やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
noside
「あれは・・・。」
公民館の外に出たアストレイの総大将、織斑一夏はその怪獣、ホーの姿をその視界に捉えていた。
既に八幡と沙希が出て行った事には気付いていたし、何をしに行ったのかも大まかには把握していた。
だが、彼にも一つ予想できなかったと言えば、ダークルギエルが出してくる怪獣位なものだった。
そして今、この街に出現している怪獣は、彼の予想の遥か斜め上を行くモノだったのだ。
「まさか、ホーを出してくるとは・・・、これは少々厄介だな。」
その怪獣の特性を知る彼にとって、今この状況はあまり歓迎できたものではないのだから。
ぶっちゃけた話、今の一夏が使いたくない手を使えば苦も無く倒せるとは言え、あの怪獣の癖は非常に強く、攻略法を知らねばまともにやり合う事すら出来ない程だ。
それを、まだまだルーキーである弟子たちに任せる事は出来ないと、彼の中では判断を付けていた。
だが、単純に手を出す事は簡単だが、それでは彼等の力の増強にはならない。
何時かは分かれてしまうからこそ、自分に頼らずとも戦える様になってほしいのだ。
「とは言え、少しは手助けぐらいはしてやろうか、面白いモノが見れそうだしな。」
しかし、それはそれだ。
彼自身、弟子がどう戦うか興味を持っているのは事実だ。
その結末がどう転ぼうと構わないが、自分が楽しめる娯楽位見付けたいと言うのが本音だった。
「何時までも、俺がいる訳じゃ無いからな・・・。」
後何度、今の身体で無理が利くのか分からぬのだ、せめて後悔が残らぬように、見届けたいのだ。
尤も、本気で危なくなれば助けに入るつもりでいるあたり、自分はこうも弟子バカだったかと苦笑したくもなったが、それでも構わないと頭を振る。
自らが育てた弟子の成長を見届ける、その想いと共に、彼は駐車場に止めてあった愛車のエンジンに火を点ける。
自らに残された使命を果たさんと、その身に鞭打って・・・。
sideout
noside
『行くぜ、沙希!!』
『あいよっ!!』
それぞれウルトライブした八幡と沙希は、街中を進撃する怪獣、ホーを食い止めるべく立ちはだかった。
ホーは、ギンガとビクトリーの姿を認めても、まるで興味が無いと言わんばかりに進撃をつづけていた。
『待てよ由比ヶ浜!!狙いは俺だろうが!!』
だが、八幡はそうはさせんと言わんばかりにホーの背後から飛び蹴りを叩き込もうと動いた。
助走の勢いに加えて、全身の捻りも加えられたその蹴りは、嘗て街を襲ったファイブキング程度ならば退かせられる程の威力を持っており、並の怪獣ならば耐え切れずに地に伏す事は確実だった。
だが・・・。
『なっ・・・!?』
その蹴りはホーの身体を、まるですり抜ける様にして外れた。
その事が信じられず、何とか着地して体勢を整えるが、それが悪手だった。
ホーは振り向く前のギンガに、口から光線のようなモノを吐いて攻撃、その巨躯を吹き飛ばした。
『ぐぁっ・・・!?』
『ッ!ビクトリウムバーン!!』
ギンガへの追撃を防がんと、頭部からビクトリウムバーンを放つが、それさえもその身体をすり抜けて、転がっていたギンガのすぐ傍に着弾した。
『光線もダメか・・・!?』
『あっぶね・・・!こんにゃろっ!!』
唇を噛み締める沙希とは対照的に、八幡は何とか体勢を立て直し、再びホーに飛び掛る。
だが、捕縛しようとした攻撃もすり抜けてしまい、その体勢のまま地面に落ちていく。
『おわっ・・・!?』
なんとか腕を使って受け身を取るが、それの追撃に、鳩尾にホーの蹴りが入った。
『ぐぁっ・・・!?」
『八幡っ・・・!!』
蹴り飛ばされるギンガのフォローに入ろうと、ビクトリーは押さえようと飛び掛るが、それも虚しく空を切り、そのまま透過を許してしまう。
『なんでこっちの攻撃が当たらないのに、向こうは攻撃できるんだ・・・!?』
『これじゃあ、勝てっこねぇぜ・・・!!』
自分達の攻撃が当たらない事に痺れを切らしたか、八幡と沙希は歯がみしながらも間合いを取る。
幾ら攻撃した所で当たらなければ何の意味も無い。
当てれば勝てる、そう感覚では分かるのにできない事が、何よりももどかしかった。
まるで、見えているのに実体の無い、蜃気楼を相手にしている気分だった。
『蜃気楼なら、攻撃できない筈なんだけどなぁ・・・。』
蜃気楼ならどれほど気が楽か。
そこに見えるだけで実際ははるか遠くにあるか、存在しない。
見えるだけで何も実害が無いのに、今の敵は攻撃だけしてきて、こちらの攻撃が一切効かないのだ、性質の悪い冗談だと吐き捨てたくなる気分だった。
『・・・!そうかッ!!』
何かを閃いたのか、沙希が唐突に立ち上がり、サドラシザースをウルトランスする。
『来いよ由比ヶ浜!!あたしは逃げも隠れもしないっ!!』
そして、挑発するように手招きしながらも、ビクトリーは向かってくるホーに向けて走り出す。
ホーは向かってくるビクトリーに対し、右手で張り手にて迎撃する。
だが、それを見越していたからか、ビクトリーは左腕でそれを防ぎつつ、右腕のサドラシザースで叩き付ける様に殴る。
するとどうした事か、今まですり抜けていた攻撃がホーの身体を捉え、大きく火花を散らした。
『なるほど、カウンターか・・・!それならッ』
沙希の意図した所を理解した八幡が立ち上がり、すぐさまギンガセイバーを発振、ビクトリーと入れ替わる様に前に出て、ホーの抵抗を受け止める。
『お前自身から触れてきてる間なら、こっちの攻撃も当たるんだよな!!』
その隙にギンガセイバーを振るい、連撃をホーに叩き込んで行く。
そこには無駄がそぎ落とされたその攻撃は、的確に急所を突き、徐々にホーの動きを鈍らせていく。
『よっし!このまま押し切るぞ・・・!!』
流れを掴んだと確信したか、ギンガとビクトリーは一気に攻勢に転じる。
このまま押し切る、その勢いからはそんな想いが窺い知れた。
だが・・・。
押され始めたホーが、唐突に苦痛に濡れた叫びをあげ、涙を零す。
まるで、肉体的な痛みよりも、心が痛いと叫ぶ様な、そんな苦しみが籠められている様だった。
『これは・・・。』
その苦しみを感じ取った八幡は、ギンガセイバーを収め、その声に耳を傾けた。
まるで、何故話を聞いてくれないのか、どうして受け入れてくれないのか。
自分の想いが拒絶されている理由が分からぬ事に対する苦しみ、その辛さがにじみ出ていた。
『由比ヶ浜・・・、お前は・・・。』
その理由を理解した時、八幡はホーを攻撃する理由が無くなっていた。
相手は只、奉仕部とか喧嘩しているからとか、そんなしがらみなんて関係なく、只只管に自分の想いを届けたかっただけなのだと。
だが、八幡はそれを受け取る事をせず、ただ喧嘩相手だからという理由で突き返し、見ようともしなかった。
それが彼女をどれほど傷付けたか、自分がそれを経験してきたと言うのに、分からなくなっていた自分自身を恥じていた。
闇の支配をも凌駕したその想いの強さに感服すると同時に、それに向き合ってやれなかった自分の間違いを悔いた。
『お前は、ただ俺に見て欲しかっただけなんだな・・・?』
闇の支配を受けた状態でもなくならなかった想いに敬意を表し、八幡は問うた。
自分に見て欲しかった。
そう尋ねられると、ホーは最早戦うつもりはないと言わんばかりに頷く。
そこにはただ、闇の意思よりも、由比ヶ浜結衣と言う、一人の少女の想いが滲み出ている様だった。
『分かった、ギンガコンフォート。』
その意思を尊重し、八幡は救いたいと言う強い気持ちを籠めてギンガコンフォートを発動し、彩加ほど得意ではない浄化を試みる。
ライトグリーンに輝く光は、ルギエルの闇を浄化し、結衣とホーを切り離す事に成功する。
切り離された事でライブが意味を為さなくなったか、ホーも
ホーが消えた事を確認し、八幡と沙希もライブを解いて、結衣が倒れている所に降り立った。
どうすべきか、声を掛けるべきかと一瞬躊躇った八幡だったが、沙希はそんな彼の背を押す。
抱き起すぐらいなら別段何とも思わないと、その眼はそんな自信に満ちていた。
「大丈夫か、由比ヶ浜・・・?」
一応の許可を貰った形となった八幡は、結衣を抱き起しながらも声を掛ける。
あくまで、他人行儀にならない程度の態度であり、そこに信愛の情は見受けられなかったが。
「う・・・、あ・・・?ひ、ヒッキー・・・?」
その呼びかけで、混濁していた意識が覚醒したのだろう、結衣は八幡のあだ名を呼ぶ。
「良かった、無事だったんだな・・・。」
その様子に、八幡は安堵の笑みを浮かべる。
そこに、先程までの敵意は無く、ただ純粋に結衣の事を案じている事が窺えた。
「あたしは・・・、そうだ・・・、そうなんだよね・・・?」
その言葉にどのような意味があるのか、他の誰にも分からぬはずなのに、八幡は彼女が言わんとする事が分かった気がした。
拒絶された痛みを晴らすために、誰かも解らぬ者の口車に乗せられてこんな事をしてしまったのだ。
そこにあったのは、後悔と、八幡から拒絶された痛みだった。
「そうだよね・・・、あたしなんか、受け入れてくれる筈もないよね・・・。」
もう分かってる、だから何も言わないでくれと言わんばかりに、涙を零していた。
「由比ヶ浜、お前、なんで俺の事が好きになったんだ?」
だが、それで済ませるつもりなど無いのが八幡だ。
何故好かれたか、その理由が分からないままでは、彼女に向き合う事さえ出来ないのだ。
「えっ・・・?」
「ハッキリ言って、お前に会ってからの俺は、お前に好かれる事なんて何一つやってなかったんだ、理由が分からんから、受けるも断るも出来ん。」
理解出来ないと言わんばかりの結衣に言い聞かせるように、八幡は一言一句聞き逃すなと言わんばかりに伝えていた。
当時の自分に、人に好かれるだけの器は無かった。
だから、一夏や沙希との出会いをきっかけに、自分を変えていけはした。
しかしだ、話を聞く限り、それより前から結衣は自分の事を見ていたと推察できる言葉を投げるではないか、その理由を、教えて欲しかったのだ。
「・・・、憶えて、無いの・・・?」
「何をだ・・・?」
覚悟を決めて絞り出した問いに、八幡は思い当たる節が無く困惑する。
「サブレを、ウチの犬を助けてくれた事と・・・、あたしを庇ってくれた事、だよ・・・?」
「犬・・・、庇った・・・、あ、あぁぁっ!?もしかしてあの時の・・・!?」
その言葉に合点が行った八幡は、心底驚いたと言わんばかりに声をあげる。
まさか、自分が同じ相手を、それも自分を犠牲にするやり方で二度も助けていたとは思いもしなかったのだろう、その声には心の底からの驚きが有った。
それと同時に理解模したのだ、自分が何故好かれたのか、その理由を。
「だから、あたしはヒッキ―の事が好きになったの・・・、でも、もう遅いよね・・・。」
彼の反応に頷きつつ、結衣は目を伏せる。
分かってもらったところで何が変わると言うのだ、結局は自分の想いは叶わないままで、何も変わらぬ、ただ苦しみだけが残るだけではないかと。
「まぁ、遅いッちゃ遅いけど、でも、気持ちは嬉しいぜ?」
「え・・・?」
だが、それを否定する様な八幡の言葉に、結衣は面食らった。
「だってさ、喧嘩してただけで、お前にそう思われてるとは思わなかっただけだしな、好いてくれる事自体は嬉しい事だろ?」
彼女がいるからとか、そんな事よりも、八幡は自分の事を見てくれて、それでいて好きと言ってくれた事は嬉しかった。
尤も、自分の本質を見てくれていないとなると別問題だが、それは今、関係の無い事だった。
「まぁ酷な話、沙希と出会う前ならコロッと行ってたかもしれないけどさ、今の俺の答えは一つだよ。」
だが、関係をリセットするためには、この言葉も同時に与えねばならない事だった。
「だけど、ゴメンな、今の俺はその想いには応えられないよ、だって、お前じゃない、好きな人がデキたんだから。」
そういいつつも、八幡は結衣を経たせ、沙希の肩を抱き寄せる。
「苦しい時も傍にいてくれた人と、俺は一緒にいたい、だから、ゴメンな。」
「そっか、そっか・・・。」
八幡の行為が、自分の好意を受け取った上で、尚且つ結衣に諦めを着けさせる気遣いを見せてくれた事に、結衣の瞳からは別の涙が流れ落ちた。
分かり合えたと言う喜びと、失恋の哀しみが入り混じった、涙だったのだ。
「えへへ・・・、なんか変な感じ、辛いのに、なんかすっきりした、かな・・・?」
泣き顔で笑いつつ、結衣は八幡達に背を向けて走り去って行く。
そして、路地を出る所でいったん振り向き、八幡と沙希にこれまでにない笑みを見せた。
「サキサキ!油断してたらヒッキー盗っちゃうからね!それじゃ!」
ある意味での宣戦布告を残し、彼女は勢いよく頭を下げ、そのまま去って行った。
それは、彼女自身が掴んだ、想いの形だったに違いない。
「負けない様にしないとね?」
「お、おい・・・?」
負けて堪るかと言わんばかりに身体を寄せてくる沙希に戸惑いつつ、八幡は仕方ないと言わんばかりに彼女の肩を強く抱き寄せた。
無碍にしてしまった想いを顧みる余裕は無いが、それでも自分達は自分たちなりに進んで行きたいと思う。
それが、自分達が掴む未来に繋がる道標になると知っているから。
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「ふぅん・・・、存外、あっさりした終わり方だったな。」
別のビルの屋上で、戦闘の成り行きと八幡達の決着を見ていた一夏は、何処かつまらなさそうに呟いていた。
どういう結末になるか、どちらかと言えば何かを失う結末とやらも見てみたかったようだが、楽しみにしていた部分もあり、少々アテが外れた部分もあるのだろう。
「とは言え、由比ヶ浜結衣、想いの強さだけで闇を退けたか・・・、これは予想外だったな。」
だが、そんな事などどうでも良いと言わんばかりに、予想外に見られた事態を思い返していた。
まさか人間の少女が、それも怒りに囚われていた者が闇の支配を抜け出すとは思わなかったのだ、これ以上に無い収穫だったに違いない。
「これは、検討課題に挙げても良いだろう、この世界、存外に楽しめそうじゃないか。」
不穏な呟きを残し、彼もまた風と共に姿を消した。
それは、波乱が訪れる予兆か、それとも別の何かか。
それを予想させる程に、昏い何かを湛えている様にも思えるモノだった・・・。
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次回予告
クリスマス間近となった時期に、残された因縁が再び燃え上がる。
決着を着ける時、彼は何を想うだろうか。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は飾れない
お楽しみに