 

由比ヶ浜が走り去って行った方向に視線をやりつつ、俺は次の一手に思考を巡らせていた。

 

だけど、俺の脚は一向に彼女を追いかけようとはしなかった。

 

行かねばならないとは分かっていても、感情がそれを拒む。

 

恐らく、何時もの調子だったらこの後にルギエルが現れて、怪獣にライブさせるっていう事をやってくる筈だ。

 

だったらいつも通り、俺がぶっ倒して止めればいい。

止めればいいんだが、俺は今回に限って、そんな気が一切起きなかった。

 

アイツは自分の気持ちを押し付けるばかりで、人の気持ちを知ろうともしなかった。

 

だから、誰かの大切な人を蔑ろにも出来る。

俺は、それが許せなかった。

 

それが、俺の脚を進ませないでいた。

 

「何やってんだい?」

 

使命と感情に板挟みになっている俺に、待機してもらっていた沙希が近付いてくる。

 

その表情には俺に対する呆れが有った。

 

「沙希・・・。」

 

「早く追わないと、由比ヶ浜が闇に墜ちるよ?それでも良いのかい?」

 

宥めるような、それでいて咎めるような口調に、俺は言葉を絞り出せずにいた。

 

沙希は何とも思っていないのだろうか。

アイツは、沙希を自分より劣っていると蔑んだ。

 

それだけでも許せないのに、沙希と別れて自分と付き合えと言いだした。

 

一体何を見て、そんな事を言えたのかが甚だ疑問だ。

それだけの事で、ヤツは俺の怒りに火を着けたある意味でとんでもない才能だと思えるよ。

 

「だけど・・・、あいつはお前を・・・。」

 

「良いよ別に。」

 

だけど、そんな俺の怒りを、あっさりとどうでも良いと言い放つ。

いや、どうでも良いと言うよりは、真面に取り合うつもりが無いと言うべきだろう。

 

「由比ヶ浜がなんて思っても、あたしは八幡の事が大好きで、八幡もあたしの事が好き、両想いであるならそれは変わらない、それとも、八幡はたったそれだけで揺らぐのかい?」

 

沙希の真っ直ぐな言葉に、俺は頭を叩かれた気分になった。

 

彼女は気にしていないどころか、それを信頼と愛で真っ向から打ち破っていた。

 

俺は、何かが変わってしまう事を恐れて、そうならない様に悪辣な態度を取っていた。

それは、何が有っても壊れないと言う、絶対的な自信が無かったからとも言える。

 

何と言うか、沙希は本当に強い。

俺に無い強さと優しさを持っている、改めてそれを感じさせられた。

 

「いや、沙希は俺を信じてくれる、何が有ってもな。」

 

だから、俺も彼女の心を信じたい。

その強さが、俺を救ってくれたんだから。

 

「だったら、由比ヶ浜とちゃんと向き合ってあげな、アンタの言葉でね。」

 

「おう!」

 

沙希に背中を押され、俺は漸く一歩を踏み出す。

 

もう、怒りの感情は何処かへ消えてしまった。

 

残る想いは只一つ、決着を、正しい意味での終わりを、あの歪な関係に打ち込むと言う想いだけ・・・。

 

sideout

 

noside

 

同じ頃、八幡の前から逃げるように去った結衣は、涙の雫を零しながらも、息を切らして走っていた。

 

どうしてこうなってしまうのだ。

 

自分は只、自分や、自分の大切なものを救ってくれた彼に想いを届けたかっただけなのに。

優しい彼の隣に、恋人としていたかっただけなのに。

 

一年半前の入学式の時、彼は自分の身を顧みず愛犬を救ってくれた。

其の後に、何も見返りを求めず、彼女に接する機会も無かった。

 

そして、それから一年後に、彼はまたも自分の事を救ってくれた。

二度も助けて貰った事で、彼女は自分の中にあった恋心を自覚し、それを成就させたいがためにこれまでを過ごしてきた。

 

なのに、彼はそんな彼女の想いなど知った事ではないと言わんばかりの態度であり、周囲を蔑ろにしても構わないと言わんばかりだった

 

それだけでも、自分の身を顧みずに誰かを助けた彼の姿に憧れただけにショックは大きかった。

だがそれだけでは無かったのだ。

 

その相手には自分以外の想い人がいて、周囲には彼女には考え付かない程深い関係を持つ友人達を持っていた。

 

悔しかった。

自分は何故受け入れられないのか分からず、自分の方がその相手よりも深く想っていると、その想いを打ち明けても拒絶されるだけだった。

 

何がいけなかったのだ。

自分が何を間違えたと言うのだ。

 

そんな理不尽さを恨む気持ちが、悔しさと共に止め処なくあふれ出ていた。

 

「なんで・・・ッ!なんでっ・・・!!」

 

何故自分がこんな目に合わねばならないのだ。

何故、自分では無く、あんな女が隣で笑っていられるのか。

 

何もかもが理不尽に感じられた。

自分の想いは何一つ届かないというのに、何故あんな女の想いだけが結ばれるのか。

 

「ヒッキ―の隣にいるのは、あたしなの・・・!あたしじゃないとダメなのに・・・ッ!!」」

 

そこにあったのは、理不尽に憤る怒りのみだった。

 

自分こそ、八幡の隣にいるにふさわしいのに。

 

「あの子のせいだ・・・!あの子がいるからヒッキーは・・・!!」

 

あの女、川崎沙希が八幡を誑かし、自分の元から奪っていったのだ。

 

それに気づいた瞬間から、彼女の沸騰しそうだった思考がスッと冷えていく。

 

そうだ、こんなに激高していては取れるものも取れなくなる。

ならば一度落ち着いて、自分の目的を思い返すのだと。

 

「絶対にヒッキーをあたしに振り向かせてみせる・・・!あの子さえいなければそれでいい・・・!!」

 

その望みが既に歪であると気づかぬまま、彼女は願った。

 

自分に、彼を振り向かせる力が欲しいと。

 

『お前の願い、叶えてやろうか?』

 

「えっ・・・?」

 

自分の頭の上から降ってきた言葉に、結衣は足を止めて顔をあげた。

 

気づけばそこは、以前結衣が命を救われた場所にほど近い雑居ビルが立ち並ぶ場所だった。

 

そんな彼女を、黒いフードで目元を隠した女が見下ろしていた。

 

『お前は憎いだろう?自分の想い人を盗った女が?お前の想いを無碍にしたあの男が?』

 

結衣が何者かと尋ねる前に、その女は彼女が思っている事を尋ねてくる。

 

その言葉は、スッと結衣の心に染み込み、警戒心を解きほぐす。

 

そして、彼女がその女を、自分の味方と認識するまで、時間はかからなかった。

 

「憎い・・・!あたしが一番ヒッキーを幸せにできるのに・・・!!」

 

結衣は彼女の言葉に応える。

自分こそが彼を幸せにしてやれると。

 

そのための力が欲しいと。

 

『ならば受け取れ、お前の望みを叶えるための力を。』

 

その言葉に応えるように、女は口元を三日月型に歪めながらも、黒い闇に包まれたダミースパークと、一体の怪獣のスパークドールズを手渡す。

 

「こ、これは・・・?」

 

『お前のための力だ、開放してやるが良い、お前の望みを、お前の怒りを。』

 

これは何かと尋ねる結衣に、女は耳打ちする。

 

気にするなと、お前はお前の心のままに全てを解放しろと。

 

その言葉に、結衣の目の色が変わる。

 

これで変えられると。

今の状況を、彼の心を。

 

そう思ってしまったのだろう。

 

おずおずと伸ばされた手は、遂にそれを手中に収めてしまった。

 

「待て!!」

 

「その力を使っちゃダメだ!!」

 

その時だった、結衣を追いかけてきた八幡と沙希がそれを制止する。

 

その先に踏み込むなと。

それ以上進めば取り返しがつかなくなると。

 

「ひ、ヒッキー・・・、・・・ッ!!」

 

自分を追いかけて来てくれたと、一瞬その表情が輝くが、それも沙希の姿を認めた事で霧散する。

 

結局、自分の事など眼中にないと言いたいのか。

そんな怒りが、彼女の中を駆け回る。

 

「ヒッキ―はあたしが・・・!あたしが傍にいるべきなんだ・・・!」

 

その怒りに駆られたまま、彼女はその制止を聞く耳持たなかった。

 

「待て、やめるんだ!!」

 

「あたしを、あたしだけを見て・・・!あたしが一番なんだからっ・・・!!」

 

八幡の制止を振り切り、結衣は闇に包まれた何かとライブする。

 

『ダークライブ!ホー!!』

 

「アァァっ・・・!きゃぁぁっ!!』

 

悲鳴と共に闇に呑み込まれた彼女は巨大化し、その姿を怪獣へと変えた。

 

その怪獣の名は、硫酸怪獣ホー。

人の負の感情、マイナスエネルギーの集合体である怪獣だった。

 

特殊能力は、目から硫酸の涙を流す事と口から光線を吐く位なものだが、それを八幡達が知るすべは無かった。

 

「ちっ・・・!」

 

「由比ヶ浜の奴ッ・・・!!」

 

踏み潰されない様に飛びのきながらも、八幡と沙希は悪態を吐く。

 

予想していたとはいえ、止められなかった事が純粋に悔しく想えたのだろう。

 

『ククク・・・、やはり、貴様たちの周りは負の感情に塗れていて好都合だよ、ギンガ、ビクトリー?』

 

そんな彼等を嘲笑う様に、女、ダークルギエルは哄笑をあげる。

 

愉快痛快、そんな思いだけが感じ取れるようだった。

 

「ルギエルッ!!」

 

「性懲りも無くッ!いい加減にしなっ!!」

 

それに苛立ったか、八幡と沙希は怒りを顕わに叫んでいた。

 

いい加減にこの世界を乱すなと。

私欲の為に人間を巻き込むなと、そんな憤りが伺いしれた。

 

『ふん、貴様らが招いた事だ、我はただ切っ掛けを与えたに過ぎんよ。』

 

「あぁそうかい、だったらお前が消えるきっかけをくれてやるぜ!!」

 

その怒りなど知った事かと言わんばかりに去ろうとするルギエルの言葉に、八幡は返答代わりと言わんばかりに師直伝の跳び蹴りを叩き込もうとする。

 

だが、ルギエルはそれを腕で払い除ける様に防ぎ、距離を取る。

 

『良い蹴りだ、以前のXよりも随分良い、だが、貴様程度では我に傷を付けるなど出来ぬ相談だ。』

 

「ちっ・・・!」

 

嘲る様に笑い、消えていくルギエルの姿に舌打ちしつつ、八幡は懐からギンガスパークを取り出す。

 

最早逃げた相手に用は無い、今は目の前にある脅威の対処を優先する。

それが、彼等が出した結論だった。

 

「行くぞ沙希!!」

 

「あいよっ!」

 

八幡の声に応じ、沙希もまたビクトリーランサーを取り出し、変身プロセスに入ろうとした。

 

正にその時だった。

 

―――ティガに伝えよ、間も無く闇の扉が開く、この世界の時が、全て停止する時だと―――

 

唐突に、ルギエルの声が辺りに響き渡った

まるで宣言でもするかのように、その声は何処か確信めいた何かが憑りついている様だった。

 

「待てッ・・・!この世界が停止するって、どういう事だ・・・!?」

 

「八幡!それよりもあっちを何とかしないと・・・!!」

 

その言葉の真意を理解出来なかった八幡が尋ね返したが、その言葉の意味が帰ってくる事は無かった。

 

それに感けてる場合ではないと言う沙希の言葉に従い、彼もまた、唇を噛み締めて向き直る。

 

今、ここでこの脅威を無視すれば取り返しのつかない事になる。

 

それを理解している彼等に、その後に控える脅威はまだ対処すべきでは無いと判断したのだろう。

 

「チッ・・・!行くぜっ・・・!!」

 

『ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!』

 

『ウルトライブ!ウルトラマンビクトリー!!』

 

光に包まれた彼等は光の巨人となり、街を蹂躙する怪獣に立ちはだかる。

 

囚われている少女に、これ以上の間違いを、罪を着せない為に。

自分達が犯した間違いを帳消しにするために、目の前の脅威に挑みかかったのだ・・・。

 

sideout




次回予告

届かぬ想いに嘆く者。
使命を果たさんと動いている者はすれ違うしかないのか。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

川崎沙希は確信する

お楽しみに
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