やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は飾れない 前編

side八幡

 

「おーい、小町~、準備できてるか~?」

 

「も、もうちょっと~!」

 

期末考査も終わり、2学期も終わりを迎えたクリスマスイブ前の土曜と相成ったこの日、俺と小町の比企谷兄妹は、とある場所に向かうための準備をしていた。

 

まぁ、言わなくても大体想像は着くだろうが、今日はアストレイにてクリスマス会をするので、取り敢えず何かプレゼントになるモノを持って来いとのお達しだった。

 

何を持って行けばいいモノかサッパリわからなかったが、取り敢えずはウチにあるそこそこ状態の良いモノを持って行く事にした。

 

何せ、先生達は何千年も生きてる訳だし、俺達が見て来たモノよりも遥かに綺麗な物や高価な物を見て、手にしてきた事は想像に難くない。

 

だからというべきか、俺も小町も何を用意すべきか分からんもんで、モノを準備するのに手間がかかってしまった。

 

取り敢えず、俺はドが付く程の短期バイト、アストレイでの仕込みの手伝い、で稼いだ資金を元手に大急ぎでプレゼントになりそうな品を購入、簡易なラッピングを自分で施して準備した。

 

用意した物は結構な値が張ったのだが、それ以上にバイト代が支払われてたのもあって、それでもかなりの余裕がある状態だったのが驚きだった。

 

一瞬税金とかの事を考えてしまったが、雇ったと言うよりは手伝ってもらった側面が強いとセシリアさんに念を押されて手渡しされたんだよなぁ。

 

それって贈賄なんじゃないかとも考えたが、親戚の子供に渡すお小遣いやお年玉と同じ物と考えれば不自然ではないのかな。

額はとんでもなかったけどな。

 

まぁそれはさて置き、俺も小町もそれぞれ持って行くものを準備して、今出掛ける所だった。

 

「お、お待たせぇ~・・・!」

 

「おう、行くぞ。」

 

小町が身嗜みに時間を掛けるもんだから待たされたが、別段何とも思わなくもなっていた。

 

小町が自分を良く見せたい気持ちはよく分かる。

何せ今日は、小町の想い人である彩加も来るんだ、想いを遂げたいと言うのもあるだろう。

 

何せ、今日のイベントはそう言うのにも打って付けだ。

 

兄としちゃ複雑だけど、相手が彩加ならば何の心配も無い。

だから、影ながら応援はさせてもらうとしようじゃないか。

 

そう思いつつ、俺達は家を出て、何時もの道を歩いて行く。

 

「そう言えばお兄ちゃん、沙希さんに渡すアレ、ちゃんと持った?」

 

道中、小町がニマニマしながら尋ねてきた。

 

うっぜぇけど、そこがまた可愛いから許すが。

 

「モチのロンだ、つーか先生達へのプレゼント忘れても持って行くまである。」

 

「それ、後でしこたまからかわれる奴だよね・・・。」

 

それもそうか。

まぁ、別にきらいじゃないから良いんだけどな。

 

「そいで、お前は彩加に渡すプレゼントは持ったのか?ラブレターも一緒じゃなくていいのか?」

 

「ちゃ、ちゃんとあるよ!!っていうか!お兄ちゃんには関係なくない!?」

 

いや、あるだろ・・・。

って言葉は呑み込み、笑って受け流した。

 

ホント、変な所で素直じゃないんだよな。

 

「ま、後悔しない様に頑張れや、応援だけはしてやるから。

 

「くうっ・・・!お兄ちゃんのくせにぃ・・・!」

 

はいはい、悔しかったらさっさと付き合っちまえ、彩加となら大賛成だからな。

 

そんなじゃれ合いをしながらも、俺達はアストレイへの道を歩いて行く。

 

暫く歩いている内にアストレイに辿り着き、俺達は躊躇なく店舗に足を踏み入れた。

 

「いらっしゃいませ、お待ちしておりましたわ。」

 

そんな俺達を出迎えてくれたのは、店内で飾りつけ作業をしていたセシリアさんだった。

 

エプロン姿じゃ無く、サンタクロースのコスプレだったのが新鮮だった。

って言うか、肌の露出の少ないタイプの、オーソドックスなサンタコスなのに、身体の起伏が分かるってどうなってんすかね・・・。

 

「どもです、あ、これプレゼントっす。」

 

「小町からも!」

 

俺と小町はそれぞれラッピングされたプレゼントをセシリアさんに手渡した。

誰に渡すとかは言われて無い辺り、恐らくはプレゼント交換でもするんだろうなぁ。

 

「メリークリスマス♪今日はお楽しみ下さいね?」

 

俺よりも年上とは思えないぐらい可愛らしい笑みを浮かべてプレゼントを受け取りつつ、彼女はせっせと店の奥に引っ込んで行った。

 

「あれ、いらっしゃい二人とも、早かったね。」

 

セシリアさんと入れ替わりに、これまた煽情的なミニスカサンタコスのシャルロットさんが出て来た。

 

いや、ホントにヤバいミニスカですよね、太ももの上半分も見えそうになってるって、滅多に無いッスよ。

 

よくよく考えてみれば、この人も数千歳もの時間を過ごしてきた筈なんだよな。

 

まぁ、この外見だと完全に二十代半ばにしか見えないから、全然きつく無く、寧ろセクシーな印象しか受けないんだよなぁ。

 

おっと、そんな事はどうでも良いか。

取り敢えず、何か手伝わねぇと。

 

師匠が動いてるのに、弟子の俺達が見てるだけってのも悪いだろうからな。

 

「どもっす、なんか手伝う事ありませんか?」

 

「ありがと♪じゃあ、食器とか、シャンメリー並べてくれるかな?」

 

「喜んで!!」

 

シャルロットさんの指示を受けて、俺と小町はカウンターに入り、綺麗に並べられていた皿やグラスをせっせか班で行く。

 

すでに勝手知ったる何とやらで、何処に何が有るか考えるよりも早く身体が動いて、さっさと仕事を熟していく。

 

社畜精神と言うよりは、完全に自営業的な動きになってるのが分かって苦笑したくもなるけど、こんな感じも悪くは無いな。

 

「こんにちわー!」

 

そんな事を考えていると、店のドアが開き、元気な挨拶と共に川崎姉弟の末妹、京華が入ってくる。

 

京華の頭の上には何故かハネジローが乗っかって居たが、そこは突っ込むべき所じゃないだろう

 

「遅くなりました~。」

 

その後ろを、沙希と大志が大荷物を持って入って来た。

 

あれはプレゼントなのだろうか、それとも・・・?

 

「おっす、その荷物どうしたんだ?」

 

手に持っていた皿を手早くテーブルに並べ、俺は沙希に駆け寄って荷物の一部を受け取った。

 

「ありがと、これ家で作って来たケーキだよ、大志にも手伝ってもらったけど、時間かかっちゃってさ。」

 

照れた顔で言う沙希に、俺はトキメキラブハートしてしまいそうになるが、今はそんな事よりも大事な事がある。

 

「作って来てくれたんだな・・・!いやぁ、沙希の作る食べ物は何でも美味いからなぁ、楽しみだよ。」

 

「ふふっ、ありがと、期待しててね。」

 

そんな俺の言葉に、沙希は嬉しそうにはにかんで、俺の頬にキスをくれた。

 

ホント、嬉しいったらありゃしないぜ。

 

「お兄さん、やっぱ姉ちゃんとはラブラブなんスね。」

 

そんな俺達に、大志は笑いかけながらも尋ねてくる。

 

その表情には、姉を男に取られると言う、肉親が抱きがちな複雑な想いは無く、ただただ穏やかな笑みが有った。

 

「当たり前だろ、沙希の事が大好きだからな。」

 

だから、俺もまた飾り立てる事の無い、純粋で真っ直ぐな言葉を紡ぐ。

 

沙希の事を愛していると、誰にも偽る事の無い本当の気持ちで。

 

「あはは、ホントに羨ましいッスよ、まだそう言うの無いんで。」

 

「運命の相手、いれば良いな。」

 

大志の背を軽く叩き、落ち込むなと軽い慰めを投げる。

 

俺と沙希だって出会えたんだ、大志だってきっと出会えるさ。

 

昔は信じなかっただろうが、今はそう思えるようになった。

まぁ、ロマンチストとか言われたらぐうの音も出ないだろうけどな。

 

「こんにちわー。」

 

「今日はお世話になります。」

 

そんな事をしている内に、彩加と大和、相模もやって来ていた。

 

何と言うか仲のいい奴等だ、少し妬いちまう位にはな。

 

「南ちゃんだー!」

 

「パ~ム~♪』

 

「京華ちゃんもハネジローも久し振り~!」

 

京華は本格的に相模の奴に懐いたようで、ハネジローと一緒に駆け寄っていた。

 

相模も相模で、まるで妹を可愛がる姉のように京華とハネジローを撫でて、ついでに持って来ていた御菓子を手渡していた。

 

道理で沙希と仲が良いわけだ、今その理由が分かった気がするよ。

 

「邪魔にならない様にあっち行ってようか、ウチと遊んで待ってようね。」

 

「は~い!」

 

『パ~ム!』

 

準備の邪魔にならない様に、相模に連れられて京華は空きスペースにハネジローと一緒に行ってしまう。

 

べ、別に絡みたかったとかじゃないぞ。

何と言うか、癒されてただけだからな!!

 

「彩加さん、こんにちわです!」

 

「小町ちゃん、久し振りだね。」

 

そんな俺の後ろでは、何時の間にかサンタコスに着替えた小町が彩加に駆け寄っていた。

 

何時の間に着替えたんだよ、そして何時の間に準備終わらせたんだよ。

 

「サンタの格好も可愛いね。」

 

「あっ、ありがとうございます・・・!」

 

おーおー、あの計算高い小町が照れてやがるぜ。

流石に片思い中の相手には計算高くは成れんのだろうな。

 

まぁ、放置しておいてもあっちはあっちでくっつくだろ、俺は挨拶しなきゃいけない人がもう一人いるからな。

 

「沙希ちゃんのケーキは相変わらず上手そうだぞ、八幡君。」

 

「顎載せないでくださいよ先生・・・。」

 

何時の間にか俺の背後に現れていた先生に驚きつつ、取り敢えずほんの少しだけ距離を取る。

 

慣れるには慣れたんだが、相変わらず心臓に悪い事には変わりないが、これがマネ出来たなら結構凄い事なんじゃなかろうか?

 

・・・、いや、もっと違う処を真似しようか。

これは嫌がらせにしか使えないし。

 

「まぁ、よく来てくれた、少しは楽しんでくれよ?」

 

「勿論ですよ、プレゼント、気に入ってくれるか分かりませんけど。」

 

「おっ、ありがたいねぇ、なんか自分が爺さんになった気分だよ。」

 

何とも言えん言い回しはやめて下さいよ・・・。

人間レベルだと既に仙人超えてる様なもんだろうけど、宇宙人レベルだと若い部類なんじゃなかろうか。

 

・・・、いや、この話は考えないようにしよう。

考えれば考えるだけめんどくさくなってきた。

 

「ま、気軽に楽しんで行けよ、プレゼントになるかどうかは分からんが、俺も幾つか用意させてもらっている、楽しみにしていてくれ。」

 

「はい!」

 

とは言え、この人が俺の事を弟子以上に想ってくれているのは間違いないから、その好意に今は甘えさせてもらおうか。

 

何せ、こんなに楽しいクリスマスは初めてなんだからな。

 

「一夏、八幡君、用意が終わったからそろそろ始めるぞ。」

 

バックヤードから出て来た宗吾さんが皆が集まっている事を告げ、自分はノンアルコールのスパークリングワインをそれぞれのグラスに注いでいた。

 

相変わらず手際が凄いな。

俺も幾らか教えて貰ってはいたんだけど、まだまだ敵いそうにはないな。

 

でも、此処に来るようになって、徐々にだけどやってみたい事も見えるようになってきた気がするんだ。

 

まだ見えない夢だけど、何時か見えるようになれば良いんだけどな・・・。

 

「んじゃ、楽しむとしようか。」

 

何時の間にか、アストレイメンバーが全員揃っており、何時でも始められると言わんばかりの様子だった。

 

って言うか、此処に居るウルトラマンだけで二桁いってるんだよなぁ。

生半可な宇宙人が攻めて来ても、即退散させれるだけの戦力はあるな。

 

因みに、此処には居ないがもう一人ウルトラマンに覚醒した奴、戸部はサッカー部の奴等に誘われたから行けないと言ってたな。

 

交友関係が広い事は良い事だけど、こっちに顔出し一度もしてないよなーとも思わなくはない。

 

それはさて置き。

目の前のテーブルにはターキーやポテト、ピザなどのクリスマスメニューがどーんと並べられており、好きなだけ飲み食いしろと言わんばかりの様子だった。

 

中でも一番目立った一に置かれたのが、沙希が作って来たであろうクリスマスケーキがどどーんと置かれていた。

 

いや、何で三段もあるケーキを作ったんだろうか、食べたいし食べるけど、どんだけ気合入ってるんだと驚きを禁じ得なかった。

 

そんな俺の前で、京華とハネジローも、沙希と相模に連れられて行儀よくスタンバイしていた。

 

何と言うか、騒がしくなりそうだよな。

 

「それでは、今日は宗吾さんに音頭を取っていただきましょうか。」

 

「おっ、珍しいわね、やれやれ~。」

 

セシリアさんの言葉に、玲奈さんが便乗して煽る。

いや、姐さん方、そんな適当なやり方で良いんですか?

 

いや、良いんでしょうけども・・・!!

 

「おう、久々だけどやってやりますかね。」

 

宗吾さんもなんか乗り気だけど、もう黙って見ておこう。

 

そんな俺の前で、宗吾さんが手に持っていたグラスを高々と掲げていた。

 

「それではこれより、第一回アストレイクリスマス会を始めよう、夢に見る程楽しんでくれ、メリークリスマス!」

 

『メリークリスマ~ス!!』

 

その掛け声と共に、俺達はグラスを掲げて声を張り上げる。

 

此処に、俺の人生で最も楽しいクリスマスが始まった。

 

この時間を、一瞬たりとも見逃したくないと、目に焼き付けんと。

 

窓の外から誰かが覗いているなんて気付かない程に、俺はその楽しさに浮かされていた・・・。

 

sideout




次回予告

この時間がいつまでも続いてほしい。
少年たちの願いもまた、過去の物になって行くのだろうか。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は飾れない 後編

お楽しみに

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